今後の国際協力のあり方について

―戦略的視点の重視と官民連携の強化―

2008年4月15日
(社)日本経済団体連合会

はじめに

現在の日本は、少子高齢化の進展をはじめ、国内の課題が山積している。そのため、多くの国民は世界の動向に対する関心が低く、いわゆる内向き志向に陥りつつある。
しかし今日、経済のグローバル化は一層進み、他の先進諸国はこの潮流に適応することで安定成長を遂げている。中国、インドをはじめとする新興経済国も著しい発展によって国際的地位を高めている。日本としても、世界経済の中でどのような戦略を持って生きていくかを真剣に考えなければ、経済面でも国家そのものとしても存在感を失いかねない。
日本がグローバル化のメリットを十分に享受し、国際経済・社会の中における大国としての存在感・発言力を維持・強化していくためには、外交面の努力が不可欠である。この観点から、通商政策とともに極めて重要となるのが、国際協力への取り組みである。途上国の経済成長に資する国際協力は、世界経済の発展を通じて、結局は日本経済の利益にもつながる。
おりしも2008年は、5月に第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)が、7月に北海道洞爺湖サミットが開催され、日本を舞台に国際協力のあり方が議論される。これらを契機として、国際協力に対する日本の姿勢が世界から注目されることを、強く認識する必要がある。
日本経団連は、これまでも国際協力に対する提言を重ねてきたが、この重要な年にあたり、国民各層への問題提起や、近年注目が集まっている「国際協力における官民連携」の観点も含め、今日における国際協力の基本的なあり方を以下の通り提言する。

I.今後の国際協力に関する基本的考え方

1.国際協力をめぐる国際的潮流

(1)諸外国におけるODAへの取り組み強化と、日本の相対的地位の低下

世界の政府開発援助(ODA)総額は、1992年以降の約10年間にわたって減少を続けたが、2000年前後を境に各国は再びODAの取り組みを強化しており、欧米主要国における直近のODA実績は、2000年時点の約2.2〜2.9倍と急増を遂げている。
各国のODAが増加に転じた主な要因としては、第一に、2000年9月にミレニアム開発目標(MDGs)が国連で採択され、2015年を達成期限とする目標の一つとして「DAC(OECD開発援助委員会)諸国のODA支出をGNI(国民総所得) #1 比で0.7%に引き上げる」とされたことが挙げられる【図表第1】。実際、MDGsの採択を踏まえて、英国、フランス、ドイツ、イタリアの各国は、遅くとも2015年までにGNI比0.7%を達成する旨を公約に掲げている。

#1 GNI(国民総所得)は、従来のGNP(国民総生産)に相当するもので、GDP(国内総生産)と「海外からの純受取(受取−支払)」の合計である(実質化する場合は、輸出入価格の変化に伴う実質的な所得流入である「交易利得」も加える)。
図表第1 DAC諸国におけるODA実績(対GNI比、2007年)

第二の要因は、2001年9月に米国で発生した同時多発テロなどを契機に「貧困はテロの温床である」との認識が広まったことであり、これが米国などにおけるODA予算の増加につながった。また、急速な経済成長を背景に中国がドナーとしての存在感と影響力を強め、韓国・タイも被援助国から援助国に転じるなど、先進国以外の国・主体によるODAも活発化している。
こうした国際潮流とは対照的に、日本のODA実績は近年減少傾向にある。その結果、1993年以降8年間にわたって世界第1位にあった日本のODAは、2001年には米国、2006年には英国、さらに2007年にはドイツとフランスを下回り、第5位に転落している【図表第2】。

図表第2 主要国におけるODA実績の推移
(2)国際的な援助潮流の変遷

1990年代に世界各国のODA実績が減少した背景には、東西冷戦構造の終焉によって援助の意義が薄れたとの見方が先進国間で広まったことや、各国における財政事情の悪化、長年にわたって援助を続けてきた成果が必ずしも目に見える形で表われていないという認識(いわゆる「援助疲れ」)などがあった。同時に、「途上国におけるインフラ整備は、ODAではなく民間主体で行うべき」との考え方も広まった。こうした流れの中、世界銀行などの国際開発機関は、援助を行う新たな意義として「貧困削減」を掲げ、各国におけるODAへの取り組み強化を促した。また、経済のグローバル化が深化する中で、「貧困問題の深刻化」を懸念する声も上がるようになった。さらに、2000年のMDGs採択が、援助における貧困削減重視の潮流を一層加速させた。
2000年代に入ってからも、米国における同時多発テロの発生に加え、アフリカ問題への関心の高まりなどもあり、貧困削減が引き続き重視される一方で、「貧困削減のためにも経済成長が重要である」との認識が高まった。同時に、途上国におけるインフラ需要の大きさや、インフラ整備におけるODAの役割も再認識されるようになった。また、先進国以外の新興ドナーが「自らの成長体験」を踏まえた援助に力を入れることで、途上国における経済成長の有効性が改めて注目されるようになった。これらを背景に、今日の援助においては、「貧困削減」だけでなく、「経済成長」や「インフラ整備」の重要性も再評価されている。これらの分野は、従来から日本が得意としてきたところであり、その意味で、国際協力において日本が活躍できる領域は一層広がりつつある。

