[経団連] [意見書] [ 目次 ]

「e-Japan戦略」実現に向けた提言

―「やるべきこと」を迅速に実現する「重点計画」を求める―

2001年2月20日
(社)経済団体連合会

はじめに

政府は、「5年以内に日本を情報通信の世界最先端国家」とすべく、1月22日に高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(以下、IT戦略本部)で国家戦略「e-Japan戦略」を決定した。IT戦略本部は、3月末を目途に、そのアクションプランとも言うべき「重点計画」を策定することとしている。この「重点計画」がどこまで実効あるものとなるか、特に初年度にどれだけの成果をあげることができるかは、21世紀の繁栄を占うものといえよう。
「重点計画」は、中央省庁新体制の下で策定される全政府的な計画である。中央省庁の改革は、政治主導で「総合性と機動性」ある国政の実現を目指したものであり、「重点計画」の策定・実施にあたっては、この「総合性」や「機動性」を遺憾なく発揮し、中央省庁改革が国民のため改革であることを実証していく必要がある。
「重点計画」は、各省庁が「やりやすいこと」や「やりたいこと」を羅列するのではなく、ITを活用する国民・企業の視点から「やるべきこと」を実現する計画となることが不可欠である。この観点から、「重点計画」の原案がまとまった段階でパブリックコメントを募集すべきである。幅広い国民・企業の声を十分に反映した「重点計画」を示し、断行することによってはじめて、IT関連施策ならびに政府に対する幅広い国民の理解と支持、さらには信認を高めていくことができる。
経団連では、このような観点から、産業界が特に重要と考える事項について、以下の通り、政府へ提言する。

  1. 「重点計画」の基本的要件
  2. 「重点計画」では、分野毎に、(1) 官民の役割分担をより明確化した上で、「e-Japan戦略」の根幹である「民間活力の最大限発揮を可能にする環境整備」に相応しい施策が示されねばならない。また、(2) 各種施策の実施に向けた明確で具体的なスケジュール、(3) 国・地方間、省庁間、省庁内複数部局の施策が効果的に連携する具体策をわかりやすい形で示し実行することによって、あらゆる国民ならびに中小企業を含む全ての企業によるITのより積極的な活用を実現すべきである。
    IT分野のスピードの速さに照らし、3月末に策定する「重点計画」は、3ヵ年(2001〜2003年度)のアクションプランとすることが適切である。その上で、毎年度評価・分析を行って見直し、ローリングすることとすべきである。また、2001年度本予算後は、「重点計画」の実現を優先する観点から、予算編成が行われることを確保する必要がある。

  3. 「重点計画」に盛り込むべき具体的事項
    1. 超高速ネットワークインフラ整備および競争政策
      1. 通信分野における競争促進に向けた規制の大幅見直しと 事前規制から事後チェック型行政への転換

        〔趣旨〕
        超高速インターネット網が整備され、利用者ニーズに合致したサービスが提供されるためには、まず、通信市場における自由で公正な競争を確保することが不可欠である。しかし、現行法制は、事業者の事業運営の適正化を図る「事業規制法」の体系であり、依然として多くの事前規制が残存している。そのため、自由で創意工夫を凝らした事業展開の足かせとなり、利用者ニーズが十分に充足されているとは言いがたい。昨年12月に公表された電気通信審議会の「IT革命を推進するための電気通信事業における競争政策の在り方についての第一次答申」では、競争を阻害するような規制は廃止する必要があるとはしているが、具体策が限られるなど、全体として抜本的に事前規制を見直す方向が示されていない。
        今後は、利用者利益の確保と自由・公正な競争の促進を主眼とする「競争促進法」の体系へと転換する必要がある。とくに、事前規制は原則撤廃するとともに、業務改善命令をはじめとする事後チェックの仕組みを整え、公正な競争条件の下で自由な事業活動を展開できるようにすべきである。
        また、殆どのOECD加盟国では、独立した規制機関によって通信分野の競争政策の執行が行われていること、ならびに昨年のIT戦略会議の議論を踏まえて、幅広い視点からいわゆる日本版FCCについても、検討すべきである。

