PFIの拡大に向け抜本的な改革を求める

2007年12月18日
(社)日本経済団体連合会

1.PFI推進の今日的意義

(1) PFI導入の経緯

PFI(private finance initiative)は、1980年代、英国においてサッチャー政権のもとで検討が進められ、1992 年、財政赤字を削減しつつ公共投資の水準を維持するという課題への対応を目的として導入されたものである。わが国でも、民間の資金、経営能力及び技術的能力、創意工夫等を活用して公共施設の建設・維持管理・運営等を行う社会資本整備の新しい手法として注目され、1999年7月には、「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(PFI法)が制定され、制度化が実現した。
これを受けて、2001年6月には、文部科学省、会計検査院庁舎の建替えをPFIで行う中央合同庁舎第7号館整備等事業が都市再生本部により都市再生プロジェクトに選定されたほか、2002年5月には、衆議院赤坂議員宿舎整備事業が国によるPFIの第一号案件に選定された。以来、本年4月に運営が開始された「美祢社会復帰促進センター」など、8年間で約290件(実施方針公表ベース)の案件が形成された。

(2) PFIを取り巻く環境変化と制度改善の必要性

PFIがわが国に導入されて以来、いわゆる施設整備型事業を中心に経験が蓄積されてきた。また、病院、刑務所、廃棄物処理施設などの超長期にわたる運営を民間事業者が手掛ける運営重視型事業も実現している。
しかしながら、PFIをめぐっては、要求水準とのバランスを欠く無理な予定価格の設定、過度な価格競争の醸成、民間への不適切なリスク移転、選定基準の不透明性、要求水準のあいまいさ、選定結果に対する不十分な情報開示などのほか、そもそもPFIそのものが現行の一般競争入札制度になじまないといった問題がある。そのため、PFIは、事業費ベースで公共事業費全体の3%にとどまっており、PFIに対する民間事業者の積極姿勢が薄れてきていることから、現状を放置すれば、わが国のPFIの先細りは避けがたい。
現在、わが国では、人口減少社会の到来を目前に控え、社会資本に関する整備・維持・更新の推進が喫緊の課題となっているが、依然としてGDPを大幅に上回る長期債務を抱えており、国・地方を通じて公共事業費の大幅な拡大は困難な状況である。さらに、財政難に陥った地方自治体においては、医療・福祉などに関する必要最低限の公的サービスの提供すら困難となる事態も起こりつつある。
今日、地域においては、それぞれの自治体が自らの知恵と責任において、自立的に発展、成長していくという戦略を掲げることが強く求められる。重要なことは、国・地方間の役割分担を抜本的に見直すことにより、行政の無駄を省き、民に委ねるべきは民に委ねるとともに、国・地方の事務・事業や人員の重複を排除し、小さくて効率的な地方自治体を確立することである。
さらに、国・地方を通じた財政構造改革が急がれる中で、いかにして地域活性化を実現し新たな雇用を創出するか、さらには公共サービスの質的維持・向上を図っていくか、といった課題も重要になっている。しかしながら、ひと口に公共サービスといっても、国民の価値観が多様化した今日では、求められるサービス内容は千差万別である。そのため、従来のように行政がサービスの内容を独自に決定し民間事業者に指示するということでは、利用者のニーズに応えたことにはならない。また、多様な社会的課題を解決するための方策の一つとして、PFIは依然有効な手段になりうるものと考えられ、少なくとも公共事業費の10%程度を目標としてPFIを拡大していく必要がある。
したがって、今後ともPFIを継続的かつ安定的に発展させていく観点から、PFIが果たすべき役割の多様化や、事業を取り巻く環境の変化を踏まえ、今一度、原点に立ち返る必要がある。その際、特に費用の削減だけではなく、発注者が支払う金額に対して、事業者側がどの程度までサービスの質的向上を実現できるかという視点を重視して、利用者たる国民、発注者たる国・地方自治体ならびに事業者たる民間企業のすべてにとって魅力あるスキームを形成する必要がある。そのため、今後、国において制度の抜本的改革に向けた検討が進められるべきであると考える。