2.国際協力への戦略的対応

先進国がODAなどの国際協力に取り組む大きな目的の一つは、人道的な問題や地球的規模の問題の解決に向けて国際的責任を果たすことである。一方で、2003年に改定された政府開発援助大綱(新ODA大綱)でも掲げられたように、「国際社会の平和と発展への貢献」に加えて、「日本の安全と繁栄の確保」も、国際協力を行う重要な意義であり、国際益とともに国益に沿った形での国際協力を実施する必要がある。その際の主な視点は、以下の通りである。

(1)経済成長への貢献

グローバル化が進展し、ヒト・モノ・カネ・情報などが自由に行き来する今日、世界各国は、もはや単独では存続しえない。その中で、世界の安全と繁栄に向けて取り組むことは、先進国に課された重要な責務である。同時に、途上国を含めた世界経済の成長は、日本経済にとっての利益でもある。
被援助国の経済成長に資する国際協力は、各国との経済連携や投資を促すうえでも有力な手段である。とりわけ近年は、アジアなどとの経済連携協定(EPA)締結に向けて、国際協力を有効に活用することが求められる。例えば、現在EPA交渉中のベトナムやインドに対しては、従来から積極的なODA供与を行っており、今後とも効果的な国際協力を実施していく必要がある。
また、日本は、第二次世界大戦を経て被援助国からスタートし、急速な経済復興・高成長を経て経済大国としての地位を築き、世界有数の援助国となった稀有な例である。近年は、中国・韓国などの新興経済国が、自らの成長体験を活かした国際協力に取り組んでいるが、その元祖は日本に他ならず、国際協力への取り組み強化を通じて、日本が経験してきた成長モデルを多くの途上国に広めて成長を促すことは、世界における日本経済の再評価にもつながると期待される。

(2)資源・エネルギーおよび食料の確保

近年、原油をはじめとする資源・エネルギー価格は急激に上昇しており、資源輸入国から輸出国への所得移転が著しい。天然資源に乏しい日本は典型的な輸入国であり、国内経済への影響は無視できない。実質GNIの推移をみると、近年の輸入価格上昇によって「交易利得」のマイナス幅が拡大し、これが実質GNI伸び率を年間1%前後押し下げている【図表第3】。理由の一つとして、2005年頃からの円安も考えられるが、円高に転じた2007年後半以降も引き続き交易利得は減少しており、資源価格上昇による影響がより大きいとみられる。
現在の資源・エネルギー価格高騰は、世界的な信用不安に伴って投機資金が商品先物市場などに流入したことも一因であるが、根底には新興経済国の発展などに伴う世界的な資源需要の増加があり、これは中期的に続くと見通される。各国間の獲得競争が激化するなか、日本として資源・エネルギーの確保に努めることは不可欠であり、その安定供給源となりうる国・地域に対する外交を、従来以上に積極化していくことが重要である。例えば、昨今は資源・エネルギー供給源としてのアフリカに注目が集まっている。従来、地理的な遠さもあってアフリカと日本との経済的関係は必ずしも深くなかったが、本年開催されるTICAD IVも契機としてアフリカとの関係を強化していく必要がある。
同様に、食料需要が世界的に高まる中、今後とも食料の安定確保を図ることは、食料自給率が40%弱にとどまる日本にとって大きな課題であり、供給国との良好な関係を構築していく必要がある。国際協力は、こうした資源・食料外交を進める上での有力手段となる。

図表第3 日本の実質GNI(国民総所得)伸び率の内訳
(3)地球環境問題への対応

日本は、本年7月の北海道洞爺湖サミット議長国として、京都議定書の枠組みが期限を迎える2013年以降の気候変動枠組み作りに向け、リーダーシップを発揮することが期待されている。日本における環境政策とODAとの連携は、これまで必ずしも十分でなかったが、本年1月に福田首相がワールド・エコノミック・フォーラム(ダボス会議)で「クールアース・パートナーシップ」の構想を発表するなど、地球環境問題とODAを連動させる機運が高まっている。
京都メカニズムの中で温室効果ガス削減の数値目標達成のために認められたクリーン開発メカニズム(CDM)は、途上国における排出量削減に寄与するとともに、先進国にとっても自国の排出削減目標達成に資する。従来、ODAによるCDM事業は制限的に捉えられてきたが、現在の国連は、ODA対象国が承認することを前提に、ODAを活用したCDM事業を認めるようになっている。こうした動きも、地球環境問題への対応に向けたODA活用の可能性を広げるものと期待される。