        [いつまでに何を実施するか]
        1. 【2001年度早期】事前規制の抜本的見直し。別添資料参照
          1. 一種・二種事業区分の廃止、卸電気通信役務(キャリアズ・キャリア)制度の導入方針の撤回
          2. 一種事業者の設備変更許可、業務区域変更許可、役務区分・役務種類変更許可制の廃止
          3. 特定無線設備・端末機器の技術基準適合に関する自己宣言方式の導入
          4. NTTの経営に行政が直接介入するNTT法規制の廃止(役員認可制等)
          5. 一種事業者の契約約款認可制ならびに料金届出制の廃止
          6. 外国政府との協定締結等の認可制の廃止
          7. 接続に関する協定認可制の廃止
        2. 【2001年度】事後チェック型行政の充実
          事前規制部門からの配置転換等により、競争監視・紛争処理等、事後チェック部門の人員を拡充すべきである。

      2. 高速ネットワークインフラ整備促進に向けた規制緩和等

        [趣旨]
        通信市場における競争促進のためには、法整備と併せて、設備構築に係る手続簡素化や、道路・公園緑地等の公共空間の有効利用を推進するなど、事業者の円滑な線路敷設を可能とする環境整備に省庁横断的に取り組む必要がある。

        [いつまでに何を実施するか]
        1. 【2001年度】公有地の有効利用促進
          公有地の利用促進に向け、次の措置を講ずべきである。別添資料参照
          1. 道路占用規制、河川占用規制、ならびに公園緑地等における工作物設置規制の緩和
          2. 情報BOX、共同溝等の一層の整備
          3. 公共空間に埋設済み設備に関する共通データベースの整備
          4. 道路工事等に係わる法律、申請手続等に関するマニュアルの整備
        2. 【2001年度】無線LANの普及・発展のための規制緩和等
          無線LANの普及・発展は、集合住宅など、新規配線が困難な建物等において、高速ネットワークを整備する上で重要である。現在、無線LANの出力電力量は、10mWまでしか許可されておらず、米国の1000mWに比べ大きな差がある。混信防止技術の向上等を踏まえ、早急に出力電力量を拡大すべきである。 また、無線LANの高速化に向けて、局免許不要で使用可能な新たな帯域を割当てる必要がある。仮に、5GHz帯が割当てられれば、24Mbpsの速度が期待できる。
        3. 【2001年度】電力電灯線通信の使用周波数帯の拡大
          高速電力電灯線通信は、新規宅内配線が不要な上、数十Mbpsのスピードが可能であることから、高速のホーム・ネットワークやビル・オープン・ネットワーク、アクセス回線などとして大きな期待が寄せられている。しかし、電波法上の規制によって、電力電灯線通信に利用できる周波数は米国に比べて極めて制限されている。IPv6の導入促進の観点からも、早急に米国並の拡大を実現すべきである。
          表 1 電力電灯線通信に使用可能な領域
          米国10Khz - 450Khz および 1.7Mhz - 30Mhz
          EU10Khz - 150Khz
          (2Mhz - 30Mhzを使用可能とすべく検討中)
          日本10Khz - 450Khzのみ

      3. 周波数利用実態の調査・公表

        [趣旨]
        無線周波数帯については、先端情報ネットワーク環境の発展に資するよう、自由で公正な競争環境の下、効率的な利用がなされなければならない。この観点から、まず、現在公開されている無線局種別、概略用途等からさらに踏み込んで、個々の電波利用の現状を調査し、国民の前に実態を明らかにする必要がある。

        [いつまでに何を実施するか]
        【2001年度早期】無線周波数利用実態に関する調査の実施と公表

      4. ITS(高度道路交通システム)の推進

        [趣旨]
        ITSは、国民にIT革命の恩恵を実感させるものである。省庁横断的な取り組み強化と民間活力の一層の発揮によって、世界最先端のITSを国民に提供すべきである。

