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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

新日本製鐵


  1. 新規事業取り組みの経緯
  2. 新日鐵が取り組んできた新規事業は、世の中にとって全くの新規事業であるものは極めて少ない。しかし、日本の今後を考えると、世の中を変えていく根底になる技術革新をどういう方面でどう起こしていって、産業の生産性を上げていくことが非常に重要である。
    第1次石油ショックを契機として、新日鐵社内に、鉄鋼以外の事業への取り組みが必要であるという発想が出てきた。1972年3月、開発企画委員会事務局を発足させ、大型プロジェクトを中心として、鉄以外の分野を手掛け始めた。具体的には、東京湾横断道路、ハウス55(550万円で建物を建てる)、地熱開発などの事業に着手した。
    1977年6月には、開発企画本部が設置され、これまでの事務局ではなく、新日鐵の一部門として新規事業開拓活動を本格化させた。プロジェクト形式での企画で、新物流システムや新交通システムの開発などを手掛けた。
    そして1983年6月、鉄と化学以外の分野にいかに参画していくかという視点を明確にして、経営企画部の中に新事業企画部を設置した。経営企画部には、他に、製鉄事業企画部と化学事業企画部が存在する。プラザ合意後の円高により、鉄の売上が落ちていく状況で、会社としての収益を確保するためには、鉄以外の事業分野への進出を強化する必要があるという意識が再度出てきた。
    さらに、1987年6月になると、新規事業部門に発展させて、事業部門という位置づけを明確にした。そして、情報事業部、新素材事業本部、ライフサービス事業部、バイオ事業開発部を設置した。ライフサービス事業部ではスペースワールドやシルバービジネスを手掛けた。
    現在、新規部門の事業部は、新素材事業部、エレクトロニクス・情報通信事業部、LSI事業部の3つである。

  3. 新規事業の性格と成果
  4. 新規事業への進出にあたっては、世界的に需要が伸びているかどうかという、マクロな市場性をみてきた。鉄の落ち込みが大きいため、ある程度以上の規模の事業を手掛けていく方針を打ち出してきた。
    鉄の周辺分野として、新素材分野、シリコンウエハーを利用した半導体の封止剤(日鉄電子で研究開発中、新日鉄本体での技術開発と共同歩調で取り組む)、金属箔、ファインセラミクス、炭素繊維などに取り組んできた。新素材に関しては、鉄鋼に近い分野(近鉄)であることもあって、現在でも生き残っている事業が多い。シリコンウェハーは現在では、収益を上げるまでになり、ようやく限界生産者に域を脱した。ハードディスクのサスペンション用ステンレスについては、ここ数年急速に伸びており、世界的なシエアも高まってきている。ステンレス箔を利用した自動車用排ガス清浄装置は自動車会社と共同開発を行い、伸ばしつつある。ファインセラミックスは、予想通りには利益をあげていない。
    また、副生品の活用として、石炭化学、石油化学に進出してきた。
    さらに、鉄鋼生産に必要な技術を活用できる分野として、エレクトロニクス、情報通信、電力分野に進出した。ハード関係の事業では、鉄向けの技術を利用して、ユニークな製品を作ったが、思ったような事業規模確保できずにほとんど撤退している。パソコンについても、欧米に販売拠点を置いて取り組んできたが、結局撤退し、現在は、ソリューション・ビジネスなどのソフト面に特化している。
    社内の専門スキルをもつ人材を活かす観点から、各製鉄所の福利厚生サービスを行なう部門を分社化し、地域への還元も視野に入れたサービス事業も展開している。社会的ニーズへの対応として、地熱開発にも取り組んだ。これは現在でも継続しているものの、事業としては利益が出せない。
    落下傘型の事業参入も行っている。1993年、ミネビアの半導体子会社を買収してLSI事業に乗り出し、同時にLSI事業部を設置した。現在は、4M、16MのDRAMビジネスを展開している。

  5. 今後の取り組み
  6. 鉄以外に、鉄構海洋、プラント、建築、半導体、半導体材料、エレクトロニクス・情報通信、化学、電力の8本の柱があり、全体の40%程度の人材を充てる。また、資金投下は、本社トップの経営会議において決断していく。特にLSIやウエハーには、相当規模の資金を投入していく。

  7. 経験から得た教訓
  8. 新日鉄は、マクロな市場性をみて、その分野への参入を決めてきたが、マクロな感覚だけでは具体的な市場の動向は把握できない。
    鉄鋼事業中で培った技術で対応できるという技術面での過信があった。そのため、事業立ち上げ当初は、歩留まりの向上をめぐって相当苦労した。
    LSI事業、シリコンウエハー事業は、事業の性質上、毎年相当の設備投資が必要だが、我慢して成り立つのか議論ををしていかなければならない。
    また、パソコン事業への進出・撤退の経験から、プロジェクトの当事者が情熱と説得力を持っていても、経営陣が相当の識見をもって止めることが必要なこともある。
    その事業に相応しい形で運営していくには分社するしかないが、分社をした場合、現行税制では、初期段階の累積損失の回収が難しい。欧米でも一般化している連結納税制度の導入が必要である。


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