[経団連] [意見書] [ 目次 ]

経済・財政等のグランドデザイン策定と
当面の財政運営について

2000年10月2日
(社)経済団体連合会

  1. 経済・財政等のグランドデザイン策定
    1. 少子高齢化の進行と構造改革
      1. 日本経済の現況と少子高齢化の影響
        21世紀を睫前に控え、日本経済は、ストック面での調整が依然続いているものの、フロー面では自律的な回復の動きが強まってきている。90年代、米国に大きく遅れをとったIT(情報技術)革命を軸とした経済構造改革も、「高度情報通信社会形成推進基本法」(IT基本法、仮称)の取りまとめをはじめ、官民双方において推進の気運が高まってきている。
        しかし、バブル崩壊後の長期経済低迷と景気回復に向けた諸施策や減税等のため、財政収支は著しく悪化しており、2000年度当初予算を前提とすると、2000年度末には、国・地方を合わせた長期債務残高は645兆円、GDP比約130%に達する見込みである。また、将来にわたる安定的な運営に深刻な疑問が寄せられている年金、医療保障をはじめとする社会保障制度の抜本改革も、未だ手付かずの状態にある。
        日本経済は財政において巨額の負の遺産を抱え、しかも社会保障制度についても明確なビジョンを欠いたまま、21世紀を迎えることになる。
        こうした中、21世紀初頭を展望した際、最も懸念される問題は、世界に例を見ない急速な少子高齢化の影響である。国立社会保障・人口問題研究所の中位推計によれば、老年人口(65歳以上人口)の生産年齢人口(15〜64歳人口)に対する比率、いわゆる老年人口指数は、2000年の25.3%から2025年には46.0%に上昇すると見通されている。
        少子高齢化の進行は、図表第1に示すように、経済社会のさまざまの局面に影響を及ぼすが、基本的に、経済成長率の鈍化、財政事情の悪化、社会保障負担の増嵩等を通じ、国民負担率の上昇を招くことが懸念される。

      2. 構造改革の必要性
        国民負担率の上昇は、図表第2に示すように、経験的に見て経済成長率と明らかに逆相関の関係にある。国民負担率の過度な上昇は、貯蓄率の低下、労働供給の減少、クラウディング・アウト等を通じて、経済活力の減衰につながる惧れが高い。
        財政収支の改善を図る観点からの増税論も根強いが、その場合にあっても、90年4月の臨時行政改革推進審議会の最終答申以降、国民的コンセンサスとなってきた国民負担率50%以下への抑制という目標は安易に変更すべきでない。
        われわれが目指すべき道は、(1) 生産資源の有効活用により最大限の経済成長を追求するとともに、(2) 国・地方を合わせた歳出の合理化・効率化・重点化、社会保障給付の適正化を通じ「小さな政府」の実現を図り、併せて、(3) 経済成長に対する悪影響が最も小さな税・社会保障負担の組合せを実現する等、一連の構造改革を推進し、国民負担率の上昇を可能な限り抑制することである。

    2. 分野毎の構造改革の基本方向
    3. こうした構造改革のあり方について、経団連では、各分野毎にそれぞれ提言を重ねてきた。その基本的な方向は以下の通りである。
      もちろん、どのような構造改革を行うにしても、出生率の低下に歯止めがかからなければ、国民経済の破綻は避けることはできない。21世紀を見通した場合、少子化対策が最も重要であることは言を俟たない。経団連では、意見書『少子化問題への具体的な取り組みを求める』(99年3月)において、保育制度の充実・見直し、職住接近の都市づくり、父親の家事・育児参加等の具体的な取り組みを提案したところであるが、下記の構造改革と併せて、政府、企業、地域・家庭がそれぞれの立場から、少子化対策を粘り強く進めていく必要がある。

