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経団連企業行動憲章 実行の手引き

6.従業員のゆとりと豊かさを実現し、安全で働きやすい環境を確保するとともに、従業員の人格、個性を尊重する。


  1. 背 景
    1. 従業員のゆとりと豊かさの実現
      1. 従業員の価値観の多様化に対応して、個性の発揮や自己実現を可能とするとともに、ゆとりや豊かさを体現できるような、多様な雇用・勤務形態、評価システム、休暇制度などが求められている。

      2. 今後の労働力の高齢化、流動化に向けて、定年制の延長や従業員の自立を支援するシステムの構築が必要となってきている。

    2. 安全で働きやすい環境の確保と、従業員の人格、個性の尊重
      1. 高齢化・少子化に対応して、高齢者が安心して働ける職場環境の提供が期待されている。

      2. 企業活動のグローバル化に伴い、日本的経営、人事システムを国際的視野から見直すことが求められている。

      3. 高度情報化、サービス産業化などの産業構造転換に対応して、企業は、事業構造の転換や新市場開発、新事業の創出に努めなくてはならない。
         これに従業員が果敢に挑戦していける職場風土を醸成するためにも、自由闊達で創造性の発揮できる人事制度や職場環境を整備していくことが求められている。

      4. 企業は社会的存在として、女性、高齢者、身障者の雇用拡大など、従業員の公平・平等な処遇を行う必要がある。

  2. 基本的心構え・姿勢
    1. 従業員のゆとりや豊かさを体現できる仕組みづくり
    2.  従業員が「社会人間」としての自己を確立し、生活の中に会社生活を正しく位置づける観点からも、労働時間短縮を着実に進める。
       それとともに、フレックスタイム制や在宅勤務の普及、長期休暇の取得など、従業員の時間感覚に配慮した制度を一層拡大していく。

    3. 快適で安全な職場環境づくり
    4.  高齢者、女性、障害者の知恵、経験、能力と意欲を活用した多様で柔軟な雇用形態を用意する。そのため、業務設計を見直すとともに、育児、介護、ボランティアの休暇を円滑に取得できるようにする。
       また、企業活動の国際化に対応して、現地における従業員の安全性の確保や危機管理体制の確立に努める。

    5. 人権の尊重と公平・平等な処遇
    6.  従業員の人格、特に人権を尊重する。この目的のため、女性、身体障害者の雇用拡大など、公平・平等の視点から雇用システム、人事システムを見直す。
       また、企業の国際化の進展とともに、企業の海外進出、海外企業との合弁・提携の増加、さらには今後、日本国内での外国人雇用の拡大が予想される中で、人権の尊重や公平な処遇、諸制度の透明性の確保など、人事制度や雇用制度も国際的視点から見直す。

    7. 従業員の個性の尊重
    8.  企業あっての従業員という意識を改め、従業員の個性を尊重し、その中で従業員の主体性と創造性を最大限発揮させることにより、企業も発展するという意識に立つ。そのための企業風土づくりに努めるとともに、人事制度、人材育成プログラムを開発する。
       一方、日本的経営の特長である情報共有の仕組み等は維持していく。

  3. 具体的アクション・プランの例
    1. 従業員のゆとりや豊かさを体現できる仕組みづくり
      1. 多様な勤務形態、就労形態を開発、導入する。
        1. フレックスタイム制、在宅勤務制、サテライト・オフィス

      2. 多様な休暇制度を開発、導入する。
        1. リフレッシュ休暇、メモリアル休暇制度
        2. 出産・育児・介護休暇制度、育児のための遅刻・早退制度
        3. ボランティア休暇制度

      3. 会社中心主義の社内慣行や休日社内行事を見直す。
        1. サービス残業や過労死の排除
        2. 休日の社内行事の見直し

    2. 快適で安全な職場環境の実現
      1. 職場の安全・衛生への配慮〔労働安全衛生法の遵守〕

      2. 女性、高齢者、障害者、外国人等が十分に能力を発揮できるような環境の整備
        1. 女性〔例:社内託児施設の整備〕
        2. 高齢者、障害者
          〔バリア・フリー、ノーマライゼーションの促進、障害者の雇用促進等に関する法律で定められた雇用率(従業員数の1.6%)の達成、等〕

      3. 海外における従業員の安全確保とリスク管理
        1. 海外出張・赴任前の危機管理に関する研修、セミナーの実施
        2. 海外勤務における危機予防・管理マニュアルの作成
        3. 緊急事態発生時の対応・処理マニュアルの作成と社内体制の確立
          (経営トップによる記者対応、人命尊重の基本方針等)
        4. 危険地域、事態発生に関する予告情報サービスの実施

    3. 人権の尊重と公平・平等な処遇
      1. 人権の尊重と公平な処遇
        1. 性別、年齢、国籍、人種、民族、信条、宗教、社会的身分、身体障害の有無などによる差別の禁止
          1. 雇用機会均等法への対応による女性の雇用拡大
          2. 障害者の法定雇用率の達成
        2. セクシュアル・ハラスメント〔後掲〕、マイノリティ問題への配慮
        3. エイズ患者に対する配慮〔後掲〕
        4. 社員一人ひとりが人権問題について正しく理解し差別の本質を認識するよう、社内で繰り返し人権啓発研修を実施する。
          〔参考〕
          世界人権宣言では、基本的人権は以下のようにうたわれている。
          【世界人権宣言 第1条】1948年12月10日 国連第3回総会にて採択
           すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ、尊厳と権利とについて平等である。人間は、理性と良心とを授けられており、互いに同胞の精神をもって行動しなければならない。

