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自由・公正・透明な情報通信市場の実現に向けた提言
― 経済活性化と構造改革を目指して ―

III.通信・放送の融合


  1. 基本認識
  2. 技術革新を背景として、独自に発展を遂げてきた通信と放送の伝送形態は同一となり、サービス面においても通信・放送の融合分野が発展しつつある。技術革新の成果を活かした多様なサービスの提供を阻害しないよう、制度ならびにその運用を見直す必要がある。

    これまで、電波を用いるなどにより、一ヶ所から不特定多数の公衆に対して情報を一方向に送信する(1対N)ものが放送とされ、免許制や集中排除を中心とした事業面、番組規制を主とした行動面における規制が課されることにより、その公共性の確保が図られてきた。これに対して、通信は、特定者間の双方向の情報伝送(1対1)を行うため、通信内容の秘匿、通信の秘密の保護がなされてきた。
    ところが、近年、デジタル技術、光通信技術、衛星通信技術等の技術の急速な進歩やインターネットの発展等を背景として、これまで独自に発展を遂げてきた通信と放送の伝送形態は同一となり、サービス等の面で相互に共通する部分が増えはじめ、その境界が不鮮明になってきている。すなわち、従来の通信(1対1)、放送(1対N)という概念が崩れ、通信か放送かを明確に振り分けることが困難になりつつある。
    通信と放送が融合した新たな形態のサービスに対して、従来型の規制体系、特に放送に関する規制を適用すると、新しい技術がもたらす可能性は閉ざされ、情報通信ビジネスが21世紀の活力ある経済と雇用機会の創造に貢献することが困難になるおそれがある。民間事業者が技術革新の成果を活かして創意工夫を発揮でき、利用者が必要とする情報を必要とする形態で入手できるよう、現行の制度とその運用を見直すべきである。

  3. 通信・放送の融合に関する制度的枠組みのあり方
  4. 通信・放送の融合分野については、事業者の創意工夫を可能とし、利用者の利便性を高めるため、原則自由とすべきである。その際、表現の自由を確保する観点から、コンテントについては民間の自主規律と社会的責任に委ね、あくまで政府が情報内容に介入すべきではない。

    1. 放送への規制根拠について
      1. 電波の稀少性
        これまでの行政においては、電波資源が限られていることを前提として、割り当てられた電波の公共的利用を図る観点から、放送については番組準則の遵守、番組審議機関設置義務、マスメディア集中排除原則等の規制が行われてきた。しかし、そもそもあらゆる財は稀少なものである上、デジタル技術や情報圧縮技術の発展等により放送の多チャンネル化が実現し、また、光ファイバーや衛星通信等映像伝送路の容量が急速に増大しており、全体として、電波の稀少性は薄れてきている。

      2. 社会的影響力
        放送は、「公衆によって直接受信されることを目的とする無線通信の送信」であることから、その社会的影響力を勘案し、放送法により、送信内容に係る番組準則や番組審議機関設置義務、マスメディア集中排除原則等の規制が課されている。しかし、そもそも、政府規制のない新聞・雑誌・映画・書籍・市販ビデオ等のメディアと比べて、全体として、放送の方が社会的影響力が大きいことは必ずしも実証されていないが、地上波放送、BS放送については、国民の生活に根づき、言論・報道の多様性を担い、幅広く文化の発展に貢献している。また、これらの分野には国民的公共放送事業体であるNHKも本格的に参入している。その意味で、地上波放送、BS放送の社会的影響力は依然として強い。一方、近年登場している通信と放送の融合分野のメディアについては、新聞・雑誌・書籍・映画・市販ビデオ等のメディアに比べて特段大きな社会的影響力を持っているとは必ずしも言えない。

    2. 基本的枠組みの方向について
    3. このように、放送を規制する根拠とされてきた電波の稀少性ならびに放送の社会的影響力は、地上波放送・BS放送を除くと、政府規制のない新聞・雑誌・出版・映画・市販ビデオ等の他メディア以上に厳しい規制を課す必要性を立証できない。
      今後需要の伸びが期待できる通信・放送の融合分野については、事業者の創意工夫を可能とし、利用者の利便性を高めるため、基本的に自由化すべきである。重要なのは、通信・放送・新聞・雑誌・書籍・映画・市販ビデオ等を問わず、情報の流通による社会的な弊害を防ぐことである。これは、国民の表現の自由を十分に踏まえ、民間の自己規律と社会的責任に委ねることを原則として対応すべきである。

