[目次] [主要論点] [第I章] [第II章]

多角的自由貿易体制のさらなる促進を目指して

〜世界貿易機関(WTO)シンガポール閣僚会議に望む〜

I.WTOと多角的貿易体制に対する基本的な考え方


  1. わが国経済界は多角的自由貿易体制を支持する。多角的自由貿易体制は、第二次大戦後世界の繁栄を支えてきたものであり、将来に向けても世界経済の活力ある発展に寄与する。自由貿易の推進機関として創設されたWTOの健全な機能の維持・強化は、わが国および世界各国の利益である。
    WTO協定の遵守は、多角的貿易体制の堅持とWTOの発展のために不可欠である。一部諸国においてWTO協定ならびに多角的自由貿易の精神に違背すると思われる措置が採られており、事業活動上の障害となっていることは誠に遺憾である。多角的自由貿易体制を促進するために、保護主義的措置は許されない。われわれは、WTO加盟各国に対してWTO協定の遵守を強く求めるとともに、わが国自らにもWTO協定に反する怖れのある国内措置を厳格に見直し、早急に改善することを希望する。

  2. WTOシンガポール閣僚会議の政治的な推進力によって、自由貿易体制が前進することを期待する。WTOの信頼性を高め、機能強化を目指すためには、各国がUR合意の実施を着実に行うことが不可欠である。シンガポール閣僚会議での最重要課題はウルグアイ・ラウンド(UR)合意の実施を各国閣僚が再確認することである。
    また、UR合意を受けて1995年1月1日に発効した「WTO協定」において、将来の交渉日程が定められている農業協定、サービス貿易一般協定などの「ビルト・イン・アジェンダ」を確実に実行することは、自由貿易体制の前進を意味する。シンガポール閣僚会議において、WTOの信頼性を高めるためにもビルト・イン・アジェンダへの取組の意欲を示すことが不可欠である。また、わが国経済界は知的財産権の適正な保護を重視しており、TRIPS(知的所有権の貿易関連の側面に関する協定)の早期実施を求めるものである。

  3. WTOの通常の活動(紛争処理、貿易政策検討制度(TPRM)、等)における各国政府ならびにWTO当局の努力を支持する。これらの活動に対する経済界ならびに一般の理解を深め、支援し、活用していくことが重要である。

  4. WTOの本格的な機能促進のためには、本年12月のシンガポール閣僚会議後、2000年に向けた取り組みと各国の理解が不可欠である。とりわけ、1999年からはサービス分野の新ラウンドが実質的に始まることから閣僚会議でその成功を目指す各国の意思を確認すべきである。現在2年に1度となっている閣僚会議を毎年開催することも検討すべきである。

  5. わが国は、アジアを中心とした発展途上国に対してWTOへの積極的な参画を促すとともに、他の先進諸国に対して、途上国の経済発展段階や社会情勢等諸事情への理解を促す役割を担うべきである。わが国政府が、交渉分野に応じ意見交換や提案等を通じて発展途上国と他の先進国との意見調整において、さらに積極的な役割を果たすことを望む。

  6. 中国のWTO加盟を早期に実現することは、中国の通商政策上の透明性を確保する上で意義がある。将来に向けて世界市場における中国の影響が増大しつつあることに鑑みると、中国のWTO加盟は多角的自由貿易体制を維持する上で不可欠なものであると考える。また、WTOへの加盟を申請している他の国等についても、中国と同様の見地から、その加盟の実現を推進していくべきである。

  7. EU、NAFTAなど関税同盟、自由貿易地域等のいわゆる地域経済統合は、WTOに整合的であってこそ世界経済に利するものとなる。そのため、WTOの場での地域経済統合に対する審査規律ならびに審査機能を強化し、多角的自由貿易体制の精神に反する側面があれば、その改善を求めるべきである。

  8. 貿易と投資が相互に密接な関係となっていることから、WTOでの投資に関する議論の開始を求める。

  9. 経団連は、これまで意見書の提出、政府会合に際しての代表団の派遣、欧米経済団体との共同声明などを通じて、UR合意の成立に向けて働きかけを行うとともに、UR成立時にも提言を発表している。今後とも、WTOならびに世界貿易体制に対するわが国経済界の意見の反映に努めるとともに、海外の経済団体と連携しての取組を強化する所存である。
    WTO活動への支持表明の一環として、経団連は昨年よりWTO事務局への日本からの人材派遣を側面的に支援しており、今後とも同様の活動を強化する。


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