[経団連] [意見書]

次代の産業の基盤づくりに向けた研究開発の推進について

2002年5月21日
(社)経済団体連合会

わが国が、経済の活性化、雇用の確保を果たすためには、何よりも、わが国企業自らが、世界最高水準の新技術を開発し、その事業化を進めることが不可欠であるが、フロントランナーの時代においては、実用化のための研究開発を進める上でも、基礎的な研究が重要な役割を果たすようになってきていることから、政府において、基礎研究を強化し、産学官の連携を含む実用化を視野にいれた研究開発を推進することが、産業の国際競争力を強化し、豊かな経済社会を実現していく上で不可欠となっている。

こうした考えに立って、経団連では、2001年6月に、国における科学技術基盤の強化について「科学技術戦略の変革に向けて」をとりまとめるとともに、国際競争力の強化のために重要となる産学官の連携および知的財産について、それぞれ、「国際競争力強化に向けたわが国の産学官連携の推進」(2001年10月)、「知的財産を核にした産業競争力の強化に関する考え方について」(2002年1月)などをとりまとめてきた。

この間、政府においては、総合科学技術会議を中心に、重点分野別推進戦略の策定とそれに沿った予算配分、産学官の連携を中心とした科学技術システムの改革、知的財産戦略の検討など、科学技術基本計画の実行に向けて着実な取り組みを行っている。産業界としてこうした活動を高く評価するとともに、科学技術をベースにした国際競争力の強化の観点から、政府におけるさらなる充実、進展を望むものである。

本提言は、こうした観点から、次代の産業の基盤づくりに向けて、(1)実用化のための研究開発の強化、(2)実用化を視野に入れた産学官連携のさらなる強化、(3)公的サービス分野での新技術の開発や積極的導入の3点に焦点をあて、ライフサイエンス、情報通信、環境、ナノテクノロジー・材料の重点4分野における課題例を挙げながら、経団連の考えをとりまとめたものである。

なお、重点研究開発課題例は、産業技術委員会政策部会で行ったアンケート調査で指摘された事項の中で、次代の産業の基盤づくりにつながると思われるものを挙げている。本提言でとりあげなかった課題についても、次代の産業の基盤づくりの観点から、基礎研究も視野に入れつつ、産業技術委員会において引き続き検討し、必要に応じて提言を行っていく予定である。

1.実用化のための研究開発の強化

経済を持続的に発展させていく上では、基礎研究の成果を実用化につなげ、次代の日本の産業基盤を構築していくことが不可欠である。そのためには、日本に強みがあり、産業の競争力のレベルの維持、新市場の創出への寄与など経済へのインパクトが大きく、技術的ブレイクスルーを要する実用化のための研究開発に、官民が協力して取り組み、民間はその成果の事業化に取り組む必要がある。その際、試作の必要な高度なシステムなどシステム化技術については、要素技術と同様、高度な技術が求められることも少なくないことから、民間の投資を活発にしていくためには、政府としてシステム化技術の開発に支援を行っていくことも大変重要である。
産業界の視点から、官民が協力して取り組むべき、技術的ブレイクスルーが必要な実用化のための重点研究開発課題には、例えば以下のようなものがある。
なお、実用化のための研究開発は、基礎から応用まで一貫した取り組みが求められることや、開発分野が多岐にわたることも少なくない。研究開発プロジェクトの推進にあたっては、関係省庁が緊密に連携を図っていくことが非常に重要である。

<重点研究開発課題例>

  1. バイオ解析、バイオインフォマティクス
  2. 燃料電池
  3. 新機能ナノシステム(超微細加工−MEMS−技術をベースにした解析・製造装置)
  4. 準天頂衛星システム(通信・測位・放送サービス)
  5. モバイルネットワーク(モバイル基盤ソフトウェア)
  6. フォトニックネットワーク
  7. 大容量光記録
  8. 次世代半導体アプリケーションチップ
  9. 省エネ大型平面ディスプレイ

2.実用化を視野に入れた産学官連携のさらなる強化

産業の基盤づくりにあたっては、将来の実用化を視野に入れつつ産学官連携を進め、次代の産業の芽を育てていくことも大変重要である。
このように、実用化を視野に入れた産学官連携プロジェクトのうち、わが国にポテンシャルがあり、産業界として将来の可能性が大きいと考えられる重点研究開発課題には、例えば、以下のようなものがある。

<重点研究開発課題例>

  1. 高度先端医療(手術支援ロボットシステムなど)
  2. 次世代ガスタービン
  3. 極端紫外線(EUV)露光製造装置
  4. ポストシリコン
  5. 量子コンピュータ
  6. ナノ・バイオシミュレーションとハイエンドコンピューティング(大容量・高速処理コンピューティング)
  7. 高信頼システム基盤技術
  8. 情報ストレージ・システム
  9. 次世代モバイルインターネット端末

3.公的サービス分野での新技術の開発や積極的導入

公的機関が、その提供する公的サービス分野において積極的に新技術を開発・導入し、民間の技術開発を促進していくことは、経済の活性化にも有効である。公的サービス分野での重点研究開発課題の例としては、例えば、以下のものがある。
なお、これまで述べたような重点課題において新しい技術開発の成果が得られた場合には、政府自らも積極的にその活用に努めることが期待される。

<重点研究開発課題例>

  1. 社会的インフラ整備のための新材料、利用技術開発
  2. 建設廃棄物の有効資源化技術
  3. 環境負荷測定システム
  4. 医療・健康情報ネットワーク基盤

4.研究開発から産業化に向けた一貫した政策の展開

今回は、次代の産業の基盤づくりの観点から、重点研究開発の課題例を中心に検討を行ったが、研究開発の仕組みをどうするかも大変重要である。例えば、一定の期間、研究開発プロジェクトに携わるプロジェクトリーダーを置いたり、研究開発予算について単年度主義の弊害を打破するなど、研究開発システムをよりフレキシブルなものに変革していくことも大切である。官民の役割分担についても、個々のプロジェクトの内容に応じて対応を考えていく必要がある。
また、研究開発や産業の動向を踏まえて、事前評価とともに十分な中間評価や事後評価を行ない、その結果を政策に反映させることも大切である。
さらには、研究開発の成果を産業化、実用化していくために、知的財産戦略や国際標準化戦略、制度改革、研究開発促進税制の抜本的拡充やベンチャー支援などの環境整備、さらには臨床研究や科学的安全性研究など基盤研究の推進も、あわせて行うことが極めて重要である。


以 上

別紙資料
重点研究開発課題について


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