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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

デンソー


  1. デンソーの新規事業進出への取り組み
  2. これまでは、自動車産業が順調に伸びてきたため、自動車部品分野以外の新事業を積極的に考える必要が少なかった。ただし、自動車部品の総合メーカーとしての自負から、自動車もしくは自動車交通関連分野の新事業開発には積極的に手掛けている。たとえば、自動車電話、カーナビゲーション、道路自動課金システム、衛星通信による自動車運行管理システム、バーコードリーダー、産業用ロボットなども推進している。現在、非自動車部品の売上946億円のうち、545億円をバーコードリーダー、自動車電話、ナビゲーションシステム、工業用ロボット、台所用の処理機等の新規事業分野5部門で占めている。
    新事業に取り組む体制は、まず準備室を設立してフィージビリティ・スタディを行い、次にプロジェクト部に強化して事業化の具体策を策定する。そして収益が出せる目処がついたら事業部に格上げする。プロジェクト部の段階までは、予算で運営し、収益を出す必要はないが、事業部になると収益性を追求するビジネスとして進めていくこととなる。
    1. バーコードリーダーは、もともとトヨタのかんばん方式の電子化を目的に開発されたものであるが、その後セブンイレブンがPOS管理に採用してくれたので流通分野に進出を果たせた。現在では光方式のバーコードリーダーの市場で75%のシェアを得ている。光方式(バーコードにタッチして読み取る方式)の他、マイクロ波を利用したIDカード、ICカード、さらには日本で最初に2次元コードを開発した。このように自動車部品製品管理から始まったバーコードの開発が、横展開という形で新事業となり、物流管理機器事業にまで発展した。
    2. 通信機器については、かなり前から自動車用のアマチュア無線やパーソナル無線を手掛けてきた。これらの延長として自動車電話に取り組むことになったが、NTTファミリー企業でないため、やむをえずモトローラ方式で取り組まざるをえなかった。このため当初は事業は低迷していた。ところが米国の強い要請で国内の通信事業者がモトローラ方式の投資を開始し、さらに規制緩和によって電話機の買取制が実現したので、携帯電話が大きく伸びた。そうした流れで、PHSにも進出し、基地局も積極的に販売するまで成長した。
      デンソーが携帯電話事業を大きく伸ばすことができたのは、米国の圧力によるモトローラ方式の開放と国内の規制緩和による端末売り切り制の導入であり、まさに規制緩和の申し子のような新事業の成功例である。
    3. ナビゲーションシステムについては、70年代から通産省の「自動車管制システム」プロジェクトに参加していた頃から研究している。これがVICSなど公共的情報インフラが整備されたので、ようやく事業として成り立つこととなった。また、リモートIDを使用する自動車のノンストップ料金システムは、技術的に完成し、マレーシアで採用されたが、日本では建設省、道路公団の決定待ちの状態にある。これらは新事業は公共的インフラの整備なくして成り立ち得ないという好例である。また企業内における研究開発は、水面下で20年間以上も継続して、漸く日の目を見ることができるものであることを如実に物語っている。

  3. デンソーの新事業への原動力
  4. 全社に自動車部品専門メーカーとしての自負が存在し、トップから担当員レベルまで、世界の自動車の動向については、それぞれのレベルに於いて把握し、理解できるような体質ができており、自動車、自動車交通に関連する新事業については、機動的に対応できる体制となっている。自動車部品はシステム化、ブラックボックス化が急速に進展しており、製品の差別化が求められているため、新製品・新事業の開発に馴染み易い体質となっている。
    自動車部品のメーカーは、海外の部品メーカーとの国際競争のみならず、部品の内製化を進めようとする国内の自動車メーカーとも競争しなければならない。さらにエレクトロニクスなどの専門メーカーが自動車分野への新規参入を虎視眈々と狙っているため、現状に安住することなく、新しいことに取り組む風土ができる。
    このようにして培われた体質が、バブル崩壊を契機として自動車部品の新製品開発にとどまらず、非自動車分野への進出意欲が刺激されたので、社内に蓄積された技術資産を活用して、新事業へ進出する原動力となっている。

  5. 製造業の新事業について
  6. 製造業の分野で新事業を興すには、知識・経験、人材、そして相応の資金と時間が必要となるため、個人ベンチャーよりも企業ベンチャーの方がうまくいく可能性が高い。さらに、日本企業には、健全な赤字と認められれば比較的許される風土がある。また、もし失敗しても、そこで出した赤字で会社全体が行き詰まることはなく、成功すれば個人ベンチャーよりも大きな経済効果を生む可能性が高い。日本では人材の大企業志向が強く、企業内には、スピンオフは好まないが新事業に挑戦する気概を持った人材は豊富にいる。そうした人材を積極的に活用して新産業・新事業の開拓を推進する方策が効果的と思われる。
    企業内には、職務発明で採択されなかった休眠特許、研究や開発に携わった専門家が多数埋もれている。これらの休眠知的財産権の利用の優遇措置・支援体制の法制など整備が、企業ベンチャーを一層推進できる可能性がある。


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