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経団連企業行動憲章 実行の手引き

9.経営トップは、本憲章の精神の実現が自らの役割であることを認識し、 率先垂範の上、関係者への周知徹底と社内体制の整備を行うとともに、倫理観の涵養に努める。


  1. 背 景
    1. 企業の活動範囲、影響力の拡大
    2.  企業の活動範囲が拡大し、市民生活の隅々にまで関わりをもっている今日、企業の行動が直接市民生活に大きな影響を与えるようになってきている。また、事業活動のグローバル化に伴い、企業に関する諸問題は単に一国の問題として片づけられなくなってきている。
       一方、高度成長から低成長時代へと移行し「量」より「質」が重んじられ、生活環境の改善が強く求められるようになった現在、単に利益を追求し規模拡大を最優先する企業行動をとっていたのでは、到底信頼される企業とはなりえない。
       つまり、社会の各層とどのような関係を築いていくかが、企業の重要な課題となっている。

    3. 続発する企業不祥事と高まる国民の不信
    4.  80年代終わり頃から、政官界の汚職事件、バブル経済の崩壊に伴う損失補填問題や乱脈融資などの金融不祥事、企業による汚職事件や利益供与事件等が続発し、企業に対する国民の不信が一気に高まった。その中で経営トップ層が刑事処分を受けたり、株主代表訴訟でその責任が問われるケースが頻発したことで、国民の企業に対する信頼はますます薄らいでいる。また海外においても、不正取引等により日本企業の国際的信用が失墜している。
      このような企業行動が起きる理由としては、
      1. 高度経済成長時代の利益追求最優先の思想が依然として残っており、それが時として、社会のルール、常識から逸脱した行動を引き起こすこと
      2. 同一業界が同一歩調をとっていれば問題は起こりにくい、といった業界の横並び意識が根強いこと
      3. 高度情報ネットワーク社会の進展に伴い、事業内容が一層専門化するなか経営トップが業務の全容を細部にわたって把握しきれないケースが増えてきていること
      などが指摘される。

  2. 基本的心構え・姿勢
    1. 自社の企業倫理確立への強いリーダーシップ
    2.  経営トップは、信用こそがビジネスの基本であることを肝に銘じ、自ら襟を正して、国民からの信頼回復に全力をあげなくてはならない。
       そのために、自ら、広く社会全体にとって有用な企業を作りあげるという高い志を身をもって示し、従業員一人ひとりにいたるまでにその精神を浸透させていくことが必要である。従業員の行動についても「知らなかった」で済ませることなく、管理者としての責任を果していく覚悟が必要である。
       そうしたトップの姿勢が、国民の信頼を受ける企業を作り上げていく。

    3. 「社会の公器」についての認識
    4.  経営トップは、企業運営にあたり、以下の事項に強く配意すると共に、企業は「社会の公器」であることを改めて認識し、公私混同を厳重に戒める。

      1. 社会のニーズを十分把握し、企業行動との調和を図る。
      2. 自己責任において行動憲章の趣旨を社内、および、子会社・グループ内企業などの関係者に周知徹底するとともに、企業行動のあり方を改めて総点検する。
      3. 従業員教育・研修を通じて、企業の社会的役割に対する認識を高める。
      4. 社内コミュニケーションが円滑となるような企業風土・体制をつくり、経営トップと従業員との十分な意思疎通を図る。
      5. 行動憲章の精神を実現していくために、社内体制を整備する。

  3. 具体的アクション・プランの例
    1. 行動規範の関係者への周知徹底
      1. 企業行動憲章を役員会、社内報等を通じて周知する。

      2. 各企業において、本憲章の趣旨を十分に理解した上で、新たな行動規範、諸規定の作成、あるいは既存のものの点検・見直しを行う。
        1. その際、経営トップ自らがリーダーシップを発揮し、機会ある毎にその重要性を訴える。
        2. 社内各部門で活発な議論を喚起する。
        3. 他社で生じた事件等が自社でも起こり得ることを想定し、参考にする。