(3) 参考にすべき英国の取組み

制度の抜本的改革に当たり、英国において推進体制や関連法制度の整備が当時の大蔵省の主導により行われたという点を参考にすべきであろう。
まずPFIの推進体制については、大蔵省は、当初、一定金額以上の公共事業をPFI方式で検討させる「ユニバーサルテスティング」方式 #1 を採用するとともに、PFIの実務支援を行う組織(PUK;Partnerships UK、4Ps;Public Private Partnership Programme )を設立するなど、強力な推進体制を整備し、PFIの活用に努めたという経緯がある。他方、関係法制度の改正をはじめとする環境整備についても積極的な改善を進め、結果として、2007年3月現在で契約事業数は、814件にまで達している。
また、英国では入札制度に競争的対話方式が導入され、案件形成に向けた実質的な話し合いが発注者と事業者との間でなされている #2

(4) PFIの導入促進に向けた日本経団連と政府の取組み

日本経団連では、この間、(1)社会資本の効率的な整備手法の導入とそれにともなう公共サービスの質的向上、(2)民間の事業領域の拡大と経済活性化、(3)小さな政府の実現、といった観点から、3次にわたりPFIに関する提言を取りまとめてきた(1998年9月2002年6月2004年1月)。その中では、特に、事業者選定手続の確立、リスク分担の明確化、PFI法と公物管理にかかわる諸規制・個別事業法との整合性確保などを中心に課題を整理し、PFI本来の特長が十分活かされ円滑に事業が推進されるよう、その改善方策を政府・与党に働きかけた。
これに対して、二度にわたるPFI法改正(2001年12月、2005年8月)が行われたほか、政府では、内閣府PFI推進室が中心となり、各種ガイドライン(事業実施プロセス、リスク分担、VFM(value for money)、契約、モニタリング)の策定や民間事業者選定と協定手続きに関する関係省庁申し合わせ(2003年3月、2006年11月)などを行い、PFIの事業環境を改善する法制度の整備に努めている。
しかし、その趣旨が発注者たる行政及び事業者たる民間企業の双方に必ずしも浸透していないことに加え、事業によっては、その内容が単なる建設費の繰延べにすぎないものとなっているものも見られるなど、事業者の創意工夫が十分に発揮されているとはいえない状況である。他方、PFI法附則第2条では、少なくとも3年ごとにPFI事業の実施状況に検討を加え、必要な措置を講じることが定められているが、2008年はその時期に当たることから、政府の民間資金等活用事業推進委員会において、本年11月15日に報告「真の意味の官民のパートナーシップ(官民連携)実現に向けて」がまとめられたところである。同報告書は、PFIで民間事業者が直面する問題の実態も考慮された内容となっており、この方向で改革が推進されることが期待される。経団連としては、こうした政府の努力を評価しつつも、中長期的な対応をも含む課題を改めて整理し、ガイドラインの改定などを通じて早急に対応すべき課題に加え、法制度の抜本的な改革が望まれる課題を提示することとした。

2.具体的な改革の方向

(1) ガイドラインの改定などを通じ早急に対応すべき課題

PFIの円滑な実施のためには、PFI法と関連法制度との整合性の確保を含む対応が必要である。これと同時に、運用上の課題や問題点に関しては、ビジネスの実態を考慮しつつ、ガイドラインに当該問題に関する内容、指針をより明確に示すべく必要な改定を行なうとともに、その趣旨を当事者に徹底することが不可欠である。

  1. 要求水準の明確化・定量化
    PFIの要求水準は、コスト計算や事業開始後の事業評価時の基礎となることから、発注者と事業者との間でサービスレベルについて合意がなされるよう、あらかじめ明確な設定が不可欠である。しかしながら、これまで入札条件で提示されてきた要求水準は抽象的で、その多くは事業者側で具体的な業務内容を想定できないケースが多い(例:支障なく業務が運営されることなど)。
    したがって、入札条件には、できるだけ客観的、具体的にサービスレベルを説明した要求水準を記載すべきである。それに加え、落札後も契約締結までに、発注者と事業者との対話により可能な限り具体化、数値化を進めるべきである。
    しかしながら、その一方で、要求水準の詳細な記述を求めることで、仕様発注に近づくという問題はあるが、要は発注者と事業者とが対話を行い、双方の認識の違いに基づく事業開始後の混乱、不満、落差などを解消することが必要である。加えて、発注者・事業者間の対話において、事業者によるカウンタープロポーザルを認めるべきである。