        [いつまでに何を実施するか]
        1. 【2001年度早期】省庁横断的なITS推進体制の強化
          ITS推進に向けて、政府は関係省庁連絡会議を設置しているものの、個々のプロジェクトについては、経済産業省、総務省、国土交通省道路局、国土交通省自動車交通局、警察庁の省庁毎、局毎に実施されていることが多く、相互の連携が不十分である。
          従来の縦割りの取り組みを前提にするのではなく、国民・利用者の視点からITS推進体制を再構築すべきである。具体的には (1)歩行者関連、(2)道路交通環境対策(通常時の交通)、(3)救急・緊急事態対応、(4)道路交通情報・交通需要管理(渋滞の緩和等)、(5)安全運転支援の分野毎に横串を刺して連携を強化するとともに、各省庁の責任を明確にした取り組みを実現すべきである。
          例えば、安全運転の支援に向けてドライバーに関連情報を提供する観点から、関係省庁の連携の強化が期待される(国土交通省の走行支援道路システム、先進安全自動車の研究開発、警察庁の安全運転支援システムの研究開発等)。
          なお、交通情報の収集に関しては、橋梁上にはセンサーの配備が行われず、VICS情報の収集が不可能となっているケースがあり、改善が求められる(警察庁は一般道に、国土交通省は自動車専用道路にセンサーを配備)。別添資料参照/PDF
        2. 【2001年度】道路交通情報の民間利用促進に向けた環境整備
          道路交通情報を用いた新規ビジネスの展開を促進することによって、国民に高付加価値情報の利用を可能にすべく、道路交通法を改正し、速やかに施行すべきである。
        3. 【2001年度】ITSインフラ整備への民間活力利用の枠組み構築
          街灯、信号柱等の公的設備上に、民間企業によるセンサー等の設置を認めるなど、民間活力を利用してITSインフラ整備を進める枠組みを整備すべきである。

    2. 電子商取引ルールおよび新たな環境整備
    3. 電子商取引の発展に向けたルール・環境整備については、今国会に電子契約ならびに個人情報保護等に関する法案が提出されることとなっている。電子商取引に対する消費者の信頼を高め、発展の基盤を強固なものとするためには、まず、これらの法案を速やかに成立させ、施行することが必要である。同時に、以下の諸課題について、早急に取り組むべきである。

      1. 日本版ノーアクションレター制度の実施

        〔趣旨〕
        法令等の解釈を明確化する日本版ノーアクションレター制度を実施し、適法性の確認等を通じて新規事業の創出を促進・円滑化すべきである。また、ITを活用して国民への説明責任を全うする観点から、官公庁の回答はインターネットに公表することとすべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        【2001年度早期】
        以下を確保したノーアクションレター制度を決定し、導入すべきである。
        1. 全分野の法令を対象すること
        2. 弁護士等を通じるのではなく、企業が直接、電子的手段を用いて簡便に照会できること
        3. 省庁毎の照会窓口に加え、法令の所管省庁が不明な場合等への対応として、省庁統一の窓口が設けられること
        4. 官公庁に迅速な回答を義務付けること
        5. 省庁間、部局間で組織横断的に統一された法令解釈の回答が得られること
        6. 照会者が回答を得た後、一定期間後に官公庁の回答がインターネットで公表されるとともに、類似案件毎に容易に検索な可能なこと

      2. 電子商取引を阻害する規制の見直し

        〔趣旨〕
        民間同士の書面交付義務に関しては、2000年秋の臨時国会において改正法が成立したが、電子商取引の発展に向けては、対面行為、事務所の必置等を義務付ける規制についても見直す必要がある。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        【2001年度】
        2000年夏に実施した「電子商取引促進のための規制改革等諸制度の総点検」結果等を踏まえ、各省庁毎に、対面行為ならびに事務所の必置等を義務付ける規制の改革を実施すべきである。

      3. コンテンツ流通の促進

        〔趣旨〕
        国産映像ソフトの場合、その権利処理は、手続が煩雑で時間がかかることから2次利用は極めて限定されており、年間、1兆円ものソフトが死蔵された状況にあるとの試算もある。また、ネットワークを通じて音楽等のデジタル・コンテンツがダウンロードされた後、消費者による再配信等が行われた場合、著作権者が保有する公衆送信権が侵害される恐れもある。
        超高速ネットワーク時代を実現するため、コンテンツが円滑・適正な流通を促進する基盤整備が必要である。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】国産映像ソフト等の迅速・簡易な権利処理の仕組みの検討・導入
        2. 【2001年度】公衆送信権の適正な保護に向けた仕組みの検討

