[ 日本経団連 | コメント/スピーチ ]

日本経済団体連合会第57回評議員会における
奥田会長挨拶

2003年12月18日(木)12:15〜14:30
於 経団連会館11階 国際会議場

  1. 森下議長をはじめ、評議員の皆様方には、年末のお忙しいなか、多数ご出席いただき、誠にありがとうございます。
    また、公務ご多忙のなか、来賓としてお越しくださいました、英国のゴマソール駐日大使閣下にも、心より感謝申し上げます。
    私からは、本年の日本経団連の主な活動をご紹介するとともに、来年に向けた重点課題をお話しさせていただきたいと存じます。

  2. 振り返ってみますと、本年前半の日本経済は、イラク情勢や新型肺炎SARSの流行などから、下支え役を果たしてきた輸出が鈍化し、景気の減速傾向が続きました。
    その後、こうした問題が終息に向かうにつれ、アメリカ経済やアジア経済の回復基調が鮮明となり、輸出が持ち直す一方、生産及び収益の回復を背景に設備投資が増加するなど、経済に明るさが戻って参りました。
    企業の景況感も大きく改善し、また、春には7600円台にまで落ち込んだ日経平均株価も、一万円前後で推移しております。
    今後につきましては、為替などのリスク要因はあるものの、米国をはじめ海外景気が順調に推移していくと見込まれること、不良債権処理の進展もあり、金融面での不透明感が後退していること、などから当面は景気回復局面が続くものと期待されます。
    しかし、家計部門の支出が低調に推移する限り、経済は全体として力強さを欠いたものとならざるを得ません。個人消費や住宅投資を喚起し、内需中心の持続的な成長を確実なものとしていくことが、来年の最大の課題となっております。

  3. その鍵を握るのは、個人や企業の活力です。
    そこで、私どもは、本年の年頭に、新ビジョン「活力と魅力溢れる日本をめざして」を公表し、少子化・高齢化、情報化、グローバル化といった環境変化に対応できなくなっている、硬直した官主導の経済社会を、「民主導・自律型」に変革していく必要性を訴え、数多くの提案を行いました。

  4. 新ビジョンのなかで、私どもが、特に力を入れて実現に取り組んで参りましたのが、社会保障、財政、税制を、長期的に持続可能な制度に、一体として再構築していくことであります。
    経済の活力を維持するには、国民負担率を将来にわたり50%以下に抑制していく必要があります。そのためには、徹底した歳出削減や、社会保障の給付水準の思い切った引き下げが不可欠です。その上で、現役世代や企業に対する税と社会保険料を合わせた公的負担が過重なものとならないよう、国民全体が広く公平に負担を分かち合う消費税を活用すべきであります。
    こうした私どもの主張は、次第に幅広い層の理解を得るに至り、これまで議論すらタブーであった消費税の引上げ問題が、総選挙における争点の一つになるなど、大きな成果があったと思います。

  5. さらに私どもは、来年度の年金制度の改革では、厚生年金保険料の引き上げ幅を極力抑え、これに合わせて給付水準の抑制や基礎年金の税方式化といった抜本改革を行うよう、小泉総理をはじめ関係者に強く求めて参りました。また、先週、他団体にも呼びかけ、「年金保険料引上げ反対協議会」を設立し、我々の主張を強くアピールいたしました。
    こうしたなか、経済活力に及ぼす影響や給付削減について十分な議論がないままに、保険料率の上限を18.35%に設定することで政府・与党の合意がなされたことは、大変残念であります。
    他方、今後、急増が見込まれる社会保障費の財源を確保するため、2007年度を目途に、消費税を含めた税制の抜本改革が行われることとなりました点は、評価されます。
    来年以降、高齢者医療、介護などの改革も予定されているわけですが、社会保障制度全体の改革を、税制、財政の改革と一体で、将来の明確なグランドデザインを示し、国民的合意を形成しながら進めるよう、引き続き、政府・与党に対し、強力に働きかけて参る所存です。

  6. 税制面では、今年度、研究開発及びIT投資関連で、大規模な先行減税が実現し、来年度については本格的な減税が難しい情勢であったことから、法人税では欠損金の繰越期間の延長や連結付加税の撤廃などに的を絞って、政府・与党に実現を求めて参りました。
    また、住宅投資が今後の内需拡大の大きな柱として期待されることから、今年末に期限切れとなる住宅ローン減税の延長にも力を入れてまいりました。
    昨日発表されました、与党の税制改正大綱は、私どものこうした主張が概ね反映された内容となっているものと評価しております。
    国際的な競争環境が益々厳しくなる中で、私どもは、法人税負担の更なる軽減に向けた活動を続けて参りたいと考えております。
    他方、環境省が検討しております環境税につきましては、国際競争に及ぼす影響が懸念されることから、引き続き強く反対して参る所存です。

  7. なお、公的負担からは離れますが、企業の国際競争力という観点からは、今後の賃金制度のあり方がますます重要となっております。
    私どもは、一昨日、経営労働政策委員会報告を公表し、このなかで、「来春の労使交渉・労使協議への対応としては、一律なベースアップは論外であり、能力・成果・貢献度に応じた賃金制度の構築、定昇制度の廃止・縮小、さらにはベースダウンも労使の話し合いの対象となりうる。」との主張を展開しているところであります。