  2. 発注者・事業者間の適正なリスク分担
    これまでのPFIでは、発注者が事業者に対して、民間側においてコントロールできない不可抗力リスク(暴風、豪雨、地震、暴動、あるいは大幅な経済情勢の変化など)や、裁量権がない業務の事業リスク(公共側が拠出する人材のマネジメントの責任など)などを負担させる事例が見られる。事業者側に過度にリスク負担をさせることは、リスク回避のためのコストが委託料に上乗せされ、事業全体のコスト上昇につながるほか、リスク負担能力を超える場合には事業破綻につながりかねない。
    発注者・事業者間のリスク分担については、業務裁量権の所在や、保険料などの民間側で発生するリスク回避コストまで含めた総コストを勘案して、最適かつ公平なリスク管理の観点から、具体的かつ詳細なリスク分担事例を契約に盛り込むべきである。
    一例として、建設期間中の物価上昇リスクが挙げられる。PFIは、通常、事業者選定の後に設計作業が必要であり、施設完成までに通常の建設工事より長い時間を必要とする。特に大型案件の場合には、この傾向が顕著である。多くの事例では、建設期間中の物価上昇リスクは事業者が負うとされているが、著しい物価変動の場合には協議とし、発注者・事業者間で改めてリスクをシェアする仕組みが用意される必要がある。

  3. PFI事業者選定手続きの透明性の確保・向上
    PFI事業者の選定に当たっては、個別案件毎に設置される審査委員会の決定が最終決定となるケースが多い。しかし、審査過程では、審査・選定基準が不透明で選定の結果に疑義が生じるほか、審査委員が専門外の分野も審査するケースが見受けられる。
    こうしたことから、基準を事前に明確化し、審査過程を公開するとともに、非選定理由の公開を義務付けるべきである。特に選定結果の公表に際しては、入札金額(定量評価)、提案内容(定性評価)ともに、入札参加グループ全員の金額内訳・点数内訳を明示することとし、かつ差のついた理由を説明することが不可欠である。
    また、審査委員の審査の範囲については、2007年6月、実施プロセスのガイドライン改定において、審査委員会で審査する事項のうち専門性の高いものについては、当該事項の専門性を踏まえた審査委員を選定し、専門分野ごとに審査を行うなど、事業の規模などに応じ、当該事項の専門性にふさわしい審査のプロセスを確保するよう改定された。今後、本ガイドラインの趣旨を徹底し、審査委員がそれぞれの専門分野のみを審査することを原則とすべきである。
    いずれにしても事業者選定の責任はあくまで発注者である行政が負うべきであり、当然、審査結果に対する説明責任についても行政にあることが原則である。

  4. 「債務負担行為」の柔軟な変更
    公共サービスに対して利用者が求める水準とその対価は、ニーズの変化や価値観の多様化に伴って常に変化するものであるが、PFIによる事業はこの前提に立って構築されるべきである。特に、契約が長期にわたる運営重視型PFIについては、たとえば病院のように、医療技術の革新によって医療機器、医薬品の価格が上昇する可能性もあり、将来にわたる調達の費用に関する予測が立てにくい傾向がある。また、廃棄物処理施設なども同様の技術革新に伴い、補修や機器更新といった予測できない追加費用の発生が避けられない。こうした案件において、事業者が要求水準を達成するためには、状況に応じて契約内容の変更を行う必要がある。
    国・自治体の予算制度では、財政法第15条、地方自治法第214条の規定により、発注者たる国・自治体はそれぞれ当該事業に関して発注者が債務を負担できる事項、期間及び限度額を明示する必要があり、特に地方自治体については、議会承認を得る必要がある。PFI事業においては、状況変化に伴い契約内容を変更する必要が生じることを想定し、当事者双方が合理的と判断した事項については費用の増額が柔軟に行われるよう、発注者が議会の承認取り付けに向け必要な措置を迅速に講じるべきである。また、債務負担行為に予備費を設け、予測のできない状況変化に対応できるような仕組みとすることも検討に値する。