    4. 電子政府の実現
      1. 電子政府化の投資額と国民への「配当」の明示

        〔趣旨〕
        中期的展望に基づいたシステムの開発・導入を確保するとともに、より効果的な電子政府化の「投資」を実現するためには、主要プロジェクトについて、(1)複数年度にわたる運用費・開発費別の投資の見込み額と内訳、ならびに (2)その効用を国民・企業に明らかにする必要がある。行政のスリム化・効率化や国民・企業の利便性向上・負担軽減といった電子政府の「配当」は、将来的にはシステム化のコストを上回る価値をもたねばならない。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        【2001年度早期】概算要求・予算編成における投資額と「配当」の明示
        2002年度概算要求・予算編成に合わせて、電子政府化の投資額と国民への「配当」を明らかにすべきである。また、2003年度以降の概算要求・予算編成においても、同様の取り組みを行うべきである。

      2. 電子政府の前提として行政の業務改革の実施

        〔趣旨〕
        電子政府が単なるシステム導入ではなく、国民・企業に大きな「配当」をもたらすには、行政の業務改革の断行が不可欠である。省庁や国・地方等の壁を超えて、情報の共有と活用を図る「一つ」の電子政府を実現する観点から、旧来の制度・慣行よりも、ITを活かす業務プロセスの確立を優先しなければならない。
        業務改革の一環として、電子政府化の投資コストの削減と技術革新の成果の速やかな活用を図る観点から、民間人材の起用や、PFIを含むアウトソーシングを推進すべきである。単なる業務委託ではなく、守秘義務、セキュリティの確保等を前提に、民間の能力(専門的知識、人材、システム、設備等)を積極的に活用し、官民の戦略的パートナーシップを推進していく必要がある。地方公共団体においても、任期付任用制度の導入等による民間人材の積極的活用を図ることが求められる。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度早期】インターネットを活用した効率的な行政手続ならびに行政運営の実現に向け、以下の観点から既存業務の検証を行い、その結果を公表すべき。
          1. 手続やそのために必要な書類の削減・簡素化
          2. 各種申請項目および記載内容の標準化
          3. 書面の提出・保存を義務付ける法令の見直し
          4. 現品の提出等を求める法令の見直し
          5. ネットワークを利用して行政全体の効率を上げる観点からの国・地方の各機関の権限・役割の見直し
        2. 【2001年度】電子的行政手続・行政運営を包括的に認める法令の制定
          「e-Japan戦略」に示された「電子情報を紙情報と同等に扱う行政」の実現に向けた法的基盤を早急に確立する観点から、官民ならびに官官における電子的な行政手続・行政運営を省庁横断的且つ包括的に認める法令を制定すべきである。その際、オンライン化できない手続等については、個々にその旨を法令に明記することとすべきである。
        3. 【2002年度】適正な人員配置や組織編成の実現
          電子政府化の取り組みは、行政の簡素化・効率化を通じて、行政需要の高い分野に厚く人材を配置すること等を可能にする。国民・企業への「配当」を高めるため、各省庁は、電子政府化の進捗状況に照らし、2003年概算要求・予算編成(2002年夏以降)において、人員配置ならびに組織編成の適正化計画を示すこととすべきである。
          同様に、地方公共団体においても、職階制や級別定数等の見直しなど地方公務員制度の改革に取り組み、柔軟な組織・人事運営を行っていく必要がある。

      3. 実質的に全ての行政手続のインターネット化

        〔趣旨〕
        国は、「e-Japan戦略」に示された通り、2003年度までに実質的に全ての手続をインターネット化すべきである。この目標の実現は、あらゆる国民と中小・零細企業を含めた全ての企業に、IT活用の強い動機を与え、わが国の経済活力の拡大に大きく貢献する。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度早期】現品の提出等を求める法令等、手続のインターネット化を阻む規制・制度の見直し
        2. 【2001年度】行政手続電子化アクションプラン(2000年9月策定)の見直し・実施
          上記アクションプランでは、殆どの手続(85.2%、8982件)の電子化は2003年度にならないと実現しない。2002年度中に、少なくとも過半数の手続がインターネット化されるよう、同アクションプランを改定し、実施すべき。
        3. 【2001年度】税務関連書類の電子保存制度の改善
          一部の国税関係の帳簿書類については、その電子保存が認められているが、現行制度の下では、電子保存の対象は限られ、IT化のメリットが十分に発揮されていない。例えば、損害保険業界の場合、申込書等の原始証憑の電子保存が認められていないことから、税務関連書類の保管に関わるコストが年間50億円かかっているとの試算もある。
          米国では、スキャナー等で読み込んだイメージ・データによる保存が認められていること等を踏まえ、請求書、領収書、申込書などをスキャナー等で読み込んだイメージ・データでの保存を可能とすべきである。また、電子帳簿保存法適用にあたっての承認基準の明確化・申請手続きの簡素化(電子認証を利用したインターネット経由での申請を含む)、システム関連の保存義務書類の削減等を図る必要がある。

