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経団連企業行動憲章 実行の手引き

3.株主はもとより、広く社会とのコミュニケーションを行い、企業情報を積極的かつ公正に開示する。


  1. 背 景
    1. 求められる企業経営の透明性
    2.  度重なる企業不祥事の発生を契機として、また、企業活動の国際化、多様化、複雑化に対応して、商法や証券取引法の改正が行われ、企業の監査機能の強化や情報開示制度の充実が図られてきた。
       それにもかかわらず、日本型経営システムや企業風土の曖昧な部分が、国内外で批判され、経営の透明性の向上を求める声が高まってきている。
       一方、高度成長を支えてきた経済社会システムが行き詰まり、その根本的な改革が求められている中で、政治・行政との健全で正常な関係や行政の透明性の向上が叫ばれている。そうした背景の下で、94年、行政手続法が制定されるとともに情報公開法制定の気運が高まっており、企業においても経営の透明性を高めることが喫緊の課題となっている。

    3. 社会から信頼される「開かれた企業」へ
    4.  このため企業にとっては、株主はもとより、消費者・ユーザー、地域社会などのステークホルダーズとのコミュニケーションを行うとともに、企業情報を適切かつタイムリーに開示することが求められている。広報・広聴活動は今や経済と切り離せない存在になっている。また、情報開示は、国際化、高度情報ネットワーク化の時代において企業が社会的責任を果たす上で不可欠であり、「開かれた企業」として内外の信頼を得る上でも、ますます重要となっている。

    5. マルチメディア時代の情報管理
    6.  なお、情報が氾濫しているマルチメディア時代においては、正確な情報を如何に的確に伝えるかが企業の存亡を左右しかねず、適切な情報開示とともに、十分な情報管理が必要となっている。

  2. 基本的心構え・姿勢
    1. 企業情報の開示と社会とのコミュニケーション
    2.  企業経営全般にわたり、社会が真に必要としている情報の適時適切な開示、積極的な広報・広聴活動等を通じて、常に社会とのコミュニケーションを行い、企業行動が社会的常識と整合する公正かつ透明なものとなるよう努める。
       具体的には、単に法制度上の情報開示にとどまることなく、社会的規範や自らの判断に基づいて、信頼性のある、かつステークホルダーズにとって有用な情報を、適時、提供するよう努める。
       また、広報・広聴活動については「広聴なしに、広報なし」の原則に立ち、企業にとってマイナスの情報を含め、広く社会から情報を収集し、これを経営方針、各部門の活動に役立てる。広報活動については「企業の顔」である経営トップが最大の広報資源であることを認識し、積極的なマスコミ対応を行う。

    3. IR活動を通じた株主・投資家等の企業経営、活動への理解促進
    4.  株主、投資家等とのインベスター・リレーションズ(IR)を重視し、情報開示を含むIR活動を通じて、株主、投資家の企業経営、企業活動に対する理解促進に努める。
       その際、企業活動のグローバル化、多角化に対応して、企業活動の実態についての正しい理解を深めるため、連結決算を積極的に推進していく。
       特に株主総会は、株主との双方向のコミュニケーションを緊密に行い、社会に開かれた企業経営を実現する上で貴重な機会であり、その適切な運営を図る。

    5. 地域社会とのコミュニケーション
    6.  企業は、以下のような地域社会とのコミュニケーションの重要性を認識し、積極的にコミュニケーションを行う。

      1. 企業が立地し、その従業員、顧客が生活する地域社会との関係は、企業にとって最も重要な関係の一つであり、企業の存立基盤である。
      2. 企業は、地域社会との関係を考慮して、自らの活動とそのあり方を見直していくことが求められる。
      3. 企業はその社会的責任として、地域社会に関わる活動を積極的に行う必要がある。

    7. 企業内部情報の管理
    8.  商法、証券取引法など、法令で要求されている諸書類の作成、管理、保管は勿論のこと、重要な経営資産である企業秘密情報についても、適切な情報管理の徹底に努める。
       また、不正競争防止法やインサイダー取引規制等に反することのないよう、企業秘密情報の入手、利用、開示に際して、適正な内部管理を行う。