  5. 失格要件の明確化と緩和
    PFIに関する入札資格の失格要件については、失格となる原因事由、資格確認時期、資格喪失期間等に関する実務上の統一基準がなく、発注者に委ねられているため、発注者によって区々な対応がとられている。特に、資格喪失期間は、長いものでは事業者の応募登録から事業契約締結時(議会承認時)までのものがあり、仮契約締結後に事業者の資格が取り消されるなどの事例もある。
    こうした失格要件の適用は、入札時点での資格にこだわるあまり、結果として事業遂行能力の高い事業者を排除することとなり、PFIの質的低下を招く。また、事業者選定後の失格に伴って再度入札を行うことは、サービスの提供時期の遅れにつながる。
    そこで、利用者に対するサービスの円滑な提供や質の確保の観点から、PFI事業者の選定については、事業遂行能力や実績等に問題がない場合には、失格としない方向で入札資格の失格要件の運用上のルールを統一すべきである。

  6. 落札後の契約の見直しに関する柔軟な対応
    通常、PFIにおいては、入札要項の中で契約書案が提示されるが、発注者が提示した契約条件の枠組みに従って、事業者が入札することが前提になっており、大幅な変更は予定されていない。加えて、入札までの時間的余裕が無く、発注者と事業者との協議の場が設定されることも稀であることから、契約書案がほぼそのまま契約書として採用されることが通例となっている。また、事業者選定がなされた後では、入札の公平性確保の観点から、原則として、要求水準など重大な前提条件が変更されない限り契約内容の変更はできない。元来、PFI事業は、業務が広範囲・複雑であり、かつ、事業期間も超長期にわたることから、設計、建設、維持管理、運営のそれぞれの段階で、想定外の事象・リスク等が発生することが多い。そのため、状況変化に応じて契約内容が変更されなければ、事業の円滑な実施に支障が生じることとなる。
    したがって、契約締結段階においては、落札した企業に不当に有利とならない範囲内で、契約書案の変更ができるようにすべきである。
    また、運営開始後についても、事業形態によっては定期的に契約を見直す必要があるもの、あるいは一定基準以上の変動があった時点で早急に見直すべきものなどがある。したがって、運営状況の変化に対応して契約内容が柔軟に見直されるよう、モニタリングのガイドラインの趣旨を周知・徹底すべきである。

(2) 法制度の抜本的な改革が望まれる中長期的な課題

  1. 多段階選抜、競争的対話方式の本格的導入
    日本における公共事業の事業者選定では、会計法第29条の3及び地方自治法第234条ならびに予算決算及び会計令の規定により、英国で実施されているような発注者と事業者との交渉は、原則として行うことはできない。その中で、PFIの実態に着目すると、次のような問題点が明らかになる。

    1. PFIは性能発注が原則であり、満たすべき水準の詳細を発注者が規定し、事業者は、要求水準を満たす枠内で自由な提案を行うことができる。しかし、事業者と発注者との間で十分な意思の疎通がなされないと、両者の考え方の違いを解消することが困難になっている。
    2. 発注者が施設の構造、施工方法、あるいは使用する資材等に関して詳細に指定しているにも関わらず、民間事業者による創意工夫の発揮を求めてくるケースもある。