3.国際協力における課題

近年、諸外国がODAへの取り組みを強化していることや、今日的な意義・必要性を踏まえれば、日本の国際協力における主な課題は以下の通りである。

(1)必要なODA予算の確保

1970年代後半以降、「ODAの拡充は、先進国である日本の国際的責任である」との認識のもと、「政府開発援助に関する中期目標」が5次にわたって策定され、これに基づきODA予算は毎年増加した(年平均伸び率は、80年代前半11.8%、80年代後半7.4%、90年代前半7.1%)。しかし、バブル経済の崩壊とその後の経済停滞の下で財政事情が悪化したことに伴い、1990年代後半以降、ODA予算はほぼ毎年度にわたって削減の対象とされ、2008年度の一般会計予算では、ピークの1997年度比で約40%減となった【図表第4】。これが、近年におけるODA実績の減少傾向につながっている。
しかし、国の一般会計におけるODA予算は2008年度で約7,002億円、一般会計全体の約0.8%にとどまる。さらに、ODA予算に近い費目である「経済協力費」が国の歳出全体(一般会計と特別会計)に占める割合は約0.3%に過ぎず、ODA関連予算の削減による財政健全化への寄与は、必ずしも大きくない。
一方で、ODA予算の減少が外交上のプレゼンスひいては国益に及ぼす悪影響は決して小さくないと考えられ、費用対効果の観点からも、長らく続いた予算削減に歯止めをかける必要がある。さらに中長期的には、予算の効率的活用や国民の理解を前提に、また諸外国の動向を踏まえ、必要な予算増額についても検討すべきである。

図表第4 日本のODA予算の推移(一般会計)
(2)国際協力における「官民連携」の推進

先進国から途上国への資金の流れをみると、直接投資など民間資金の割合が着実に増加し、直近時点では全体の約69%に達している【図表第5】。
この状況を踏まえれば、先進国と途上国との関係をODAのみで議論することは不可能である。一方で、途上国における投資などの経済活動は、採算性などの面で民間のみでは扱いにくい案件も多く、ODAが引き続き基幹的な役割を担う必要がある。こうしたことから、ODAと民間活動との有機的連携(官民連携)によって、相乗効果を生み出すことが期待されている。
国際的な援助潮流が「経済成長の重視」に回帰しつつあることも、官民連携への注目が高まった背景である。こうした流れの中で、日本企業の得意分野である「技術力」を活かした投資活動の意義は一層高まっており、いわゆる「顔」の見える国際協力を行うことが必要不可欠である。外務大臣の諮問機関である「国際協力に関する有識者会議」が2008年1月に公表した中間報告でも、官民連携の意義が強調されるとともに、重点分野、推進体制などが提示されている。

図表第5 DAC諸国から途上国への資金の流れ
(3)国際機関におけるイニシアティブ発揮

日本はODA予算を削減する中にあっても、国連関連機関をはじめ国際機関への出資・拠出などを維持し、その規模は現在でも世界トップクラスである。しかし、国際機関における日本の存在感・発言力は必ずしも大きくないとの指摘がある。例えば米国の出資・拠出額合計は、過去10年間平均で日本をやや下回るが、国際機関を選別し重点配分を行っているとされ、効果的にイニシアティブを発揮している。英国も、国際機関の主要ポストに人材を送り込むなどの取り組みを通じて、国際機関の意思決定に大きな影響力を及ぼしている。日本としても、国際機関との人的交流や、任意拠出金などの配分を戦略的に実施するとともに、国際機関におけるポスト確保、国際機関で活躍できる人材の育成などにも注力する必要がある。
国際機関におけるイニシアティブの発揮は、国際的な援助潮流の形成にもつながる。従来、諸外国が実質的に誘導した流れに対して受身的に対応する傾向が少なからずあったが、今後は、国際潮流の形成において、日本が積極的に関与していく必要がある。

(4)国民理解の促進

国費を投入して、ODAなどの国際協力を推進するにあたっては、納税者である国民の理解を得ることが極めて重要であり、情報公開の徹底、国際協力の意義に関する教育や広報活動などに一層力を入れる必要がある。

  1. <1> 情報公開の徹底
    ODA全般に関する情報公開は、外務省が毎年公表する「政府開発援助白書」などで行われている。また、個別案件を含めた事後評価結果も、経済協力評価報告書、国・地域別の評価報告書、政策評価法に基づく事後評価などを通じて公開されている。しかし、内閣府の世論調査によれば「経済協力を少なくすべき、やめるべき」との意見が増加しており、理由として「どのような経済協力が行われているかが不透明」との回答が多く挙げられている。これを踏まえれば、国民がより容易にアクセスでき、理解しやすい形で、国際機関への出資・拠出金の使途なども含めた情報公開を行っていく必要がある。

  2. <2> 学校教育、広報活動
    小学校・中学校学習指導要領では、社会科の内容として、国際交流や国際協力の様子、貧困解決に向けた経済・技術的協力への理解などが挙げられている。さらに「国際理解」に関しては、多くの学年・教科で扱われる。これらの枠組みを活かし、国際協力の重要性への理解を深める教育に力を入れる必要がある。
    また、国際協力に対する国民各層の幅広い理解を得るうえで、広報活動は不可欠である。その基本は政府広報であり、日本の国際協力が途上国において果たしている役割や現地での評価などについて、各種媒体を通じて積極的に情報発信することが求められる。さらに、民間企業やマスメディアとも連携し、より共感を呼びやすいキャンペーンを行うなどの工夫も重要である。