      4. 世界最高水準のワンストップ・サービスの実現

        〔趣旨〕
        「世界最高水準」の電子政府は「世界最高水準」のワンストップ・サービスを提供するものでなければならない。かかるワンストップ・サービスの実現は、縦割りの弊害を除去した「国民本位」の行政の象徴である。
        これまでの政府の取り組みによって、行政手続案内等の検索システムなどは早期に実現が見込まれるものの、例えば輸出入・港湾関連手続の場合には、依然として専用回線(NACCS)の利用を前提としている上、書面での提出が求められてきた関連証明等をインターネット経由等で提出を可能にするとの視点も不十分など、行政の業務改革の点で、より一層の進展が図られねばならなない。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        【2001年度】
        少なくとも以下の項目に関して、国・地方の連携による業務改革を通じ、インターネット経由の世界最高水準のワントップ・サービスを2002年度中に提供すべく、明確な実行計画を策定すべきである。
        1. 輸出入・港湾関連手続(含:通関手続のワンストップ化)
          輸出入及び港湾諸手続のワンストップ化については、順次取り組みが進められているが、より踏み込んだ計画を策定・実施することによって、シンガポール等、同手続電子化の先進国以上のワンストップ化を実現すべきである。このためには、申請者の維持費の低下や自動入力の促進などに向けて、専用回線ではなくインターネット経由で手続を完了することを可能にする必要がある。また、現行の提出書類を徹底的に見直し、他省庁と重複するもの、または単なる参考資料として提出を求められているものについては、一本化あるいは廃止すべきである。さらに、申請手続フォーマットの集約化を実現すべきである。
          通関手続については、現物主義(保税運送申告手続において指定された場所に対象貨物が置いてあることを前提とするため、本船入港後に申告を行わなければならない)の一掃、複数税関による情報共有の実現、証憑としての電子文書等の提出・保管の容認等、現状の慣行を含めた保税業務全般を抜本的に見直すべきである。
        2. 道路占用・使用手続
          国道・県道・市町村道は、占用許可の申請窓口が異なり、使用にあたっては、警察署への申請も必要である。実際の道路工事が、国道・県道・市町村道に跨ることも多いことから、かかる煩雑な手続は、光ファイバの敷設等をよりコストの高いものとしている。
          国・地方公共団体間における申請書様式の標準化、関連資料提出のインターネット提出等を実現し、ワンストップ化を図るべきである。
        3. 建築確認申請関連手続
          現在、都市計画法上の開発許可手続などの建築確認申請および関連手続は、地方公共団体との事前協議を含めて多様な窓口での手続が必要になっている。また、窓口毎に書類や図面を必要部数提出するように求められるため、同一書類であっても窓口ごとに提出しなければならない。
          地方公共団体により異なる申請書様式の標準化等を伴うワンストップ化は、企業の事務処理負担の軽減に大きく貢献する。
        4. 自動車生産・販売・流通手続
          自動車の生産・販売・流通に伴って必要となる諸行政手続は、それぞれ所管官庁が異なり、手続申請窓口が陸運支局、警察署、都道府県税事務所、その他に分かれている。また、申請内容は多くの項目で重複し、申請に必要とされる添付書類も多く、その発行機関が国・地方に跨っている。
          自動車の生産・販売・流通に伴って必要となる諸行政手続(検査・登録〜国、車庫証明・納税〜地方、自賠責保険確認〜国)等については、生産面、販売・流通面において、それぞれインターネット経由のワンストップ化を実現すべきである。この際、都道府県により異なる書式等を、一般車両・軽自動車ともに全国統一書式とする必要がある。
        5. 住民記録関連手続
          行政ICカードの利用等により、インターネット経由での転入・転出手続等を可能にすべきである。

