[目次] [基本的考え方] [第I章] [第II章] [第III章] [おわりに]

通信市場における競争の促進に向けた課題
−接続ルールを中心として−

II.接続の円滑化による競争の促進

−電気通信審議会特別部会案へのコメントを中心に−


  1. 接続ルール策定にあたっての基本的考え方
    1. ユーザーの立場からは、「低廉な料金で誰もがいつでもどこへでも発信でき、どこにいても受信できること」が重要である。また、事業者の立場からは、希望すれば、「全てのユーザーに対して、あらゆるサービスが提供できる条件が整備されていること」が重要である。このような観点から、電電公社による1社独占の時代と異なり、多数事業者が競争する市場においては、相互接続は不可欠であり、全事業者間の接続を可能・円滑にするための環境を整備する必要がある。

    2. その際、真に公正な競争条件を整備するためには、原則として一の事業者が自らの設備・機能を使用してサービスを提供する場合の使用条件と他事業者が一の事業者の設備・機能に接続してサービスを提供する場合の使用条件が同一となるよう担保しなければならない。また、基本的に通信市場へ新たに参入する、あるいは既存の事業者が新たなサービスを提供するにあたって、合理的なコストとタイミングで接続が可能か否か事前に判断することができるようにしなければならない。

    3. 以上のような観点から、先般、公表された「接続の基本的ルール案」について意見を述べたい。なお、今回、接続ルールの策定にあたって、電通審がまず案の段階で考え方を明らかにし、広く国民の意見を求める形をとられたことを高く評価したい。さらに、答申の最終取りまとめにあたっては、今回の電通審案に対する各方面からの意見がどのように反映されたのか、反映されなかった場合は、その理由を併せて公表されることを要望したい。そうすることは、単に手続きの透明性の確保に止まらず、ルールの信頼性と実効性を向上させる上で不可欠であると確信する。今後、細目を決定すべき事項や継続検討とされている事項はもちろんのこと、競争促進のためのルールについては、今回のような透明な手続きを経て決定されるよう強く期待する。

    4. また、ルールの信頼性と実効性を維持するためには、競争の進展や移動体通信の発展など事業環境の変化に応じて、適時適切にルールを見直すことが不可欠である。そのため、予め見直しの手続きを明確化すべきである。

  2. 接続の義務づけについて
    1. 全事業者間の接続を可能・円滑にする観点から、接続の義務づけが必要である。これについては、現行の第一種・第二種という事業者区分を前提とすれば、電通審案の通り、「全ての第一種電気通信事業者」を対象とし、さらに、その中で特定の事業者に対して追加的な義務を課すという考え方は妥当と考える。ただし、第一種電気通信事業者の中で一定の事業規模に満たない者については、義務の執行を差し控えるか否かについて検討する必要がある。
      また、接続の迅速化を図る観点から、事業者間協議について標準的な期間を定めることを検討すべきである。

    2. 特に地域通信市場における競争を促進する上で本質的に重要なことは、サービスの提供に不可欠であって、新たに設置することが難しい設備・機能を公平な条件で、しかも合理的なコストで利用できるようにすることである。電通審案では、加入者回線が上記のような設備に該当するとし、特定事業者を「一定の市場(都道府県単位)において加入者回線総数の50%を超える規模の加入者回線を有する固定通信事業者」と定義している。
      これについては、まず、加入者回線を指標として特定事業者の範囲を定義していることは妥当と考える。ただし、定義そのものについては、さらに検討した上で、その根拠を明確にすべきである。また、電通審案では、特別なルールの適用対象となる設備の範囲を「特定事業者の有する設備のうち、加入者回線と一体として構成される概ね県域をカバーする設備」と定義しているが、これについては、具体的な設備を明記すべきである。

