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国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築

4.段階的な改革の推進、小さな政府の実現と国民の信頼の回復


  1. 段階的な改革の推進
  2.  以上のような考え方にそって、医療保障改革を段階的に推進していく場合、1997年度の第1段階改革に続いて以下のようなアプローチが考えられる。

    ◎第2段階の改革=医療の合理化・効率化の促進

     第2段階として、医療サービスの合理化・効率化を進めるための制度改正を行うべきである。その場合、定型的な医療行為への定額払い制度の拡大、企業による病院等の経営の自由化、医療機関の広告規制の緩和および医療に関する国民への情報提供の充実、薬価基準の制度的見直しなどが対象となる。

    ◎第3段階の改革=高齢者介護制度の導入と一体となった医療保障改革の断行

     本格的な高齢者介護制度の導入と一体となった、抜本的な医療保障改革を断行する。その改革の柱は次の4点である。

    1. 老人保健制度の抜本的改革
      1. 財源については国民全体で支える公費方式に移行する。
      2. 制度の対象者を限定する。
        一律の年齢基準ではなく、所得捕捉の公平性を確保したうえで所得基準とし、基準を超える者は、引き続き各医療保険制度にとどまる。
      3. 真の経済的弱者に対する適切な措置を講ずることを前提に、高齢者の自己負担率を見直す。
      4. これに伴い、老人保健拠出金を撤廃する。
      5. 高齢者介護制度の導入に伴い社会的入院を解消する。

    2. 医療保険者の機能強化と医療サービスへの競争原理の本格的な導入
      1. 保険者は保険医と選択的契約を行う。
      2. 保険者は、保険医に関する情報を被保険者に提供する。
      3. 民間企業への委託を含め、保険者によるレセプト審査を実施、強化する。
      4. 混合診療の割合を拡大する。
      5. 診療所、病院の役割分担(プライマリー・ケアと高度医療)を明確化するとともにネットワーク化を図る。

    3. 国立医療機関の整理統合
    4.  国立医療機関の機能を、高度先駆的医療、難病克服のための専門的医療などの政策医療や、臨床研究等に限定し、統合・集約化を図る。同時に、地域における一般的な医療提供の機能は、自治体に委譲する、民営化する、もしくは廃止する。

    5. 高齢者医療、介護、年金(基礎年金)の併給調整
    6.  高齢の引退世代に対する社会保障給付を総合的に行うこととし、その併給調整を行う。たとえば、介護サービスを受けた場合には、一定額を限度に基礎年金の給付を減額する。そのため、1997年1月に導入予定の基礎年金番号を拡大し、プライバシーの保護を前提に、社会保障番号制度(仮称)を導入する。

  3. 効率的で小さな政府の実現と医療保障制度への信頼の回復
  4.  医療保障制度の改革にあたり、最も重要なことは、それぞれの制度の目的を明らかにし、利用者やその制度を支える人々、特に現役の勤労世代の十分な納得と信頼を得ることである。
     上記のような段階的な改革を推進することにより、組合健保、政管健保、国民健康保険など各医療保険制度の主たる目的が疾病に関する短期のリスク・シェアであることを明確にすることで、被保険者が負担する保険料の性格、さらには社会保険のメリットである受益と負担の関係が明確になり、国民の納得を得ることが可能となる。他方、高齢者医療保障については、社会保険方式ではなく、むしろ世代間扶助の考えの下で国民全体で支える制度として位置づけることが重要である。
     併せて、コスト意識の高揚、競争原理の導入などによる無駄の排除や効率化を通じて、医療費、特に高齢者医療費の増嵩を極力とどめることで、租税負担と社会保障負担を合わせた国民負担率を抑制する必要がある。さらには、医療保障制度の改革と同時に、本格的な歳出構造改革(財源配分の見直しを含む)、行政改革に取り組むことで、小さくて効率的な政府を目指すべきである。
     これらの結果、医療保険、高齢者医療ともに持続可能な制度となり、国民の信頼を回復することが可能となる。
     なお、今後の医療保障制度の抜本改革を進めるにあたっては、国民の間の十分な議論を経たうえで、理解と協力を求める必要があり、行政には、そのための基本的なデータの提供と改革提案に関する説明責任(アカウンタビリテイ)が先ず求められる。厚生省においては、国民各層からの要望に応えて、改革のための具体的なメニュー(選択肢)を、可能な限り詳しいデータ、将来推計や改革メニューのメリット・デメリットなどを付して国民の前に提示し、国民の選択に資するよう心掛けるべきである。


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