[経団連] [意見書]

WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場

2001年7月17日
(社)経済団体連合会

「WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場」の概要
(PDFファイル)


【目次】
I.はじめに:新ラウンド交渉の立ち上げに向けて

II.新ラウンド交渉に対するわが国産業界の基本姿勢
 1.交渉方式:基本はシングル・アンダーテイキング
 2.交渉期限:3年を目処
 3.途上国への十分な配慮

III.わが国産業界の優先交渉7項目
 1.ビルトインアジェンダ(サービス貿易・農業貿易)
 2.鉱工業品の関税引き下げ
 3.投資
 4.アンチダンピング(AD)
 5.電子商取引
 6.知的財産権
 7.貿易円滑化

IV.その他の重要項目
 1.貿易と環境
 2.貿易と競争政策
 3.政府調達
 4.貿易と労働

V.おわりに

<参考資料・用語集>

I.はじめに:新ラウンド交渉の立ち上げに向けて

国際通商システムの中心たるWTO体制は、自由、多角及び無差別を原則とし、公平な通商ルールに基づく紛争処理機能を備えることにより、貿易・投資を通じた効率的な資源配分を促し、世界経済の福利向上に大きく貢献してきた。
現在、国境を越えた事業活動がさらに活発化しているなか、企業にとって、WTOにおける一層の自由化、ルールの強化・整備を通じて、国際的な事業環境を改善していくことの重要性は、ますます高まっている。また、今後も引き続き、WTO体制の維持・発展を図ることは、世界経済の発展にとっても不可欠である。
経団連では、本年6月、「戦略的な通商政策の策定と実施を求める〜「通商立国」日本のグランドデザイン〜」と題する提言において、わが国政府に対して、WTOを中心とする多角的な国際通商体制の推進を通商政策の基軸とすると同時に、地域的な通商協定にも積極的に取り組むこと、また、政治のリーダーシップにより通商政策と一体となった国内の制度改革及び構造改革を推進することを強く求めた。特に、WTOにおける、さらなる自由化及びルールの強化・整備は、わが国通商政策の最重要課題である。
そこで、わが国産業界は、欧米を始めとする諸外国の産業界とも連携を強化しつつ、本年11月に開催されるドーハ閣僚会議において、包括的なWTO新ラウンド交渉が立ち上がるよう求めていく。
特に、新ラウンド交渉の立ち上げに当たっては、全加盟国が等しく利益を享受することができるように、途上国のニーズに十分配慮する必要がある。また、先進国は、途上国によるウルグアイ・ラウンド合意実施の促進、今後の交渉に備えた人材育成の強化、関連法制度の整備等のキャパシティ・ビルディングを積極的に行なっていくべきである。
以上のような基本認識の下、わが国産業界は、ドーハ閣僚会議において、全加盟国が、以下の提言に沿った形で、交渉方式・期限及び交渉項目について合意することを強く期待する。
なお、新ラウンド交渉で議論される個別項目に対する経団連の要望については、今後の交渉の進展にあわせ、漸次、取りまとめて発信し、その実現に向けて積極的に内外の各方面に働き掛けていく所存である。

II.新ラウンド交渉に対するわが国産業界の基本姿勢

1.交渉方式:基本はシングル・アンダーテイキング

2.交渉期限:3年を目処

3.途上国への十分な配慮

III.わが国産業界の優先交渉7項目

1.ビルトインアジェンダ(サービス貿易・農業貿易)

2.鉱工業品の関税引き下げ

3.投資

4.アンチダンピング(AD)

5.電子商取引

6.知的財産権

7.貿易円滑化

IV.その他の重要項目

1.貿易と環境

2.貿易と競争政策

3.政府調達

4.貿易と労働

V.おわりに

わが国産業界は、先進国だけでなく、途上国(とりわけ後発開発途上国)、市場経済移行国等、WTOを構成する全ての加盟国がその成果を享受できるようなバランスの取れた新ラウンドの実現に向け、関係各国が協力していくことを強く希望する。また、わが国産業界としても、その実現に向けて鋭意、協力していく意思を表明するものである。

以 上

「WTO新ラウンド交渉立ち上げにあたっての基本的立場」用語集

#1. 特別で異なる待遇:
英語では、Special & Differential Treatment(通称S&D)と言う。交渉において、後発開発途上国を中心とする途上国等、経済発展の途上にある国々に対する配慮を行なうこと。

#2. キャパシティ・ビルディング:
後発開発途上国を中心とする途上国がWTO協定を遵守できるように支援を行なうこと。例えば、国内の法体制を整備するための支援、各分野の専門家の育成等がある。

