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国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築

2.老人保健制度、高齢者医療費の問題点とその是正


来年度に上記のような制度改正を行ったとしても、引き続き次のステップとして、老人保健制度をはじめとした医療保障制度の構造的な歪みを是正しない限り、今後の高齢化に伴い、保険財政が再び悪化の道を辿ることは必至である。

  1. 老人保健制度の問題点
  2.  現行の老人保健制度は、その費用の7割を組合健保、政管健保、国保の各保険者が保険料として集めた資金を拠出することで賄い、残りの3割を国・自治体が公費で賄っている。これは、70歳以上の高齢者の一人当たり医療費が、現役世代と較べ突出して高く、自ら支払う保険料に加えて、世代間扶助の観点から支援を行っていることによる。

    表 年齢階級別一人当たり一般診療医療費(1993年度)
    推 計 額平均に対する比率
    平  均16万8100円1.00
    0〜14歳6万1400円0.37
    15〜44歳7万4900円0.45
    45〜64歳20万 200円1.19
    65歳以上53万2300円3.17
    70歳以上(再掲)63万5800円3.78
    (出典)厚生省「国民医療費」

    他方、現役世代の被保険者から見れば、自らの疾病のリスク・シェアを主な目的として支払っているはずの保険料から、世代間扶助の性格の強い老人保健制度に対して多額の拠出金が支払われていることになる。このため、現役世代は、世代間扶助を行うために上乗せされた保険料を意図せずに負担しているばかりか、社会保険方式のメリットである負担と受益の関係が不明確になり、医療保険制度および老人保健制度への不信感が高まっている。

  3. 高齢者医療費の問題点と抑制策
  4.  老人医療等公費負担医療に関する行政監察結果(総務庁)によれば、高齢者医療費の中には、重複受診(同一傷病について複数の医療機関で診療を受けている)、過剰投薬(例えば一カ月で45日分の投薬)などの事例がありながら、国民健保の保険者である各自治体が必ずしもその実態を把握していない場合がある。また、調査した老人病院に入院中の高齢者医療受給者のうち、28.3%が社会的入院者と判断され、さらに、この社会的入院者と判断された患者の約半数が特別養護老人ホームへの入所待機者となっていた。
     このような問題が高齢者医療費の増大を招いている面もあり、本格的な高齢者介護制度を導入することにより社会的入院を解消するとともに、非効率、不合理な医療供給を排し、高齢者医療費の効率化、抑制を図るべきである。

  5. 目的に合わせた財源の選択―社会保険方式と公費方式
  6.  老人保健制度を支える現役世代の不信感を払拭し、高齢者医療保障制度を持続可能なものとするには、高齢者医療費の合理化・効率化のみならず、根本的に老人保健制度を改革し、その目的に相応しい財源を選択しなければならない。

    1. その場合、先ず第1に、高齢者間のリスク・シェアに着目し、高齢者のみで負担する社会保険方式に変更することが考えられる。この方式では、受益と負担の関係が明確になり、新制度を高齢者自ら支える形になるというメリットがある反面、その保険料は極めて高水準にならざるを得ない。その結果、保険料水準を抑えるために公費負担または現役世代からの拠出金を求めれば、現行の老人保健制度同様、目的と手段の関係が不明確で信頼感の欠ける制度となる。

    2. 第2に、高齢者保険方式にかえて、全世代で単一の社会保険方式あるいは保険者別にOBも含めてカバーする社会保険方式とする考え方もある。この場合、単一の社会保険方式については、現行の保険制度が被保険者の特性に応じた保険組合によって運営されていることを考えれば、これを統合する積極的理由に乏しく、行政改革推進の見地からも現実的ではない。また、OBを含めた形での社会保険方式については、現役世代にとって受益と負担の関係が不明確なまま、結果的に世代間扶助の要素が上乗せされ、現行の老人保健制度と同じ問題を抱えることになる。

    3. そこで、第3に、税および財政支出の持つ所得再分配機能に着目し、老人保健制度を社会保険から切り離して、老人保健制度は社会福祉であると考え、公費方式に切り換えていくことが考えられる。その際、必要な医療保障財源が確保できるのか、また反対に経費の膨張を抑制できないのではないか、といった懸念はあるものの、一般の医療保険は現役世代内のリスク・シェア、高齢者医療保障は福祉として全世代が支え合うという性格付けが明確になり、現行の老人保健制度の不明確で曖昧な制度という欠点が解消される。
       現行制度から公費方式に変更する場合、長期債務残高が累増しつつある財政への影響を考えると、その財源は、冒頭に述べたような徹底した歳出構造改革を断行することにより賄うべきである。ただし、財源が不足する場合には、国民全体で支える消費税方式の新税の創設、あるいは地方自主財源の充実について、国民の理解と協力を求めていくべきである。

  7. 高齢者に対する社会保障給付の合理化、効率化
  8.  所得、資産等の世代別分布をみる限り、必ずしも高齢者全てを一律に経済的弱者として扱う論拠はない。高齢者についても、その所得、資産等に応じて、社会保障給付水準を再検討するとともに、真の経済的弱者に対する適切な措置を講ずることを前提に、応分の負担を求めることが望ましい。
     また、これまでバラバラに給付されてきた医療、年金、福祉の給付を総合的に調整することにより、給付の合理化、効率化を図るべきである。


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