[目次] [要旨] [はじめに] [第1章] [第2章] [第3章] [第4章] [第5章]

国民の信頼が得られる医療保障制度の再構築

要旨


はじめに

 今後のわが国経済のグローバル化、本格的な高齢・少子社会を迎える中で、豊かで活力ある社会を実現していくためには、公民の役割分担を明確にしつつあらゆる歳出項目にわたってゼロベースで見直す必要がある。その最大の課題が社会保障制度の改革である。中でも医療保障制度の効率化、信頼の回復は、国民的な関心事となっている。

  1. 医療保険財政の危機と1997年度の緊急対策の実施
  2.  今後、国民医療費の伸びは、国民所得の伸びを上回ることは確実で、中でも高齢者医療費は、後期高齢者の増大など本格的な高齢化に伴い、その急増が見込まれる。医療保険財政は悪化しており、今後ともその赤字幅は拡大の一途を辿る見込みである。健康保険料をこれ以上引き上げる余地のない状況では、国民全体が今以上にコスト意識を持つことで、医療費の無駄を省き、当面の医療費の増勢を抑制する必要がある。
     そこで、抜本改革に向けた第1段階として、1997年度改正を行うべきである。
    1. 被用者保険の自己負担率(本人)の引き上げ(本則2割)
    2. 自己負担額の上限(高額療養費制度の適用)の引き上げ
    3. 老人保健制度の自己負担の定率化(1割)と自己負担の上限の設定
    4. 薬剤費に関する自己負担率の引き上げ(3〜5割)

  3. 老人保健制度、高齢者医療費の問題点とその是正
  4.  現行制度の下では、現役世代は、自らの疾病のリスク・シェアに必要な保険料に、世代間扶助を行うためのコストを上乗せされた保険料を意図せず負担している。このため、社会保険方式のメリットである負担と受益の関係が不明確になり、医療保険制度そのものへの不信感が高まっている。
     高齢者医療費増大の原因である過度の重複受診、過剰投薬や社会的入院を是正し、高齢者医療費の効率化を図るとともに、真の経済的弱者への適切な措置を前提に、所得、資産等により応分の負担を求めるべきである。
     また、現役世代の不信感を払拭するためには、制度の目的に相応しい財源を選択しなければならない。高齢者一人当たり医療費が現役世代に較べて突出して高いことを考慮すれば、高齢者医療保障は、世代間扶助、社会福祉の観点から国民全体で支える公費方式が望ましい。その場合、財源は徹底した歳出構造改革の断行により賄うべきである。

  5. 各医療保障制度に共通する構造的歪みとその是正
  6.  医師数、病床数など医療サービスが供給過剰となる一方、国民の医療サービスの質への不満、地域による医療供給のアンバランスも指摘されている。医療の分野においても、「利用者本位」の考え方から、医療保険者の機能強化による競争原理の導入、民間企業の本格的な参入などにより、医療費の効率化を図り、総額を抑制するとともに、医療の質の向上を図るべきである。

  7. 段階的な改革の推進、小さな政府の実現と国民の信頼の回復
  8.  以上のような考え方にそって、1997年度改正に続き、医療保障制度の改革を段階的に推進する。

    第2段階の改革=医療の合理化・効率化の促進
    定型的な医療行為への定額払い制度の拡大、企業による病院等の経営の自由化、 医療機関の広告規制の緩和、薬価基準の制度的見直しなど

    第3段階の改革=高齢者介護制度の導入と一体となった医療保障改革の断行
    1. 老人保健制度の抜本的改革
      公費方式への移行、制度の対象者の限定、高齢者の自己負担率の見直し、老人保健拠出金の撤廃、社会的入院の解消(高齢者介護制度の導入)
    2. 医療保険者の機能強化と医療サービスへの競争原理の本格的な導入
    3. 国立医療機関の整理統合と地域医療機能の自治体への委譲等
    4. 高齢者医療、介護、年金(基礎年金)の併給調整

     このような改革の推進により、医療費、特に高齢者医療費の増嵩の抑制を図ることで国民負担率の上昇を食い止め、医療保険、高齢者医療ともに持続可能な制度となり、国民の信頼を回復することが可能となる。併せて本格的な行財政改革に取り組むことで、小さく効率的な政府の実現を目指すべきである。

  9. 本格的な高齢者介護制度の創設
  10.  本格的な高齢者介護制度の導入は、医療保障制度の改革と一体のものとして検討しなければならない。その場合、高齢者介護は、世代間扶助、社会福祉を目的としたものであり、従って、その財源は国民全体で支える公費方式とすることが望ましい。介護のインフラ整備を進めるとともに、公的保障と自助努力のミックスを前提として、多様なニーズへの対応、民間事業者による効率的なサービス提供を促進するとの観点から、バウチャー制度を導入する必要がある。

以 上


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