Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月23日 No.3580  気象データの利活用による防災・減災・国土強靱化 -気象庁から聴く/危機管理・社会基盤強化委員会企画部会

太原氏

経団連は1月30日、東京・大手町の経団連会館で危機管理・社会基盤強化委員会企画部会(工藤成生部会長)を開催した。太原芳彦気象庁総務部企画課長から、国土強靱化に関する気象庁の取り組みや気象データの利活用などについて説明を聴くとともに意見交換した。説明の概要は次のとおり。

■ 豪雨・台風

近年、防災気象情報上で特に課題となっているのが線状降水帯の予測である。線状降水帯は、次々と発生した積乱雲が群れとなり、線状の降水域が数時間にわたり停滞することで、局地的に大雨をもたらす現象である。現状、台風などの大きいスケールの現象に関する予測精度は向上しているものの、線状降水帯は非常に小さいスケールの現象が塊となって起こることから、正確な予測が困難である。他方、実際に線状降水帯が発生すると、大河川の氾濫、土砂災害、低地の浸水等をもたらし、人的被害や物的被害が多く発生してしまう。

そこで、気象庁は、水蒸気観測の強化や監視の強化、次世代スーパーコンピューターを活用した予測の強化などによる線状降水帯の予測精度向上に注力しており、2022年から広域での半日前予測を始めた。段階的に精度を向上させ、24年から県単位、29年からは市町村単位での半日前予測として、情報を提供したいと考えている。

また、気候変動の影響等により、集中豪雨の発生頻度が増加している。それだけでなく、台風による降水量や降雪にも大きな影響を及ぼしている。気候変動に関する科学的知見については「日本の気候変動2020」にまとめており、皆さまの防災対策にもぜひ活用してほしい。

■ 地震、津波

気象庁は、11年に発生した東日本大震災を教訓に、13年から、過小評価を回避した情報の発信に注力している。地震発生から約3分を目途に第1報として、最大クラスの規模を想定した津波警報を発出する。発出後も、さまざまな観測網を用いて収集したデータの情報処理、分析に加え、職員が24時間体制で地震の大きさや津波の高さ等を判断することで、より確度の高い地震津波情報の作成、発表へとつなげている。

南海トラフ地震や日本海溝・千島海溝沿いの後発地震に関する情報も発信している。さらに、23年1月からは、高層ビルなどの建物で起こりやすい長周期地震動に関する情報の発信、緊急地震速報への応用を開始している。

■ 気象庁と産業界との連携

気象データは小売業や製造業、物流や電力の需給予測など、さまざまな産業で活用されている。気象庁は17年に産学官連携を目的に「気象ビジネス推進コンソーシアム」を設立し、産業界との対話促進やマッチング等に取り組んでいる。同コンソーシアム等を通じて、産業界のニーズ、課題に対応した新たな気象データを提供することにより、気象ビジネスの市場を拡大していきたい。

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講演後、線状降水帯の予測時期の前倒し、防災情報の普及啓発などについて議論した。

【ソーシャル・コミュニケーション本部】