この10年間の情報通信分野の急速な技術革新は、新たな産業を創造し、経営・政策・社会的課題に対する新たな解決手段をもたらす一方、既存の事業分野の常識や事業間の垣根を大きく崩し、旧来の技術等を踏まえて歴史的に作り上げられてきた制度の抜本的な再構築を迫っている。特に、デジタル化、IP化、ブロードバンド化等により、技術的には通信と放送は世界的にも融合の速度を速めており、欧米、韓国等のICT先進諸国においては、制度改革への取り組みが加速化している。
また、知価社会における情報通信分野の技術革新は、産業革命に匹敵する変化をもたらすことが想定される。かつてグーテンベルグによる印刷機の発明が宗教改革を惹起し、産業革命が王政の終焉と近代民主主義国家の成立を促したことと同様、情報通信革命はボーダレスに経済・産業構造、国家と国民の関係など政治構造、人々の価値観・規範・文化等の社会構造までにその影響を及ぼすと考えられる。換言すれば、現在、情報通信分野を中心に進行していることは、これまでの枠組みを根本から覆すようなパラダイムシフトとも言うべき現象の始まりである。
たとえば、ブロードバンド等の高速大容量の情報伝送を可能とするネットワーク、ユビキタスなアクセスを可能とする端末、情報を取捨選択するための検索ツール等を活用し、CGM #1 に代表されるように、プロの事業者でなくても、企業や個人等がデジタル化可能なあらゆる情報を発信、交換、蓄積できる時代が到来している。このような潮流は、従来の大規模なメディアによる一方向の情報流通のあり方を大きく変えることになる。あらゆる主体が多様な形態の情報、コンテンツを創造し、それを広く世界中に発信し、その情報を共有し、膨大な情報やコンテンツが広く世界で利活用される「知の創造と交流」のサイクルは、付加価値の高い新たなビジネスやサービスを生み出す無限の可能性を有している。
日本経団連では、通信・放送サービスのIP化等の動きが情報通信のパラダイムシフトに匹敵する変革に発展し、抜本的な通信・放送法制の枠組みの変更を必要とするとの認識を早くから持ち、2005年2月より情報通信委員会で検討を開始し、2007年2月には基本的な考え方を中間とりまとめ「IP時代における通信・放送政策のあり方」として公表している。
政府においても #2、「通信・放送の在り方に関する懇談会」(2006年6月)の報告で、通信・放送の融合に対応して現行の法体系を見直すことが喫緊の課題であり、2010年までに、新たな事業形態の事業者が伝送路の多様化等に柔軟に対応して、利用者のニーズに応じた多様なサービスを提供できるよう、伝送・プラットフォーム・コンテンツといったレイヤー区分に対応した法体系とすべきとされた。また、2010年までに通信と放送に関する総合的な法体系について結論を得るという政府与党合意(2006年6月)を受けて、2006年8月から、総務省の「通信・放送の総合的な法体系に関する研究会(以下、「総務省・研究会」)」で検討が行われ、2007年12月に報告書が取りまとめられたところである。
日本経団連では、新たな通信・放送融合法制が、世界最先端のブロードバンド環境等を最大限活かし、規制緩和や新規参入等の促進を通じて情報通信産業の成長戦略へとつながるよう、政府における検討と並行して、上記の情報通信委員会中間とりまとめの具体化の検討を行った。本提言は、情報通信・放送サービスの企業ユーザーとしての立場、および、技術の進展によって自ら情報を発信できるようになった情報・コンテンツ供給者としての企業の立場を中心に、通信・放送の融合による新たな市場の創造、イノベーションを通じた情報通信産業の国際競争力強化を目指して、わが国として全体最適による通信・放送の融合法制のあり方についての考え方を提示するものである。
通信と放送は、これまで、市場、法制度および政策面で厳格に区別されてきた #3。
まず、通信・放送市場は、技術的制約やそれに伴う法制度等によって、(a)有線、無線(地上波)、ケーブル、衛星等のインフラ媒体、(b)音声、データ、映像等のコンテンツ、あるいは(c)地域、長距離、国際等の距離によって事業、サービスが区分され、その区分毎に分断された形でネットワークや市場が形成されてきた。それに対応し、通信・放送の規制体系も、(a)電波法、有線電気通信法といった伝送媒体に着目した法律、(b)電気通信事業法、放送法、有線テレビジョン放送法、有線ラジオ放送法、有線放送電話法、電気通信役務利用放送法といった事業に関する法律、(c)特定の事業体に関する法律等、事業・メディア毎に細分化された多くの法律により構成されてきた。
上記の市場やマーケット等の融合領域にあたる技術や事業が登場する度に、継ぎ足し的な見直しが行われてきた結果、今や非常に複雑な体系となっており、特に通信・放送融合領域で新たな事業展開をする上で、透明性が低い法体系となっている。また、法的な枠組み自体に抜本的なメスを入れることなく、過去の歴史的経緯や既得権等への配慮も取り込んできた結果、法体系としては必ずしも整合性のとれた内容とはなっていない。
