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報告書『新東京圏の創造』
−安心・ゆとり、魅力、活力を兼ね備えた都市づくりに向けた提案−

3.21世紀の東京圏の理想の姿


21世紀の東京圏の理想の姿を考えるに当たり我々は、「安心・ゆとり」、「魅力」、「活力」の三つをキーワードとした。

  1. 安心・ゆとりの都市づくり
    1. 防災都市づくりの推進
    2. 防災都市づくりは、100年の視野で計画し、優先順位を決めて10年単位で着実に実行していく必要がある。
      これからの地震対策としては、「予防対策」が何よりも重要であるが、予防対策では防災都市づくりというハード面の対策に加えて、「地震に強い社会づくり」というソフト面の対策が求められる。
      東京都は、関係省庁や関係自治体、企業、学校関係者等の幹部から成る「震災時における昼間都民対策検討委員会」を設置し、近隣県や多摩地区等から流入している300万人超の「昼間都民」が震災発生で帰宅困難となる問題への対応について検討を重ねている。東京都がソフト面から防災社会づくりに着手し始めたことは、東京圏の災害対策の上、画期的な取り組みとして評価したい。
      都市の防災力は、できるだけ多くの住民が協力し合い備えることによって強固になる。街づくり協議会などを通じて、住民の共同体意識を高め、自ら街路、公園の整備に取り組んできた地区において、被害が比較的少なかったことは、阪神・淡路大震災で証明ずみである。昼間都民対策で既に行われているように、自治体は、住民間の横の連携を緊密にとるシステムにより、地震災害への対応力を向上させる努力を行うべきである。

    3. 健康高齢都市の創造
    4. 高齢化がピークを迎える2020年の視点から、住み良い健康高齢都市の創造に取り組むことが重要である。
      2020年には、東京圏の居住人口の4人に1人が高齢者となる。高齢者がいきいきと仕事を続け、健康で生活を楽しめ、社会や経済に貢献をし続けるためには、都市が重要な受け皿となる。こうした視点から、バリア・フリーの都市づくりなど、高齢者が活動しやすいハード面の整備とともに、良質な都心型の高齢者用賃貸住宅を供給するための政策等も求められよう。

  2. 魅力豊かな東京圏の創造
    −住む人、訪れる人を魅了する価値の創造−
    1. 魅力ある、新しい「東京人」の創造
      −「学習空間」と「遊興空間」の充実、新しいコミュニティの創造
    2. 魅力ある東京圏を創造するためには、都市インフラなどハード面の改善だけでは十分とはいえない。人々にとって東京圏が魅力的であり続けるためには、「東京人」を魅力的にしなければならない。
      かつての江戸っ子に「いき」があったように、現代の東京人は「洗練」「張り」「艶」を資質として有する必要がある。魅力ある東京人を創造するため、企業も、また自治体や地域社会も、遊興空間と学習空間を多様化・複合化し、拡充させていく取り組みが求められる。いきいきと学習し、いきいきと仕事をし、さらにいきいきと遊べる、東京人にとって面白い東京圏が創造されていければ、さらにその東京人が東京圏を良くしていくに違いない。
      下町などの街づくりの担い手としては、これまで商店街の商店主などが中心となってきたが、中心市街地の衰退等により街づくりの担い手が不在化しつつある。マンションの管理組合などに萌芽がみられるように、これからは東京圏に働くサラリーマンなどが地域のコミュニティの中心となり、新しいタイプの共同体を形成していくことが期待される。この場合の新しい共同体とは、よりよい街の形成に向けて、自由に参加でき、かつ自由に抜け出すことができるフリーアソシエーションが理想であろう。

    3. 循環型都市の形成
    4. 昨年12月の京都会議以降、21世紀の日本のグランド・ビジョンは循環型社会を目指すこととなった。新しい東京圏を創造するに当たっては、あらゆる問題で循環型都市を形成するという意識が求められる。市民生活や産業活動に伴う廃棄物処理の問題から、CO2の問題まで、それぞれ適切な解決策を見出していかなければならない。
      自然環境への重視も必要である。近代において、東京圏は自然環境を犠牲にして産業の発展を優先させてきた。我々は東京圏に自然を取り戻そうという言い方はあえてとらない。一歩進んで、東京圏にすぐれた自然環境を創造させたい。すでに、野鳥公園のように自然を新たに創造する試みが行われているが、都市公園やグリーンベルトの整備は防災面のみならず、自然環境創造にとっても重要な意義をもつものである。緑豊かな住宅地や美しいウォーターフロントは、そこに生活し働き、そしてそこを訪れる人々を魅了することとなろう。

