日本経団連タイムス No.2821 (2006年7月13日)

東北地方経済懇談会開く/「人間力の発揮を通じて時代を切り拓く」テーマに

−東北産業経済活性化、社会資本整備などで論議


日本経団連(御手洗冨士夫会長)と東北経済連合会(東経連、幕田圭一会長)は6日、仙台市内で第39回東北地方経済懇談会を開催した。同懇談会には、御手洗会長はじめ副会長ならびに常務役員、東経連会員など約230名が参加。「人間力の発揮を通じて時代を切り拓く〜活力と魅力あふれる『希望の国』づくりに向けて〜」を基本テーマに、東北産業経済の活性化や広域観光事業の展開、国際交流事業への取り組み、社会資本の整備などの諸課題について意見を交換した。

開会あいさつした東経連の幕田会長は、まず、東北地方の景況について触れ、アンケート調査等を通じて、他地域に比べて出遅れ感があったが、回復傾向がはっきりみてとれるようになったと論じた。その一方で、全国に先駆けて人口減少傾向が顕在化し、地域経済・社会への影響が懸念されると述べた。また、グローバル化に伴う国際競争や地域間競争の激化により、東北地域の企業にとっても、経営の中で、「海外進出・提携」が選択肢となっていることや、「人材育成」「新製品・新技術開発、新サービスの提供」などの中期的課題を見据える傾向がみられることを指摘した。
こうした中、2006年度は、「東北の地域総合力の発揮に向けて・東北産業経済の活性化と広域連携の推進」をモットーに、(1)産学官連携による地域産業の競争力強化と産業集積の促進(2)地域の自立と連携による経済社会の活性化(3)海外との交流・提携による事業機会の拡大支援(4)基礎的社会資本の整備・利活用の促進――を柱として諸事業に取り組んでいると述べた。

続いてあいさつした御手洗会長は、経済のグローバル化が進む中で日本が主要なプレーヤーであり続けるためには、イノベーションによって、製造業をはじめとする産業の競争力をさらに強化することが重要であると強調。そのためには、官民挙げて世界最先端の研究開発に取り組み、成果をいち早く製品やサービスとして社会に還元し、生活を豊かにする「科学技術創造立国」の実現が必要であると述べた。
また、御手洗会長は社会システムや国民意識を変え、誰もが公平にチャレンジする機会を与えられ、成果に応じて報われる公正な社会を実現する一方、競争の敗者には再挑戦の機会を与え、競争に参加できない高齢者やハンディのある人にはセーフティネットを整備する必要があると述べた。

日本経団連の今年度重要課題など

■活動報告

活動報告ではまず、日本経団連の三木繁光副会長より、日本経団連の今年度の重要課題が、(1)グローバル競争に挑む企業の力を引き出す(2)人口減少社会への対応を急ぐ(3)発展の担い手となる人材を育てる(4)財政の健全性を回復し国民の将来不安を払拭する(5)地域の自立を促し活力を高める(6)多面的な対外戦略を確立し遂行する(7)内外から信頼される公正な経済社会をつくる――の7点であることを説明した。

次に新産業・新事業の創出に向けた取り組みについて岡村正副会長より、仙台の大学、ベンチャー企業等の視察も踏まえて取りまとめた意見書「人的ネットワークと地域クラスターを通じた新産業・新事業の創造へ」4月27日号既報)の中で、成功した起業家が後進の相談・指導に当たる「メンター」制度の普及を提言しており、その組織化に取り組んでいることを紹介。

続いて、観光立国推進に向けた取り組みについて、江頭邦雄副会長より、継続審議となっている「観光立国推進基本法案」に、日本経団連の提言「観光立国基本法の制定に向けて」3月23日号既報)がかなり反映されていること、今後は同法案の臨時国会での早期成立に向けて与野党への働きかけを強めていくことを報告した。

続いて東経連側から、西井弘副会長より、地域産業の競争力強化について、これまでのベンチャー企業の育成や産学官連携の活動を再編成し、企業競争力の強化支援組織「東経連事業化センター」を今年4月に発足させたと報告。同センターの活動は、(1)マーケティング、セールス、知財戦略立案等の分野で実践的支援を行い、ビジネスのスピードと成功確率を上げていくこと(2)東北域内の大学などの優れた基礎研究を取り上げ、域内企業と協力して、高付加価値の技術や製品の開発につなげていくこと――であると説明した。

次に、東北における新たな地域戦略と観光振興について丸森仲吾副会長が報告。国の「広域地方計画」に反映させるため、6月に設置した「地域戦略検討委員会」で、道州制や広域連携を視野に入れた主要施策を検討していることを紹介した。また、観光振興については、国内向けの東北広域教育旅行誘致や韓国、台湾、中国等の近隣諸国からのニーズを踏まえた誘客を展開していると述べた。

齋藤育夫副会長は、東北地域における国際交流事業について、東経連が「北東アジア経済圏の形成」を重点課題に掲げ、特に日中両東北地方間の経済交流促進に力を入れていることを紹介。中国での事業展開に意欲や関心を持つ東北域内企業が、中国の市場性や投資環境などについての生きた情報を入手し、事業展開の可能性を高められるように「中国ビジネス現地セミナー」の開催を準備していると報告した。

少子・高齢化問題や対中ビジネスなどで意見交換

■自由討議

自由討議では、東経連側より、(1)少子化・高齢化の進行、生産労働人口の減少によって、人口増加を前提とする社会制度の見直しが必要となること(2)対中ビジネスでは、法・税・金融などの制度に問題を感じたり、情報不足を訴えたりする企業が多いこと(3)中枢港湾への集中投資が行われる一方、地方港湾の予算が削られているが、燃料費や環境負荷を考慮すると、効率の良い地域の港湾をできるだけ利用する方が良いこと(4)国際競争が激化する中、いかに強い特許を生み出し、良いビジネスモデルを構築するかが中小企業にとって重要な課題になっていること(5)燃料電池や超伝導などの先端技術については、現時点での採算性のみにとらわれず、これらを活用した環境負荷低減やCO2削減を重視した社会システムとしてのビジネスモデル構築が必要であること(6)東北地域の基礎的社会資本のうち、高速交通基盤の整備は、地域連携・地域活性化のため不可欠であり、分断されている高速道路の着工が必要であること――などの意見表明や課題提起があった。

これらに対し、和田紀夫副会長、三村明夫副会長、渡文明副会長、岡村副会長、西岡喬副会長より、(1)5月の意見書で少子化対策として企業はワーク・ライフ・バランスの考え方の下、多様な働き方の選択肢を整備・提供すること、国、地方自治体等は、これら企業に対し積極的に協力することを提言した(2)高速道路はネットワークが整備されてはじめて効果を発揮できるので、物流のボトルネックを解消するため、緊急度の高いものから重点的に整備を進めるよう訴えていく――などの日本経団連の考えを説明した。

続いて御手洗会長が総括を行い、企業が成長戦略を考える上で、海外のヒト、モノ、カネ、情報を活用することが不可欠であること、地球環境問題に対しては環境税をはじめとする規制的政策でなく、国民・企業の自主的取り組みを尊重すべきこと、地域に新しい雇用を生み出すために、各地域で県境を越えた産業クラスターを形成する必要があると述べた。
さらに御手洗会長は、企業倫理徹底を強く訴えた。

最後に幕田東経連会長が閉会あいさつを行い、懇談会で指摘された諸課題の解決に、東北各県が一体となって取り組んでいくとの決意を表明した。

【総務本部総務担当】
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