      5. 歳入・歳出手続の電子化

        〔趣旨〕
        国の関連事務の効率化、国民の利便性向上、ならびに民間金融機関の生産性向上に向けて、歳入・歳出事務の電子化を図るべきである。地方公金事務については、国民・企業の利便性向上とコストの抑制の観点から、全地方公共団体の足並みを揃えた電子化を推進する必要がある。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】全国一体的な取り組みに向けた諸課題の解消
          全地方公共団体が足並みを揃えて地方公金事務の電子化を推進できるよう、地方税納付書の様式・申請項目の標準化などの課題を早急に洗い出し、解消すべきである。
        2. 【2001年度】民間ネットワークの効率的活用策の明示
          歳入・歳出事務の電子化コスト抑制の観点から、官民の公平なコスト負担を前提に、民間の公共料金収納インフラ等の有効活用を図る必要がある。これに向けた具体的な方針等を示すべきである。また、歳入事務の電子化については、民間における料金請求の場合と同様、徴収官庁(地方公共団体を含む)と民間金融機関の契約の必要性・あり方を検討すべきである。
        3. 【2002年度早期】書面の使用を義務付ける会計法令の見直し
          電子化の効果を十分なものとするために、既存の手続の共通化、ペーパーレス化を図ることが必要である。このため、早急に検討を開始すべきである。

      6. 国・地方を通ずる「一つ」の電子政府のシステム基盤構築

        〔趣旨〕
        電子政府、電子自治体が国民・企業に対して、大きな「配当」をもたらすには、国および全地方公共団体が共通プラットフォーラムの上にシステムを構築するなど、一体的な取り組みを行うことが不可欠である。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】地方公共団体のシステムの標準仕様の提示
        2. 【2001年度より順次実現】地方公共団体間のシステム共有の推進

      7. 地方公共団体の先進的取り組みの支援

        〔趣旨〕
        国・地方の一体的な取り組みを図る一方で、モデル電子自治体の選定と支援を通じて、住民生活や企業活動への「配当」拡大に向けた地方の自発的・先進的な取り組みを促進すべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度早期】モデル電子自治体の選定基準、支援内容の決定と実施
        2. 【2002年度早期】モデル電子自治体の効用についての評価
          業務の見直しの状況、住民活動・企業活動への効果等を検証するとともに、他の地方公共団体への展開を奨励する。

      8. 公共事業および資材調達に関する電子入札・開札の実施

        〔趣旨〕
        公共事業や資材調達の透明性向上やコストダウンなどを実現するため、国・地方公共団体の連携を強化し、インターネットなどによる電子調達方式を導入すべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】中央省庁共通の電子調達サイトの設置(含:地方公共団体の共通電子調達サイトの運営支援)
        2. 【2002年度】全公共事業・資材調達に関する電子入札・改札の実現

      9. 調達方式の見直し

        〔趣旨〕
        真に競争促進的な環境の中で、ソフトウェアの特質を踏まえた調達方式を機能させることによって、政府にとってベストバリューを提供するシステムを選定するとともに、中小企業を含めたソフトウェア関連産業の強化とすそ野の拡大を図るべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】総合評価落札方式の見直し
          技術力、サポート力、価格に関するバランスの取れた競争を促進することによって、ライフサイクルでベストバリューを提供するシステムを調達する方式に転換すべきである。このため、複数年度にまたがる案件については、一括で発注することを原則とした上で、(1)性能・技術、(2)サポート体制、(3)価格に関する得点を合計し、最も高い得点を得たシステムを調達することとする必要がある。
        2. 【2001年度】コンサルテーション業務の予算化
          システム調達に係る競争の透明性を高める観点から、一定額以上の案件については、システムの企画・設計等に関するコンサルテーション業務を予算化すべきである。
        3. 【2001年度】日本版CMM(能力成熟度モデル)の導入
          システム開発能力に関する国際的整合性のある評価指標を導入し、調達先選定の客観的基準として機能させるべきである。

      10. 行政ICカードの導入

        〔趣旨〕
        行政ICカードに関しては、これを利用する国民の利便性と社会的なコスト・ベネフィットを最優先し、導入を図るべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】行政ICカードの集約化
          現在行政ICカードは、各省庁縦割りで検討が進められている。国民の利便性ならびにコスト抑制の観点から、原則一枚の行政ICカードに集約し、行政組織の枠を越えて利用可能なものとすべきである。
          表 2 現在検討されている行政ICカード
          省庁名行政ICカードの使途導入枚数導入目標年次
          厚生労働省介護保険カード 600万枚2001年度からの実証試験後に導入
          社会保険庁保険証(政府管掌分) 4〜5千万枚2001〜2003年度
          地方公共団体住民基本台帳カード 3〜4千万枚
          (予測)
          2003年度までに
          各省庁・地公体公務員身分証明証 500万枚電子政府実現スケジュールにあわせ順次

