Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2018年1月18日 No.3346  男性介護者の支援のあり方や課題を聞く -立命館大学の津止教授から/雇用政策委員会

経団連の雇用政策委員会(岡本毅委員長、進藤清貴委員長)は12月13日、東京・大手町の経団連会館で会合を開催し、立命館大学産業社会学部の津止正敏教授から「仕事と介護が両立するということ~家族等を介護する男性社員の現状と支援のあり方について」をテーマに講演を聞くとともに意見交換を行った。講演の概要は次のとおり。

■ 介護する男性への関心の高まり

近年は介護の専門誌だけでなく、総合誌や経済誌でも介護問題や仕事と介護の両立をテーマに特集が組まれている。背景には、世帯構造の変化や女性の社会参加の進展もあって、介護する男性が著しく増えたことがある。介護者の3人に1人は男性という時代だからこその状況だ。

■ 男性介護者の特徴

男性の大半が身を置くビジネスの世界は合理的で効率的なものの見方や考え方を常とする。一方、介護は不確定かつ流動的で、正解がなくゴールもみえない。ビジネスとは真逆の世界だ。介護の役割を担うことに対応できずに戸惑う男性は多い。

また、男性介護者は、責任感が強く弱音も吐かず、助けを求めようともせずに1人で介護を抱え込む傾向があると指摘されている。介護が始まれば、介護サービスの利用など周囲からの支援が必要となることばかりだが、助けを求めてもよいと言ったところで、容易には価値観を変えられない。

このような「男性ならでは」の特徴は、男性介護者の介護困難をもたらし孤立へと誘導する。介護虐待や心中につながるケースが多くなっている。

■ 新しい介護実態

男性介護者の現状からは、介護保険制度の施行以降に劇的に広がった「新しい介護実態」がみえてくる。ここでは3つに絞って説明する。

(1)想定外の介護者と介護のカタチ

従来の介護者の一般的なモデルは、若くて体力もあり、家事も介護も難なくこなし介護に専念できる「嫁」など同居の家族が想定されてきた。
しかし、その実態は大きく変容を遂げている。男性介護をはじめ、老老介護、遠距離介護、ダブルケアなど想定外の介護者が増えている。
介護保険によるホームヘルパーやデイサービスなどにより在宅介護が劇的に進展したが、この環境整備が在宅介護期間の長期化、介護者と被介護者の高齢化・重度化を生んだ。

(2)「ながら」の介護

介護に専念できる家族もいなくなった。子どもが実家に通いながら、子育てしながら、働きながらなど、「ながら」介護を抱える介護者が増加している。前述の想定外の介護者の出現と「ながら」介護者の拡大に、社会の意識や介護保険制度・介護支援サービスが追いついていない点が問題である。

(3)介護感情の両価性

問題ばかりでもない。介護は辛くて大変なものだが、一方で、それまでの生活では気づかなかった感情を得る機会にもなる。ケアマネジャーなど多くの専門職の助けや友人・知人の気遣いもある。「ひとりじゃない!」。自分の人生にとってプラスとなる新しい発見がある。これを介護感情の両価性と呼ぶ。

■ 介護を話せる職場づくり

働きながら介護を行う社員には、仕事との両立に向けた上司や同僚からの支援が欠かせない。とりわけ、抱え込みがちになる男性のことを考えると、社内で自分の状況をカミングアウトできる職場づくりを進める必要がある。介護セミナーの開催や社内報を活用して介護経験のある社員の実際を知る取り組みは特に有効だろう。同僚の介護経験の傾聴機会は、介護が暗いもの・嫌なものという印象を少しずつほぐしていくに違いない。介護の社内コミュニティーの形成にもつながるだろう。

介護について率直に話すことができて、周囲が当たり前のように理解し、支えあえる社会・企業になれば、介護をめぐる環境は激変するはずである。

【労働政策本部】