[目次] [要約] [はじめに] [第I章] [第II章] [おわりに] [参考資料]

我が国産業の活性化と
金融・資本市場の空洞化対策

I.金融・資本市場空洞化の影響


  1. 現時点では捉えにくい影響
  2. 我が国の市場では、金融取引に様々な制約が課されており、使い勝手の面で多くの問題が生じている。特にここ数年は、資金調達や運用の面での弊害が表面化している。この点について、個別企業、とりわけ大企業からは、必ずしも国内に良い市場がなくても企業は困らない、との声も聞かれる。現時点では、競争力のある企業には情報が集まり、また金融機関も海外市場で競争できるからである。その意味では、金融・資本市場空洞化の真の問題点は、現在のところ一見捉えにくい。ここに、産業の空洞化とは異なる意味での危険さがある。
    従って、今後、何ら対策が講じられないとすれば、金融取引の海外シフト、我が国市場の相対的地位低下は瞬く間に深刻化してしまうのではないか。マネーは他のどんな商品よりも足が速く、使い勝手の良い、厚みのある市場を求めて、世界中を移動するからである。

  3. 空洞化進行に伴う深刻な影響
  4. 今後、金融・資本市場の空洞化が一層進んだ場合には、市場参加者にとって極めて深刻な影響が出るとともに、情報機能や資金供給機能の低下などを通じて、産業空洞化ひいては日本経済全体の空洞化にもつながりかねない。

    1. 企業の資金調達への影響
    2. 目下、我が国経済は、戦後の経済成長を支えてきた政治・経済・ビジネス慣行全般にわたる抜本的な構造改革を迫られており、企業にとっても、いかに高付加価値化を図っていくかが大きな課題となっている。日本企業がこうした環境変化に柔軟に適応しつつ、活力と国際競争力を維持していくうえでは、資金調達の多様性・効率性を確保していくことが不可欠である。金融機関、ならびに金融・資本市場には、こうした新しいニーズへの対応を含め、これまで以上の役割発揮が期待されるところである。
      しかし、今後とも金融・資本市場の空洞化が進めば、こうした期待に反して、資金配分機能はむしろ低下し、産業への効率的かつ十分な資金供給が阻害される。また、日本企業が海外との厳しい競争に晒されるなか、資金調達コストが海外に比べて高いとすれば、日本企業の国際競争力は著しく損なわれる。
      その場合は海外で資金調達すれば良い、の見方もあるが、海外市場による役割の代替には自ずと限界がある。産業界からは、日本企業の全てが海外市場で資金調達できるわけではなく、また海外市場が長期的に安定し続けるとも限らないため、海外での資金調達が可能な企業にとっても、やはり活力ある国内市場の存在が不可欠、との声が挙がっている。また、ベンチャー企業にとって、海外市場並みの条件で資金調達ができないことは致命的、との指摘もある。

    3. リスク管理面での影響
    4. 金融・資本市場において、高度かつ適切なリスク管理が出来るならば、より積極的なリスクテイクが可能となり、金融界だけでなく産業界全体にとってのビジネスチャンスと収益機会の拡大が期待できる。
      しかしながら、我が国の場合、デリバティブなど金融派生商品面での遅れについても、リスクヘッジ手段を狭めていることが既に指摘されているところであり、今後とも改善が図られなければ、ますます弊害が顕在化しかねない。

    5. 情報機能の喪失
    6. 今後の経済社会において、情報の重要性が一層増していくことは疑う余地もない。産業界も、金融機関に対して、資金調達や運用の手段だけなく、質的に高度でタイムリーな情報の提供を強く期待している。しかし、金融サービスの質や量は、重要な市場参加者が物理的に日本に存在するか否かによって大きく左右され、金融・資本市場の空洞化が進めば、金融取引にまつわる重要な情報が日本国内に入ってこなくなる、との懸念が高まっている。
      ニューヨーク、ロンドンといった国際金融センターには、多くの情報が集積するため、例えば、金融機関はシンジケートローンのアレンジや資産運用などにおいて、一歩先んじた行動をとることが可能となっている。また、金融業の情報機能が産業全体にも波及し、競争力の強化に寄与している。
      しかし、我が国において、金融・資本市場の空洞化が進行した場合、こうした情報機能は望むべくもなく、国内企業や投資家の戦略的行動を阻害することにもつながりかねない。また、金融資産の値付けに関する情報が不足すれば、資産運用における選択肢が限定され、国民の大切な資産の管理・保全に支障をきたすことも考えられる。現在、厚生年金基金などの運用利回り低下などにより、破綻に追い込まれる基金も出ているが、これは、歴史的な低金利のみに起因するものではないとみられる。今後、空洞化が一層進むならば、金融・資本市場の資産運用能力は一段と低下し、本格的な高齢化社会を迎える我が国にとっての決定的なダメージをもたらしかねない。

    7. 資金還流への影響
    8. 世界一の経常収支黒字国である我が国にとって、安定的な資金還流を通じた世界経済発展への貢献は、国際的責務である。しかし、金融・資本市場の空洞化が進み、資金仲介機能に支障が出れば、経常黒字の還流がスムーズに行えず、アジア諸国の旺盛な資金ニーズにも応じられなくなる惧れがある。

    9. 金融業の発展阻害
    10. 金融業自体が有望な成長産業であることにも、十分配慮しなくてはならない。我が国の金融・資本市場が空洞化すれば、海外市場にとって代わられ、我が国の金融業は衰退する惧れがある。

    11. 雇用への悪影響
    12. 金融業における業務縮小が進めば、雇用にも深刻な影響が及びかねない。さらに、銀行の決済機能や金融仲介機能は、情報処理・通信技術を基盤としているため、情報・通信産業における需要や雇用の減少、投資の衰退など、金融業以外の産業にも影響が及ぶ可能性がある。


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