経団連タイムス No.3049 (2011年7月14日)

中国における最近の労使関係と人事労務管理上の課題を聞く

−ILO総会での討議結果報告も/雇用委員会国際労働部会


経団連は5日、東京・大手町の経団連会館で雇用委員会国際労働部会(谷川和生部会長)を開催した。部会では、第100回ILO総会の討議結果(6月23日号30日号既報)を報告するとともに、富士通総研経済研究所の金堅敏主席研究員から「変化する中国の労働市場」と題する講演を聞いた。
講演の概要は次のとおり。

■ 相矛盾するシグナル

中国の労働市場を見るときには、次のような相矛盾するシグナルに注目し、その状況を正しく理解する必要がある。

(1)2003年ごろから出稼ぎ労働者が不足、10年に台湾系・日系企業を中心に賃上げ・ストライキが多発し、11年「春節」後、深刻化する出稼ぎ労働者争奪戦等にみられるように労働市場が逼迫している。

(2)02年ごろから大卒就職難問題が台頭、その後深刻化しているとともに、40歳以降の就業が難しい。

15年前後には労働力人口は減少するが、人口ボーナス期(生産年齢人口が従属年齢人口の2倍あり経済成長が高い時期)は30年ごろまで続く。

1970年代末からの一人子政策により1億人以上の生産年齢人口を抑制し、また、退職年齢を法定より低く設定する退職勧奨を推進し、アジア金融危機時には大学入学者数を拡大して雇用問題を遅らせたにもかかわらず雇用問題を解決できていない。

さらに労働市場の仲介機能・ネットワーク化が未整備なことに加え、出稼ぎ労働者に過剰な期待感を持たせる加熱する報道なども問題となっている。

■ 中国政策の方向性

マクロ的には完全雇用を目指す労働政策は今後も継続する。現在2・6億人いる農業就業者のうち、1億人近くを都市部へ移転する可能性がある。一方、安い労働力依存の経済から「知識・スキル経済」への転換が必要。大卒者に見合った産業の高度化・省力化を進めたうえで、国際競争力の維持は低賃金によるものではなく生産性向上により対応すべきである。こうした考えのもと、経済成長率・労働生産性上昇に見合った賃金上昇によって購買力を向上させ、内需主導の経済を目指す。

■ 日系企業への示唆

こうした状況のなかでは、(1)労働力人口不足よりも政策による賃金上昇が最大の環境変化(2)企業には短期的対策と中長期的対策が必要――との基本的な判断が必要である。

短期的対策としては、(1)低コスト地域への移転は慎重に判断すること(2)社内教育の充実や作業環境の整備などの会社の魅力をうまく広報すること(3)職業訓練校との提携や社内紹介を活用するなどの募集手法の多様化――が必要である。

中長期的対策としては、(1)社会保障費を含む給与、採用費用、訓練費用、事務手続き費用等人的資本コストを正確に把握すること(2)定着率の高い既婚者、40代労働力活用による人材の多様化を図ること(3)日系企業の得意分野であるローコスト自動化による省人化・省力化の推進――などが求められる。

市場や競争力の視点からは、中国産業の自動化・省人化は、自動化機器市場の拡大、蓄積したノウハウの活用、ICTの一層の普及など日系企業のビジネスチャンスとして活用が可能と考えられる。

【国際協力本部】
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