      3. 新たな行動規範等を社内で周知徹底する。その上で、子会社・グループ内企業、場合によっては取引先等の関係者にも周知徹底する。
        1. 役員会等における周知
        2. 社内放送、社内報、小冊子、ポスター等による周知
        3. 入社式、年頭の挨拶等の社内行事の際の周知

    2. 従業員教育、研修の充実
      1. 新しく入った従業員を対象に、社会における企業の役割、企業倫理に関する集中的な研修を実施する。
        1. 企業倫理についてのディスカッション
        2. 地域行事、ボランティア活動への参加の奨励
        3. 従業員による行動規範、行動憲章遵守への決意表明

      2. 全従業員を対象に企業倫理、企業行動規範に関する教育、研修会を定期的に実施する。
        1. 行動憲章の趣旨の徹底、他企業の事例分析
        2. 従業員の転勤時を捉えた行動憲章遵守への決意表明
        3. 研修においては、外部の視点、グローバルな視点での評価を従業員が十分つかめるよう、社外の講師を積極的に活用する

      3. 全従業員を対象に企業倫理、企業行動規範に関する社外セミナーへの参加を奨励する。

      4. 関係部門を中心に、個別分野のマニュアル(独禁法遵守、企業秘密の保護、環境保護等)を整備すると共に、その周知徹底を図るため、説明会を定期的に実施する。

    3. 社内広報体制を拡充、強化
    4.  経営方針等、経営トップの意識や考え方を全従業員に迅速・的確に伝えるとともに、従業員の意見や意識を直接汲み上げ、それを経営の一助とできるような体制を整備する。

      1. 電子メール網の整備
      2. 社内懇談会の実施等による、経営トップと従業員との意思疎通の円滑化

    5. 企業行動に対する社外からのチェック
    6.  社会的なニーズ等を把握し、企業行動が社会的常識から逸脱したものとならないよう、企業行動に対する社外からのチェックを受ける。

      1. 経営トップと有識者、消費者団体等との間で、意見交換のための定期的な懇談会の実施
      2. お客様相談窓口等、消費者の声を経営に活かすことのできるシステムの設置、強化
      3. 社外監査役、社外重役等によるチェック

    7. 社内チェック体制の整備
      1. 企業倫理担当役員を任命する。
      2. 憲章実現に向けての取り組み姿勢を社内外に表明する。
      3. 組織をシンプルにし、部門間の交流を一層図ることで、企業行動に関し、相互チェックを行えるような体制をつくる。
        1. 部門間会議の場での相互チェック
        2. 管理部門と現場部門の間での意見交換の場の拡大

    8. 事業内容の専門化、高度化に伴うチェック体制の整備
    9.  先物市場や、デリバティブ等による、事業内容、商品内容の専門化、高度化に伴うチェック体制を整備、強化する。

      1. 当該部門での定期的な人事異動の実施
        特にリスク発生の可能性が高いと見られる部門には、「仕事が出来る」ということの他に、多面的な人物評価を行った上で人柄を見極め、適材を配置する。
      2. トレーダーに対する倫理教育の強化
      3. バック(事後処理にあたる後方部隊)によるフロントの監視体制の強化

    10. 倫理観の涵養と経営トップの率先垂範
    11.  役員、従業員の倫理観を涵養するために最も重要なことは、経営トップが常に自らの行動でそれを体現することである。トップの姿勢が、役員、従業員の行動に少なからぬ影響を与えることをトップは認識すべきである。

      1. 経営トップは、日常の行動においても、倫理を最重要視する。
      2. その上で、倫理の重要性を機会あるごとに社内で訴える。
【企業倫理に関する中間報告】1992年 経団連より抜粋

〔企業に求められる倫理観〕

 そもそも倫理とは、「自らの行いの善し悪しをはっきりさせる」ことである。企業倫理は、企業は「法人」として、経営者は「経営責任者」として、従業員は各自が「個人」として自らの行いに節度を保つことである。企業が法を遵守することは、当然であるが、倫理は法律を守りさえすれば良いということではない。「法を守れば何をしても良い」ということは許されないし、「法によって倫理を規定する」ことも不可能である。要するに、企業が社会の健全な発展を前提に、社会的な良識を持って行動すること、言い換えれば、道徳律を守ること、それ自体が倫理である。


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