  8. さらに、日本経済の再生には、守りの経営から攻めの経営への転換、すなわち新たな需要、産業、雇用を創出する取り組みの強化が必要であります。
    これまでの企業収益の回復は、コスト削減効果が大きく寄与したものでした。今後もこうした努力は当然必要ですが、同時に、売上を増やし、実体経済を拡大していくような企業戦略、いわば攻めのリストラ、が求められます。
    そのためには、新ビジョンでも強調しておりますように、産学官の連携などを起爆剤に、技術革新のダイナミズムを高めていくことが不可欠であります。
    そこで、私どもは、内閣府や日本学術会議と共催で、第3回産学官連携サミットを開催するなど、連携強化に向けた機運の醸成に努めてきた他、戦略的な知的財産政策の実現にむけ、独立した知的財産高等裁判所の創設や、模倣品・海賊版対策の強化などを政府に申し入れております。

  9. 規制改革も、新事業や新産業の創出に不可欠です。私どもは、毎年、会員企業に対するアンケート調査に基づき、数百項目に及ぶ具体的な規制改革要望をとりまとめ、実現を働きかけております。
    その結果、徐々にではありますが、改革の成果が上がって参りました。また、構造改革特区では、聖域とされてきた、医療・福祉、教育、農業などの分野においても、規制に風穴があきつつあります。
    こうした流れをさらに加速させるためには、規制改革の推進体制の強化が必要です。来年の3月末には、政府の総合規制改革会議が設置期限を迎えますので、民間人主体の後継組織の速やかな設置など、民間の知恵を活用した一層の規制改革の実現を目指して参りたいと存じます。

  10. 国際関係では、日本企業がグローバルな競争を勝ち抜くうえで、貿易、投資環境の整備が重要です。
    先ず、WTOの新ラウンド交渉につきましては、9月のカンクンでの閣僚会議が決裂し、交渉の早期立て直しが喫緊の課題となっております。
    また、こうした多国間交渉の推進と並行して、諸外国に比べて大きく立ち遅れている、自由貿易協定のネットワーク作りも急がれます。
    この内、私どもが、特に力を入れて参りましたメキシコとの協定は、10月のフォックス大統領の来日時に合意に至らず、交渉継続となったことは残念でありました。一日も早い妥結を、強く期待しております。
    他方、新たに交渉開始が合意されました、韓国、タイ、フィリピン、マレーシアにつきましては、経済界の意見が十分に反映された形で、早期に妥結するよう働きかけを強化して参る所存です。
    こうした協定を積み重ねていくことで、将来的には、日本・中国・韓国・ASEANを包含する、東アジア自由経済圏の形成を目指していくべきであると考えております。

  11. 新ビジョンでも指摘しておりますように、こうした通商戦略を積極的に進めていく上で、外国人の受け入れ体制の整備など、日本の更なる開国を自らの手で進めていかなければなりません。
    外国人の受け入れは、新ビジョンの基本理念の一つである、「多様性のダイナミズム」を日本社会にもたらすという観点からも重要であり、11月の中間取りまとめに続いて、来年春を目途に、具体的な提言を公表する予定であります。
    併せて、私どもは、農業関係者など関係各方面との意見交換を進めながら、農業の国際競争力強化を促して参りたいと考えております。

  12. 先の総選挙におきまして、自民党をはじめとする連立与党が絶対安定多数を確保し、構造改革路線への国民の信任が得られるなど、改革を更に進めていく上での環境が整って参りました。
    われわれ経済界としても、官僚任せではなく、政治への働きかけを一層強めていくことで、新ビジョンで取り上げた様々な提案の実現を目指していく必要があります。
    そこで、私どもは、政治との間に、透明で緊張感ある新たな関係を構築するための枠組み作りを進めて参りました。
    この手始めとして、9月に、政党の政策評価を行う際の尺度となる、10項目の「優先政策事項」を発表いたしました。
    また、一昨日の理事会では、政党の政策評価の方法や、「各企業の寄付額の目安を日本経団連の会費分担基準に基づく年会費相当額とする」ことなどを内容とする、「企業の自発的政治寄付に関する申し合わせ」をご了承いただきました。
    これに基づき、年明けには第1回目の政党の政策評価を公表し、企業が自主的に政治寄付を行う際の参考に供する予定であります。
    こうした政治への取り組みの強化に対し、皆様のご理解とご協力を賜りますよう、宜しくお願い申し上げます。

  13. 最後になりますが、大変残念なことに、この一年間、現場での大規模事故や企業不祥事が相次ぎました。
    経営労働政策委員会報告では、事故の続発は、工場などの現場における人材力が低下しているためではないかとの反省に立ち、企業の「現場力」の復活を訴えております。
    また、企業不祥事をなくしていくうえで、「経営者が、強く正しくありつづけるという姿勢が、強い競争力を育て、社会に信頼される企業をつくる」という点を、われわれは常に肝に銘じなければならないと思います。
    会員の皆様には、企業行動憲章をもご参照いただきながら、いま一度社内体制の総点検をお願い致したいと存じます。

  14. われわれは、日本経済の再生に向け、今まさに、けわしい峠にさしかかりつつあります。これを越えることができれば、日本は新たな発展の時代を享受できるものと確信しております。来年は、その正念場の年となるでしょう。
    私どもは、新ビジョンが目指す、「活力と魅力溢れる日本」の実現に、今後とも全力で取り組んで参ります。
    皆様の、引き続きのご支援、ご協力をお願い申し上げて、私からのご挨拶とさせていただきます。
    ご清聴ありがとうございました。

以上

日本語のホームページへ