      2. 人事、雇用制度の透明性の確立
        1. 人事、雇用、評価制度の従業員への情報公開
        2. 節度ある採用活動
        3. 正社員とパート、アルバイト、嘱託・派遣社員とのバランスのとれた処遇

          〔セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)への配慮〕
          1. セクハラの定義
             米国公民権法第7章(人種、性別、国籍、宗教等による差別を禁止した法律)違反となるセクハラを米国雇用機会均等委員会(EEOC)は以下のように分類し定義している。
            1. 代償型(Quid Pro Quo)
               上司、管理職、同僚、または顧客が、従業員の望まない性的な誘いを行い、それに応じるかどうかが、当該従業員の人事上の処遇に影響を及ぼすケース
            2. 働きにくい職場環境(Hostile Working Environment)
               繰り返し行われる性的意味合いを持つ行為が当該の従業員にとって歓迎されないものであり、それによって職場環境が職務遂行を阻害する程、威圧的、敵対的、不快になるケース

          2. セクハラ予防のための企業側の対応
            1. 職場におけるセクハラは容認しないという方針を経営トップ自らが打ち出す
            2. セクハラに対する方針を職場で周知徹底し、社内にセクハラは容認されないという雰囲気を醸成する
            3. 管理職、従業員を対象にどのような行為がセクハラとみなされるか、またセクハラを受けた場合、どのような救済処置があるかについての研修を実施する
            4. セクハラの苦情が出されたら、社内で迅速に調査し、必要な処置がとれるような苦情処理手続きを制定する

          〔海外事業活動関連協議会 機関誌 "Stakeholders" 第34号等より〕

          〔エイズに対する配慮〕
          1. 企業側の対応方針
            1. トップがエイズ問題の重要性を自覚し、正確な事実認識を持つ
            2. エイズ・ポリシー(エイズによる雇用差別を行わないという経営方針)を明示する
            3. 「差別」(行為・言動、用語、表現等)に細心の配慮を行う
            4. 人事、職務規定等を整備する
            5. 守秘義務規定と個人情報取扱い規定を整備する

          2. 業務管理体制の確立
            1. 感染・患者従業員の申告受付に関する対応者の確定
            2. 感染・患者従業員の接遇(プライバシーの確保、人事上の取扱い)
            3. 医学的評価(健康状態の確認等)と職務内容の検討
            4. 各種給付、支援(病休取扱、疾病手当て、カウンセリング等)の検討
            5. 管理職、従業員に対する教育(人権尊重等)

          〔『危機管理入門ハンドブック』より〕

    4. 従業員の個性や主体性、創造性を引き出すため人事・雇用制度の改革
      1. 企業風土の転換
         従業員が失敗をおそれずに提案、トライでき、失敗しても再びチャレンジできるような企業風土作りを、経営トップのリーダーシップに基づいたCI(コーポレート・アイデンティティ)運動等を通じて行う。

      2. 多様な人材の能力や個性に応じた採用方法の開発、実施
        1. 採用方法のオープン化、リクルーター制の縮小、大学名不問の採用
        2. 通年採用、経験者(中途)採用の拡大
        3. 求める人材の明確化、個人の能力を適切に評価できる採用方法の工夫

      3. 弾力的で複線的な人事制度、多角的な評価システムの構築
        1. 複線的人事システムの構築
           従業員が自らの意欲、志向に基づいてキャリアを組み立てることができ、その中で能力、個性を最大限発揮できるような、弾力的で複線的な人事システムを構築する。例えば、新たな専門職位の設置、社内公募制、自己申告制の導入などを行う。

        2. 能力、実績に基づく評価システムの確立
           年俸制、能力査定昇給への一本化、抜擢人事の導入など、能力、実績に基づく評価システムを確立する。但し、直属の上司のみでなく他部門からの評価も受けるなど評価の客観性に努めることが、不祥事防止のためには不可欠である。

      4. 従業員の自立性、主体性を重視した人材育成プログラムの整備
        1. 人材育成プログラム、自己啓発支援制度の拡充
        2. 企業内ベンチャー、従業員ベンチャーの育成・支援制度の創設
        3. 高齢者の再配置、転属、転社、自立などへの教育・支援制度の開発、実施
        4. 従業員の生涯設計、ライフプランづくりへの支援システムの開発、実施

【関連資料】
『魅力ある日本の創造』〔前掲書〕
「創造的な人材の育成に向けて―5つの提言、7つのアクション」1996年 経団連
「男女が会社ではつらつと働くための会社の人たちの考え方―女性の社会進出に関する部会報告―」1995年 経団連
海外事業活動関連協議会 機関誌 "Stakehoders"
『危機管理入門ハンドブック』1996年 日本在外企業協会

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