#3. パフォーマンス要求:
外国企業の投資に対して、投資先国の政府が輸出要求や技術移転要求等の一定の水準を満たすよう要求すること。

#4. 最恵国待遇例外:
GATS(サービス貿易一般協定)では、第二条で最恵国待遇について規定しているが、「第二条の免除に関する付属書」に定められた要件を満たす限り、最恵国待遇の例外が認められる。但し、免除の期間は、原則として10年を超えてはならない(1995年の発効より)と定められている他、最恵国待遇例外は自由化交渉の対象となる旨定められている。

#5. 国内規制の透明性:
市場アクセス及び内国民待遇が確保されていても、国内規制の不透明性が事実上の貿易障壁になる場合がある。WTOサービス貿易理事会の下部機関である国内規制作業部会では、GATS第6条4項に基づき、資格要件、資格の審査に係る手続、技術上の基準及び免許要件に関連する措置に関して、透明性の規律を作成すべく議論を行っている。

#6. 平均譲許関税率(貿易加重平均):
譲許関税率の平均。譲許品目の関税額の総和÷譲許品目の輸入額の総和×100で計算。譲許品目の関税額は、譲許品目輸入額に譲許税率を掛け合わせたもの。

#7. 譲許率:
バインド率とも言う。WTO上、関税率を譲許している輸入品目の割合。譲許品目輸入額の総和÷全輸入額で計算。

#8. 輸出価格と正常価額:
当該産品が輸出国から他の国の商業に導入された産品の価格を「輸出価格」、基本的には輸出国における消費に向けられる同種の産品の通常の商取引における比較可能な価格が「正常価額」であり、「輸出価格」が「正常価額」よりも低い場合にダンピングが存在するとされる。

#9. マイナスのダンピング・マージン:
輸出価格が正常価額よりも高い価格で行なわれる取引のダンピング・マージンのこと。ダンピングの決定に際して、マイナスのダンピング・マージンは、ゼロとされる例があるが、最近のWTOのパネルにおいてゼロとすることの不当性が認められている。

#10. 損害の累積評価:
二以上の国からのある産品の輸入が同時に調査対象である場合、国内産業に対する損害を決定するに当たって、個々の国からの当該産品の輸入により損害を決定するのではなく、これらの国々からの輸入が総体として損害を与えていると見なすこと。

#11. デ・ミニマス:
ダンピングの価格差が僅少(輸出価格の2%未満)である場合、ダンピング調査を取りやめるべきとされており、この僅少差がデ・ミニマス。

#12. 「知ることができた事実」(ファクツ・アベイラブル):
ダンピング・マージンの計算などの際、輸出者が十分なデータを調査当局に提出しない場合、当局は「知ることができた事実」に基づき決定を行なうことができる。実際には、調査に非協力的な輸出者に対して懲罰的なマージンを課す手段となる可能性が高く、輸出者のデータ提出負担が増大している。

#13. 価格約束:
調査対象となった生産者・輸出者等がAD税の賦課を防ぐために自発的に行なう価格に関する約束。

#14. 審査基準(スタンダード・オブ・レビュー):
WTO紛争処理パネルが、AD協定を審査する場合の基準。AD当局による事実の認定及び事実の評価、AD協定の解釈に関してパネルの審査権限に一定の制限を設けている。

#15. 電子商取引に関するワーク・プログラム:
98年5月に開催されたWTOジュネーヴ閣僚会議において採択された「グローバルな電子商取引に関する宣言」に基づき、同年9月に一般理事会で具体的な作業計画(電子商取引に関するワーク・プログラム)が採択されている。

#16. 電子商取引への関税不賦課:
98年5月のジュネーヴ閣僚会議において、電子商取引(対象は電子的伝送)に関税を賦課しないとの合意がなされたものの、シアトル閣僚会議以降の取扱については、同閣僚会議にて検討が行われることとなっていた。シアトル閣僚会議が失敗に終わったため、関税不賦課の問題は棚上げになっている。

#17. 先願主義:
同一の発明について、出願がなされた時に、発明の先後ではなく、先に出願した者に特許権を付与するシステム。特許出願の順番が尊重され、先発明者の出現により事後的に特許権者の地位が侵されることはない。米国以外のほとんどの国が先願主義を用いているが、米国は先発明主義を用いている。

#18. 多国間環境協定:
通称、MEAs:Multilateral Environment Agreements)と呼ばれる。環境保護を目的とした多国間の取り決め。現在、約180の協定が存在する。主なものには、ワシントン条約(絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約)、バーゼル条約(有害廃棄物の国境を越える移動及びその処分の規制に関する条約)、ウィーン条約(オゾン層の保護に関する条約)等がある。
以 上

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