[ 目次 | 第1章 | 第2章 | 第3章 | 第4章 ]

報告書『新東京圏の創造』
−安心・ゆとり、魅力、活力を兼ね備えた都市づくりに向けた提案−

1.はじめに


首都機能移転推進委員会(委員長 河野 俊二 東京海上火災保険会長)では、1997年4月、20社余りの会員企業の中堅幹部を委員とする「新東京圏創造のためのワーキング・グループ」を設置した。現在、政府の国会等移転審議会において首都機能の移転先候補地が審議されており、候補地決定後には東京都との比較考量が行われることとなっている。来年秋頃を目指して同審議会の審議は進められているが、経済界としては、首都機能移転の適否に関して結論が出るのを徒らに待つのではなく、首都機能移転後の新しい東京圏の姿を首都機能移転の適否の議論と並行して検討し、積極的に具体的な提案を行う必要があると考え、新東京圏の創造に向けた検討を行ってきた。

東京におけるあらゆる活動は東京都という行政的枠組みを超えており、いわゆる「東京問題」を解決するにはグレーター・トウキョウ、すなわち東京圏全体を視野に入れた取り組みが必要になっている。こうした点を考慮して、ワーキング・グループでは、東京、神奈川、千葉、埼玉の一都三県を念頭に置き検討を行った。

もとより都市づくりは百年の大計に基づき進めるべきものである。東京圏が持つ機能とその影響力を考えるならば、こうした時間軸だけでなく、地理的な軸をも考えあわせる必要がある。国際都市・東京が今後どのような姿を目指すかは、全国的な問題であることは勿論のこと、国境を超えた問題でもある。

都市を都市として成立させる基盤は経済である。経済的基盤なしに都市が都市としての機能を発揮することはできない。しかしながら、大競争時代を迎え、都市が従来以上に新しい価値を生み出すことが求められている中、東京圏に関してそうした価値創造のための諸条件を幅広い見地から問い直す必要性が高まっていることも事実である。

言うまでもなく、大競争時代において東京圏が繁栄しなければ、日本の繁栄はない。東京圏は日本経済の重要な結節点であり、世界から東京圏が取り残されることは、日本経済の存在自体がかすむことを意味する。反面、東京圏の繁栄が地方圏によって支えられていることも忘れてはならない。産業や生活の基盤であるエネルギーをとっても、東京圏は自力で一日たりとも存続し得ないのである。

ワーキング・グループは、こうした問題意識から、東京圏の持つ問題や理想とする姿を経済という視点のみならず、さまざまな視点から検討を進めた。経団連が東京圏に関して、このような幅広い視点から総合的かつ包括的な検討を試みたのは、今回が初めてである。

検討を開始して改めて驚くことは、東京圏に住み、あるいは働き、学ぶ人々は無論のこと、そうでない人々にとっても東京圏に対する関心が極めて高いということである。東京論に関するアプローチも、文明、歴史面からの考察から、経済や都市計画、防災といった視点、さらにはライフスタイルや観光といった身近な問題など幅広く、それぞれの問題意識や捉え方も多様である。

ワーキング・グループでは、各界で行われている議論を極力吸収することに努めたが、限られた時間での検討であったため、すべての分野をカバーできたわけでない。この点において、本報告書は、検討過程の里程標として位置づけられた「中間とりまとめ」である。

新しい東京圏の創造は決して短期間で行われ得る課題ではない。継続的に論議を深めていくことが重要であり、いわば半永久的な取り組みが必要といえる。こうした点においても本報告書は「中間とりまとめ」である。このような中間段階にあるものながら、あえてこれを世に問うのは、本報告書を契機として新しい東京圏の創造に関して議論が高まることを期待するからにほかならない。経団連としても、ここで取上げた具体的プロジェクトの推進に取り組んでいきたい。


日本語のホームページへ