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経団連企業行動憲章 実行の手引き

1.社会的に有用な財、サービスを安全性に十分配慮して開発、提供する。


  1. 背 景
    1. 社会的に有用な財、サービスの開発、提供
    2.  消費者のニーズは多様化、複雑化、高度化しており、多機能、高付加価値商品を求める反面、基本性能を重視したシンプルかつ安価な商品を求める動きもある。
       企業は財、サービスの提供に際して、そのような多様な消費者ニーズに応えることが必要であるが、それだけでなく、企業の社会的な影響力が大きくなった今日においては、社会的な観点からみてその財、サービスが有用であるかどうかを判断することも必要である。
       例えば、省エネルギー、省資源、環境保全を同時に達成できるような、地球に優しい技術・商品を開発することは、消費者ニーズに応えるのみでなく、社会的観点からみても有用である。逆に、インターネット上で青少年に問題が多いと思われるような情報を流すことは、市場でのニーズがあったとしても社会的に見れば望ましくない。

    3. 製造物責任法(PL法)の制定と安全性の確保義務
    4.  消費者保護の気運の高まりの中で、いわゆる「製造物責任法」を制定、運用してきた米国、欧州諸国はもとより、アジアなどの多くの国においても製品事故における被害者救済を趣旨とする法制度が制定される趨勢にある。
       日本においても95年7月1日より製造物責任法(通称PL法)が施行され、製品の安全性に関する欠陥により発生した損害については、メーカー側の過失を証明しなくても、事故原因と欠陥との間に因果関係が証明されれば、企業側の賠償責任が求められることになった。

    5. 機密保持、知的財産権の保護
    6.  一方企業は、グローバルコンペティションの中で、常に革新的な技術、商品を開発、提供していく使命を負っている。
       その際、新技術に関する情報、経営戦略などの有用な機密情報の財産的価値を尊重し、不正に入手・利用しないことは、企業間に適正な競争関係を生む前提条件である。
       機密情報のみならず、特許や著作権などを含む知的財産権を尊重し価値を認めることが重要であり、そうすることによって、技術移転や有用な技術の流布が図られる。それが、産業の発展や消費者利益にも結びつく。

  2. 基本的心構え・姿勢
    1. 企業は社会的ニーズを正しく把握し、消費者に受け入れられる品質と、コストを追求した、社会にとって有益な商品・サービスを提供する。

    2. 安全性に十分配慮して、商品・サービスを開発、設計、製造し、提供する。

    3. 常に新技術、新商品の開発に努め、また技術情報、特許、トレード・シークレットなどの知的財産権を重視かつ尊重し、新技術を通じて優れた商品、サービスを消費者に提供する。

    4. 新技術、新商品の開発力を維持するため、創造力豊かな人材の育成、自由に物の言える企業風土の醸成に努める。

    5. 有用な財、サービスを安全性に十分配慮して開発、提供するためには、国内だけではなく、広く国際社会を視野に入れなくてはならない。そのために、各国の法規を遵守するとともに、社会、文化等の理解を深める。

  3. 具体的アクション・プランの例
    1. 消費者、利用者のニーズに応える商品、サービスの提供
    2.  多様化する消費者、利用者のニーズに応え、常に時代を先取りする新しい商品、サービスを開発、提供していくためには、市場の声を常に適切に把握する必要がある。

      1. 消費者、利用者のニーズ、苦情に関する窓口の整備
         消費者、利用者のニーズや苦情に対する窓口の整備を図り、消費者、利用者が気軽に問い合わせできる仕組みを作る。
        1. 「お客様相談窓口」の設置

      2. きめの細かい従業員教育
         窓口があってもその応対が不適切なものであっては、消費者、利用者の理解は得られない。苦情は丁寧な応対でその多くが解決するとも言われており、きめの細かい適切な応答ができる従業員教育を実施する必要がある。
        1. きめ細かい従業員教育、研修制度の実施
        2. 応答マニュアルの整備

      3. 社内へのフィードバック制度・仕組みの整備
         消費者、利用者のニーズを把握してもそれが開発、企画担当者に伝わらなければ情報を活かすことはできない。そのためには、それらの情報を社内の開発・設計部門、企画担当部門にフィードバックできる制度・仕組みを整備することが必要である。
        1. 提案制度の充実
        2. 開発部門と販売部門の連携強化

      4. アフター・サービス、ユーザー・サポート体制の充実
         新しいニーズの把握だけではなく、提供済の商品、サービスについても事後のケアを行うことが大切である。売りっぱなしではなく、サービスフォロー体制の整備、充実をはかることが消費者・利用者の真の満足を勝ち取る鍵である。
        1. サービス・マニュアルの充実
        2. サービス・ネットワークの整備充実
        3. ユーザー・サポート体制の整備充実