  3. 特定事業者に関する特別なルールについて
    1. 特別なルールの一つとして、電通審案の通り、料金表・約款の作成を義務づけ、その中で技術的に接続が可能な全ての不可欠設備上のポイントにおける接続の提供、接続会計に基づく適正な接続料金、さらには不可欠設備の構成要素や機能のアンバンドル等の条件を明示することを求めている点は妥当と考える。
      また、設備・機能のみならず、それに併せて料金体系もアンバンドルすべきであるとしているが、そうすることによってコストがより透明となり、事業への参入や新しいサービス開始の判断が容易になるものと考えられる。

    2. なお、番号ポータビリティについては、特定事業者が実施計画を策定するのではなく、費用負担のあり方を含めて具体的なルールを検討すべきである。また、フリーダイアル等の付加サービスへのアクセス、ダイアリング・パリティの確保(番号桁数の同一化)についても、考え方を明らかにする必要がある。

  4. 料金表・約款の決定手続きについて
    1. 料金表・約款の決定にあたっては、透明性を確保するとともに、他事業者にとっても合理的な内容となるような手続きを経ることが、ルールとしての信頼性、実効性を確保する上で重要である。このような観点から、電通審案が申請資料を一般の閲覧に供し、他事業者をはじめ第三者に意見表明の機会ならびに苦情申立ての機会を与えていることは妥当と考える。その際、他事業者をはじめ第三者の意見ならびに、それらに対する特定事業者の意見については、透明性を確保する観点から、実名入りで公表すべきである。また、第三者からの意見がなかった場合は速やかに認可する旨を明記するとともに、不認可とする場合は、その理由を公表することとすべきである。

    2. なお、電通審案では、料金表・約款によらない他事業者同士の接続協定については、従来通り、認可にかからしめることを前提としているが、接続協定の公開により、透明性、公平性を確保し、接続の迅速化を図ることで足りると考える。

  5. 接続会計制度ならびに接続料金の算定について
    1. 電通審案が冒頭で指摘している通り、接続の基本的ルールの策定にあたっては、コスト等に関する情報の非対称性を考慮した措置を講じる必要がある。従来、情報の非対称性への対応が十分でなかったために、接続料金についても、電通審案にあるように、「接続に関連のない費用も負担させられているのではないか」、「接続料金原価への配賦が恣意的ではないか」といった批判があり、特定事業者と他事業者の間の摩擦の原因となっている。このような現状を打開するためには、電通審案が指摘している通り、接続のための会計制度を整備するとともに、それに基づき接続料金を算定することが不可欠である。

    2. 接続会計の枠組みとしては、第II章第1項の基本的な考え方で述べたように、一の事業者が自らの設備・機能を使用してサービスを提供する場合の使用条件と他事業者が一の事業者の設備・機能に接続してサービスを提供する場合の使用条件が同一となるよう担保するものでなければならない。この点、電通審案が、不可欠設備管理部門が自社の営業部門と他事業者に対して不可欠な設備を同一条件で提供する方式が適当であるとしている点は妥当と考える。
      なお、接続会計制度の整備により、特定事業者と他事業者との間の公正競争条件の確保が可能になると考えられるが、同じく公正競争上の理由から導入された現行のNTTの事業部制収支の必要性や接続会計との関係について考え方を明らかにする必要がある。

    3. また、費用の計上に際して、「接続との関連性を反映した費用帰属」を可能とする手法をとるとしている点は、コストの範囲の適正化の観点から妥当と考える。
      なお、電通審案では、共通費・間接費の配賦方法としてABC手法などを導入するとしているが、具体的な手法については、各手法の得失を明らかにするなど、さらに検討が必要である。

    4. さらに、接続料金の低廉化を図り、ひいては、ユーザー料金の低廉化を可能とするためには、特定事業者に対して情報の公開を義務づけたり、挙証責任を負わせるに止まらず、特定事業者自ら不可欠設備のコストの合理化に取り組むようなインセンティブを与える仕組みを整備すべきである。
      この点、電通審案が従来の総括原価方式に準拠した方式を改める方向を打ち出したことは妥当と考える。しかしながら、英米でも提案されている長期増分費用方式について引き続き検討を行うとしつつも、そのスケジュールを明確にしていない点については再考を促したい。接続料金は将来の通信市場における競争促進の鍵を握っているだけに、長期増分費用方式によるモデルの作成に早急に着手すべきである。