      1. 成長戦略
        少子高齢化の進行にもかかわらず、日本経済は、2025年まで2.7%程度の潜在成長力を有している。これを実現していくため、官民が協力して、(1) 高齢者や女性の雇用機会の拡大、専門的・技術的分野等における外国人労働者の積極的活用をはじめとする労働力人口の確保、(2) 資本効率の改善、金融資本市場の一層の整備を通じた設備投資の促進、(3) IT革命の推進、規制改革等による非製造分野を中心としたTFP(全要素生産性)の上昇促進等の方策を総合的・戦略的に展開していく。

        詳細は経団連意見書『少子高齢化に対応した新たな成長戦略の確立に向けて』(2000年5月)を参照。

      2. 歳出構造改革
        国・地方を通じた歳出抑制に向け、聖域を設けることなく施策・制度の効率性・有効性等を徹底して見直すとともに、民営化・アウトソーシングや行政の情報化(電子政府、電子自治体)の推進等により、歳出の一層の合理化・効率化を進める。同時に、IT革命の推進等、新たな成長戦略関連の施策には重点的に予算を配分する。

        1) 公共事業改革
        新たな成長基盤の構築、既存社会資本ストックの維持更新等、公共事業に期待される役割は変化していく。これを視野に入れ、社会資本整備における官民の適切な役割分担を踏まえ、公共事業の選別・コスト削減を進める。また、PFI(民間資金等活用事業)等も活用し、公共事業執行の効率化を推進する。
        当面、「行政評価法」(仮称)を速やかに制定し、公共事業について事業評価(費用便益分析)の義務づけ、行政評価と予算編成との緊密な連動、政策評価・独立行政法人評価委員会の機能強化等を実現する。同時に、公共工事コストの縮減を図る観点から、「公共工事入札・契約適正化促進法」(仮称)の早期制定と厳正な運用、地域要件等による地元業者優先の是正、さらには、「官公需についての中小企業者の受注の確保に関する法律」(官公需法)やJV制度等の見直しを図る。

        2) 地方財政改革
        自立自助を基本とした、地方公共団体の行財政改革に向けた自発的な取り組みを促す財政的な枠組みを確立する。
        このため、住民によるチェックとコントロールが有効に機能するよう地方公共団体を大括りに再編するとともに、地方税財源の充実と地方交付税・国庫支出金の廃止により地方公共団体における受益と負担の対応関係を明確化し、併せて地方財政に関する情報開示・政策評価を充実する。これを梃子として地方における歳出構造改革を強力に推進する。
        詳細は経団連意見書『自立自助を基本とした地方財政の実現に向けて』(2000年4月)を参照。

      3. 社会保障制度改革
        自助努力と社会保障の適切な役割分担、年金・高齢者医療・介護保険の相互補完・代替関係も考慮した総合的・効率的な給付の実現等により、少子高齢化の下でも持続可能で、現役世代・将来世代の負担が過重とならない社会保障制度を確立する。

        1) 年金制度改革
        年金給付について、一定額以上の所得を得ている者を対象外とする等、真に必要な水準に抑制するとともに、世代間の負担のバランスの適正化を進めつつ、安定的な財源を確保する。
        このため、基礎年金については、必要最小限の生活保障に限定し、公費による負担割合を拡充する。報酬比例部分については、将来における完全民営化も視野に入れ、給付・負担の両面における抜本的な見直しを進める。また、世代間の不公平是正の観点から、公的年金等控除を縮減する。
        他方、自立自助を促進する観点から、確定拠出年金の早期導入、確定給付型年金の制度設計の弾力化、特別法人税の撤廃等、私的年金に係る制度整備を進める。