  3. <3> 国際協力の意義に関する啓発
    国際協力に対する国民の支持を得るうえでは、「国際益」だけでなく「国益」の観点からの意義について理解を促すことが重要である。
    新聞・テレビ報道には、途上国での日本のODA実施状況や、国際社会における日本の評価などを日常的に伝え、国際協力の意義や、国益の概念に対する国民の問題意識を涵養する役割を期待したい。また、政治や行政においても、国際協力が国益に資することを、国民に対して積極的に説明する必要がある。

II.国際協力における具体的課題―「官民連携」を中心に―

1.新しい「官民連携」に向けて

国際協力における官民連携は、官民が対等の立場でお互いの英知を持ち寄り、それぞれの得意とする分野と手法を用いて途上国の発展に寄与するものである。政府の立場からは途上国の開発効果向上を通じた外交目標の実現、民間の立場からは貧困削減にも資する経済成長の原動力である途上国でのビジネスの展開を同時に達成しうる「Win-Win」のモデルであると言える。こうした動きは、近年、欧米先進国や国際機関において積極化しているが、その背景には、貧困削減のためにも経済成長が重要であるとの認識や、政府の力だけではMDGsで掲げられた貧困撲滅、乳幼児死亡率削減などの達成が困難であるとの危機感が、国際援助コミュニティの間で共有されてきたことが挙げられる。
日本の国際協力においては、予てより途上国援助における経済成長の重要性を主張し、経済インフラ整備と人材育成を得意分野としてきた。特に東アジアにおいては、これらODA事業を触媒として民間企業の活動が促進され、「東アジアの奇跡」「ジャパン・ODAモデル」とも呼ばれる成功体験を得た。その過程では、予算拡大の中でタイドを基本とするODAビジネス自体も活況であった。しかし近年は、ODAのアンタイド化が進み、予てから存在していたODAの使い勝手の悪さなども必ずしも改善されないことから、企業のODA離れが深刻化してきている。
こうした中、2003年に改定された政府開発援助大綱(新ODA大綱)では、重点課題の一つとして「持続的成長」を挙げた上、「我が国のODAと途上国の開発に大きな影響を有する貿易や投資が有機的連関を保ちつつ実施され、総体として開発途上国の発展を促進するよう努める。このため、我が国のODAと貿易保険や輸出入金融などODA以外の資金の流れとの連携の強化にも努めるとともに、民間の活力や資金を十分活用しつつ、民間経済協力の推進を図る」と、官民の協力への期待が記されている。本年1月の「国際協力に関する有識者会議」中間報告は、こうした官民連携に関する考え方をさらに深めたものである。
今日、途上国への資金フローは民間が中心となっている。また、開発援助をめぐる国際的な議論の潮流が経済成長重視に回帰してきた現在、日本は、昨今の諸外国の事例にも学びつつ、従来の制度的枠組みを越えた官民連携の姿を打ち出す必要がある。日本経団連は、こうした新しい官民連携が日本の国益にも資するものと考えており、その推進に向けて主体的な役割を発揮していく。
なお、新しい官民連携の推進にあたり乗り越えるべき課題は、いわゆる「一社支援」問題である。「一社支援」問題とは、官民連携によって個別企業・企業群の特定プロジェクトと公的資金の関係が強まることの是非を問うものである。官民連携によって高い開発効果の発現が期待できる案件が、透明性のあるルールの下で採択され、事後的な説明責任も果たされることにより、「一社支援」問題は克服しうる。その際、官民の適切な緊張関係が求められることは言うまでもない。

(1)官民連携を積極的に進める重点分野・政策

現在の国際社会ならびに日本が置かれている政治経済情勢の下、官民の連携により日本の国際的なプレゼンスを高め、かつ日本の経済社会の安定と繁栄を図る観点から重点を絞り込んだ上で、官民連携に集中的に取り組む必要がある。こうした観点から、とりわけ以下の分野・政策に関する官民連携を積極的に推進すべきである。