また、通信・放送の融合領域のサービスや事業が拡大するにつれ、双方の事業者が他の領域へと事業を展開していくことになるが、その際、競争政策的な観点からのイコールフッティングが求められるが、現行の事業区分毎の法体系においては対応が不十分である。具体的には、通信分野においては、サービスを提供する上で不可欠な設備・機能への公正な競争ルールの適用、反競争的行為の禁止、通信市場への参入規制の緩和などにより、通信市場への新規参入と競争が促進されてきた。他方、放送については、制度発足以来、制度的枠組みについてほとんど手が付けられておらず、地上テレビジョン放送では、新規市場参入や競争はほとんど進んでいない #4。
さらに、現在の事業区分毎の法体系が従来型の通信・放送事業者のみを想定しているため、従来の制度的な枠にとらわれない新しいサービスに対して、旧来型の規制がそのまま課される可能性が高い。その結果、通信・放送融合領域の新たなビジネスの芽が摘み取られるばかりか、国際競争にも遅れをとり、市場の健全な発展を歪める可能性が高い。
わが国はe-Japan戦略の下、世界最先端のICT国家を目標に、世界最高水準のブロードバンド・ネットワーク・インフラを整備することができた。しかし、このようなインフラの上で、あらゆる主体がコンテンツ、アプリケーション、サービスの提供者として多様なサービスを展開することが技術的に可能となっているのにもかかわらず、通信・放送融合領域では、わが国発の新たなビジネスやサービスは生まれてきていない。したがって、技術の持つ潜在的な能力や革新力を利用面で十分に発揮できる法体系とする必要がある。
たとえば、地上テレビジョン放送を全国レベルで配信することは、IPマルチキャストによって技術的に可能となっているが、地上テレビジョン放送の県域免許やコンテンツの権利処理など制度面での対応で関係者間の調整がつかないため、国民がIP化による技術革新の恩恵を十分に受けられる環境にはない。
また、IP化による伝送方式等の著しい技術進歩によって、かつては区別されてきた通信と放送の技術的垣根がなくなってきており、既に通信と放送の「伝送路の融合」 #5、「端末の融合」 #6 などの事象が起きている。
過去の技術に基づいて通信と放送を別々に切り分けて規律することは不自然であり、新たな融合法体系では、通信・放送を取り巻く技術革新やサービスの進化、市場構造の変化等に柔軟に対応できる体系を目指すべきである。
欧米では、既に通信と放送の融合を踏まえた政府の政策 #7、及び体制 #8 が整備されてきており、ビジネス側もその規制緩和や技術革新の動きを取り込み、日本では始まっていない新たな通信・放送融合領域におけるサービスが次々に登場している。欧米では、融合への対応において、放送事業者が通信事業者よりも積極的であり、自社のWEBサイトで映像を配信するだけでなく、多様な配信事業者と提携して、携帯電話やセットトップボックスを通したテレビでの視聴等、多様な配信先に向けたサービスを行っている。
たとえば、欧州では、英国BBCがYouTubeと提携して人気番組を配信したり、テレビ放送終了後1週間のインターネットによるオンデマンドの見逃し視聴サービス、テレビ放映と同時のネットによるストリーミング配信等を行っている。BBCは、もはや従来型の地上放送に依存した放送事業者ではなく、コンテンツ事業者として地上波や衛星、インターネット、パッケージをはじめあらゆる媒体でそのリーチを拡大しつつある #9。また、英国ITVは、インターネットでの同時再送信と見逃し視聴サービスを実施し、アーカイブコンテンツ、ブロードバンド配信専用コンテンツも用意している。
米国では、放送事業者、通信事業者、インターネット会社、コンピューター会社等が互いに連携して新たなビジネスに取り組んでいる。たとえば、CBSは、AmazonのコンテンツダウンロードサービスであるAmazon Unboxへの番組提供、AOL、マイクロソフト等10社と提携した人気番組の見逃し視聴サービス、Xbox360を対象としたテレビ番組および映画の配信、携帯電話会社のSprintのモバイルサービスへのニュースおよび一部のエンターテインメントコンテンツのオンデマンド配信等を実施している。その他、ABCはインターネット上で見逃し視聴サービスを広告モデルで実施している。
韓国においても、3年に及ぶ議論の末に、2007年11月、国会の小委員会にてIPTVの全国放送許可につき合意に達した(インターネットマルチメディア放送事業法案) #10。同法案は12月末に本会議を通過し、これによって、2008年上期にはIPTVを通じてリアルタイムで地上放送番組を視聴することが可能となる。
一方、これらの国々に比べて、わが国の融合サービスやビジネスの状況は、その質や量、実現までのスピードのどれをとっても遅れをとっている。IPTVにおいては、独自サービス #11 等の取り組みはあるものの、リアルタイムでの地上テレビジョン放送の再送信はなく #12、人気放送番組の充実した見逃し視聴サービス #13、異業種とのダイナミックな連携等もほとんど見られない #14。このままでは、諸外国で通信・放送融合型の新たなサービスが次々に生まれる一方、わが国はそのインフラの優位性を活かしきれないサービス後進国となる可能性が高い。
