[目次] [要旨] [はじめに] [第1章] [第2章] [第3章] [第4章] [第5章]
国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築
5.本格的な高齢者介護制度の創設
高齢化の進行とともに要介護高齢者の数は急増し、介護の社会化の要請は急速に高まっており、本格的な介護制度の導入は避けられないと考える。
また、いわゆる社会的入院は、限りある社会保障財源の効率的な配分を妨げる結果となっている。今後は、介護サービスの供給体制の充実を図ることにより、医療行為と介護行為を峻別し、可能な限り早期に社会的入院を解消していかなければならない。そのためにも、本格的な高齢者介護制度の創設は、医療保障制度の改革と一体のものとして検討しなければならない。
- 介護保険制度案の問題点
ところが、今回、厚生省案に基づいて旧連立与党で合意された介護保険制度案では、上記の基本的考え方に立った場合、次のような問題点がある。
- 40歳以上65歳未満の第2号被保険者は、高齢化に伴う要介護状態になった場合のみ介護給付が受けられることになっている。被保険者でありながら実質的には保険料を負担するのみで給付が受けられない仕組みになっており、負担と給付という保険の関係が崩れている。
- 社会保険方式という形式を取りながら、給付の50%を公費で賄うこととしており、保険制度として組み立てるにはかなり問題がある。
- 若年障害者は公費方式となっており、高齢者介護のみ社会保険方式とする理由が明らかではない。
- 保険料未納者については、給付率の引き下げ等の措置を講ずるとしているが、未納者が要介護状態になった場合に、福祉の普遍性からいって介護サービス給付のレベルをカットすることは現実的には困難である。
- 施設サービス、ケアプラン作成等について、株式会社を含む多様な事業主体の参入を促すとの視点が乏しい。
- 介護給付と年金給付の調整など、他の社会保障制度との間の調整が不十分である。
- 高齢者介護制度のあり方
高齢者介護制度については、公的保障と自助努力のミックスを基本とし、公的保障がカバーする範囲は、真に介護を必要とする高齢者への標準的な介護サービスに限定すべきである。また、民間企業、NPOによるサービス提供を全面的に促すことで、サービスの多様化、効率化を図ることが望まれる。さらに、医療保障と同様、制度の目的に照らして適切な財源を求めるべきである。
その場合、高齢者介護制度は、高齢者医療と同様、それ自体が保険として成立するものではなく、明らかに世代間扶助、社会福祉を目的としたものである。従って、その財源は、国民全体で支える公費方式とすることが望ましい。また、若年者介護との整合性をはかるとともに、高齢者医療、年金など他の社会保障制度との総合的な給付調整を行うためにも、公費方式が相応しい。
以上の考え方に基づいて、我々が考える高齢者介護制度の骨格(試案)を示すと、次の通りとなる。
- 実施時期
抜本的な医療保障制度改革と一体のものとして同時に施行する。
- 介護サービス内容
要介護高齢者とその家族にとって、介護には在宅、施設両方のサービスが必要であり、在宅、施設の両サービスは同時施行とする。
- 介護サービス供給における多様な事業主体の参入
介護サービス供給の多様化、効率化を図るために、在宅、施設両サービスとも、民間企業、NPOの参加を促す。
- 制度の運営主体
できる限り要介護高齢者の身近な所で制度を運営するとの観点から、市町村とする。複数の市町村による広域連合の形成も可能とする。
- ケア・プランの作成
運営主体である市町村と、要介護高齢者本人、介護の専門家などとの合議により、介護サービスプランを作成する。市町村が民間プランナーに業務委託することも可能とする。
- 介護給付手段
要介護高齢者本人によるサービスの選択、サービス事業主体間の競争を通じて効率化を図るとの観点から、市町村は、介護サービス購入のためのバウチャーを交付する。その際、本人確認を義務付けるなど、バウチャーが流通しないよう工夫する。
- 財源方式
要介護高齢者に対する世代間扶助、社会福祉という目的からみて、国民全体で支える公費方式が望ましい。同時に、サービス提供に関する地域の独自性を考えれば、地方固有の財源も検討対象となる。
- 自己負担
高齢者医療と同様、高齢者自身も社会の一員として応分の負担を行うとの観点から、所得に応じて介護費用の一部を定率で自己負担する。その際、自己負担額の上限を設けるとともに、真の経済的弱者に対する適切な措置を講ずることとする。
- 施設、人材育成等の基盤整備
介護施設、人材育成等介護のインフラ整備は、介護サービスの充実に不可欠である。民間や自治体が行うこれらインフラ整備については、国、県が支援する。
- 他の社会保障負担との併給調整
介護給付を行う場合、基礎年金、医療の併給調整を行う。そのため、1997年1月に導入予定の基礎年金番号を拡大し、プライバシーの保護を前提に、社会保障番号制度(仮称)を導入する。
以 上
日本語のホームページへ