Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2016年12月15日 No.3297  第19回「経団連 Power Up カレッジ」 -「Strong Will & Flexible Mind」/日本電気の遠藤会長が講演

経団連事業サービス(榊原定征会長)は11月11日、東京・大手町の経団連会館で第19回「経団連 Power Up カレッジ」を開催し、日本電気の遠藤信博会長から講演を聞いた。概要は次のとおり。

■ 人間社会の本質的課題

衛星通信技術者としての仕事を通じて、国際通信プラットフォームの急激な変遷を目の当たりにし、技術は人間の本質的な欲求の方向に必ず流れていくことを実感した。人間の本質的欲求はどこにあるか、その欲求から生ずるニーズとそれを満たすための技術が将来どう発展していくのかを常に考え続けることが、企業活動において重要である。

将来を考える大前提となるのが人口である。地球の人口は2050年には現在の1.3倍、都市人口は1.8倍になる。そうなると、エネルギー1.8倍、水1.6倍、食糧1.7倍に需要が拡大する。一方、日本は同じ期間に人口が8割以下に減少する。単純に考えれば税収も同程度減るなかで、インフラを維持し国土の安全を守っていかなければならない。当社はこうした問題を解いていくうえで、ICTが大きな力を発揮できるはずという視点で、現在の事業領域である「社会ソリューション」を策定した。

■ ICTによる価値創造

ICTを構成するのは、コンピューティングパワー、ネットワーク、ソフトウエアの3要素であり、その能力はこの20年間でも飛躍的に向上している。ICTが持つリアルタイム性、変化に対応するダイナミック性、空間の制限を超えるリモート性という機能を活かして、新しい価値を創ることがどの企業にとっても非常に重要になってくる。

ビッグデータは、大量データの処理速度が向上したことで価値が上がった。例えば、車のワイパーのオン・オフとスピードというデータを多く集めて地図に落とせば、雨がどう動いているかという情報に変わる。明示的な情報を大量に集めることで隠れていた価値が現れる。さらに、IoT(Internet of Things)によりリアルタイムにデータを収集・分析して、精度の高い将来予測ができつつある。

IoTでつながったサプライチェーンが実現すると、個々の顧客からの注文に応じて、関係する各社が最適な生産計画、販売計画、配送計画を立てることができるようになる。そのためには、おのおのの企業がネットワークのセキュリティを高めてIoTでつながる必要がある。

さらに、データを集積して分類することで情報になり、そこに規則性を発見すると知識になる、それをベースにして価値ある行動を判断する力(知性)が生まれる。それがAIである。質のよいデータを集め、質のよいアナリシスをすることが、よいAIを創るために必要であり、この両方の観点が重要である。

■ 企業の継続性を支える信頼

企業活動は無機質なものと思われがちだが、マーケットを構成しているのは人であり、企業活動とは人の欲求やその動向を探索し価値を創り上げることである。企業は多くの人が集まって1人ではなし得ない大きな価値を創って人間社会に貢献する場であり、価値創造の継続と貢献の場の継続が企業の最も重要な使命だ。そのために最も大切なのは信頼であり、倫理観である。たった1人の、たった1つの行動が企業の事業活動を止め、全員の雇用を奪うことにもなりかねない。

企業は複数の組織の集合体であり、組織は特定の目的のためにつくられる。このため組織がつくられた途端に部分最適化を求めるのは必然である。企業が大きな価値を追求するには、枠を超えた全体最適が必要になる。個別最適をしている組織の壁は壊すものでなく、個別最適を活かしつつ壁を乗り越えることで全体最適を図るべきであり、主語を「わが部門」から「わが社」に変えて組織の壁を超えて語ることができる高い目標を掲げることが必要である。

企業を継続していくうえで強い力になるのは「意志」である。企業の価値を向上しようという意志を持つ人は、人間の本質的欲求に対する感度も自らの意志に基づいた行動のなかで高められる。人が企業で社会に貢献するうえでの基本は、そうした心の持ちようである。

皆さんには、目指す価値の創造に強い意志を持ち、周囲にも目を配るやわらかい心を持つことで、大きな貢献をしていってほしい。

【経団連事業サービス】

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