  1. <1> 経済成長

    1. (i) 東アジア諸国とのさらなる経済関係強化
      日本にとって東アジアが重点地域であることは論を俟たない。日本は、EPA推進による「東アジア経済共同体」を目指す観点からも、東アジア諸国との連携関係をこれまで以上に強化する必要がある。日本経団連でも2007年10月の提言「対外経済戦略の構築と推進を求める」において、東アジアの経済統合への期待を表明するとともに、ODAの戦略的活用についても言及した。
      東アジア諸国へのODAについては、援助卒業国の増加などによって全体から見た二国間ODAの比率は低下傾向にあるが、日本企業と東アジア諸国との貿易・投資関係の現状を踏まえ、より高度で深い連携強化を目指した重点化が必要である。世界銀行・アジア開発銀行・JBICの共同調査「CONNECTING EAST ASIA-A NEW FRAMEWORK FOR INFRASTRUCTURE」における試算によれば、2006年から2010年までの間、東アジアには年間2,000億ドル超のインフラ建設需要があるとされるなど、依然として潜在的な援助需要には大きいものがある。こうした電力・通信・交通などの産業・物流面でのハードインフラの整備に加えて、今後は、法制度整備・執行強化や産業人材育成など、ソフト面でのインフラ整備にも注力する必要がある。これによって、日本企業のアジアにおける事業展開がより容易になると期待される。
      例えばベトナムについては、日本の円借款によるインフラ整備に合わせ、工業団地の開発が進展した。さらに日越共同イニシアティブという両国官民によるベトナムの投資環境整備が成果をあげた。これらの相乗効果により、日本企業の進出数は着実に増加し、投資も過去7年間で7倍強に増加した。今後とも、こうした両国の良好な関係のさらなる深化にむけた官民の一層の連携が必要である。
      カンボジア、ラオスなど後発ASEAN諸国への支援も、日本にとっての重要課題である。これまで政府ベースで進んできたメコン河流域開発支援については、東西回廊の開通による物流経路の変革が発生していることなどから、狭義のODAビジネス関連企業以外の民間にとってもビジネス・チャンスが生まれる段階に入りつつある。今後は、従来以上に官民双方の関心を擦り合わせつつ、同地域における開発効果の極大化に努めることが必要である。
      加えて、今後、大きな進展が期待されるのがインドとの関係である。日印関係は、2000年8月の森総理大臣の訪印を契機に、2005年4月に小泉総理大臣、2007年8月に安倍総理大臣と歴代総理大臣が訪印するなど、両国間で「戦略的グローバル・パートナー」としてのハイレベルでの政治・経済関係強化の動きがある。インドは高い経済成長を続けており、10億人という人口もあいまって、ビジネスの観点からも注目が高まっている。日本政府は、インドに対し、貨物新線と工業団地、インランド・デポと港湾を結びつけるプロジェクト「デリー・ムンバイ間産業大動脈構想」を提案しており、同構想はインドへの直接投資やインドの輸出促進が図れる旗艦プロジェクトとして、両国経済界からの期待も高い。日印両国は、こうした大規模プロジェクトの実施などを通じ、官民あげて政治経済関係の強化に取り組む必要がある。

    2. (ii) アフリカの経済成長への貢献
      本年は、5月の第4回アフリカ開発会議(TICAD IV)、7月の洞爺湖サミットにおいて、日本を舞台にアフリカ開発の問題が議論されることになる。
      アフリカには昨今、資源・エネルギー価格の高騰や紛争の終結などにより、成長軌道に乗りつつある国もみられる。TICAD IVにおいても「元気なアフリカを目指して」が基本メッセージとされ、近年のアフリカにおける政治・経済両面での前向きな変化を後押しすべく、「成長の加速化」を前面に出した支援がテーマの一つとなっている。
      今後、アフリカを確実な成長路線に乗せていくためには、民間企業が現地に進出して雇用創出や産業多様化に貢献できるよう、周辺地域における道路などのインフラ整備から教育・医療等まで含めた幅広い事業環境整備を行うことが必要である。教育については初等・中等教育とともに、民間の人材・ノウハウを活用した職業訓練に力を入れ、その先に民間企業が就業先を用意するところまでの一貫性ある支援が期待される。これを実現するためには、プロジェクトを検討する初期の段階からの官民での対話が必須である。
      現在、日本がアフリカ開発銀行と共同で実施しているEPSA(Enhanced Private Sector Assistance)など、アフリカの民間セクター開発を包括的に支援するための新たな試みが行われていることは評価できるが、今後は、債務削減の影響もあって積極的に展開されてこなかったアフリカ諸国への円借款供与の拡大を期待する。日本経団連が2007年12月の提言「サブサハラ・アフリカの開発に関する意見」で示したように、当面の目標として、アンゴラ、ガーナ、赤道ギニア、マダガスカル、ザンビアなどへの円借款の早期開始または拡充が必要である。
      日本経団連では、昨年10月に「アンゴラ・南アフリカ経済調査ミッション」を派遣し、アフリカの経済発展の現状とともに、ポストコンフリクト国への地雷除去機を活用した官民での支援の可能性についても調査した。その結果を踏まえて、日本企業の優れた技術を活用した地雷除去から地雷除去後のコミュニティ開発支援までを、官民あげて包括的に支援することを提案したところである。こうしたタイプの支援は、アフリカの発展の基礎を作る有効な方策であり、かつ日本の強みが活かされた支援の形である。

  2. <2> 資源・エネルギー
    BRICsなど新興経済国の台頭もあり、国際的な資源・エネルギーの獲得競争は激化の一途を辿っている。天然資源に乏しい日本にとっては、資源・エネルギー確保は国益に関わる極めて重要な課題である。
    いわゆる資源国には、昨今の資源・エネルギー価格の高騰を背景に経済発展している国も多いが、社会・経済インフラが未整備であるなど長期的発展に向けた国としての基礎的な条件に欠けている途上国も多い。日本としては、エネルギー安全保障上の観点も重視しつつ、官民あげて資源・エネルギー保有国との関係強化を図る必要がある。その際は、ODAからOOF(その他政府資金:Other Official Flows)や貿易保険に至るまで公的なツールを最大限活用し、資源開発関連を含めたインフラ整備に注力すべきである。