    5. 日本的な都市美の追求
    6. 東京都は景観条例を制定したが、東京圏においても美しい街並みや豊かな公共空間など都市美を求める声が高まっている。
      東京圏は一見無秩序に見えて、実は部分部分が全体を構成し、変化と発展を可能にしてきた有機体であり、そこには「隠れた秩序」があるといわれている。治安の良さや上水の発達なども一つの秩序である。しかし、わが国社会の変質は東京圏における、こうした「隠れた秩序」を蝕もうとしている。
      他方、欧米などの都市美に魅せられた人々や、東京圏を訪れ、また実際に東京圏で生活する外国人からも、都市景観について整合性をもたせ、部分部分の調整をこまめに行うことにより、「目に見える秩序」の向上に努めるべきだとの声が発せられている。
      新しい東京圏の創造に向けて、「目に見える秩序」と「目に見えない秩序」を併せ持つ「日本的都市美」を追求したい。

    7. 「学術文化首都」、「観光首都」の創造
    8. 東京圏は既存のストックを活かして、都市として魅力を増す潜在力に富んでいるといえる。
      まず東京圏が目指すべき姿として、「学術文化首都」が考えられる。東京圏において学術文化機能の充実による国際交流都市づくりを推進していくことが重要であり、とりわけ大学を知的センターとして機能させていくことを求めたい。
      加えて、これからの東京圏を考える上で、観光は重要なキーワードの1つである。日本の外国人観光客の受入数はOECD加盟国中24位(1996年)であるが、国民一人当たりで換算すると日本は最下位となり、「観光後進国」の地位に甘んじている。東京圏は国内では「観光首都」といえるが、世界基準では到底その地位にあるとはいえない。アジアの人たちが海外への観光に動き出す前に、東京圏を世界の「観光首都」にしておかなければ、引き続き日本は21世紀においても観光後進国の地位に甘んじることとなろう。

  3. 活力ある東京圏の創造
    1. 活力ある国際センター
      −夢創造、夢実現の都市−
    2. 活力ある東京圏の理想は、内外からビジネス・チャンスを求めて人々が集まってくる国際センターであり、常に新しい産業や事業のアイデアが生まれる場である。いつでも、すぐに連絡でき、会ってビジネスを進められるのが新東京圏の醍醐味である。
      東京圏が新しいビジネスを創造し、東京圏の産業・企業が国際的な競争力を確保していくためには、自由で開放的な市場の構築、労働力の流動化、研究開発への支援、金融・資本市場の整備といった環境づくりが不可欠である。

    3. 「イノベーション型都市」の創造
    4. 研究開発は新しい産業や新しいビジネスの源泉であるが、その中心として大学に期待される役割は極めて大きい。大学は文化だけでなく、イノベーションにとっても重要である。東京圏を常に知的刺激に満ちた活気ある知的センターとしていくためには、従来にも増して知的なものを尊重する風土を醸成する必要がある。知的財産権を尊重し、それを制度的に担保する仕組みも当然ながら必要となる。
      東京圏をイノベーション型都市にしていくには、大学や国公立の研究機関と民間研究機関の有機的な連携が重要であり、産・官・学の協同によりセンター・オブ・エクセレンスを形成していくことが新東京圏の創造に不可欠である。研究開発に対しては、国の支援が重要であるが、国民が夢を持てるような地球環境やエネルギー問題、ガンやエイズなどの解決といった大きな課題を打ち立てて、取り組むべきである。
      「イノベーション型都市」には、インターネット等情報通信の活用などにより、最先端の情報や技術が集まるセンターとしての機能を兼ね備えることが不可欠である。
      情報通信の発達は仕事のあり方、さらには企業のあり方を根本から変える可能性を秘めている。情報通信のネットワーク化が、在宅勤務やサテライト・オフィスなどに萌芽的に見られる企業オフィスの分散化の動きを加速化させ、企業に働く人々の生産性やライフスタイルに大きな影響を及ぼすことが考えられる。
      世界でもここしかない、ハイレベルのサービス産業を育成することも新東京圏が目指す一つの理想である。東京圏が世界でもユニークな「健康高齢都市」を目指すのであれば、規制緩和を推進し、民間活力を最大限に発揮させて、世界最高水準の医療・福祉のサービスを実現することも必要となろう。また活力あふれる高齢者の豊富な知識や経験によって支えられる観光産業、さらには中高年世代の都市生活の質を高める生活支援産業が東京圏の新たな産業として花開くことも期待される。

    5. 活力ある東京圏と活力ある地方圏の新たな関係の構築
    6. 「東京圏」と「地方圏」が対立的に考えられていた、従来までの関係を根本から改めることが重要である。
      東京圏の活力を高めなければ、東京圏は世界都市とはなり得ず、ジャパン・パッシングの動きが加速化される。東京圏の活力が高まれば、それは地方圏にも波及し、地方圏の新しい活力を引き出すことになる。新しい東京圏創造のために、必要な予算は投じられるべきであり、そのインフラ整備を行うのは今しかない。
      加えて、東京圏の繁栄は地方圏あってのものであることは忘れてはならない。そもそも東京圏は電力や水資源の確保、廃棄物の処分などの面において、自らの手で処理できていない。関係自治体は、こうした問題に対する市民の意識を高めることを手始めに、省エネルギー、省資源を具体的に推進するなど、自立的な東京圏の創造に取り組むことが重要である。


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