特に、通信事業者によって、これまでの回線交換ネットワークに代わる、次世代のキャリアネットワークとしての「次世代ネットワーク(NGN)」が構築され、その運用開始に向けた準備が進められている。NGNは、オープンなインターネットと異なり、閉域のIPネットワークであり、安心・安全、帯域制御による品質確保という特徴を持つ。今後は、このようなNGNの長所を最大限活かして、新たな融合型の多様なサービスが生まれることが期待されることから、新たなサービスの実現に必要な環境整備を進めることが重要である。
なお、新たな通信・放送融合法制では、視聴者から受信料を徴収しているNHKについては、コンテンツのIP等による再送信や見逃し視聴サービス等を義務付け、サービスの多様化と質の向上を図るべきである。NHKの優良・豊富なコンテンツは国民全体の財産であり、そのアーカイブ化によりオンデマンド等で視聴できるようにすることはNHKの責務でもあり、視聴者利益にもかなう #15。
現在の通信・放送法制は、事業法としての枠組みを基本としてきた。したがって、規制の対象はあくまで事業者であり、同時に事業者の利害を優先する行政であったといっても過言ではない。しかし、通信分野においては、規制緩和とともに公正競争等の条件整備が進み、様々な新規参入や多様なサービスが展開され、サービスの質の改善や価格の低下が見られ、結果としてユーザーの利益が反映されるようになってきた。
一方、放送の世界では、放送事業者の利害を調整する形での事業者中心の行政が旧態依然として行なわれている。既に述べたように、インターネット等を中心に様々な主体が自由に情報を発信できる時代になっており、いわゆる放送的な事業へも、垂直統合型のビジネスを前提としなければ、コンテンツ分野等から新規参入は可能となりつつある。情報サービス提供者はプロの事業者で、企業や国民は一方的にサービスを享受するという従来型の放送のビジネスモデルは、唯一の存在ではなくなりつつある。また、視聴者は事業者からの一方的な情報の受け手にとどまるのではなく、受け取った情報に更に付加価値をつけて発信する情報発信者にもなりうる状況が生まれている。新たな融合法制においては、情報発信主体が多様化する中で、利用者・視聴者重視の法体系へと転換し、情報やコンテンツ創造・発信の好循環を生み出す体系とすべきである。
なお、情報、コンテンツの多様化により、利用者・視聴者の情報、コンテンツへの接触のあり方(視聴時間、端末、視聴形態等)も多様化している。たとえば、利用者・視聴者のメディア別接触時間については、テレビ視聴はそれほど減っていないが新聞は減り、インターネットが増えてきている #16。このような状況変化が大きくなるにつれ、今後の企業の広告戦略も何らかの影響を受け、従来型から変化していくことが考えられる。
通信・放送融合法制の議論においては、自らの事業は問題がなく、敢えてリスクのある制度改革をする必要はないという意見も聞かれる。この点、産業革命にも匹敵する情報通信分野の技術革新に対応し、わが国として全体最適の枠組みを構築し、イノベーション、新規産業創出、日本の通信・放送産業を全体で活性化する観点が必要である。
むしろ、通信・放送融合による法的枠組みの見直しを好機ととらえ、これまで存在した様々な規制の中身を精査し、その必要性を検証し、必要最低限の規制のみを残すことにより、企業の創意工夫に基づく自由な事業展開を可能とすることの方が建設的で意義がある。
従来の技術、市場、事業形態等を想定して構築された法体系から離れ、まずは白地にあるべき法体系を描く「破壊的創造」を通じ、政府の法制立案や今後の実施のマインドが転換されることも期待したい。
わが国の情報通信・放送産業の活性化、特にサービス競争力強化という目的の下、多様な主体による多様なビジネスを誘導・促進するような枠組みを世界に先駆けて構築することにより、わが国が情報通信分野での遅れを取り戻し、追い越し、さらに先行し、世界最先端のICT国家を実現していくべきである。
法体系の見直しに当たっては、以下の点に留意すべきである。
通信・放送融合によるイノベーションを最大限引き出し、既存産業の活性化および新産業・新ビジネス創出につなげるためには、多様なプレーヤーが切磋琢磨できる環境を整備しなければならない。したがって、プレーヤーを現在のまま固定・限定することなく、新規参入を促進するとともに自由で公正な競争条件を確保することが重要である。そうすることでユーザーが多様なサービスを適正な価格で享受することが可能となる。
なお、新たな通信・放送融合法制は、従来の通信・放送事業者を規制対象とする多数の法律を一本化する趣旨を踏まえ、この法律の規制の対象は従来通り、事業として通信・放送およびその融合領域に係るサービス等を行う者に限定すべきである。
本来、明らかにボトルネック性のある分野を除いては、事前規制や行政指導による政府の関与は最小限とすべきであり、市場における自由競争を通じて自律的に競争環境が達成され、利用者利益が確保されることが望ましい。
