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わが国の高コスト構造の是正
−新たな経済システムの構築を目指して−

1.はじめに


高コスト構造がわが国産業・経済・国民生活の将来を脅かしている。輸送コスト、労働コスト、税負担の重さなどは、わが国の企業・生産者の国際競争力を低下させる要因となっているだけでなく、日本市場の魅力の低下を通じて、海外からわが国に対する投資の阻害要因にもなっており、このままではわが国の経済活力の喪失につながる惧れが大きい。公共料金、農産物価格等生活コストの高どまりは、消費者にとって実質生活水準が向上せず、生活の豊かさが享受できない原因であるとともに、産業にとっても多大なコスト負担を強いることとなっている。

高コスト構造とは、専ら競争のメカニズムが働かなくなることによって、生産性と乖離して費用・価格が決まってしまい、市場原理が貫徹しない状態をさす。右肩上がりの経済ではこのような高コスト体質は問題にされることが少なかったが、経済環境が変化した今日では到底看過しえないものになっている。

我々は、こうした高コスト構造は日本型経済システムに深く起因した問題であり、システムそのものを変革しない限り是正されないと考える。既に、欧米諸国では様々な分野で改革が進められており、アジア諸国もめざましい経済発展を遂げるなど、わが国を取り巻く経済・社会環境は急速に変化している。エコノミー・オブ・スピードが競われる世界的な変革の潮流の中で、わが国も諸制度の抜本的改革を速やかに実現し、経済の成熟化、グローバル化、少子・高齢化に対応しうる経済・社会システムを構築する必要性に迫られている。改革の遅れはわが国が世界的な潮流から脱落し、世界の繁栄から取り残されることを意味している。

現在、政府では、経済構造改革、財政構造改革、金融システム改革などの6大改革の一体的推進に努めているが、最も重要なことは真に実効ある改革を断行するとともにそのスピードを上げることである。それぞれの改革について、早急に具体的な内容を示すとともに、スケジュールを明確化し、進捗状況のフォローアップとディスクロージャーの徹底によって、一刻も早く改革を実現していかなければならない。

経団連では、各委員会において規制緩和の推進、財政構造改革、社会保障制度の見直しなどに取り組んでいるところであるが、こうした各委員会の取り組みを踏まえつつ、高コスト構造を産業界の観点から見直し、その是正のための具体的提案を検討することを目的として、経済政策委員会の下に経済構造部会を設け、昨年来検討を重ねてきた。本報告は、経済構造部会の検討をもとに経済政策委員会としてとりまとめたものである。政府においては、今後経済構造改革プログラムをさらに具体化・スケジュール化していくにあたって本報告を踏まえ、内容を充実されることを強く望む。

なお、為替による内外価格差は、円高時にはわが国の高コスト構造を実感させる要因の一つとして指摘されてきた。しかし、円安時にはかえって構造改革を遅らせる懸念があり、高コスト構造問題の本質的な解明を曖昧にしかねない。また、地価についても、急峻でかつ国土が狭いなどのわが国固有の要因があり、一極集中による大都市特有の限定的な問題であるという指摘もある。したがって、本報告では検討対象とはしていない。


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