        2) 高齢者医療・介護保険制度改革
        年金も含めた総合的な給付調整を行う。特に、高齢者医療は新たな制度を創設し、自己負担軽減の対象者を所得基準により限定するとともに、介護保険への誘導による社会的入院の解消、終末期医療の見直し等を通じ、無駄を極力排除する。
        財源面では、資産の活用も図りつつ世代内保険の要素を高め、併せて公費による負担割合を、加齢による疾病率の上昇等も考慮して、引き上げる方向で抜本的な見直しを図る。当面、老人保健制度について、自己負担割合を速やかに引き上げ、公費割合を高めることを前提に、現役世代からの世代間扶助である老人保健拠出金は廃止する。

      4. 税制改革
        高齢化に対応し、公平・中立・簡素の原則に「活力」の原則を加えた税制を整備する。
        税や社会保険料の負担は、これが課せられなかった場合に比べ、各個人や企業の行動を歪め、経済全体に非効率を生じさせる。経団連の推計によれば、同額の社会保障財源を調達するとした場合、図表第3に示すように、間接税の方が、所得課税や社会保険料(労使折半)より、経済に与える悪影響が小さい。
        一般に、財政や社会保障の財源調達方法は、課税ベースの違い、所得捕捉の問題、未納・未加入の問題、財源の使途等を総合的に勘案して、複数の税目や社会保険料を適切に組み合わせていく必要がある。しかし、現在のところ、直接税・社会保険料に過度に偏っている。したがって、税と社会保険料の適切な機能分担を踏まえ、税制については、インボイス方式の導入、簡易課税制度の見直しによる「益税」の排除、さらには、複数税率化、内税化等の制度整備を進めつつ、直間比率を是正する。また、国際競争力の維持・強化の観点から、法人税率をさらに引下げるとともに、個人所得課税については、課税最低限の引下げを図りつつ、累進税率構造の緩和を推進する。

        詳細は経団連意見書『平成13年度税制改正提言』(2000年9月)を参照。


        図表第3:税・社会保険料が経済に及ぼす影響
        ――財源調達方法による「超過負担額」の違い――
        課税または保険料徴収の方法
        税収
        (保険料収入)
        所得課税社会保険料
        (労使折半)
        消費税
        10兆円の場合787億円127億円
        20兆円の場合3254億円512億円
        30兆円の場合7579億円1157億円
        40兆円の場合1兆3974億円2069億円
        50兆円の場合2兆2696億円3249億円
        ・「超過負担」とは
         税や社会保険料が課されることに伴い、各個人・企業が行動を変化させる結果、経済全体としては、税・保険料が課されない場合に比べて非効率が生じる。この損失を「超過負担」(または死荷重)と呼ぶ。具体的な推計方法については補論1を参照。

    4. 経済・財政等のグランドデザイン策定の必要性
      1. 97年の6大改革の経験
        各分野における構造改革の基本方向は上記の通りであるが、これを、どのような目標の下に、どのようなスケジュール・組合せで実現していくかが問われている。
        この問題を考えるに当たって、参考となるのは97年の6大改革の経験である。
        97年に開始された6大改革(行政・財政構造・社会保障構造・経済構造・金融システム・教育)は、本格的な構造改革の先駆けと位置づけられる。一連の改革の内、金融システム改革については98年12月に「金融システム改革のための関係法律の整備等に関する法律」(金融システム改革法)が施行された。行政改革についても新しい省庁体制が2001年1月から実現される。
        反面、財政構造改革は、97年11月に「財政構造改革の推進に関する特別措置法」(財政構造改革法)が成立したが、98年5月には目標年次の変更等を余儀なくされ、同年12月には、施行が停止された。また、社会保障制度改革についても未だ抜本改革に着手するに至っていない。
        財政構造改革に即して検証すると、挫折の原因として以下の3点が挙げられる。

        1. 密接に関連する行政改革、社会保障制度改革、経済構造改革等との有機的な連携関係が欠如していた。
        2. 目標・スケジュール設定に当たって実行可能性の検討が不十分だった。図表第4に示すように、財政構造改革法に定める「特例国債からの脱却」、「財政赤字対GDP比3%以下への抑制」の両目標を達成するには、計画期間中(98〜2003年度)、5%台半ばの名目成長を持続する必要があった。
        3. 不良債権問題の実態・及ぼす影響が必ずしも的確に把握されておらず、金融システム不安に見舞われるとともに、アジア通貨危機の激化等、法律制定時には予測されていなかった経済情勢の急変があった。

