[目次] [要旨] [はじめに] [第1章] [第2章] [第3章] [第4章] [第5章]

国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築

1.医療保険財政の危機と1997年度の緊急対策の実施


  1. 国民医療費、特に高齢者医療費増大の現状
  2.  1995年度の国民医療費は27兆円を超え、対国民所得比で7.2%に達する見込みである。今後の国民医療費の伸びは、国民所得の伸びを恒常的に上回ることが確実であり、厚生省の推計によれば、国民医療費の対国民所得比は2000年度8.5%、2010年度13%、2025年度19%にまで高まる。なかでも高齢者医療費は、後期高齢者の増大など今後の本格的な高齢社会の到来に伴い急増が避けられず、2025年度には国民医療費のほぼ半分を占めると見られる。

  3. 医療保険財政の悪化
  4.  医療保険財政は、悪化の一途を辿っている。健保組合の収支は、1994年度に赤字に転落して以来、その赤字幅は拡大し続けており2001年度には1兆円を超える見込みである(健保連予測)。また、政管健保も2001年度1兆7800億円の赤字が見込まれている(厚生省試算)。このように、近年、医療保険の財政収支が悪化してきたのは、経済の低成長による保険料収入の伸び悩みに加え、老人保健制度への拠出金の急増によるところが大きい。特に、今後の急速な高齢化を背景に、将来の高齢者医療費、従って老人保健拠出金の急増は避けられず、これが各医療保険財政を圧迫することは確実である。

  5. 保険料水準の限界
  6.  現在、国民負担率は37.2%(1996年度見込み)となっているが、財政赤字分を考慮した一般政府総支出の対国民所得比では、既に44%(1994年度)に達している。国民の活力を維持する観点から、橋本ビジョンに示されたように国民負担率を45%以下に抑えるには、健康保険料をこれ以上引き上げる余地はほとんどなく、医療保険財政の赤字解消を保険料の引き上げに頼ることは困難である。

  7. 医療費総額抑制と保険財政改善のための緊急対策の実施
  8.  これまでの医療は、国民のニーズに十分に対応するために如何に供給を増やしていくかが主たる対策となっていたため、医療のコストや無駄についての意識が薄かったことは否めない。しかし、今後急速に高齢化が進行し、医療費総額の増嵩が予想される中では、医療サービスといえどもコスト意識を持って、できる限り効率的に行われなければならない。コスト意識を持ち、無駄を省くことで、当面、医療費の総額を抑制し、これ以上の保険財政の悪化を食い止め、社会保障関係予算の構造改革に着手することが可能となる。具体的には、過度の重複受診、過剰投薬、高度医療の濫用など無駄な医療供給を極力削減するとともに、被保険者に適切な自己負担を求める必要がある。医療保障制度の抜本改革に向けた、来年度の第1段階の改革では、次の緊急対策を実施すべきである。

    【1997年度改革】

    1. 組合健保、政管健保等の自己負担率(本人)の2割(本則)への引き上げ
    2. 自己負担額の上限(高額療養費制度の適用)の引き上げ
    3. 老人保健制度の自己負担の定率化(1割)と自己負担の上限の設定
    4. 薬剤費に関する自己負担率の引き上げ(3〜5割)

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