    こうした問題について、政府では、2006年11月、PFI関係省庁連絡会議幹事会において、選定及び協定手続に関する申し合わせを行い、現行法制度の枠内でも個別の対話と多段階の事業者絞込みを可能とする道を開いた。
    しかしながら、現状では、この申し合わせが必ずしも現場に浸透していないことから、まずはその浸透を促進するため、「PFI事業実施プロセスに関するガイドライン」に対話方式を定義した上で対話の結果を議事録に残し、その内容が明確に契約に反映されるような手続きを定めるほか、多段階選抜の具体的な流れを明示すべきである。
    そもそも、事業計画の概要も含めた事業者による提案とその内容の検討は、発注者と事業者との間の価格を含めた契約のあらゆる側面における交渉を通じて行われる必要がある。
    そこで、発注者と事業者が十分な意思疎通を行い、双方の負担を軽減しながら優良な事業者が絞り込まれていくという多段階選抜・競争的対話本来の目的を達成するため、PFI法、会計法、地方自治法の中に、多段階選抜・競争的対話方式を明確に位置づけるべきである。
    その際、英国の方式も参考としながら、第一段階では一般的な資格審査を行うこととし(ロングリスト作成に相当)、その後、実質的な競争的対話を通じた事業概要の提案と発注者・事業者双方による検討を進め、事業者の絞込みを行う(ショートリスト作成に相当)。さらに、絞り込まれた事業者が、発注者との対話によって得られた情報をもとにより詳細な事業計画を作成し、最終的な入札を行い、落札者を選定するといった仕組みも考えられる。

  2. 「予定価格」の柔軟な運用
    政府が発注するPFIでは、予算決算及び会計令第79条の規定により、予定価格は原則として非公開とされている。また、会計法第29条の6や地方自治法第234条で規定される予定価格の上限拘束性により、提案内容が優れていても、入札価格が予定価格を1円でも上回った場合には、その内容にかかわらず失格となる。
    公共工事における予定価格はそもそも、発注者が専門のコンサルティング業者に依頼するなどして独自に設定されるものである。PFIでは、性能発注が行われることから、事業者は、発注者が提示する要求水準の枠内で自社の持つ最新・最高の技術や当該案件に関する経験・ノウハウが最大限発揮されるような提案を作成する。しかしながら、現行法制度の枠内では、発注者と事業者との対話が十分に行われていないため、事業者が発注者の設定する予定価格の範囲内にその提案を収めることはきわめて難しい。このような状況を鑑みると、予定価格の上限拘束性、非公表といった制約を設けることは、PFIの本質的な概念に相反するものであると言わざるを得ない。
    そこで、PFIにおいてより良い提案が採用されるためには、予定価格の上限拘束性を緩和するための方策を講ずる必要があり、可能な限り要求水準の明確化をはかった上で、上限拘束性のない参考価格を提示するか、予定価格が実質的に把握されるよう、算定根拠を明示する仕組みとすべきである。
    また、予定価格を中心に一定の価格帯を設け、その中に収めるための参考価格として予定価格を位置づけるような新しい開示方法も検討に値しよう。
    さらに、発注者は、当該事業の目的としてコスト削減を目指すのか、コストは高くても良質なサービスの提供を目指すのか、といった根本方針を明確に示す必要がある。
    なお、予定価格の作成については、「公共工事の品質確保の促進に関する法律」第14条の規定では「発注者が高度な技術提案または優れた提案を求めた時は当該技術提案の審査の結果を踏まえて予定価格を定めることができる」と定められており、こうした制度も参考としつつ発注者と事業者との対話を通じた予定価格の設定が可能となるような制度的な枠組みを設けることを検討すべきである。