      2. 求められるグランドデザイン像

        1) グランドデザインが備えるべき要件
        97年の経験を踏まえると、今回、構造改革に着手するに当たっては、先ず下記の3要件を満たしたグランドデザインを策定することが適当と考えられる。
        1. 総合性(特に各種制度改革と成長戦略との整合性の確保)
        2. 計画性(実現可能な目標・スケジュールの明確化)
        3. 弾力性(予想外の事態・環境変化等への弾力的対応)


        2) グランドデザインの企画・立案
        2001年1月から発足する新しい中央省庁体制においては、内閣府に、経済財政政策に関する重要な事項について審議する経済財政諮問会議が設けられる。グランドデザインの企画・立案及びその実現状況を踏まえた定期的な見直しは、総理大臣のリーダーシップの下、同会議が中心となり、関連する機関の協力も得て当たることが適当と考えられる。

        3) 想定される選択肢
        経団連では、図表第5に示す通り、2025年までの期間について、各種構造改革の組合せが経済成長や財政収支等に及ぼす影響について試算を行なった。
        このシミュレーションでは、経団連の提言の基本方向に近い、ケース(3) またはケース(4) のような一連の構造改革を断行すれば、2025年までの間、国民負担率を50%以下に抑制することが可能となる。また、経済戦略会議の目指したプライマリーバランス(「国債費を除く歳出」と「公債金収入以外の歳入」のバランス)の均衡という目標も2004〜5年度には達成され、政府債務残高の対GDP比も低下する。さらに、社会保障制度の安定的な運営も可能となる。
        これはあくまでも一定の仮定を前提としたシミュレーションに過ぎない。経済財政諮問会議等がこうした試算も参考に、構造改革の目標、開始時期、スケジュール、各施策の組合せ等について検討を深め、グランドデザインを速やかに策定することを強く要望する。
        なお、各々のケースの概要は以下の通りである。いずれのケースについても、構造改革の実施開始時期は2002年度と仮定している。

        〔ケース(1)〕
        ケース(1)は、歳出構造改革、社会保障制度改革を行なわずに、消費税・社会保険料の重課で収支均衡を図るシナリオである。この場合、消費税率は2002年度に一挙に25.5%に、また、厚生年金保険料率は現行の17.35%から段階的に34.5%まで引き上げなければならず、医療保険負担も現行制度を前提とした負担水準の1.4倍となる。この結果、経済成長率は年率1.7%と2%を切り、2025年度の国民負担率は71.8%に達する。

        〔ケース(2)〕
        ケース(2)は、国・地方における歳出構造改革のみを行うシナリオである。公共事業・非公共事業の双方について、思い切った歳出構造改革を行なえば、2002年度における消費税率はケース(1)から11%ポイント低い14.5%となる。しかし、社会保障制度改革には手を付けないため、厚生年金保険料率の引上げ幅はケース(1)とほぼ同じであり、医療保険負担の増嵩も続く。この結果、経済成長率はケース(1)とほぼ同水準にとどまり、2025年度の国民負担率も59.8%と、ケース(1)よりは改善するものの、依然、高水準は避けられない。

        〔ケース(3)〕
        ケース(2)から明らかなように、国民負担率を50%以下にとどめるには、抜本的な社会保障制度改革が必要不可欠である。そこで、ケース(3)〜(5)では、歳出構造改革に加え、社会保障制度改革に取り組むことを想定した。
        ケース(3)は、ケース(2)の歳出構造改革に加え、年金・医療保険の双方について給付水準の適正化を行うシナリオである。この場合、2002年度の消費税率の引き上げは5%ポイントに止めることが可能となる。厚生年金保険料率も現行とほぼ同水準で推移することとなり、医療保険負担は、現行制度を前提とした負担水準から引き下げることができる。この結果、経済成長率は年率2.4%に改善し、2025年度の国民負担率も46.5%と50%以下に抑制される。