  3. <3> 地球環境問題
    福田総理大臣が提唱した「クールアース・パートナーシップ」を契機として、日本における環境政策とODA政策の連携強化が期待される。同構想の中で創設が提起されている「JBICアジア・環境ファシリティ(FACE)」「途上国におけるクリーン・テクノロジーの活用等を支援するためのマルチ基金」の将来性も期待される。ただし、構想で掲げる「5年100億ドルの資金メカニズム」は、「気候変動対策円借款創設」などともうたわれているものの、内容や財源などについて必ずしも全貌が明らかにされていない。同構想を洞爺湖サミットの目玉の一つとして、資金的裏付けのあるものとする必要がある。
    また、CDMについては、かつては2001年11月にCOP7(国連気候変動枠組み条約第7回締約国会議)で合意された「マラケシュ合意」における「CDMプロジェクトの資金はODAの流用であってはならない」の一文によって、ODAによるCDM事業が制限的に考えられていた。しかし最近は、ODA対象国が認めた場合には、国連もCDM事業を検討対象としている。日本企業には、太陽光・風力などの再生可能エネルギーを利用した発電事業をはじめ、化石燃料起源のCO2排出削減、資源寿命の延長に資する世界最先端の多様な環境技術力が存在する。これを有効に活用し、CDM事業をはじめ環境分野における国際協力を推進できるよう、知的財産権の保護をはじめとする民間への適切なインセンティブ付与が求められる。

(2)官民連携の具体的手法例

官民連携推進にあたっては、民間企業の優れた技術・ノウハウを国際協力の場で活かすべく、期待される具体的な案件のイメージを官民で共有することも重要である。日本経団連では、以下のような事例が官民連携案件として重要と捉え、その実現に向け、今後、政府との間で議論を深めていく。

  1. <1> 民間投資案件の周辺インフラ整備
    途上国における企業活動や資源開発の周辺インフラを公的資金で整備することは、民間企業の投資意欲を促進するとともに、途上国における開発効果を高めることにつながる。過去、進出企業と周辺インフラ整備が事後的にみれば整合性をもって効果をあげた事例はあるが、当初から官民共同で全体像を描いていた事例はほとんど無い。今後はこうした事例を増やすべきである。

  2. <2> PPP(官民パートナーシップ)
    新興経済国が台頭する中で、世界のインフラ需要は膨大になっているが、こうした需要は公的資金だけでは賄いきれず、民間企業の力が不可欠である。従来は政府の役割と考えられてきたインフラ整備など、公共分野においても、官民で適切なリスク分担が行われれば、民間資金も動員したPPP(官民パートナーシップ:Public-Private Partnership)による事業の推進が可能である。例えば、民間のインフラ整備に対して公的資金を部分投入することで事業の採算性を確保するバイアビリティ・ギャップ・ファンディング(Viability Gap Funding)などの手法を活用することも期待される。
    日本においては、経済産業省が「アジアPPP研究会」でPPP推進の方法論を検討し、2005年に最終報告書をとりまとめた。また、2006年には民間企業によって「アジアPPP推進協議会」が設立され、都市交通、上下水道、IT・公共サービス、電力の各分野の調査会で、その実現に向けた研究が行われてきている。今後は、研究段階から実現段階への早期の移行が行われる必要がある。

  3. <3> 政策・制度改善に関する政府間対話・モニタリング
    民間企業進出のためには投資環境整備が重要である。その際、EPAや投資協定の交渉、日越共同イニシアティブなどで先行事例のあるところであるが、民間意見を踏まえた上で、政府間で投資環境に関する対話を行い、その改善をモニタリングする仕組みが有効である。
    こうした仕組みは、日本の今後のEPAの戦略的な推進や、WTO交渉におけるリーダーシップの発揮のためにも活用すべきである。

  4. <4> 産業人材育成
    民間には、海外でのビジネス経験が豊富な人材が多く蓄積されており、その経験・ノウハウを、途上国の産業を担う人材育成に活かすことが重要である。すでに途上国で独自に産業人材育成に努めている企業もあるが、現在のJICAの専門家派遣制度、青年海外協力隊、シニア海外ボランティアなど既存のスキームを見直すとともに、AOTS(海外技術者研修協会)やJODC(海外貿易開発協会)、さらには日本貿易会が設立したABIC(国際社会貢献センター)など企業OBを派遣する民間組織を一層活用することにより、民間の知見を活かした産業人材育成にこれまで以上に取り組むべきである。

  5. <5> CSR
    グローバルに事業展開している企業にとって、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)を充実させることは、時代の要請である。特に、本業との関わりの強い分野・地域でのCSR活動は、企業のブランド力や価値を高める意味も含め、企業戦略の一端を担うものと言える。こうしたCSR活動と国際協力の分野の間には、相乗効果を出しうる余地がある。昨今注目されているBOP(Bottom of the Pyramid : 途上国の貧困層)ビジネスについても基本的に同様の潜在可能性がある。実施機関には、CSRなどとODAの連携を促進するため、企業ニーズに合致したODA関連情報の提供や、具体的連携方策の提示を行う専門窓口の設置が求められる。