        2. 【2001年度】基本仕様の決定
          ネットワークを通じた相互運用性を確保する観点から、行政ICカードの基本的仕様を決定すべきである。また、国民が容易にオンラインの行政サービスを利用することのできるよう、行政ICカードには、電子印鑑の機能を持たせ、簡便な本人認証の手段として機能させるべきである。
        3. 【2001年度】行政ICカード導入に向けた法制面での基盤構築
          行政ICカードの円滑な導入に向けて、法令・条例面での課題を洗い出し、必要な手当てを講ずるべきである。

      11. 公共分野の情報化の推進

        〔趣旨〕
        公共分野、即ち医療介護、防災分野等についても、国民生活の向上をもたらす観点から、積極的にITの活用を図る必要がある。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】医療・介護分野におけるIT活用の推進
          国民の利便性向上とサービスの効率化・高度化の観点から、国・地方の連携によって、医療・介護分野におけるITの活用につき、包括的な計画を策定し着手すべきである。別添資料参照
        2. 【2001年度】危機管理能力強化に向けた情報共有・活用体制の整備
          災害等に対するより迅速・適切な対応を実現すべく、国・地方間ならびに国・地方それぞれの組織間での連携を強化する必要がある。
          現状では、危機管理情報に関しては、100種類以上とも言われる多様な様式が存在する上、県レベルでは200箇所以上に報告することが必要といわれている。これらは、迅速な情報伝達・共有による適切な初動対応を困難にするものである。
          情報の瞬時共有と活用を可能にするITの特性を十分に活かすべく、IT投資とともに、実際の運用面を念頭において、共有する情報項目の決定、情報様式の標準化等を実現すべきである。

      12. 行政情報のインターネット公開、利用促進

        〔趣旨〕
        昨年12月の政府系サイト利用状況の各国比較調査によると、日本の政府系サイトの利用率は、インターネット利用者の14%に止まっており、1位オーストラリア(25.6%)、2位カナダ(24.5%)、3位米国(22.9%)に離されている。((出典)Media Metrix, Inc.)
        政府への国民の信頼を高めるとともに、わが国経済の活力を高める観点から、インターネットを通じた行政情報の公開と利用促進、ならびに国民との情報交流強化によって、世界でも最も利用される政府系サイトとなるべきである。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】行政情報のより迅速な公開
          各種審議会・協議会等の詳細議事録ならびに資料等について、より迅速な公開に努めるべきである。また、行政情報公開法の開示請求手続をインターネット経由でも可能にするとともに、インターネット上での法律から通達、判例までの検索サービスの提供を実現すべきである。
        2. 【2001年度】各種政策・方針等に関する国民との情報交流強化
          各種政策・方針等に関する情報をインターネット上に掲載しそれらに対する国民の意見を受け付けることとする。同時に、寄せられた意見がどのように取扱われたかを公表すべきである。
        3. 【2001年度】GIS行政情報の公開と民間利用の促進
          デジタル地図をベースにした高付加価値情報を国民に利用可能とする観点から、地理データならびにメタデータ(空間データの種類、入手方法等を示す詳細情報)の電子化を促進し、個人情報保護に十分配慮した上で原則最大限公開すべきである。
          電子化にあたっては、データの大多数は地方公共団体に有ることから、国と地方公共団体が一体となった推進とともに、民間が整備保有しているデータの活用、民間へのアウトソーシングなども考慮すべきである。
          また、インターネットでダウンロードした地理情報に対して、民間企業による新たなデータの追加や分析等を可能にする観点から、著作権法、情報公開法、地方公共団体の情報公開条例等、法制度面からの具体的な検証を進め、国、地方公共団体に共通する地理情報の民間利用ガイドライン等を定めるべきである。

