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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

日本ヒューレット・パッカード


  1. ヒューレット・パッカード(HP)本社のミッション
  2. ヒューレット・パッカード(HP)本社は、創業以来のメジャーメント(計測機器)、ならびにコンピュータとコミュニケーションの3つ(MC2:MCスクゥエア)をコアテクノロジーとして、その分野においてリーダーシップを取ることをミッションとしている。この3つの技術が統合・融合したところに、HPの強さの原動力がある。

  3. HPの経営スタイル
  4. 過去10年間に売り上げは6倍に拡大した。とくに、90年度からの5年間の年平均伸び率は21.4%に達している。これはHPが今もベンチャー的な発想を持っていることを示している。
    即ちHPにおける毎年度の受注の60%強が2年以内に開発された新製品で占められている。HPは、新しいテクノロジーのイノベーションを全く普通のこととして続けていかなければならない、という経営スタイルになっている。製品技術の革新はまったく普通のことで、新製品開発がストップしたら会社は沈没する、という考え方が定着している。
    ベンチャー企業のスタートポイントは、新しいテクノロジーの開発だが、その企業が発展し続けるにはイノベーションの連続以外ありえない。その意味で、HPはベンチャーと同じ考え方の経営スタイルである。
    ルー・プラット社長も、「リーダーシップを取り続けるには、いま売れている製品であっても、コンペティターに先駆けて、更に新しい製品に改造し直していくという心構えを持ち続けることが必要」、と言っている。

  5. HPの革新的な経営スタイルの例
  6. 32年の歴史を持つスタンフォード・パーク・ディビジョンは、国防総省を顧客として計測機器を扱い、年商1億ドルだった事業部だったが、1991年、国防費の削減が続いてきたことを理由に、それまでのビジネスをやめることを決断した。当時伸びていたビデオ産業のスタジオ用機器の市場に目をつけ、マイクロウエーブのエンジニアをビデオ産業に送り込んでビデオのエンジニアに転換させ、それを通じてスタンフォード・パーク・ディビジョン自体がビデオ・インスツルメント・ディビジョンに生まれ変わった。
    その結果、スタンフォード・パーク・ディビジョンは、全米1万のビデオスタジオを顧客としてビデオサーバーやセットトップボックス、ビデオプリンター等のビデオ産業用スタジオ機器を扱う年商140億ドル規模のディビジョンに発展した。

  7. HPの重要な戦略としてのストラテジック・アライアンス
  8. HPは、他企業との間で吸収・買収、合弁会社、資本投資、技術提携・共同開発、販売提携などのアライアンスを重要な戦略として行うストラテジック・アライアンスを推進している。これは、あくまでも、メジャーメント、コンピュータ、コミュニケーションの事業領域の中での生き残り戦略という考え方での位置づけであり、MC2の分野の市場開拓というマーケットドリブンの戦略としてのアライアンスである。
    その一環として、それぞれの戦略に対して、その目的を明確化させることにより、目標値を確立しやすくすることを目的にガイドラインを作っている。その根底には、事業部オリエンテッドな考え方が存在している。たとえば、その事業部が獲得した金を、その事業部のさらなる発展のために注ぎ込むことには、本社ヘッドクオーターや他の事業部は文句を言えないことになっている。そのかわり、他の事業部のやり方にも口を挟めないことになっている。これにより、極力ヘッドクオーターや他の事業部の口出しをミニマムにして、事業部の意向を尊重させることになる。
    HPも以前は、何でも自社で開発しなければ気がすまなかったが、最近では、1つの会社で全ての開発をすることにこだわることは、現実的ではないため、ストラテジックアライアンスに積極的になっている。

  9. 日本HPの従業員に対する起業家精神の意識づけ
  10. 一方日本HPでは、セカンド・キャリア・アシスタンス・プログラムを設定している。
    第1段階では、入社10年前後の若手に対して、自らのキャリアプランを試行錯誤しながら作らせる。そのために必要な教育や自己啓発の機会は会社側が積極的に提供していく。
    第2段階では、その次の10年目の人達に対して、挑戦したい仕事があれば、社内公募に応募してもらう。日本HPは職能給ではなく職務給のため、企業の業績に貢献度の高い職務に就けば就くほど給与も上がっていく。そのかわり、自分の能力が壁に突き当たってきたり、組織側が別の能力の人材を求め出した場合は、別の職務を探さなければならない可能性もある。
    第3段階は、脱落しかけた人の職務調整の段階である。給与が下がっても社内で別の職務を探すか、職務のレベルを維持したければ出向先を探す。それもなく、かつ妥協できない場合は、ワーキングプールに入ってもらって時間売りをすることになる。
    第4段階では、自己実現のための機会創出のサポートをする。退職金制度で縛られることがなくすために、転職教育や独立支援をする。
    このプログラムは、自己実現のための機会を創出するものであり、特にベンチャー推進を狙いとしたものではない。


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