しかし、インフラ投資が鍵を握る通信・放送分野において、ネットワークのボトルネック性等により、市場支配力を持つ事業者が存在する場合には、市場原理のみでは市場は健全に発展しないことが考えられる。したがって、必要最小限の事前の競争ルールと独占禁止法等の事後規制等のベスト・ミックスにより、市場の歪みを排除し、市場支配力を有する事業者とそれ以外の事業者との間に公正な競争を有効に機能させる必要がある。
従来の事業・メディア毎に区分された法制度の枠組みを根本的に見直し、通信・放送、有線・無線などを包括的にとらえた、簡素な分かりやすいものとすべきである。その上で、規制は産業構造の実態に即して、利用形態別に考えるべきである。
なぜならば、既存の法体系は、基本的にネットワーク所有者が垂直的にサービスを提供することを想定してメディア別に構築されてきたが、現在では必ずしも一つの主体が全機能を備えた形で垂直的にサービスを提供するとは限らなくなってきているからである。通信のある部門(機能)と放送のある部門(機能)が連携することで、従来とは異なる新しいサービスが成立する場合、既存の主体を想定していた規制体系では十分に対応できないと考えられる。
通信・放送融合を考える視点として、通信・放送産業の双方が新規参入者を広く受け入れるとともに、互いに新たなビジネス領域に進出することで、情報通信・放送産業全体のパイを増やす拡大均衡の思考が重要となる。その際、新規参入にあたってのボトルネック規制や電波等の希少資源を占有することに伴う義務等も含め、競争上の条件を平準化する必要がある。そのためには、通信と放送における諸機能を事前に明確化できるようにしておく必要がある。
また、韓国等においては、通信事業者による放送との融合領域への参入を容易にするため、新規参入する側に、より付加価値の高いサービスを認めることが行われているが、競争促進の視点からは参考となる。
なお、通信事業者および放送事業者が、自らの判断の下、従来のビジネスの枠組みに留まることを選択し、旧来の状況を維持することは、当該分野へも含め新規参入等を阻害しない限りにおいて自由である。
最先端のネットワークが整備された後は、その上に流れるコンテンツ、情報、サービスの質が、情報通信産業の国際競争力に大きな影響力を及ぼすことになる。それらの代表格は、テレビ、映画等、マス向けにプロが作る従来型のコンテンツである。そして、最近では新たに、電子商取引、遠隔医療、遠隔教育、電子政府・電子自治体等のアプリケーションやサービス、ブログ等の個人が作る情報、検索エンジン等のネットワーク上で機能するアプリケーション等ソフトウェアの存在が大きくなりつつある。
今後は、上記のような幅広い概念としてのコンテンツ制作者にとり、望ましい制作環境を整備し、多様なコンテンツが生まれるようにすることが必要である。従来型の放送コンテンツについて、欧州では、制作者が放送局から独立し、そのコンテンツを自由に配信できるような法的枠組みも採用されている #17。ユーザーにとっても、多様なコンテンツが市場に展開され、多様な選択肢の中から自らのニーズにあったものをいつでも選べることが望ましい。
また、わが国のコンテンツの輸出を促進するために、国は、その障害になっている事項の排除に努めるべきである。
そして、わが国の映像コンテンツの中心である放送番組については、その二次利用の推進やアーカイブ化等により、コンテンツ流通の促進とコンテンツ制作者の資金調達を進めることができるよう、著作権処理の問題も含め環境整備を急ぐべきである。
さらに、融合領域において新たなメディアが登場し、新たなコンテンツ需要が生じた場合には、放送コンテンツ以外の、独自の新しいコンテンツを制作できるような環境を整備し、制作会社、権利者、実演家等に対して、新たな活動の場が提供されるようにすべきである。
行政が市場に関与する場合、一部の事業者、技術、サービスに対して、肩入れするようなことがあっては、競争を通じた市場の健全な発展が損なわれることになる。政府の政策は、利用形態として同等なサービスについては、公平な条件で競争できるよう、「機会の平等」を担保するものでなければならない。
特に、政府の採る規制やルールにおいて、特定の事業者が特に有利または不利に取り扱われることのないよう、「競争中立性」を確保する必要がある。同時に、急速な技術革新の流れの中で、新技術が円滑に市場に投入されるためには、特定の技術が政策上、特に有利または不利に取り扱われることのないよう「技術中立性」を確保することも重要である。
新たな法体系のあり方について、総務省・研究会の報告書においては、「現在の我が国の通信・放送法体系を、個々のコンテンツやサービスのネットワークにおける情報流通の中での位置づけ・役割の違いに応じ、レイヤー毎に共通的に規律することとすべきである #18」と提案している。レイヤー構造の分け方やコンテンツ規制の範囲と内容については問題点もあるが、総務省案のレイヤー型法体系は、全体としては上記で掲げた基本的原則を満たす制度と考えられる。
