Action(活動) 週刊 経団連タイムス 2023年2月16日 No.3579  春季労使交渉・協議の焦点〈3〉 -円滑な労働移動

春季労使交渉・協議が本格化するなか、5回にわたり、同交渉・協議の焦点等を解説する。3回目は、円滑な労働移動を取り上げる。

Q 経団連が円滑な労働移動の必要性を呼びかけている背景を教えてください。

A 日本経済の持続的な成長には、グリーントランスフォーメーション(GX)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の推進による産業構造の変革と、それに伴う成長産業・分野等への円滑な労働移動を通じたわが国全体の労働生産性の向上が不可欠です。硬直的とされる労働市場を円滑な労働移動に適したかたちへと新たにつくり上げるとの気概をもって、働き手・企業・政府の各主体が取り組んでいく必要があります。

Q 働き手にはどのような取り組みが期待されますか。

A 社内での異動や転職を含めて、自身のキャリアを主体的に考えることが期待されます。加えて、その実現に必要な能力・スキルを習得するために、職業能力の再開発・再教育であるリスキリングを含むリカレント教育を通じて、自己啓発や能力開発、スキルアップに継続的に取り組むことで、社内外で雇用され得る能力である「エンプロイアビリティ」を向上させていくことが望まれます。

Q 働き手に対する企業の支援策を教えてください。

A まず、前提として、働き手が主体的に自己啓発等に取り組む際の参考となるよう、自社が求める能力やスキル、人材像などを明確に示すことが必要です。そのうえで、例えば、働き手の主体的なキャリア形成意識の醸成のきっかけにつながり得る取り組みとして、キャリア形成面談の実施、副業・兼業の促進、社内公募制・フリーエージェント制度の導入・拡充などが挙げられます。
また、能力開発プログラムの提供や費用面での支援に加え、時短勤務制度や「企業版サバティカル休暇」といった自己啓発のための休暇・休職制度の導入・拡充など、時間面での支援も有効といえます。

(図表のクリックで拡大表示)

Q 制度面でさらに整備を検討すべき施策はありますか。

A 例えば、「採用方法の多様化」が挙げられます。これは、多様な人材の獲得につながるだけでなく、労働移動における受け入れ側の整備となり、円滑な労働移動に資するといえます。新卒一括採用を中心としつつ、経験者採用や通年採用、職種別・コース別採用、カムバック採用など、さまざまな選択肢のなかから自社に適した採用方法を検討・活用する必要があります。
また、特定の仕事・職務、役割・ポストに人を割り当てる「ジョブ型雇用」は、職務遂行に必要な能力等が明確になり、働き手がキャリアや能力開発の目標を立てやすくなるとともに、社外の人材を受け入れやすいことから、円滑な労働移動にも資するといえます。

Q 政府に求められる役割・取り組みは何ですか。

A 働き手が安心して労働移動ができるよう、政府には、雇用のマッチング機能の強化とセーフティーネットの再整備が求められます。
雇用のマッチングについては、全国にネットワークを有する公共職業安定所(ハローワーク)の機能を一層強化することとあわせて、複数の省庁が行っている大企業と地方の中小企業の人材マッチング事業を積極的に活用することが重要です。
円滑な労働移動の前提ともいえる雇用のセーフティーネットでは、現行の「雇用維持型」から、雇用のセーフティーネットとリスキリングを組み合わせた「労働移動推進型」への移行に向けて、早急に検討を進めていく必要があります。そのためにも、コロナ禍における雇用調整助成金等の大幅な活用によって危機的状況に陥っている雇用保険財政の再建が不可欠です。その道筋を明確にするべく、政府には早期に検討することが強く求められています。

【労働政策本部】


春季労使交渉・協議の焦点(全5回)
〈1〉連合の春季生活闘争方針
〈2〉経営側の基本スタンス
〈3〉円滑な労働移動
〈4〉エンゲージメントと働き方改革
〈5〉労働時間制度