哲学・リベラルアーツ

セミナー「ステークホルダー理論の挑戦と未来」を開催しました

フリーマン教授

中島研究主幹

経団連総合政策研究所(筒井義信会長)の資本主義・民主主義研究プロジェクト(研究主幹=中島隆博東京大学東洋文化研究所教授)は、7月3日、米国・バージニア大学ダーデンビジネススクールのR・エドワード・フリーマン教授を招き、東京・大手町の経団連会館でセミナー「ステークホルダー理論の挑戦と未来」を開催しました。

フリーマン氏は、1970年代から提唱してきたステークホルダー理論を基に、経営のあり方や価値共創の重要性について講演しました。講演後は、中島研究主幹との対談と、参加者との質疑応答を行いました。講演の概要は次のとおりです。

 

■企業の本質

ステークホルダー理論とは、企業は価値を創造する存在と捉え直すシンプルな考え方だ。ビジネスは株主だけでなく、顧客、サプライヤー、従業員、地域社会、投資家など、さまざまな関係者との間で価値を創出する営みであり、これらの関係性から成り立っている。

重要なのは、株主以外にも重要な関係者がいるということだけでなく、ステークホルダー同士が相互に依存しているという点だ。つまり、あるステークホルダーとの関係だけを最適化しようとすれば、他の関係を損なう可能性がある。経営者に求められるのは、誰が最も重要かを決めることではなく、複数の利害を「調和(harmonize)」させることだ。単純に異なるステークホルダーの利害のバランスを取るのではなく、音楽において異なる音が一つの調和を生み出すように、全体としてより良い価値創造につなげることが重要だ。利害の対立も、新たな価値を生む機会になり得る。

経営者には、創造的想像力(creative imagination)を働かせ、トレードオフではなく、複数の関係者に価値をもたらす解決策を追求することが求められる。

 

■「新たな物語」へ

かつてのビジネスは株主中心だったが、今、新たなビジネスの物語が始まっている。利益かパーパス(存在意義)か、株主かステークホルダーか、市場か社会か、ビジネスか倫理か、という二者択一ではなく、全てを両立させることが重要になる。

利益は企業が生き残るために不可欠である一方、企業の目的そのものではなく価値創造の結果であり、パーパスと利益は両立できるはずだ。

株主価値は経営において重要かつ不可欠な要素だが、他のステークホルダーとの関係性をうまく築くことで生まれる結果でもある。株主価値を本当に高めるためには、この関係性を適切に管理し、価値を共創する必要がある。

企業は市場の圧力だけでなく、社会からの要請にも応える必要がある。例えば従業員を多く雇用する企業であれば、労働者の生活や多様性の問題を軽視することはできない。社会的課題への対応は事業の持続可能性と結び付いている。

倫理とビジネスは別物とされがちだが、不可分で一体のものとして考えるべきだ。

ステークホルダー理論は非現実的な理想論ではなく、優れた企業がすでに実践してきたことを理論化したものだ。新たな物語は、資本主義をより人間にふさわしいものへと進化させるだろう。

中島研究主幹との対談では、複雑化するリーダーシップのあり方、企業内の仲間との関係性などが議論されました。参加者からは、ステークホルダー理論とAIの発展、インセンティブとしての利子の捉え方、国家と企業の関係性などについて、積極的な質問がありました。

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