        〔ケース(4)〕
        ケース(4)は、ケース(3)を基本として、基礎年金については全額国庫負担、自己負担分を除く高齢者医療、介護費用については全額公費負担とするシナリオである。この場合、2002年度に消費税率を現行水準の3倍強の15.8%まで引き上げなければならない。他方、厚生年金保険料率は14.5%まで引下げることができ、医療保険負担もケース(3)よりさらに引き下げが可能となる。この結果、経済成長率は年率2.7%となり、2025年度の国民負担率も46.3%となる。

        〔ケース(5)〕
        以上の(1)〜(4)のケースでは、いずれも、国・地方の赤字財政からの脱却は2020年代となる。ケース(5)は、ケース(3)を基本として、財政再建をより重視し、10年間で赤字財政から脱却するとともに、年金の積み立て不足を解消するため、年金積立金も積み上げていくシナリオである。この場合、2002年度には消費税率を17.5%まで引き上げる必要があり、厚生年金保険料率は段階的に33.5%まで引き上げなければならない。この結果、経済成長率は年率1.9%に低下し、2025年度の国民負担率は61.3%に達することになる。


  2. 当面の財政運営−2001年度予算編成について−
    1. 基本的な考え方
      1. わが国の財政状況は、既に先進国中最悪と言うべき危機的状況にあり、国債の評価にも一部変化が現れてきている。しかも、今後の金利動向によっては、利払費が急速に拡大し、財政の硬直化が極めて深刻化する惧れがある。今後とも発生する様々な財政需要に適切に応えうる財政構造を構築していく必要性を考えれば、2001年度予算編成においても、中長期的な歳出構造改革の基本的な考え方を踏まえ、個別の施策・制度の効率性・有効性を徹底して見直し、歳出の一層の効率化・質的改善を図る必要がある。
        そのような観点からは、今般の与党三党による「時のアセス」を活用した公共事業の抜本的見直しに関する合意は重要な第一歩であり、政府においては、中止を前提に見直しを徹底し、実効ある事業の選別を行うべきである。さらに、公共事業費にとどまらず、他の経費についても根底から同様の見直しを行うことが求められる。
        また、2001年1月から、中央省庁等改革による新省庁体制が発足し、2001年度予算は新体制での初の満年度予算になる。各省庁から提出された概算要求では、省庁統合等による施策の融合化・効率化の効果が必ずしも明確となっていないが、予算編成においては、公共・非公共の留保枠も活用し、その効果を国民に明確に示すことが求められる。

      2. 一方、現下の経済情勢を見ると、景気は緩やかに改善を続けているが、個人消費の動きは未だ力強さにかけ、業種や地域では依然としてバラつきがある。このような中、政府では、公需から民需へのバトンタッチを円滑に行い、21世紀の新たな成長基盤を確立するため、経済対策の取りまとめを急いでおり、近くこれを受けた2000年度補正予算案が国会に提出される予定である。
        このような状況を踏まえれば、2001年度予算は、質的改善を進める一方、公共事業、非公共事業を通じ、2000年度当初予算と同規模とすることは妥当である。

      3. さらに中長期な観点に立てば、財政状況の改善は、将来にわたるわが国の安定的な成長と税源の涵養が前提となることは明らかである。したがって、限られた財源の中でも、新たな成長基盤等の構築に真に必要な施策には特段の予算措置が求められる。概算要求では、各省庁とも、日本新生プランに掲げられた重点4分野について要望・要求を打ち出しているが、予算編成においては、これらを厳しく精査し、経済社会の新生に特に資する施策に公共事業を重点化するとともに、非公共事業についても、新産業創造の観点を踏まえた人材育成や科学技術等に資する施策に重点的に予算配分を行う必要がある。