たとえば、レイヤー型の法体系は、新規参入を促し、市場を活性化させる点からも望ましい。なぜならば、通信・放送産業の各レイヤーにおける機能が高度化している今日、新たな事業者が全てのレイヤーを備えた垂直統合型で、通信・放送事業への参入を試みることは非常に困難であるからである。実際、既に通信業界において見られるように、新規参入者の多くが、コンテンツやサービス等の特定のレイヤーやその中のモジュールでの事業展開を、業界参入の足がかりとしている。その後、事業が順調に進んだ後、他のレイヤーへと事業を拡大し、垂直的に事業展開を行う例も見られる。
技術革新が急速で、厳しい競争状況にある情報通信産業においては、ある時点で成功したビジネスモデルが長く続く保障はない。新規参入希望者を含む様々な主体が、自由に事業に挑戦できるような仕組みを用意すること、すなわち、レイヤー型法体系を構築することが、市場の活性化やイノベーションに繋がると考えられる。
また、レイヤー構造にすることは、コンテンツ産業の活性化の点からも検討に値する。現在の放送産業は、放送局がコンテンツ制作、編成、配信を一元的に担う垂直統合構造である。しかし、実際には多くの放送コンテンツは、放送局からコンテンツ制作会社に委託されている。レイヤー型法体系は、コンテンツ制作会社の発信の機会を多様化させ、制作会社に資金が直接流れることを誘導し、自立的に競争力のあるコンテンツを企画立案・制作できる制作会社等を育成することを可能とする #19。
さらに、技術中立性の点からも、レイヤー構造は望ましい。たとえば、従来の放送は、垂直統合構造の下で、電波の有限希少性、および、それに伴うプレーヤーの限定性に起因する社会的影響力の大きさから、放送行政が形成されてきた。しかし、現在、技術革新によって、電波の他にブロードバンド・ネットワーク等、多様な伝送手段が登場している。法体系をレイヤー構造にすることによって、実質的に同じコンテンツが提供されるのであれば、その伝送手段の相違に関係なく、規制の水準を下げることができ、より技術中立性を実現しやすくなる。
以上より、レイヤー構造への転換は基本的方向性として妥当である。総務省案および欧州における動向等を参考にしながら #20、以下、企業ユーザーとしての立場から、転換期にある通信・放送分野の融合法制のあるべき姿を提案する。
新たな法制度は、現行の事業やメディア毎の法制度を統合して、「コンテンツ」「伝送サービス(役務)」「伝送設備(ネットワーク)」、の三層から成るレイヤー構造とすべきである。
その理由としては、法律の体系からすると、コンテンツは表現の自由、伝送サービス(役務)は利用者保護、伝送設備(ネットワーク)は公平と安全というように、各レイヤーで達成すべき行政目的がこの三つで大きく異なってくることが指摘できる。
また、事業およびその実際のモジュールという観点からも、この三つのレイヤーが機能として明確化しやすいこと、また、新規参入等においてもこの三つのレイヤーに対応したモジュールからの部分的な参入が多いこと、さらには、競争政策上の課題の多くが上記の三つのレイヤー間の公正競争条件の確保に集約されると考えられることも重要な点である。また、競争政策上の枠組みを透明性の高い形で確保するという観点から、レイヤーを細分化することは法体系の複雑化に繋がり、結果として不要な規制が拡大するため、避けるべきである。
三層から成るレイヤー法体系とした上で、通信・放送およびその融合領域で事業を行う者を対象とし、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ね、伝送設備 (ネットワーク)は通信・放送共通の枠組みとする。また、公正競争を担保するための措置が融合法制において確保されることを前提に、現在ある事業法等は廃止する。また、通信におけるユニバーサル・サービス義務等、特定事業者に課されている義務等についても、融合法制の中に包含し、特定事業者に関する法律も廃止する #21。なお、新たな融合法制は、基本的には事業者を対象とする事業法であることから、個人や企業が自ら情報発信等を行う行為は、この法律の対象とならないことを明確にすべきである。
レイヤーの分類については、コンテンツ、伝送サービス、伝送設備の他に、認証、課金、ポータルサービス、検索サービス等のプラットフォーム機能が存在するとの指摘があるが、現状においては他のレイヤーの付加的機能として存在しており、プラットフォーム機能を独立したレイヤーとして一般的に定義付けを行い、事前規制を導入することは時期尚早である #22。また、プラットフォーム機能を提供するサービスは激しい競争環境にあり、新たなサービスの展開等を阻害しないためにも、基本的には事後規制により対応すべきである。
レイヤー型の規制の導入においては、事業自体をレイヤー型に構造分離することと混同する傾向があるが、レイヤーを越えた垂直統合型事業については、事業者の自由な判断で行うことを禁止するものではない #23。また、ユーザーの立場から考えると、ワンストップサービスが好ましい場合もあり、過度な規制によりユーザーの選択の幅を狭めることのないよう留意すべきである。ただし、ボトルネック性や希少性を有する伝送設備を保有する事業者の市場支配力が、他のレイヤーに及ぶ可能性もあり、その場合は、機能的な分離も含めレイヤー間の公正競争の確保に必要な最小限の制度的な担保が必要である。