    9. 高度情報化に対応した企業情報の提供
    10.  また高度情報化に対応して、マルチメディアによるネットワーク・システムの利用等により、効果的かつ効率的に、より多くの人に適切な企業情報を提供するよう努める。

  3. 具体的アクション・プランの例
    1. ステークホルダーズへの情報開示と社会とのコミュニケーション
      1. 商法に基づく計算書類を中心とした開示、証券取引法に基づく有価証券報告書を中心とした開示、さらに独禁法等に基づく開示等、法制度に基づく情報開示を適正に実行する。

      2. その上で、社会的規範や自らの判断に基づき、企業を取り巻く各ステークホルダーズに対して、有用で信頼性のある情報をタイムリーかつ継続的に開示するよう努める。
         具体的には、法制度に基づく情報開示だけでなく、自社の経営理念・経営方針、社会貢献活動等の社会との関わりに関する情報についても、積極的に、かつ公正、タイムリーに開示する。

      3. 広聴活動では、何が重要な情報かを見極める感覚を磨く訓練を行い、社会各層との対話チャネルの充実に努めるとともに、得た情報を各部門にフィードバックする。特に、企業や経営者への批判に耳を傾け、これを貴重な経営資源として情報共有することをトップの方針として宣言する。またトップは、広報活動における自らの役割の重要性を自覚し、マスコミ対応等にできるだけ時間を割くとともに、随時、テレビ出演等についての研修を受ける。

    2. インベスター・リレーションズ(IR)活動の推進
      1. 株主、投資家等に対して、自社の経営理念、経営方針、収益状況、配当政策等、経営全般に関する情報や、企業の国際化・多角化に伴う連結財務情報、事業部門別情報等について、その提供、交換を積極的に行うとともに、意見、批判に耳を傾けるよう心掛ける。
         なお、社内組織として、国内外でIR担当者を置き、専任チームを設置することは、IR活動を推進する上で有効とされている。

      2. 中間決算時、あるいは半期、四半期毎に、報告、説明会をきめ細かく開催することはフレッシュな情報開示として有用である。また海外の株主、投資家等に対しては、英語版資料を作成するなどの配慮も必要である。

      3. 決算処理の迅速化を図り、決算発表の分散化に努める。さらに、各企業の自主的判断に基づき、できるだけ早期に株主総会を開催する。

      4. 株主総会における株主との実質的なコミュニケーションを促進すべく、運営の改善を図る。

    3. 地域社会との対話促進
    4.  また、以下のような活動を通じて地域社会とのコミュニケーションを行い、企業活動に対する信頼を高めるとともに、企業への不要な不安や誤解を払拭する。

      1. 地域住民の声を様々なネットワークを通じて聞く。
      2. 地域行事への参加、各種イベント開催、説明会等を通じて、企業活動に対する住民の幅広い理解を得る。
      3. 危険物等の製造工場では、住民が安心するような対策(事故時の非難対策、情報連絡網の整備、工場見学の実施、廃棄物処理方法の説明等)を日常から実施する。

    5. 内部情報管理の徹底
    6.  法令上作成、保管すべき書類や企業秘密等の内部情報管理体制、ルールを整備するとともに、インサイダー取引規制について社内、関係先への周知徹底を行う。特に、経営者や従業員は、無用な誤解を招かないよう自社株式の短期売買の自粛に努める。

    7. 高度情報化時代の情報開示
    8.  インターネットにホームページを開設するなど、高度情報化に対応した形で、効果的かつ効率的に、より多くの人に適切な企業情報を提供する。
       ただし、こうしたネットワーク・システムの利用においては、盗用、改ざん、なりすまし等の不正使用や情報漏洩について十分留意する。

【関連資料】
「会社法制のあり方についての見解―望ましい企業の経営管理の視点に立って―」 1992年 経団連
「消費者・生活者の視点に立つ企業経営(2)」経団連資料 No.4 1994年 経団連
『経営と広報』(企業広報講座I)1993年 経済広報センター監修 日本経済新聞社

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