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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

日立製作所


  1. 新組織と新事業
  2. 95年2月、これまでの事業部の枠を見直し、事業部より大きな4つの事業グループの下に再編した。この狙いは、本社が、各事業グループへの権限委譲を行うことにより、迅速な意思決定ができるようにすることにある。また各事業グループ毎に開発から販売、メンテナンスまで自己完結型の事業運営を可能とすることも狙っている。研究所も、これまでコーポレート・ラボ中心で運営されてきたが、旧映像メディア研究所がマルチメディア開発本部、旧システム開発研究所の一部が情報・通信開発本部、旧エネルギー研究所が電力・電機開発本部、というように、ディビジョン・ラボの体制に展開しつつある。これは、研究部門も自己完結型の事業運営の一環であるとともに、コーポレート・ラボよりも事業部門と一体となったディビジョン・ラボの方が製品開発のスピードアップに結びついた研究ができると考えたからである。
    同時に、複数の事業グループにまたがった新事業・新製品への取り組みが必要との観点から、本社に事業グループ横断的な組織(新事業推進本部)を設立した。社内ベンチャーは、日立の事業マップの中では足りないところを補完するという位置づけで考えている。

  3. 各事業グループの取り組み
    1. 電機システム事業本部
    2. この事業部は、産業用機械や交通システム、エレベーターなどを扱っている。その中に、少人数で新事業開発室を立ち上げ、社会インフラシステムのインキュベーションに取り組んでいる。例えば、高速道路料金徴収システム、高分解能衛星画像データおよびその応用システムサービスの提供事業、インテリジェントカードの利用システム(物流システム等への応用)などを手掛けている。また、社会開発の「ネタ」起こしという観点から社会総合開発推進プロジェクトを昨年からスタートしている。

    3. 家電・情報メディア事業本部
    4. 家電分野に関しては、数年前に新分野商品事業化推進センターを設立した。2年前からは、DA−VINCHI計画を開始し、課長クラスの人材に商品化プロセスの裁量権と開発リソースの優先的配慮を与えて開発から販売まで全て任せることにより、開発のスピードアップを図っている。従来製品の延長上の商品であれば6か月以内、新分野商品であれば1〜2年以内と開発期間を設定している。開発後、チームは解散する。最近の開発成果として、冷蔵庫、掃除機、洗濯機、携帯端末で、新しい考え方の製品を生み出している。

    5. 情報事業本部
    6. コンピュータおよび通信関連を手掛けており、4事業グループの中で最大の売上がある。この本部にも新分野製品企画部が設置されており、従来型のハード中心の開発体制に加え、サービス分野での事業化が行われている。また、小回りのきく組織にするため、SBU(スモール・ビジネス・ユニット)を作っている。SBUは、もともと、事業部内ベンチャーとして自然発生的に生まれたが、今年の2月に当本部内にSBU統括推進センターを設立し、本格的にSBU制を定着させようとしている。

    7. 新事業推進本部
    8. 新事業推進本部は、95年8月に設置された。自ら事業を行なうのではなく、予算と人材を確保するプロモーターと位置づけられている。副社長をヘッドとし、その下にエース級の本部員を数名置いている。基本的にはシーズオリエンテッドな考え方で、特に将来の日立の柱になりうる事業を選定している。各事業部や研究所で取り組んでいるもののうち、育てるに値すると判断したものを、早期事業立ち上げに向けて組織づくりを行い対応している。今年に入ってから、新金融システム推進本部(電子マネーの研究開発等)、PCマルチメディア事業推進部(パソコン周辺事業)、ビジュアルウェア事業推進部(コンピュータ・グラフィクスの技術を応用したコンテンツ・ビジネス)、アミューズメントシステム推進部(制御技術と映像システムの融合によるテーマパーク等向けのシステム事業)を生み出した。

  4. 社内ベンチャーの取り組み
  5. 今後、サービス分野のビジネスの伸びるが期待できるものの、個々のサービスは細かすぎて各事業部単位では取り上げにくい。そこできっかけ作りも兼ね、社内ベンチャーを始めた。過去10数年、社内ベンチャー的なことや人材公募制による事業化を行ってきたが、必ずしも十分な成果を得たとは言えないので、新たな社内ベンチャー制度の創設を提案しても承認が下りない。そこで、社内ベンチャーの「制度」は作らず、事実を先行させて、うまくいったことを制度化につなげていこうという発想で取り組みを始めた。社内の電子メールでアイデアを募集したところ4か月で約100件のアイデアが集まった。フィージビリティ・スタディを開始したのは10件であった。さらにその中で会社設立に至ったのは(株)日立ホームエデュケーションという子供向けのパソコン教室を営む、提案者である女性2名が社員となっている会社1件である。
    問題点としては、時間の経過とともに提案内容の質や応募件数が落ち、最終的には提案自体が殆どなくなること、提案者が本業の傍らフィジビリティ・スタディを行うのは困難なことがわかった。また、提案者は素人であることが多いため、事業化に伴うサポートが不可欠である。良い提案をする人は、仕事ができ、期待されていることが多いため、上司の説得に時間がかかるという問題もある。


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