報告書『新東京圏の創造』
−安心・ゆとり、魅力、活力を兼ね備えた都市づくりに向けた提案−
新東京圏創造に資する具体的な都市づくりのため、経済界はその持てる活力を発揮し、積極的に提案を行い、住民、自治体と共同で事業を推進していく。
地域に密着した具体的な都市づくりの段階においては、地方自治体が地域における土地利用の整合性を確保することなど、最も重要な役割を担うべきである。また、その推進に当たっては、住民が主体的に参加して計画を策定し、それに民間が参画していくかたちが望ましい。
新東京圏創造にとって都市基盤の充実は当面の重要課題であるが、それを進めるに当たっては民間活力を最大限に活用し、効率的に進める必要がある。
現在、英国のPFI(Private Finance Initiative)や証券化手法を用いたプロジェクトファイナンスなどを参考に、民間の資金、経営能力及び技術能力を活用した社会資本整備のあり方が検討されているが、これまで官が行うものとされてきた分野を民間にも開放し、民間の手に委ねるという制度への転換を期待したい。
民間事業者の創意工夫が十分に発揮されれば、国民に対して低廉かつ良好なサービスの提供が可能となろう。
次項に掲げる具体的な都市づくりのプロジェクトも、PFIや証券化などの新しい制度的枠組みが構築されれば、民間主導で推進される道が開かれることとなる。
ワーキング・グループの数名の委員が7回の会合と作業を重ね、以下のような新しい東京圏のイメージの提案を作成した。
【スーパー環状道路“loop 2020”】
−防災・環境グリーンベルトの形成−
【都心部超高層住宅整備】
【環状2号線(新橋〜虎ノ門区間)整備計画】
前節に述べたように、経済界は新東京圏の創造に向け、その持てる資金、技術、ノウハウ等を最大限に活用する姿勢であるが、国、関係自治体はこれまでの制度的枠組みを超えて必要かつ十分な予算措置を講じ、新しい東京圏の創造に取り組むべきである。
経済界として、国、関係自治体には以下の政策の実施を求めたい。
阪神・淡路大震災から3年の歳月が過ぎ、その記憶は徐々に風化しつつある。阪神・淡路大震災の教訓を最大限に生かした都市防災対策に取り組むことはもちろんのこと、ハード面の都市づくりとソフト面からの地震に強い社会づくりを着実に推進していかなければならない。
前述のように、防災都市づくりは100年の視野で計画し、優先順位を決めて10年単位で実行していく必要がある。急ぐべき分野には、予算を優先的に配分すべきである。
東京を世界都市にするためには、世界のあらゆる知的なものが集まり、それを吸収できるセンターにすることが必要であるが、今の文化・教育制度のままでは、そうしたセンターが実現できないことは明らかであり、学術文化政策のブレークスルーが求められる。
米国では観光キャンペーンに大統領自らが登場するなど、観光に産業として確固たる位置づけが与えられているが、わが国の観光への取り組みは遅れており、グローバル・スタンダードから見て観光政策不在の状況にある。アジア諸国の高度経済成長に伴い、アジアの人々が海外観光に動き出す21世紀初頭に目標を置いて、早急に十分な人材と予算を投入するなど「観光後進国」の汚名返上に向け、実効ある観光政策の確立と推進を求めたい。
東京圏が国際センターとして機能していくためには、財・サービス、金融・資本といったあらゆる市場を、内外に開かれ、透明性が高く、魅力あるものに変革し、ヒト、モノ、カネ、情報、さらには技術の移動を円滑にしていかねばならない。
新規参入や事業活動を妨げている規制は、「経済的規制は原則撤廃」の基本理念のもとで早急に見直す必要があるが、企業側においても、閉鎖的な商慣行や官民癒着構造の見直しを行い、市場の透明度を高めるだけでなく、東京圏をより一層魅力ある市場とするため、グローバル・スタンダードに合致した取り組みを進めるとともに、創造的人材の育成と活用等を図っていかねばならない。
東京圏のイノベーション・情報発信力の向上も重要な課題である。その実現のためには、まず国際的に見て、東京圏の経済活動を高コストにしている諸要因を根本的に見直す必要がある。
イノベーションの担い手であるアッパーミドル層の職住近接を実現するために都心居住を推進する政策も重要である。良質かつ低廉な賃貸住宅を都心に整備していく政策は、海外ビジネスマンの長期滞在にとっても有効なインフラとなろう。
実効性ある土地利用・都市計画を推進するために、都市開発における規制緩和を引き続き推進するとともに、前項に述べたように行政単位を超えた広域的な取り組みが必要である。
また土地区画整理事業において住民に減歩が求められる場合には、地権者たる住民に対して相続税を減免するなど、住民参加型都市づくりを実現する制度的枠組みを構築する必要がある。
車と人との共生を図り、土地の有効利用を推進する上で、歩行者用地下道の整備は必要不可欠であるが、現行の建築基準法が個別の土地における構造物のみを対象としているため、地下道ネットワークの整備を行おうとする際にネックとなる。改善を求めたい。
加えて、郊外の一戸建て住宅に対するニーズは、家族持ちのサラリーマン世帯を中心に根強いものがある一方で、働きざかり世代や高齢者にとって都心居住に対するニーズも高まっている。今こそ国民のライフスタイルに合わせた住宅政策を再構築する必要がある。東京圏における都心居住の推進に当たっては、これまでの持ち家制度に隠れて政策課題として重きを置かれてこなかった、良質かつ低廉な賃貸住宅供給のスキームを早急に確立すべきである。
これからの自治体行政は、情報通信等を活用したネットワーク型を目指すべきである。昼間都民対策など防災面での自治体相互の連携を強化しつつ広域的な視点からの取り組みが行われており、こうした方向性を我々は支持したい。
それぞれの自治体が独自の特色づくりに取り組むことももちろん重要であるが、新東京圏創造に向けて、関係自治体がこれまでの発想を転換し、東京圏全体を視野に入れた広域的な取り組みを推進するよう求めたい。
東京圏における最大の課題は、交通インフラのボトルネック解消にあるといっても過言ではない。これがために東京圏の国際競争力は著しく低下しており、例えば香港、シンガポールはもとより、上海などと比べても東京圏の地位は急速に低下しつつある。整合性ある交通インフラの整備に早急に取り組み、そのボトルネックの解消に重点的に投資を行うよう求めたい。
具体的には、中央環状線の建設、東京外郭環状道路の建設、インターチェンジの整備などに早急に着手する必要がある。また、地価が低水準にある今こそ都市計画道路の建設を進める絶好のチャンスであり、早急に建設着工に向けた準備を進めるべきである。
交通インフラを整備するに当たっては、往々にして行政の縦割りがネックとなることが多い。東京圏という広域的な視点から、道路、港湾、鉄道、空港の整合性ある交通インフラの整備を進めていくことが重要であり、改善を強く望みたい。また、世界都市東京を実現するためには、国際空港の機能を質量両面から充実させることも重要となろう。
以 上