  6. <6> ファイナンス
    従来、円借款はそのスピードの遅さ、対象プロジェクトの経済性の問題等により、民間金融機関のファイナンスとの連携はほとんど見られなかった。しかしながら、ファイナンスの側面に着目すれば、円借款も開発ファイナンスの一形態であり、制度の変更等により民間ファイナンスとの連携の可能性は広がると期待される。例えば、昨年決定された「円借款の迅速化」が具体化されれば、ファイナンス面からの官民連携の可能性は高まる。更には、通貨スワップを利用した円借款のドル建て化など、民間金融機関の金融技術を活用することにより円借款の商品性を多様化することも可能である。こうした各種の方策により官民のファイナンス連携も進めるべきである。

  7. <7> IT
    MDGsにおけるゴール8「開発のためのグローバルなパートナーシップの推進」のターゲット18には、「民間部門と協力して、特に情報・通信における新技術による利益が得られるようにする。」と明記されている。日本経団連でも、2004年8月の「IT分野におけるODAの活用に関する提言」において、途上国におけるIT支援の重要性と推進にあたっての課題をとりあげている。
    途上国におけるIT環境整備は、当該国における投資環境整備であり、投資促進の必要条件である。また、ITは途上国の「良い統治(グッド・ガバナンス)」や、テロ・不法侵入への対処能力向上にも寄与しうる。日本としても優れた技術を活用しつつ、途上国のIT支援を強化するべきである。

(3)官民連携促進のための新たな枠組みの整備

官民連携案件を推進するためには、関係省庁・実施機関と経済界との率直かつ定例的な対話と、案件を発掘・実施するための仕組みづくりが必要である。こうした認識に立ち、日本経団連は以下の枠組み整備を求めるとともに、自らもその実現と一層の官民連携に向けて取り組んでいく。

  1. <1> 定期的官民対話の枠組み整備
    国際協力に関する情報交換および政策面での意見交換を官民で密接に行うことは、極めて有益である。民間が関わる国際協力は必ずしもODAにとどまらず、外務省・財務省・経済産業省・実施機関(JICA・JBICの他、日本貿易保険(NEXI)なども含む)といった幅広いメンバーと経済界との間で定期的な対話の枠組みを整備する必要がある。日本経団連は、こうした官民対話の枠組みが設置されるにあたり、経済界窓口としての機能を果たしていく。

  2. <2> 現地ODAタスクフォースへの民間企業の正式メンバーとしての参加
    企業に蓄積されている情報やノウハウをODAの案件形成に活用するとともに、ODAによる民間投資促進のための方策を検討することは、極めて有益である。こうした観点から、現地ODAタスクフォースに民間企業が正式メンバーとして参画する意義は大きい。日本経団連は、ODAタスクフォースへの民間参加を促進すべく、具体的なルールづくりなどに寄与していく。

  3. <3> 「民間提案による官民連携案件づくり」の制度化
    官民連携の効果をより高めるうえでは、民間からの主体的な提案が不可欠である。政府においては、民間からの提案を受け付け、政府として優良案件と判断した場合、政策対話を通じて相手国政府側に積極的に提案し、その実現を図る「民間提案による官民連携案件づくり」を新たに制度化することが望まれる。同制度の実現にあたっては、(i)制度の国内外への周知と対象案件の選定基準や範囲の明示、(ii)関係省庁・実施機関における案件相談窓口の設置、(iii)関係省庁・実施機関間での機密保持と情報共有、(iv)優良候補案件への公的資金による事業可能性調査(F/S:Feasibility Study)支援、(v)政府間の政策対話における日本国政府から相手国への強い推奨、(vi)政策対話における関連情報の当該企業への提供、(vii)案件決定後の一般への情報開示、が重要である。
    こうした仕組みが設けられた際は、日本経団連においても、その普及・定着に向け、民間企業への情報提供などを積極的に行っていく。

2.新JICA・新JBICへの期待

これまでの一連の政策金融機関改革の結果により、本年10月には、新しいJICAとJBICがそれぞれ発足する。日本経団連は、過去、新JICAについては主に2007年5月の「わが国国際協力政策への提言と新JICAへの期待」、新JBICについては主に2006年6月の「海外経済協力と国際金融業務のあり方に関する提言」において考え方を示しているが、発足に向けたその後の進捗状況などを踏まえ、改めて以下を提言する。

(1)新JICA

2006年11月に「国際協力機構法」の一部を改正する形で新JICAの設置が決定されたが(いわゆる新JICA法)、これは単にJICAにJBICの円借款部門が統合されることを意味するものではない。現行のJICAとJBICが各々有する知識と経験が相乗効果をもって活かされるよう対等合併の精神で出発し、より質の高い援助のできる、国際的にも発信力ある組織となることを期待する。これを実現するためには、以下の観点が重要である。

  1. <1> 貧困削減から経済成長重視への転換、民間との連携マインドの醸成
    国際的な援助潮流が、貧困削減のためにも経済成長が重要であるとの議論に回帰してきたことや、円借款という経済成長に資するツールを無償資金協力・技術協力とともに活用できるようになること、そして官民連携が重要課題となっていることから、新JICAにおいては、経済成長や民間とのパートナーシップ関係を重視する組織文化を醸成する必要がある。
    新JICAでは、無償資金協力の案件選定などにおける役割が拡大する方向である。これを実効あるものとする観点からも、新JICAには成長重視の姿勢が期待される。