    2. 制度改革・歳出合理化の方策
    3. 2001年度予算編成に関する基本的考え方は上記の通りであるが、特に主要歳出分野である社会保障、公共事業、地方財政については、下記のような制度改革・歳出合理化が望まれる。

      1. 社会保障

        1) 児童手当
        2001年度概算要求基準においては、児童手当について「具体的な財源の確保及び費用負担の在り方と併せて、予算編成過程で検討する」とされている。しかし、経済的負担の軽減の少子化に対する歯止め効果や現金による給付方式の目的適合性については疑問が多い。児童手当に係る所得制限の撤廃や対象年齢拡大による制度拡充は、こうした問題を増幅するものと言わざるをえない。
        少子化対策としては、男女共同参画の推進、仕事と育児の両立支援策をはじめ雇用、福祉、教育、住宅・都市など様々な施策を総合的に推進していくことが何より重要であり、児童手当の拡充は適当でない。

        2) 介護
        高齢化の進展に伴い深刻化する介護問題に対応するため、2000年4月より介護保険法が施行されている。この円滑な実施を図るため、高齢者保険料については、2000年4月から9月末までの間は免除し、2000年10月から2001年9月末までの間は半額に軽減する特別措置が講じられ、多額の財政負担の原因となっている。2001年10月からは、高齢者保険料について全額を確実に徴収すべきである。

        3) 医療
        医療については、高齢化の進展、医療の高度化等により高齢者医療費を中心として医療費の伸びは経済成長の伸びを大きく上回っている。介護保険制度の導入により、社会的入院の縮小が期待されたが、今までのところ目立った成果は見られない。
        こうした中、高齢者医療における原則定率1割の自己負担を盛り込んだ健康保険法改正案が第147回国会に提出されたが、審議未了となった。高齢者と若年者の負担の公平を確保するとともに、高齢者の医療に対するコスト意識を高める観点からは、当面、少なくとも1割負担を目途に患者負担を求めることが不可欠であり、同改正案の速やかな成立が望まれる。

      2. 公共事業

        わが国の公共事業の対GDP比は他の先進諸国と比較して極めて高い水準にある。社会資本の整備状況の遅れを考えると、やむを得ない面もあるが、厳しい財政状況の中で、公共投資をこのような水準で維持できないことは明らかである。したがって、公共事業予算の策定に当たっては、高度情報通信ネットワークの整備について民間に委ねるべきは民間に委ねる等、社会資本整備における官民の役割分担を踏まえ、経済社会の発展、国民生活の向上のため、国・地方が真に関与すべき社会資本整備の範囲に限定すべきである。特定地域への所得移転、雇用の確保等は、必要な場合であっても、社会保障・社会福祉など他の施策をもって行うべきであり、これを公共事業に期待することは厳に慎む必要がある。
        その上で、公共事業については、以下の通り、事業の選別、コスト削減を通じ、効率化・合理化を推進すべきである。

        1) 事業の選別
        与党三党の公共事業の抜本的見直しに関する合意を踏まえ、行政評価法(仮称)を速やかに制定し、公共事業について事業評価の義務づけ等を実現し、事業の選別を推進していくべきである。 特に事業の採択に当たって基礎となる事業評価(費用便益分析)は、客観性をもって、費用に比べて便益が少ないと見込まれる事業を排除する機能を有する他、実施主体のコスト意識を高める等の効果がある。この費用便益分析に対する信頼性を高める観点から、需要予測等について適切な情報開示を進めることや、類似事業間における評価方法の共通化の促進、建設期間が長期にわたる事業における便益計測方法の見直し等の改善を早急に推進する必要がある。
        また、継続中の事業についても、与党三党の合意に見られるように、事業の見直しは極めて重要であり、今般の見直し基準該当事業については、原則、中止するとともに、非該当事業についても、継続の必要性について徹底した見直しを行うべきである。