      13. 電子的行政手続・サービス利用のインセンティブの導入等

        〔趣旨〕
        オンラインの行政手続・サービス利用に関するインセンティブ等を早期に提示することによって、全ての国民、中小・零細企業を含むあらゆる企業の電子政府への期待値を高め、積極的利用を確保すべきである。これによって、役所の関連事務の電子化を加速することが可能になる。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度早期】具体的インセンティブの決定・導入
          インターネットで行った行政手続に関しては、英国等の例にならい、例えば納税額を一律2000円減、手数料1割減等のインセンティブを決定すべきである。
        2. 【2001年度早期】手数料後納制度等の導入
          インターネット化された手続の利用を促進する観点から、手数料の一括後納制度の導入等につき、検討を行い、これを導入すべきである。

    5. 人材育成の強化
      1. 大学改革の積極的推進等

        〔趣旨〕
        ITのフロンティアを拓く技術者・研究者の育成強化の観点から、IT関連教育の充実などに、大学が自律的・機動的に取り組める環境を整備する。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2001年度】自律的・機動的な大学の運営の実現
          学部・学科の設置・改廃の弾力化に向け、早急に検討し結論を得るべきである。
        2. 【2001年度】大学におけるITを活用した教育の推進
          教育法の多様化の観点から、ITを活用した大学教育の推進に向けた計画を策定すべきである。

      2. ITを指導する人材の登録・派遣制度の導入等

        〔趣旨〕
        国民全体の情報リテラシーを向上させるには、様々なITの経験・技能を有する人材を社会全体で活用する仕組みが必要である。あわせて、中堅・中小企業等のIT活用を支援する人材育成を推進する必要がある。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        【2001年度】
        インターネットを活用し、IT指導に関心のある学生、社会人等と、各地域のニーズをきめ細かくマッチングさせる仕組みにつき検討し、全国的導入に向けた取り組みを行うべきである。

      3. 小中高等学校におけるインターネットの活用推進

        〔趣旨〕
        早急にITを利用した教育環境を実現するとともに、授業や家庭・地域・他校とのコミュニケーションにネットワークを積極的に活用することが必要である。

        〔いつまでに何を実施するか〕
        1. 【2003年度】ミレニアム・プロジェクト「教育の情報化」の達成前倒し
          2005年度までに達成するとしている (1)全公立小中高等学校、盲・ろう・養護学校のインターネット接続、(2)各学級の授業でコンピュータを活用できる環境の整備を、2003年度に前倒しすべきである。
        2. 【2003年度】インターネット等を使った授業の本格実施
          インターネットや教育関連ソフトの活用を図るとともに、情報倫理教育を充実させるべきである。

  4. 改革実現に向けた推進体制
    1. IT戦略本部における検討・推進体制
      1. 総理直属のIT戦略本部は、IT革命の推進に向けて官民の総力を結集する場である。IT戦略本部は、総合的・包括的観点から、個別分野の改革の方向性を明確に打ち出し、「e-Japan戦略」に整合性のある形で施策が立案され、各省庁の有機的連携の下、実行されることを確保しなければならない。

      2. 評価・分析に当たっては、以下に留意すべき。

        1. 各省庁ならびに内閣府による評価・分析の最重要課題は、国民に分かりやすい形で進捗状況を示すとともに、問題点の所在を明らかにすることとすべきである。
        2. 「重点計画」に盛り込まれた施策に関し、欧米、アジア諸国等の関連施策の内容ならびにその効果につき、比較検証を行うことが必要である。
        3. かかる政府側の評価に対し、各界各層からの質問・意見等を受け付け、インターネット上で公開するとともに、それらに対する回答・コメントを付すことが求められる。
        4. ミレニアム・プロジェクトで設けられた民間人による評価・助言会議は、IT戦略本部による評価・分析のための専門組織と位置付けるべきである。

    2. 政治のリーダーシップ
      1. IT革命は、新たな経済社会を創造するものである。IT革命を加速するには、前例主義から脱却し、従来の発想・慣行にとらわれないIT政策の企画・立案が必要である。特に、IT政策の効果的実施のためには、省庁や国・地方の壁を越えることが不可欠である。

      2. 新たな発想で新たな政策を「重点計画」に盛り込み、国民や企業の視点から省庁横串で実現を図るには、政治のリーダーシップが不可欠である。総理、IT担当大臣は、司令塔としての役割を果たすとともに、国民にその明確な成果を示すことが求められる。

以  上

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