新たな法制度を検討する際には、新たな行政組織のあり方も併せて検討する必要がある。わが国では、通信、放送、コンテンツ、情報通信機器などの各分野の管轄が複数の省庁に分散している。そのため、通信と放送の融合、産業振興、競争政策、知的財産に関する権利処理、コンテンツ振興等の問題に関して、関係省庁間の調整や連携がうまくいかず、本来あるべき行政機能が十分に発揮されないなど、弊害も多い。
情報通信はわが国産業の国際競争力や、国家、社会の安全を確保する上で益々重要な戦略分野となっている。技術や市場の著しい変化に対して、行政組織のねじれが市場発展の足枷となることのないよう、行政組織、役割のあり方について、原点に立ち返った見直しが必要である。具体的には、まず、通信・放送の産業振興、規制、コンテンツ等、現在、複数省庁に跨って取り扱われている政策課題を集約した上で、適切な役割分担を検討すべきである。
また、競争政策の実施主体についても、現在、わが国では、情報通信分野の競争政策の策定、執行、監視は、ほとんど事業者間調整に特化している。しかも、規制と産業振興部門が省庁内で一体となっており、規制が政策的配慮によって歪められるおそれがあり、透明性、公平性、中立性の確保には限界がある。多様な主体が登場するレイヤー構造の時代において、従来型の事業・サービスの区分を前提とした体制では、上記の競争に関わる機能を担うことは、現実的には難しくなると想定される。
欧米では、英国Ofcom(情報通信庁)や米国FCC(連邦通信委員会)に代表されるように、独立規制機関において、通信、放送を規律するケースが一般的である。特に、英国Ofcomでは、貿易産業省の産業振興部門とは独立した中立的な立場から、競争ルールの策定・執行、事後規制、紛争処理等を実施しており、結果的に利用者利益の向上や市場の活性化に大きく寄与している。また、通信と放送の規制を一体的に取り扱い、IP化への対応も進めるなど、融合が進む情報通信市場に機動的に対応しており、英国Ofcomはモデルとして参考とすべき機関である。
わが国においても、来るIP時代を見据え、国家行政組織法第3条に基づく独立行政委員会として、電気通信・放送に関する独立規制機関の設置を検討すべきである #24。本規制機関は、事業者、産業振興部門から独立した中立的な立場から、通信・放送分野の競争ルールの策定・執行、事後規制、紛争処理、周波数配分等を担当すべきである。
<1>基本的立場
新たな法制度においては、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねることを基本とした上で、規制は必要最小限とすべきである。
また、新たな法制度は、通信・放送あるいは融合分野において、事業としてサービスを提供する者を対象とする事業者法であり、コンテンツ規律のあり方を検討する際にも、一般的なコンテンツの編集・発信主体としての個人や企業は、直接的な規制対象とはすべきではない。したがって、メール、電話等の私信 #25 は勿論、ホームページ等は本法制の枠外にあることを明記すべきである。
この点、総務省・研究会の報告書は、私信については、通信の秘密を保障するが、ホームページ等、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」を「オープンメディア」と位置付け、規制対象に含めている点は不適当である。
いわゆる「オープンメディア」における違法・有害コンテンツ対策は、事業者以外も対象となりうることから、法体系としての整合性の観点からも、全ての国民が守るべき法律としての一般法である刑法、プロバイダー責任制限法、知財法等の関連法、民間の自主的な取り組み、フィルタリング等の技術的な対応、国際的な連携により総合的に行うべきである。違法・有害コンテンツの排除により、健全なメディア社会を構築していくためには、今後ともその取り組みをいっそう強化していくべきである。
<2>規制対象となるコンテンツの分類
事業として提供されるコンテンツ・サービスのうち、現在、政府によって規制を受けているコンテンツの代表は放送である。規制は必要最小限という原則から、規制対象となる放送コンテンツおよび事業者についても再検討する必要がある。そして、新たな法制度の範疇である、事業として提供されるコンテンツを、(a)基幹放送と(b)それ以外の二つに分類し、異なった規律を設けるべきである。
新たな法制度においては、規制対象となるコンテンツは、地上テレビジョン放送と想定される「基幹放送」に限定すべきである #26。規制の程度については、現行の放送準則レベルのような規制のみとするのが適当である #27。また、規制についても、コンテンツの内容や表現自体に対するものとはならないことを担保すべきである。
(a)基幹放送と(b)それ以外を分ける、「基幹放送」の定義については、これまで明確にされてこなかったが、この機会にその義務と責任を明確に定義する必要がある。総務省・研究会の報告書では、「基幹放送」を特に定義することなく、地上テレビジョン放送を「基幹放送」ととらえた上で、「特別メディアサービス」と称しているが、規制の対象範囲を必要最小限とする観点から、公共放送のNHK #28、「public service broadcasting」 #29と位置付けられる英国BBC、商業放送であるITV等の役割も参考に、「基幹放送」を定義すべきである。