      1. 放送法の適用対象の見直し
        従来、「公衆に直接受信させることを送信者が意図していることが、送信者の主観だけでなく客観的にも認められる」ものが放送、それ以外が通信と区分されてきた。先に述べたように地上波放送、ならびにBS放送は、社会的影響力が強いため、当面、従来の制度的枠組みを維持することが妥当である。一方、それ以外の情報発信者が、放送法の規制の下に置かれると、例外的ケースを除いて、委託放送事業者としての認定、番組審議機関の設置、各種報告等が必要とされるため、事業者に大きな負担がかかり、利用者ニーズへの機動的対応の足かせとなる。その結果、新しいサービスの登場の芽を摘みかねないばかりか、通信・放送の融合の進展を遅らせ、技術革新の成果を国民がタイムリーに享受できなくなる恐れがある。
        郵政省は97年12月に「通信衛星を利用した通信・放送の中間領域的な新たなサービスに係る通信と放送の区分に関するガイドライン」を公表した。これにより、セールスレディ宅への営業情報等の配信、予備校生等の自宅に対して予備校が行う授業映像等の配信などが、放送扱いとしないことが明示された。これは一歩前進として評価できる。
        しかしながら、放送法の規制が課されない通信扱いの情報伝送を行うためには、行政に対し、個別ケース毎に事業やサービス内容を詳細に説明し、行政当局の判断により、当該ケースが通信として認められなければならない。ガイドラインで示されている受信者と送信者との紐帯関係の強さや受信者の属性の程度などの判断基準も、民間からみると不透明な面があることは否めない。
        近年の技術革新により、通信衛星やインターネット等を利用して特定の契約者のみを対象とする情報の送信が可能となっている。こうした技術革新の成果を国民が享受し、通信・放送融合サービスが発展していくためには、受信者側が自らの意思により契約を結ばなければ当該サービスを受けられない場合、ならびにコンテントの内容が暗号技術等によって秘匿され、特定の受信者しかわからない場合には、原則として放送扱いとはしないことが望まれる。とくに、当面、法律等で定められた特定の資格者の自宅等を対象とする情報伝送については、放送扱いとしないことを早急に明確にするなど放送扱いとしないサービスの類型を増やすとともに、ネガティブリスト化を目指すべきである。コンテントの内容については、国民の表現の自由を最大限に尊重する観点から、結社の自由、私的自治の原則に則り、政府が介入するのではなく、民間の自己規律と社会的責任に委ねることを原則として取り扱うべきである。
        なお、地上波放送・BS放送のデジタル化に関しては、多チャンネル化や高画質化、コンピュータとの連携、周波数の有効活用等、国民にとって大きなメリットをもたらすものであり、前向きに取り組んでいくべきである。その際、制度的枠組みのあり方や官民の役割分担に関する国民的な合意を得るため、オープンな場で議論を行う必要がある。

      2. 情報伝送路に関する枠組みの見直し
        伝送技術の発展による通信と放送の設備の共用化が進み、同一設備を通信用サービスにも放送用サービスにも利用することができるようになっているが、現行の制度的枠組みにおいては通信・放送の両サービスの提供に当たり、同一設備であっても、事業免許の取得、事業運営上の手続等において、それぞれの行政担当部局に説明し、許認可等を受ける必要があり、事業者の負担は重くなっている。
        通信衛星や光ファイバー回線設備の情報伝送路については、質的にも容量的にも通信・放送両用の設備として利用し得るため、通信用と放送用とに区分しない取り扱いをすべきである。また、周波数の割当てに際しては、現在、放送と通信とに使途が区分されているが、割り当てられた事業者が、自らの経営判断に基づき、利用者のニーズへの機動的な対応や周波数のさらなる効率利用に取り組めるよう、放送・通信のどちらかに使途が限定されない周波数割当て方式の採用を検討すべきである。さらに、今後、公正競争条件に配慮しつつ、通信事業者、放送事業者が、既存の伝送路を利用して相互参入できるようにする必要がある。

      3. コンテントに関する枠組みのあり方
        通信・放送の融合・混在型サービスの発展のためには、事業者側において、情報の利用者のニーズをとらえたコンテントを制作することが肝要である。そのためには、コンテント制作者が自主的に人材育成、施設整備など制作環境の改善に努める必要がある。また、既存コンテントの流通を促し、有効活用するため、簡易で、かつ制作者の権利が適切に保護されるような著作権処理体制を整備することが望まれる。
        さらに、コンテントの外部制作委託にあたっては、独禁法の趣旨を尊重し、公正な取引により受託者側に正当な収入と権利が確保されるような契約が行われることが重要である。
        違法コンテントについては、他のメディアの場合と同様に、厳正に刑法等の対象として取り扱う必要がある。一方、有害コンテントについては、それ自体は違法ではないものの、インターネット等を通じて不特定多数を対象とする匿名での情報発信が容易に可能となっており、これについては何らかの措置が必要である。その際、情報発信に関する新たな規制を導入することは、国民の表現の自由を損なう恐れがある点に十分留意する必要がある。放送においても、放送法で設置が義務づけられている番組審議機関も、実際には必ずしもすべての番組を事前に十分審査することは困難であり、基本的にはコンテント制作者や番組編集者の良識と自主規律によって、公序良俗の遵守や政治的公平の確保等の番組準則が守られているのが実情である。
        重要なのは、国民の表現の自由を確保しつつ受信者が不要なコンテントを受信しないことができるようにすることである。その意味で、通信・放送の融合分野については、当面は、情報発信者側における自主規律と社会的責任を促すとともに、フィルタリングソフトやチップの実用化、導入・普及を図るなど、受信者側において、受信情報を主体的に選択できる仕組み、不必要なコンテントの受信を拒絶できる仕組みを設ける必要がある。


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