景気の低迷と不良債権処理により、雇用失業情勢は一層深刻化する懸念が強まっており、セーフティネットの整備が急務となっている。そこで、緊急雇用対策、雇用の維持・創出、エンプロイヤビリティの向上の視点から、昨年8月の日経連「緊急雇用対策プログラム」(内容及びその政府施策への反映、施策実績については付属資料3 (PDF) を参照)で提言した内容について改定を加え、新たに下記の雇用対策プログラムを提案する。
なお、雇用対策については、政策目標と実績にもとづいた政策評価を常に行っていく必要がある。
※ 今回提案の3年間で1兆円とする財源のうち、全体の財源実増分としては6500億円となる。
- Iの1「緊急地域雇用創出特別交付金」については平成13年度第一次補正予算にてすでに3500億円の予算措置が行われており、実増分3500億円
- Iの2 国に関連する施策(求人開拓員の増員・教育訓練基金の創設)3000億円
今後不良債権処理等構造改革への取組みが進展すると、後述の雇用創出(II.雇用の維持・創出)が実現されるまでの間、さらに失業者が大幅に増大すると懸念される。そのため、既存の雇用対策に加えて、3年程度の取組みとして、下記1、2の時限的緊急雇用対策(予算規模1兆円:一般財源)が必要である。
平成11〜13年度の3年間、一般財源2000億円の規模で実施されている「緊急雇用創出特別奨励金制度」は、最長でも6か月の短期雇用とはいえ、公労使が独自に工夫して、民間委託できるものは民間にまかせ約30万人の雇用を生み出す成果をあげた。平成13年度より「緊急地域雇用創出特別交付金」を新たに創設(平成13年度予算で3500億円の予算措置)し、地域の実情に応じた雇用創出支援を行い、13、14年においても実績をあげている。
この制度を一層充実し、平成14年から16年の3年間に7000億円を投入(3500億円の実増)し、引き続き地域で有効な施策を工夫し緊急雇用対策に取組み、100万人の雇用創出を目指す。(具体的な事例を、付属資料1に提示)
(予算根拠)
11〜13年 財源実績:2000億円 | × | 目標人員100万人(14〜16年) | = | 7000億円 |
────────────── | ||||
11〜13年 雇用者数:30万人 |
また、その交付要件(人件費比率8割以上、雇用期間6ヶ月未満など)についても地域の実情、事業の特性等を勘案し、運用の改善を図りつつ雇用実績の増大を期すべきである。
(1) マッチング強化等のための求人開拓員の増員
(6か月の短期雇用で約36,000名、一般財源約430億円)
雇用情勢が厳しいものの、相当数の求人があることに着目し、各職業安定所に平均10名程度の求人開拓員を増員し、求人側のニーズを詳細に把握することにより、窓口でのマッチング機能を一段と高める。
(2) 「教育訓練基金(2,500億円/3年:一般財源)」の創設
求人開拓員によって把握されたデータをもとに、職業訓練カリキュラムを求人企業のニーズに応じて再編成し、「直接雇用に結びつく教育訓練」を実現する。求職者給付・教育訓練給付等の受給資格のない求職者であっても、意欲的に職業訓練に取り組もうとする者については受講できるよう支援する。
政府は既にサービス産業を対象に「530万人の雇用創出」を打ち出しており、特に日本経団連としてはサービス関連5分野(住宅関連、情報・通信、環境関連、医療・福祉等健康、労働者派遣・アウトソーシング)を中心に雇用創出を図るべきことを提唱する。メニューは既に出揃っており、今後は雇用形態多様化の推進、規制改革の早期かつ果敢な実行を推進力として、民間主導により精力的に実行していくことが必要となる。
(1) 住宅関連分野
(2) 情報・通信分野
(3) 環境関連分野
(4) 医療・福祉等健康分野
(5) 労働者派遣/アウトソーシング・サービス分野
(6) 構造改革特区の活用
特区法案策定を契機にさらに一段と規制改革を推進し、民間を活用した雇用創出が必要である。
企業のコスト削減、働く人の就労ニーズの多様化を踏まえ雇用形態多様化を推進する。
(1) 緊急対応型ワークシェアリング
緊急対応型ワークシェアリング導入により雇用創出を実現した企業への財政的支援策が実施されたが、より一層制度の周知を図るべきである。
(2) 多様就業型ワークシェアリング
雇用形態多様化を推進する施策の一環であり、個別企業労使の積極的工夫が必要である。
(1)労働者派遣・職業紹介制度の規制撤廃
(2)有期労働契約期間を5年へ延長
現行の有期労働契約期間の原則1年を5年に延長する(選択肢の拡大)。
(3)裁量労働制の要件緩和
情報通信機器を活用する在宅ワークの就業者は約17万人おり、育児、介護をしながら就労している実態にある。教育訓練の付与および情報通信機器の貸与により、遠隔地における在宅ワーク就業者の増加を図る。また、SOHOにより事業を開始した者に対しての開業資金の助成。さらに新たに失業者を雇入れた場合の雇い入れ助成。あわせてNPOの活性化を通じて、その雇用を促進する。
トライアル雇用、インターンシップ、労働者派遣制度における紹介予定派遣制度は、それぞれ常用雇用への移行状況において実績をあげており、今後もその積極的な展開を図っていくことが必要である。
日本経団連では、エンプロイヤビリテイ(企業内外において雇用され得る能力)の向上を提唱しているが、既に具体的取組みが始まっている。さらに、失業者の職業訓練については、よりマッチング機能を高め、教育訓練が直接雇用に結びつくよう、求人側のニーズを反映したカリキュラムに再編することが求められており、これを、早急に実施していくことが必要である。
「教育訓練基金」(前記、I.2 (2))で指摘した考えに基づき、既存の職業訓練を直接雇用に結びつくよう、関係者が連携をとり、求人側のニーズを反映したカリキュラムに再編する。また、同基金の活用により、求人側のニーズを把握したデータを活用して職業訓練カリキュラムを作成する。
社会人大学、大学院、専門学校との連携により、MBA、IT関連技術、外国語などの学位の取得、さらに弁護士、公認会計士などの各種資格取得を支援。奨学金の提供による支援も行なう。
真に給付を必要とする失業者に対する重点化を図り、また早期再就職の促進の観点から、給付の合理化を行なう。また、国庫負担のあり方についても見直しを行なう。さらに、不良債権処理、構造改革の推進によって急激に失業者が増大した場合、時限的な一般財源の投入を行なう。
雇用保険制度の見直しに際しては、社会・労働保険制度全体の改革の動向を視野に入れる。