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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

愛知製鋼


  1. 新事業の基本的な考え方
  2. 本業である特殊鋼・鍛造品の総需要は成熟しているとの基本認識のもとに、持てる事業領域(市場・商品とその機能・技術)の拡張を図り、将来の成長と収益確保を目指す。
    新事業の芽は新事業プロジェクトという形で社内で育て、事業部または別会社という新組織のもとで大きくする。進出分野については、従来から蓄積してきたシーズを直接活用する現業に近い分野ならびに、現業から離れた成長分野への参入を図るケースがある。

  3. 新事業への取り組みの歴史
  4. 売上の約7割は圧延鋼材、3割弱を鍛造品が占めており、電子・磁性部品等の製造・販売の割合は、1.2%(年間18億円)でしかない。
    89年1月に新事業推進室を設置し、新事業テーマについてプロジェクトを編成し、参入すべき新事業を本格的に追求した。89年には、学習塾、工場農園、ガソリンスタンドという、経営資源(人・設備・場所)はあるので、これまでのシーズとは関係のない事業までも検討し、一部参入を図ったが、うまくいかずその後閉鎖した経緯がある。
    90年には、鍛造の付加価値を高めるための機械加工ならびにレーザー溶接技術を活かした歯科用磁性アタッチメント等の事業化を図った。機械加工分野は予定通り事業を始めたが、バブル崩壊による需要減のため規模を縮小した。歯科用磁性アタッチメント事業は軌道に乗り、売上が拡大している。
    その後も情報産業、物流産業などいろいろな事業に挑戦した。94年には、経営企画部が新事業を推進することとなり、現在、公園管理、建築部材の事業に進出しており、さらに介護機器、施設管理、産業廃棄物運搬などのフィージビリティスタディを行っている。
    これらの取り組みから、シーズのない分野に進出しても、競争力不足でうまくいかないことが多いことを学んだ。

  5. 歯科用磁性アタッチメントの事業化
    1. 歯科用磁性アタッチメント(磁石の力を利用して義歯を維持固定する装置)の開発は、ある大学から開発協力要請がきたことがきっかけに始められた。歯科用磁性アタッチメントは、全歯に適応可能とするため米粒大程度の大きさであること、通常の食事がとれるだけの磁力・高吸引力を持っていること、ならびに防錆に優れていること、が要求される。
    2. 小型磁石では、業界屈指の開発力があり、既に蓄積している軟磁性ステンレス鋼(磁石の吸引力が高く、防錆に優れた鋼)の技術を応用できる隣接分野であること、義歯の市場の成長が期待できること、内外において開発中の競合製品は大きさ、吸引力、磁石のシール性が不十分であり、参入の余地があったこと、大学の紹介で大手歯科材料メーカーの販売ルートが利用可能なこと、などから進出を決めた。
    3. 技術的に開発見通しがあり、かつ磁性アタッチメントが有望商品であることが参入の決め手となった。磁性アタッチメントは、競合商品であるクラスプ、テレスコープ冠、機械式アタッチメントと比べて、良歯損傷性、耐久性などを含めて、総合的に優れていることが確信できた。
    4. この磁性アタッチメントの開発を足がかりとして医療分野への進出を目指している。現在、磁性アタッチメント以外の事業の開拓を検討中である。
    5. 開発のポイントは、吸引力の増大と磁石の完全シール化であった。吸引力を高めるため、歯科用磁性ステンレス鋼の開発や磁気回路設計の最適化を図り、体積当たりの性能指数は1.5倍になった。また、磁石の完全シール化のためレーザー接合技術を活用した。
    6. 努力の結果、義歯を磁石で固定する世界最高レベルの磁性アタッチメントの開発成功した。ベースとなったレーザー溶接技術は、国内外で検討されながら、回避・中断されてきた高度技術であったが、この技術の開発に粘り強く取り組み、磁性アタッチメントの開発に情熱を燃やした開発部隊の努力が成功をもたらした。現在では、第4開発部において、さらなる小型化への挑戦を行っている。
    7. 新事業推進部は、開発部隊と密接に連携しながら、厚生省の認可取得関連業務、ならびに販売ルートの整備に努めた。
      医療分野と全く異分野の世界であったため、販売面では、業界で地歩を固めている歯科材料トップメーカーに総代理店になってもらった。NHKのスーパーテクノ製品として紹介されたこともあって、歯科用磁性アタッチメントは急速に普及しつつある。
      また、厚生省の認可取得は、初めての経験であったため、時間がかかった。89年に動物実験を始め、90年には治験申請、臨床試験、91年に承認申請と製造業許可申請を厚生省に行い、両者とも92年に認可された。こうした厚生省との折衝は新事業推進部が行った。
    8. 生産に関しては、開発部隊中心に実験プラントから始めたが、その後、新たな事業にふさわしい新たな企業文化の創造ができる環境を求めて、鋼材から独立した新しい工場で本格生産している。
    9. 今後の主要な課題は、歯科用磁性アタッチメントをさらに小型化し、それによって適用症例を拡大していくことである。


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