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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

さくら銀行


  1. ベンチャー企業室の新設
  2. 金融機関としては、優良中堅・中小企業取引を拡大することが顧客基盤拡大を図る上で重要であること、ならびに活力あるベンチャー企業を金融的側面から支援していくことが社会的使命になっていること、などの認識に立ってベンチャー企業への取り組みを本格化させている。
    さくら銀行では、昨年7月からプロジェクトチームを設けて検討を始め、本年6月にベンチャー企業室を発足させた。さくら銀行の考える「ベンチャー企業」の定義は、いわゆる起業家精神豊かな経営者に率いられ、新技術・新製品・新事業に応じた物やサービスを事業化し市場を開拓していく成長性の高い企業、である。必ずしもハイテクベンチャーである必要はなく、新しい市場を開拓していく企業であれば良く、ニッチを狙う企業もベンチャー企業と考えている。
    また、ベンチャー企業室は、審査セクションではなく、業務推進を行っている法人部の中の設置されていることも特徴的である。

  3. ベンチャー企業室の取組方針
    1. 投資と融資の一元管理
    2. これまで銀行がベンチャー企業に金融支援をするときは、融資と投資の部署を分けていたが、さくら銀行ベンチャー企業室では、ベンチャー企業への投資と融資の一元管理をしている。これはさくら銀行独自の取り組みである。

    3. 一貫した支援体制構築
    4. また、さくら銀行グループのベンチャーキャピタルであるさくらキャピタル、さらには、さくら総合研究所やさくら情報システム等とも連携して、一貫した支援体制の構築を図っていく。

    5. 投融資ノウハウの蓄積
    6. 投資については、これまで手掛けてこなかった、企業のアーリーステージへの投資を行う。投資事業組合を活用して、従来より初期の段階での投資を積極化する。また、融資については、各種の公的な債務保証制度を活用してリスク軽減を図りつつ行う。こうした活動を通じて投融資ノウハウの蓄積も図っていく。

    7. 長期的視点に立ち投融先の育成に注力
    8. ベンチャー企業に投融資するだけでなく、投融先企業を大きく成長させることを銀行としてお手伝いしていく。

  4. ベンチャー企業室の主な業務内容
  5. ベンチャー企業取引に関する企画立案と推進、投融資案件の審査決裁、各種ノウハウの蓄積、投資事業組合の設立などを行う。これらの項目は、決して目新しいものばかりではないが、業務推進を行っている法人部の中のベンチャー企業室に一元的に決裁権限が与えられている点に特徴がある。

  6. 具体的推進策
  7. ベンチャー企業室発足に当たり、営業各店にアンケートを行い、取引先もしくは新規獲得に当たっている会社のうち、いわゆるベンチャー企業が何社あるかを調べた。アンケートの結果から読み取れるのは、貸金、投資といった、金融的なニーズがベンチャー企業には最も多いことである。一方、ベンチャー企業への金融支援を考える際ネックとなるのは、資産背景が極めて脆弱ということである。
    日本最大の有人支店網(国内営業店442か店、出張所・代理店を含めると526拠点、海外27支店、駐在員事務所・現地法人を含めて102拠点/96年6月末現在)を最大限に活かして、案件の情報を集めていく。併せて、さくらキャピタルや交流のあるベンチャーキャピタル、会計事務所、取引先、官庁情報、各種データベースからも、案件の情報を集めていく。
    ベンチャーの評価は難しい問題であり、試行錯誤しながら考えていくことになる。ただし、技術が凄いというだけではなく、その技術・応用製品の持つ市場性、経営者の人物評価も加味して評価する必要がある。

  8. 投資事業組合の仕組み
  9. 投資事業組合とは、ベンチャーキャピタルが自己資金による投資と平行して広く一般からの資金を集めて投資する方式である。さくら銀行の設立した投資事業組合は、構成員2名(さくら銀行、さくらキャピタル)で、業務執行組合員(投資事業組合を実際に運営する組合員)に、さくらキャピタルを任命している。

  10. ベンチャー企業の成長と資金調達パターンモデル
  11. 従来、銀行の投資先は、ミドルステージやレイターステージの企業が中心であったが、今後は、アーリーステージやスタートアップ期の企業まで手を広げ、その企業を支援・育成しつつキャピタルゲインも得ていきたい。

  12. 現状の問題点と今後の課題
  13. ベンチャー企業への支援策が、民間・地方自治体において整備されている現状は、「ベンチャー支援ブーム」と呼ばれることもあるが、この雰囲気を一過性のものに終わらせず、社会制度・金融制度としての定着化を目指すことが重要である。そのためには、銀行内のこれまでのベンチャー企業への取り組み意欲を高めること、技術評価・知的所有権担保評価等の手法の確立を図ることが必要である。加えて、大企業のコーポレート・ベンチャーにどう関与していくかについても考えていきたい。


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