    3. 商品、サービスの安全性に十分配慮した開発、提供
    4.  商品、サービスの研究、開発段階、さらには流通段階においても安全性を最大限追求する。

      1. 商品、サービスの研究、開発段階での安全性への一段の配慮
      2. 安全性向上のための技術研究、開発の一層の促進
      3. 安全性チェックのための独立部門の設置
      4. 新商品、サービス開発への創意と安全性の確保との調和

    5. 事故、トラブルの未然防止
    6.  以下のような措置により事故、トラブルの未然防止に万全を期す。

      1. わかりやすい説明の徹底
         取扱説明書等による説明が不適切であったり、あるいは販売員による商品の説明が不十分であったりして、購入した商品、サービスの正しい使い方やサービス内容が消費者・利用者に理解されなければ、無用のトラブルや予想しない事故を引き起こしかねない。
         またビジュアル世代の増加を視点に入れて、商品の取扱いやサービスの説明を、わかりやすく読みやすくすることも重要である。
        1. ビジュアルな情報等で視覚に訴える説明書の作成
        2. 商品、サービスを販売する際の危険性も含めた適切な説明

      2. 安全で正しい使用法についての表示
         PL法は、安全設計が基本であることはもとより、本来してはいけないこと、正しい手順で行うべきこと、使い方に潜む危険等を正しく表示しないことによっても、商品提供者に責任が生ずることを規定している。従って商品の安全で正しい使い方の表示を充実することが、必須の責務となっている。
        1. 危険な取扱いに対する「注意」「警告」「危険」の表示の充実

      3. 商品、サービスの安全性に関する社内教育の徹底

    7. 事故、トラブルへの迅速な対応
    8.  万一、提供した商品、サービスに関する事故、トラブルが生じた場合は、被害が拡大しないよう、迅速な対応を行う。

      1. 欠陥商品への迅速な対応
         商品に予見不可能な欠陥が発見された場合には、その情報を速やかに消費者に伝え、迅速な対応をとることが必要である。それが被害の拡大を最小限に止め、企業への打撃を極小化するとともに、商品提供者への信頼感を増すことにつながる。事情によっては商品の安全性に関する情報を開示し、被害を食い止めなければならない。
        1. 必要に応じ、リコール等を実施

      2. 事故、トラブル例に関するデータの蓄積
         その時点での科学的知見によっても、避け難い商品上の瑕疵が生ずる可能性はある。大切なことは同じ過ちを繰り返さないことであり、それが後世に正しく伝承されて、より良い次の商品作りに活かされることである。
         従って、事故、トラブル例のノウハウを蓄積し、これを財産としていくことが重要である。
        1. 事故、トラブルの原因究明と、ノウハウの蓄積
        2. 事故、トラブル原因等に関する研究会の実施

    9. 事故、トラブルの再発防止
    10.  事故やトラブルの原因に関する情報を再発防止に役立てなければ、宝の持ち腐れとなってしまう。商品の安全対策が、上流の開発、企画に活かされる仕組み、体制の整備が大切である。

      1. 事故、トラブル事例の開発、企画担当者へのフィードバック体制の確立

    11. 機密情報、知的財産権の保護
    12.  新技術の開発にあたっては、高度な技術情報、経営戦略情報などの有用な機密情報の財産的価値を尊重し、不正に入手・利用しないことが企業間の正しい競争関係、あるいは協力関係を生み出す。
       そのような機密情報を不正に入手し、自己、あるいは他の企業、他国政府などの利益のために利用、横流しするようなことは絶対してはならない。
       また、秘密情報のみならず、特許、著作権、商標権などを含む知的財産権を尊重し、価値を認めることが重要であり、安易な物真似は経済の適正な発展の妨げとなる。

      1. 他社、他人の知的財産権の侵害を予防するための処理手順の制定
      2. 他社、他人の機密情報の取扱い、処理手順の制定およびその啓蒙

    13. 起業家育成のための社内制度の改革
    14.  社会的に有用な商品の開発には、新しい感覚を持ったベンチャー的発想の企業内起業家を育成することが必要であり、そのためには、各種社内制度の改革も有効である。

      1. 企業内公募制度
      2. ベンチャー企業への従業員の出向制度

    15. 各国の安全基準に適合した有用な財、サービスの提供
    16.  世界各国の安全基準、PL法等は必ずしも同一ではなく、それぞれの歴史・文化等により異なる。それぞれの国の安全基準に適合した「社会的に有用な財、サービスの開発、提供」に努めなくてはならない。

      1. 事業対象となる各国における製品安全に関わる法制度(特に安全規格類、製品事故時の被害者救済を目的とする法)の十分なフォロー体制の整備
      2. 製造業においては、品質管理部門、海外事業部門、法務部門との密接な連携体制の確立

【関連資料】
「製造物責任に関する自主的ガイドライン」 1992年 経団連
「製造物責任問題について」 1992年 経団連
「新産業・新事業創出への提言―企業家精神を育む社会を目指して―」 1995年 経団連

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