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国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築

3.各医療保障制度に共通する構造的歪みとその是正


 現行医療保障制度には、老人保健制度以外にさらに次のような構造的歪みがあり、制度の抜本改革により是正していく必要がある。

  1. 医療サービス供給の問題点
  2.  これまでは、医療サービスの供給量、アクセスを確保することが重視されてきたため、出来高払い制度、自治体による保険医の指定など、量・アクセス確保のための仕組みが多く取り入れられてきた。しかし、厚生省の推計によれば、既に医師は供給過剰にあり、今後何らかの措置を取らない限り、このギャップは拡大していく。また、病床数も他の先進諸国に較べて極めて高い水準にある。医師数、病床数と医療費の間には強い相関関係があり、「供給が需要を作りだす」という構造になっているといわれている。このような状況が続けば、医療費の自己増殖的な増大は避けられず、早晩、医療保険財政は破綻することとなる。
     一方で、国民の間には、長い待ち時間で短い診療時間、医療機関に関する情報の不足など、医療サービスに対する不満がある。併せて、地域による医療サービスのアンバランスも指摘されており、国、自治体は国民に対して良質かつ適切な医療が効率的に提供されているかどうかをチェックする必要がある。

  3. 医療保険者の機能強化と競争原理の導入
  4.  医療保険者には、被保険者への医療情報の提供、適切な保険医の紹介など、利用者の立場に立って適切かつ効率的な医療サービスを確保することが期待されており、そのことを通じて医療費総額の抑制、保険料水準の適正化を図るべきである。しかし、現状では、様々な規制によりこれらの機能を発揮できず、保険者は事実上保険料徴収機関にとどまる状況となっている。
     今後、医療の分野においても、如何に「利用者本位」の状況を作りだしていけるかが、制度改革の鍵となる。
     医療保険者が、医療サービスの利用者の立場に立って、被保険者へのきめ細かな医療情報の提供、適切な保険医の紹介、保険医との直接契約、レセプト審査(民間企業への委託を含む)など本来の機能を十分発揮することが、とりもなおさず医療サービス供給に競争原理を導入することになり、医療費の抑制につながる。

  5. 民間企業によるサービスの提供と質の確保
  6.  標準的な医療サービスは公的保険で給付するものと考えるが、医療サービスの多様化、質の向上が求められている現在、情報開示の徹底など一定の条件のもとに保険医における混合診療を大幅に認めるとともに、医療分野においても民間企業の参入を認め、無駄の排除や効率化を通じて医療費抑制を図るべきである。また、公民を問わず医療サービスの質を確保するため、第三者機関が評価を行い、公表する仕組みを作る必要がある。


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