わが国の高コスト構造の是正
−新たな経済システムの構築を目指して−
第2に、官・公益事業における高コストである。公的サービスの供給においては、事業の公共性・安定性を理由に新規参入が阻害され、競争が十分に行われないために事業効率化のインセンティブが働きにくい。さらに、コスト構造の開示など国民に対する情報公開が不十分であることから、安易な値上げが行われやすい体質となっている。また、公共投資においては、分配の平等が何よりも優先されてきた結果、効率化への取り組みが遅れ、重複投資による無駄やコスト縮減への取り組みが不十分であることなどが問題視されている。
第3に、グローバル・スタンダードから乖離したわが国独自の高コストがある。例えば、わが国の金融システムは、各種の厳しい規制、不透明な金融行政、税制・手数料等各種コストの高さなどを背景に国際競争力が低下し、個人を含めた投資家にとって極めて使い勝手の悪い、選択性の乏しいものとなっている。こうしたことから、わが国金融市場の空洞化の懸念も大きい。
雇用の安定は活力ある経済の基盤をなすものであり、引き続き良質な雇用機会の確保に努めていくことは不可欠である。ただし、雇用の安定とは従来のように企業が社内に人材を抱えるというミクロ的な雇用維持策によって達成されるものではなく、労働移動を円滑化させ、雇用のミスマッチを防ぐことや新事業・新産業を育成するといったマクロ的な政策によって達成されなければならない。
こうした観点からは、企業内雇用の安定を主目的とした雇用調整助成金のあり方も検討していく必要がある。また、確定拠出型年金の導入によるポータブル化、企業年金の自由化を進めるとともに、有料職業紹介や労働者派遣の完全自由化などによって、労働市場の流動化と移動性を高める必要がある。さらに、多様な就業形態、雇用機会の確保を図る観点から、高齢者や女性の活用の道を開くことが必要である。そのためには、女子労働規制の撤廃、年金支給開始年齢の引き上げ、在職老齢年金の受給期間の延長に加えて、企業としては、高齢者の賃金・雇用形態の弾力化、育児休暇制度の充実などを行う必要がある。
一方、従来の硬直的な雇用・賃金システムを維持したままでは、高齢化社会の到来とともに、企業の労働コストが増大し、企業経営そのものが成り立たなくなる惧れが大きい。したがって、現行制度を抜本的に見直し、弾力的なシステムを構築することが不可欠となっている。
具体的には、限界にきている年功序列賃金体系については、年俸制の採用などを含め能力・成果主義を徹底する方向で再編成するとともに、その前提となる人事評価制度についても、公平性、透明性の高いシステムを確立すべきである。加えて、企業としては、不断の生産性向上努力を通じ、労働コストを吸収することが必要であり、従来型の横並び賃上げの是正や福利厚生制度、社内教育システムの見直しなど、現行システムの改革が不可欠である。
勤労者としてもこうした改革の必要性を認識し、新たな時代に対応すべく自らの技能向上など自助努力に努めることが必要であり、政府としては、こうした勤労者の取り組みに対して税制上の優遇措置などを検討する必要がある。