(3) PFIの拡大に向けた対応

  1. PFIの案件形成・運営に対する支援体制の整備
    PFIはこれまでに実施方針の公表ベースで、都道府県レベルで66件、市区町村レベルで145件の取り組み実績がある。個別の自治体の事例を見ると、企業への職員の出向などを通じて、人材育成に取り組んでいる自治体や、PFIを本格的に展開することで経験とノウハウを蓄積している自治体もある一方で、PFIを従来の公共事業の延長線上でしか考えず、PFI実施に必要な実務知識が十分でない自治体もある。
    そこで、PFIにこれから取り組もうとする自治体や経験の浅い自治体に対する総合的な支援(PFIのノウハウの提供、入札から運営にいたるまでの一連のプロセスにおける実務支援など)を行う組織を設立すべきである。
    その際、参考になるのが英国のPUK、4Psである。英国では、国のPFIについては財務省が出資しているPUK、地方自治体のPFIについては地方自治体の連合組織が主体となり設立した4Psが支援を行っている。これら組織の業務には、民間の法律、会計、プロジェクト組成などの専門家があたっているほか、国においては行政の担当者などもこれに参加している。
    こうした観点から、たとえばわが国のPFI推進委員会があらかじめファイナンス、設計、建設、エンジニアリングなどの関連分野の専門家をリストアップし、案件に応じて最適な専門家が案件の形成から事業運営に至るまでの支援を行う体制を整えるべきである。また、地方自治体についても、自治体間で相互に連携するなどして必要な資金を確保し、同様の組織を独自に設立する必要がある。

  2. 中立的な裁定機関の設置
    運営重視型PFIのように複雑な案件が増加すると、発注者と事業者との間で、契約時には想定しなかった事態の発生に伴うコスト負担先をめぐる紛争や、サービス水準など契約自体の解釈をめぐる紛争などが生じる可能性が高まる。そこで、事業者選定過程から事業の運営開始後に至るあらゆる段階で生ずる発注者と事業者との意見の相違を迅速に調整し、双方が納得できる結論を導き出すためには、専門知識を持つ中立的な第三者による裁定を行う仕組みを構築する必要がある。上記のサポート組織同様、案件に応じて最適な専門家が裁定に当たることのできる体制を整えるべきである。

  3. 新たな分野へのPFI導入の検討
    これまで述べてきたように、わが国のPFIは、施設整備型事業に加え、事業者の創意工夫を活かすことのできる運営重視型事業が実現しはじめるなど多様化しつつある。しかし、実施方針公表ベースのPFI事業数の伸びはここ数年鈍化しており、PFIに参画する事業者も固定化する傾向にある。
    今後、より多くの事業者にPFIへの参入を促し、PFIをさらに拡大するためにも、新たな分野への導入を検討すべきである。たとえば、企業の災害対応のノウハウを活用した災害対応分野への導入などが検討に値しよう。さらに、地球温暖化の防止が喫緊の課題となっていることも踏まえ、PFIにおいても温室効果ガスの排出削減に配慮するよう、発注者などに対して普及・啓発を行うことも必要である。

おわりに

本提言では、PFI導入の経緯に立ちかえり、今日的意義を考えながら、その拡大に向けた制度改革の必要性と具体的方策を提示した。
その背景には、わが国が、グローバル競争の激化と少子化・高齢化の進展という内外の状況変化の中で、経済の活力を維持し豊かな国民生活を実現するために安定した財政構造の確立を急ぐ必要があるという強い危機感があった。
PFIは、民間が、資金、経験、経営、技術に関する能力や創意工夫などを提供することを通じて、公共サービスのあり方そのものを変えていくとともに、国・地方が直面する様々な問題にも貢献しうる可能性を秘めている。多様化する社会のニーズの変化に応えうる公的サービスの再設計という観点からも、本提言の趣旨が活かされ、PFI拡大に向かうよう強く希望するものである。

以上

  1. 「ユニバーサルテスティング」方式(universal testing);1994年11月に当時の英国大蔵省が導入した施策。英国では、1992年のPFI導入当初、案件成立が進まなかったため、公共事業のほぼすべてに関してPFI導入の検討を強制。検討がなされないものについては、一切公共事業と認可しないこととした。その後、1997年5月には、この方式に要する作業量にも鑑み、経験の蓄積によりPFI事業として行うべき公共事業の目安ができたとして、廃止された。
  2. 英国では、従来、Negotiated Procedureという多段階選抜方式が導入され、第一段階で最大で数十社をノミネートするロングリストを作成し、第二段階で2〜3社に絞り込み、その間、発注者と事業者との間で対面による質疑応答を通じて業務仕様、契約条件の明確化を進め最終提案を作成する仕組みとなっていた。2006年より競争的対話方式が導入され、これに基づき資格審査段階で最低3者まで絞り込むこととされている。

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