        2) コスト削減
        本年9月に「公共コスト縮減対策に関する新行動指針」が示され、これを受けて各省庁が行動計画を策定することとなったが、実効ある対策を実現するには、公共事業に係る競争条件を整備していく必要がある。
        懸案の入札・契約手続の透明性、競争性の向上については、「公共工事入札・契約適正化促進法」(仮称)が制定される運びとなったが、例えば、地方公共団体の公共事業については、入札の参加資格が地元企業に限られたり、受注業者に対して地元企業を下請けとして使用することが義務づけられたりする事例が多い。また、規模や技術力に応じたランク制の下で、工事の分割受注が行われ、より規模の小さい業者が優先される傾向がある。こうした競争の実質的な制限が談合問題や落札価格の高止まりなどにつながっており、速やかに是正していく必要がある。

      3. 地方財政

        1) 市町村合併
        住民によるチェックとコントロールを強化を通じ歳出の効率化・合理化を推進するとともに、歳入の安定化を図り、さらに人材を確保する観点から、市町村を大括りに再編する必要がある。
        自治省は、市町村合併を促進する観点から、2001年度予算概算要求において、日本新生特別枠(非公共)に交付金の新設等の要求を掲げている。その内訳は、都道府県における市町村合併推進体制の整備に対する交付金、合併準備及び合併に伴い市町村が実施する事業に対する交付金等である。しかし、市町村合併が進展しない背景には、既存の地方交付税や国庫補助金等の配分の仕組みが小規模市町村でも合併の必要性を感じさせないようなものとなっていることがあり、既に導入されている市町村合併の促進を目的とする地方交付税上の措置、補助金等を含め、こうしたインセンティブ措置の有効性には疑問が多い。また、補助金等の整理合理化の観点からも、今般の交付金の新設は慎重に検討すべきである。
        将来的には、市町村合併に係るインセンティブ措置は、計画的に縮小・廃止することが求められる。市町村合併は、合併しない市町村に対し不利に働く措置の導入等を含め、新たな立法措置によって強力に推進すべきである。

        2) 補助金等
        地方公共団体に対する補助金等は、財政構造改革法に定める「制度等見直し対象補助金等」と「その他補助金等」に分かれる。この内、「その他補助金等」については、第1次地方分権推進計画を踏まえ、各省庁毎に対前年度当初予算比1割以上の削減を実施する必要がある。
        他方、補助金等の太宗を占める「制度等見直し対象補助金等」については、地方分権推進委員会第2次勧告における国庫補助金と国庫負担金の区分を踏まえ、対象となる事業等に係る制度もしくは施策の見直しまたは当該事業等の見直しを行うことにより、「その他補助金等」同様に計画的に削減または合理化を推進すべきである。
        さらに、新規の補助金等は、引き続きスクラップ・アンド・ビルド及び終期設定の原則を徹底し、真にやむをえない場合を除き、抑制すべきである。

        3) 地方行政改革
        地方分権推進委員会第2次勧告を踏まえて、97年11月に策定された地方行政改革推進の新しい「指針」においては、地方公共団体がそれぞれの行政改革大綱を見直し、事務事業の整理合理化、組織・機構の簡素化、定員・給与の適正化等に積極的に取り組むことを求め、そのため定員管理の数値目標の設定はもとより、組織管理、補助金等の整理合理化等の取り組み内容についてもできる限り目標の数値化を図ることを要請している。地方公共団体は、この「指針」を十分に尊重し、住民の代表者等からなる行政改革推進委員会等の組織を活用し、明確な数値目標に沿って行政改革を推進すべきである。その際、特に定員については、中央省庁等改革に伴う定員25%削減にならい、思い切った縮減・増員抑制を着実に実現していく必要がある。

以 上

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