具体的には、たとえば、「基幹放送」たるものはメディア本来の役割に加え、電波という希少資源を占有して公共的役割を果たすことから、以下のような義務を負うべきである。
このような厳格な義務 #33 を自ら守り、基幹放送としての使命を進んで果たす意欲ある事業者のみ「基幹放送」と位置付けていくべきである。一方、そうではなく、より自由に事業展開を行うことを望む事業者は、「基幹放送」とならないことを自らの意思で選択することができるようにすべきである。
事業として提供されるコンテンツ・サービスのうち、「基幹放送」以外の放送メディア(地上テレビジョン放送の一部、衛星放送、CATV)、電波等の希少資源を使用せずインターネット等の手段で地上テレビジョン放送と同様のサービスを行う事業者等が含まれる。この領域においては、大幅な規制緩和を行い、原則として民間の自己規律により、通信・放送融合型のサービスを中心に自由な事業展開を可能とする枠組みとする。
以上のように、「基幹放送」かどうかによって、事業としてのコンテンツ・サービスを分類し、規制の程度を検討するのが適当であると考える。この点、総務省・研究会の報告書においては、コンテンツを、まず、「公然性を有するもの」と「公然性を有しないもの」に分ける。「公然性を有するコンテンツ」については、さらに、「特別な社会的影響力」を有するものを「メディアサービス(現行の放送、及び今後登場が期待される放送に類比可能なコンテンツ配信サービス)」、有しないものを「オープンメディアコンテンツ(不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信(ホームページなど))」とする。その上で、「メディアサービス」については、「特別な社会的影響力」の程度に基づき、強いものを「特別メディアサービス」、弱いものを「一般メディアサービス」に類型化している。
しかし、「(特別な)社会的影響力」というそもそも曖昧な概念を根拠とした規制は、どのような判断基準を設けたとしても、判断のレベルにおいて恣意性を免れず、新規の事業を行う者にとっては不透明な制度となる懸念が高い #34。
むしろ、新たに規制が導入される場合、具体的にどのようなメディアやコンテンツが対象になるのかを限定列挙しておく必要がある。そうでないと、規制を懸念して、新たなサービスや事業の創出が阻害されるおそれがある #35。
サービス・レイヤーにおいては、基本的には利用者利益の確保を主要な目的と位置付け、原則、事業者の自由な事業活動を可能とする枠組みとする一方、市場支配力を有する事業者による競争阻害・制限行為等が排除されるよう、独占禁止法等による事後規制と必要最小限の事前規制型の公正競争ルールを設定し、運用していくべきである。その点、通信分野においては、サービス競争の進展が見られており、その政策等を参照に放送分野や融合領域に包括的に適用することが現実的である。
特に、今後は融合領域において多様なサービスが展開されることになるが、事前規制の適用対象となるサービスや市場を事前に明確にし、その範囲を画定する必要がある。その上で、サービスやビジネスモデルの特性、規模や成熟度、競争状況、参入条件等を総合的に勘案し、サービスの独占性や市場支配力、反競争的行為の有無を検証していく必要がある。
かつては、設備保有者がサービスを提供する垂直統合型モデルが主流であったが、インターネットのISPや携帯電話のMVNO #36 のように、設備を持たずにサービスのモジュールのみに特化した事業も増えており、融合型の新たなビジネスモデルの創造や展開が期待できるのも、このサービス・レイヤーの特徴である。したがって、設備等を有しない事業者がサービス事業に参入しやすくすると同時に、従来の枠組みを越えた新しい通信・放送融合型の事業展開を可能とするような枠組みを構築するべきである。
たとえば、これまでは新しい周波数帯が割り当てられる際には、この帯域では特定のサービスのみを提供するというように、周波数と使用用途が免許によって厳格に決められていたが、今後は、安全を確保するための必要最小限の事項については、行政が従来通りチェックするが、その上でどのようなサービスを提供するのかは、市場のニーズに応じて、サービス事業者が原則自由に選択できるような枠組みの導入も検討すべきである。
アクセス網及びバックボーンから構成される物理的ネットワークとしての伝送設備の規制は、基本的には公正と安全の確保を原則とすべきである。
公正競争確保の観点から、寡占的な事業者が有するボトルネック性のあるネットワークについては、必要最小限の事前規制を行うべきである。したがって、行政には、ボトルネック性の定義を明らかにした上で、具体的に、要素・設備・機能といった点から、ネットワークのボトルネック性の有無を判定することが求められる。勿論、ボトルネック性がないと判断された場合には、規制の解除を行う必要がある。