  2. <2> 援助スキームの有機的連携に向けた業務の改善ならびに組織の統合
    日本経団連では、予てより円借款・技術協力・無償資金協力の有機的な連携を主張してきた。新JICA発足後、これらメニューが基本的に一つの組織で実施されることは画期的であり、この統合を実質的に意味あるものとしなければならない。「有機的連携」実現のためには、業務フローや組織の実効ある統合が不可欠である。従来メニューごとに分断されていた業務フローを改善するとともに、組織も国・地域ごとに編成し、メニューを横断した総合的支援が実施できる体制を作るべきである。

  3. <3> 円借款迅速化の実現
    日本経団連が従来から求めてきた円借款の迅速化に関しては、2007年6月、外務省・財務省・経済産業省によって「円借款の迅速化について」が公表され、案件形成段階、要請〜供与段階、事業実施段階に分けて、(1)案件形成から工事開始まで7年以上かかっている案件の期間を半減、「地球環境・プラント活性化事業等調査」にて案件形成を実施する案件はさらなる期間短縮に努力、(2)円借款要請から借款契約調印までの「標準処理期間9ヶ月」を遵守、(3)コンサルタント及び本体工事の調達に要する期間を2年以内に短縮、といった具体策が提示されている。これらの方向性が出されたことは高く評価される。あわせて、実施機関である新JICA(現JBIC)の業務改善が行われることによって、同措置が早期に現場レベルで実現されることが期待される。

  4. <4> STEPのさらなる拡充
    日本の優れた技術やノウハウを活用した「顔の見える援助」を促進する趣旨で2002年7月に導入されたタイド円借款STEPについては、今後もさらなる制度改善が期待される。具体的には、対象分野の拡大(例:本邦の技術・製品がマーケット参入しようとした場合、その優位性を実証する為のパイロットプロジェクトをODAで実施)を行うとともに、アフターサービスのようなソフト部分や、日本製品をパイロット的に導入する場合の資金を無償資金協力で提供するなど、制度の拡充や弾力的運用を検討することが望まれる。
    なお、DAC(OECD開発援助委員会)において国際的な借款のアンタイド化の議論が一層盛んに行われているが、日本政府においては、戦略的にとりわけ重要であるベトナムやインドといった国々への借款がアンタイド化されることのないように努めることを期待する。

  5. <5> 「海外投融資機能」の発揮
    新JICA法では「事業の遂行のため特に必要があるときは出資をする」旨の規定が置かれている。今後、資源開発、環境、アフリカ、PPPといった様々な分野での官民連携を推進するにあたっては、円借款・技術協力・無償資金協力という既存の3スキームでの対応では限界があり、官が従来以上にリスクをとって国際協力の場で貢献することが必要である。新JBICにおいては、ビジネスベースの償還確実性を重視した投融資事業が認められているが、これは途上国支援を主目的とするものではないため、新JICAが別の投融資機能を有する必要がある。先進諸外国は、援助機関が投融資や保証機能を活用して官民連携を進めている。例えば英国においては、英国国際開発庁(DFID:Department for International Development)が100%出資の英連邦開発公社(CDC:Commonwealth Development Corporation)が開発途上国の民間事業を支援するファンドに対して出資を行っている。また、英国・オランダ・スイス・スウェーデン各国により民活インフラ支援ファシリティであるPIDG(Private Infrastructure Development Group)も設立されて成果をあげている。日本政府には、こうした事例も踏まえつつ、新JICAの出資機能の活用を検討することが期待される。

(2)新JBIC

昨年5月に成立・公布された「株式会社日本政策金融公庫法」及び「株式会社日本政策金融公庫法の施行に伴う関係法律の整備に関する法律」において、日本政策金融公庫の国際金融部門たる新JBICは、(1)資源の開発・取得の促進、(2)国際競争力の維持・向上、(3)国際金融秩序混乱への対処、の3つの業務を担うものとされた。ここでは、民業補完の観点には留意しつつも、資源・エネルギー確保と日本企業支援にJBICの存在意義があることが明示されている。従来、官民での連携事例は、OOFを活用したものがその大宗を占めてきたが、今後とも、JBICの有する優れた知見・人材を活用しつつ、融資のみならず保証および出資機能を通じて日本政府としての顔の見える形での国際金融業務を継続するよう期待する。
なお、JBICの国際金融部門と海外経済協力部門との分離については、安倍官房長官(当時)の下で開催された「海外経済協力に関する検討会」が2006年2月にとりまとめた報告書において、「JBICの専門性維持のための一定の独立性保持、専門能力が十分発揮できるような人事・研修のあり方の検討と併せ、新JBICと新JICAとの間で既存システムの活用を含む債権管理やカントリーリスク分析等の機能を引き続き維持するとともに、連絡協議会の設置などの工夫を検討すべき」旨が明記されている。日本経団連でも2007年5月の「わが国国際協力政策に対する提言と新JICAへの期待」において、新JICA・新JBIC・NEXI等との連携強化を期待する旨の期待を表明している。こうした分離後の連携が担保されるための仕組みづくりを改めて求める。

以上

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