    5. 電通審案では、接続会計を前提に特定事業者の既存設備をベースに接続料金を算定する方式を適当としているが、この方式は、コストの合理化という点では不十分である。電通審案では、「郵政大臣は料金表・約款の認可に当たり、特定事業者の不可欠設備運営の著しい不経済性により生じた費用が接続料金原価に算入されることのないよう制度の適正な運用を行うことが適当」としているが、これでは透明なルールに基づく行政への転換に反し、行政の不透明な関与を招く恐れがある。この点からも、長期増分費用方式のように将来的なコストに基づいてモデルを作成する、あるいは、プライスキャップ制などのインセンティブ規制を導入し、特定事業者の合理化努力を促すとともに、行政の透明性の確保と規制コストの削減を図る必要がある。そうすることによって、接続料金の低廉化が図られ、ユーザーにもそのメリットが還元されることが期待される。

  6. 接続関連費用の負担のあり方について
    1. 電通審案が、現在のNTTのネットワークが必ずしも接続を前提とした構造になっていないことを考慮し、「基本的な接続機能を提供するために発生するネットワークの改造費用(構成設備のアンバンドルのためのコスト、接続インタフェースの提供のためのコスト等)」ならびに接続装置等の費用負担のあり方についても考え方を示したことは評価できる。

    2. 本年1月の経団連の見解では、接続のための標準的なインタフェースを準備するコストは特定事業者が負担すべきであるとしている。この点、電通審案が、まず、「基本的な接続機能を提供するために発生するネットワークの改造費用」は「改造を施した設備に一般的に発生する費用」として扱う、すなわち、本来、ネットワークが有しておくべき機能として特定事業者がいったん改造費用を負担した上で、その回収のあり方を論じている点は妥当と考える。
      ただし、電通審案では、回収のあり方について、「改造を施した設備を利用する者から利用者料金および接続料金という形で回収すべき」としているが、この点については、以下のような形とすべきである。
      1. 「改造を施した設備に一般的に発生する費用」として、当該設備を利用する、特定事業者の営業部門ならびに他事業者が同一接続料金で公平に負担すること
      2. その場合、特定事業者の営業部門が利用者料金(ユーザー料金)として回収するか否かは特定事業者の判断に委ねるものとすること

  7. 多数事業者間接続の取り扱いについて
  8. 事業者の増加により、今後、二者間に止まらず多数事業者間で接続するケースが増えていくものと予想される。電通審案では、上述の接続の義務化をはじめ接続に関する一般的なルールの策定、および任意による料金表・約款の作成・認可によって、そのようなケースにも円滑な対応が可能としているが、「隣接する二者間のみの契約により他の事業者との条件をカバーする」という考え方もあり、簡素な手続きを定めるべきである。

  9. 相互接続と業務委託との関係について
  10. 電通審案では「恒久的にネットワークを物理的に連結する形態のものについては、接続制度の準用を可能とすべき」としているが、例えば国際電気通信事業者が国内伝送業務を業務委託する場合、他事業者との間で公正競争上の問題が生じないようにすべきである。
    なお、業務委託のあり方については、第一種電気通信事業者の設備保有原則、第一種・第二種という事業者区分の見直し等との関係も併せて考え方を整理すべきである。

  11. 赤字負担のあり方について
  12. 特定事業者のサービスの赤字については、電通審案の通り、他事業者に負担させるべきではない。
    仮に、当該赤字サービスがユニバーサル・サービスと規定されるのであれば、ユニバーサル・サービスを維持するための競争中立的な負担のあり方を検討すべきである。


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