レイヤー型法体系への移行に伴い、企業をはじめユーザーは物理的な情報伝送路の選択を通じて、自由にコンテンツやアプリケーションを利用したり、情報発信をするようになる。その際に、ネットワーク上で自由にコンテンツやサービスを選択でき、差別的な取り扱いを受けないようにする必要がある。すなわち、ユーザーが適正な価格により、多様なサービスを公平に享受できるという意味での「ネットワーク中立性」の確保が担保される枠組みとすべきである。
なお、ネットワーク分野の競争を促進する上で、電波については希少資源の有効・公平な利用の観点から、2011年の地上テレビジョン放送のデジタル化完了により空いた電波を、通信事業者やユーザー企業等が利用して、放送類似のサービスを含む新たなサービスを展開できるようにするべきである。また、従来の放送の伝送部門についても、放送事業者が望めば通信事業者が請け負うことができるような枠組みとし、多様なネットワークの選択等ができるようにすべきである #37。
伝送設備の箇所で、ユーザーが適正な価格により、多様なサービスを公平に享受できるという意味での「ネットワーク中立性」が、新たな法体系においても確保されることが重要であると述べた。現状においては、市場支配力を有するプレーヤーの存在は、ボトルネック設備に関するネットワーク・レイヤーにほぼ限定されているが、今後のビジネスの展開によっては、支配的なコンテンツ事業者や有料放送におけるプラットフォーム的な事業者が、他のレイヤーの事業者に支配的な影響力を行使することも可能性としてはありうる。また、垂直統合型のビジネスモデル等を通じて、別の形でその支配力を行使することもありうる。
通信分野においては、サービスと伝送設備のレイヤー間において、公正競争の確保のための規制が導入され、それなりの成果を上げている。新たな融合法制においては、通信分野の伝送設備レイヤー以外においても、また、放送分野においても、ユーザーがネットワーク上でのコンテンツやサービスを自由に選択できる包括的な枠組みを構築する必要がある。
法制化にあたっては、レイヤー間のインターフェースのオープン性を確保し、特定のレイヤーにおける市場支配力が隣接、関連レイヤーに及び、当該レイヤーの競争を阻害するようなことがないようにすべきである。
今回の通信・放送融合法制の目的は、わが国の有する世界最先端の情報通信インフラと、技術革新やサービス革新に迅速かつ柔軟に対応できる画期的な法的枠組みを組み合わせることにより、国民生活のあらゆる場面において利便性の高いユビキタス・ネットワーク社会を構築することにある。それが実現すれば、国民や企業は従来のメディアや時間の制約から解放され、自らの望む情報、コンテンツ、サービスを、いつでもどこでも誰でも入手することが可能となる。これにより、知価社会に相応しい情報、コンテンツ、サービスの流通や市場拡大が進むとともに、少子・高齢化への対応、地域間格差の解消等、わが国の直面する課題の解決にも大きく貢献することが期待できる。たとえば、通信・放送において存在する地域間格差が解消されると同時に、地域が情報、コンテンツの発信主体としての役割を高める機会が十分に提供されるようになる。
さらに、通信・放送融合領域が新たな市場として情報通信を牽引することが期待され、欧米等で先行している様々な融合サービスに留まらず、日本発の新しいビジネスモデルが展開されることになる。たとえば、インターネットをベースとした放送局が生まれ、日本国内のみならず世界の隅々にまで日本発のコンテンツを届けることや、従来にはない双方向型メディアによる放送局などが考えられる。起業家精神とアイデア次第で、この融合領域はイノベーションの中核となりうるのである。行政においても、このような新しいビジネス展開を支援し、電波等の希少資源をこのような分野に優先的に配分していくことが求められる。
また、企業においても、自己のIR情報をはじめ、融合領域で登場する様々なサービスを使い、直接的な情報発信者としての役割を強めるとともに、従来型の放送による広告以上に効果のある、新しい広告モデルを活用できるようになる。
通信・放送融合法制は、その概念としての提示がようやくできた段階で、その法制が目指す姿を実現するためには、これから膨大なエネルギーと作業を必要とする。また、ともすると、このような抵抗の予想される改革は、道半ばで部分最適、縮小均衡型の発想に陥り、中途半端な法改正になりがちである。今回の法制化にあたっては、わが国としての全体最適の見地から、通信・放送分野を中心にわが国の情報通信産業の国際競争力を強化するという目標を関係者が再確認し、今後の取り組みをいっそう強化していかなくてはならない。
また、このような目標が、通信・放送融合法制のみで達成されるわけではなく、これは必要条件であっても、十分条件ではない。規制主体の改革の問題と併せて、独禁法、著作権、商慣行、高度ICT人材育成、研究開発、知的財産保護、国際標準化等の問題に総合的に取り組んでいく必要がある。
また、総務省・研究会の最終取りまとめ後、具体的な法制化に向けた作業が進められることになるが、基本的な路線が途中で腰砕けとならないよう、法案作成プロセスの透明性・公開性を確保し、ユーザーも含め国民合意の下で、実りある世界に誇れる真の通信・放送融合法制を実現しなくてはならない。