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新産業・新事業委員会企画部会報告書

「日本型コーポレート・ベンチャーを目指して」

第1部 新事業開発に関する各社の取り組み事例

富士ゼロックス


  1. ベンチャー企業に関する取り組み
  2. 社内ベンチャーへの取り組みとしては、ベンチャービジネス・チャレンジプログラムがある。社内から人材と事業アイデアを募り、独立起業の形でビジネスをしてもらい、富士ゼロックスは事業立ち上げに必要な支援を行う。このプログラムは、人材の活性化と新規事業分野の探索を狙いとしている。とりわけ、社員は誰でも社長になれることを強調している。これまでにベンチャー企業を5社設立したが、そのうち2社は既に解散した。

  3. コーポレート・ベンチャリングへの取り組み
  4. コーポレート・ベンチャリング的な取り組みとしては、ネットワーク機器事業部のような事業部体制による新規事業の推進をしている。富士ゼロックスは、基本的には、オフィ用機器・OA機器という1本柱の会社であるため、第2・第3の柱の育成を狙いとして、個人用の小型プリンターや小型自動翻訳機などのパーソナル機器ならびにパソコンをつなぐネットワーク機器事業に取り組んでおり、その一環として、ネットワーク機器市場にマッチした運営体制を整備している。

  5. ネットワーク機器事業部の事例(コーポレートベンチャーの例)
  6. 94年1月設置し、現在、社員数47名、サポートや派遣が12名いる。LANやWANの構築に欠かせないハブやルーターを扱っており、関連施設として配送センターやテクニカルラボを持っている。売上高は、ほぼ倍倍で伸びており、96年度は90億円を確実に越すものと予想される。来年には170億円を狙う勢いにある。
    富士ゼロックスは、以前からネットワーク機器事業を手掛けてはいたが、この分野は技術的に難しく、技術革新などの変化も激しいため、複写機を主体とする販売体制の中では販売や物流などすべてに関係者との調整が必要となり、スピーディーな対応ができなかった。そうしたこともあって思うようには発展しなかった。そこで、ネットワーク機器事業部を設立し、機能集中による専任体制化を行った。
    事業部設立を機に、ネットワーク機器事業に関する管理体制と社内の体制を改めた。経営のフレキシビリティやスピードを確保するために、従来のしがらみによってできあがっている本体のルールで動くのではなく、ネットワーク機器事業部独自のルールを作り、それに従って事業を展開することを社内に認めてもらった。
    例えば、新しいデリバリーシステムや調達システム、コミュニケーションシステム、決済ルールなど、自分たちの事業に合うようにすべきものは、全部自分たちで作り、他は社内の既存の体制やシステムを利用させてもらった。そのかわり、他の部門が、ネットワーク機器事業部のシステム中で使いたいものがあれば、使えるようにしている。ただし、これまでのところ人事や経理に関しては本体のルールで動いている。
    営業体制については、従来富士ゼロックス直販の一部としてしか動けなかったが、逆に富士ゼロックス直販を一つの営業チャネルとして位置づけ、他の営業チャネルと並列にした。また、事業の制約的に作用することの多い法務、財務、総務等の部門をサポート部門と意識し、活用する逆転の発想をとった。
    さらに、開発部門、品質保証部門などの社内部門のサービス機能を活用して製品の付加価値を高めている。
    我が国における独占販売権を持っているという有利な条件を活用して、競合他社に先駆けて早期に立ち上げを行ったことも成功の要因の一つとしてあげられる。

  7. ネットワーク機器事業部の例から学んだ教訓
    1. まず、商品があり、マーケットあると確信できることが必要である。自社または自社グループに良い商品があると確信できること、また、成長市場がある、もしくは予測できる状況になければならない。確信があればマネージメントは後からついてくる。確信こそがビジネスの原動力である。
    2. 技術、商品、商圏、営業力などのうち、何か1つでも他社と横並びにならない強みがなければならない。アイデアだけではベンチャーはできない。アドバンテージがあると事業推進の動機づけになる。また、社内関係者を説得できる。アドバンテージがなく他社と横並びでは成功の確率が低くなるため、社内関係者との交渉も容易ではなくなる。
    3. 社内経営資源を有効に活用することも重要である。特に、ビジネスの成功を確信し、情熱をもったリーダーがおり、経営のバックボーンを持った人材の活用ならびに資金、ノウハウなどの社内サポートの活用を図りながら事業を進めていくことが求められる。その際、トップマネージメントの理解と支援を得ることが大事である。
    4. さらに、新事業や、その商品の市場特性に合った独立運用体制を作ることにより、シンプル、スピード、フレキシビリティのある運用体制を創造していくことが必要である。通常、企業においては単一のルール運営されるが、特に新規事業の場合には、企業全体のルールを全部一様に適用すべきではない。新事業に相応しいルールを自ら創造し、それを社内も認めるということが望ましい。中国における香港体制のような一国両制度が必要である。


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