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経団連企業行動憲章 実行の手引き

5.「良き企業市民」として、積極的に社会貢献活動を行う。


  1. 背 景
    1. 「良き企業市民」
    2.  企業は従業員を通じて、また企業活動そのものを通じて、地域社会と深い関わりを持っており、地域社会は企業の存立基盤である。製品やサービスの提供、納税、雇用など企業が果している社会的役割も、地域社会等、社会の健全な発展があって初めて可能となる。そのため「社会の一員としての社会に役立つ事業活動を行う」という基本認識の下で、各企業はその特色を活かしつつ、社会を構成する様々な主体とバランスよく連携を図ることが大切である。
       企業は、自己と社会の双方の利益を調和させつつ事業活動を行い、社会を支え、社会と共に歩む「良き企業市民」としての役割を果していくことが求められる。

    3. 国際化の進展
    4.  1980年代後半以降、米国に展開した日系企業では、米国企業が専門の担当部署や役員を置いて資金、施設、人材、ノウハウなど企業が持つ資源を投入して「良き企業市民」として地域貢献活動を実践していることから影響を受け、「良き企業市民」として地域に貢献しようという機運が高まった。
       その後、日系企業によるコミュニティ・リレーションズ活動は、地域社会に対する貢献活動のみでなく、消費者・ユーザー、株主、従業員といった各ステークホルダーズとの関係も見直し、再構築しようという動きにまで広がりつつある。さらに昨今のアジア地域への事業展開に伴い、アジアにおいても、現地社会のニーズに即した貢献活動を実施することの重要性が認識されている。
       こうした現地における企業と社会との関係強化への活動が、日本国内における企業活動にも浸透し、本社サイドでの社会貢献活動が体系化されるきっかけを作った。

    5. NPO(民間非営利組織)との連携による「社会参加」
    6.  日本企業は、社会貢献活動を推進していく中で、公益法人、社会福祉法人、また近年では、NGOやボランティア団体、芸術家グループなどの市民活動団体を始めとするNPO(民間非営利組織)とのパイプを開拓し、彼らの組織、活動内容、人材、そして強みなどを理解するようになった。
       そうした動きの中で、95年1月に発生した阪神・淡路大震災に際して、市民、NPOと企業が直接連携して救援、復興活動に取り組んだことは、新しい市民社会のあり方に一つの示唆を与えた。
       活力ある豊かな市民社会を構築するためには、自立した個人、NPO、企業、公的セクターの4者が連携することが必要である。企業は、社会貢献活動を「市民社会」形成への参加の一形態として捉えるようになりつつある。企業は、NPOと連携した社会貢献活動を通じて社会とのパイプを一層太くし、広く社会にアンテナを張りつつ、社会問題の解決に参画しつつある。

  2. 基本的心構え・姿勢
  3.  企業の社会貢献活動については、その基本的な考え方、実施形態などをめぐって様々な議論がある。以下に主な考え方を紹介する。

    1. 社会貢献活動は、企業の言わば「社会的」義務、責任である。
    2.  企業は、当然、消費者・ユーザー、株主、従業員に対する法的義務を負い、納税の義務を負っている。他方、企業の社会貢献活動は企業の法律的な義務、責任ではないが、社会や地域全体の「不特定多数」の人々への、言わば「社会的」義務、責任であると考えることができる。

    3. 社会貢献活動は、直接的な事業経営上の効果を期待するものではない。
    4.  「企業イメージの向上」、「媒体を介さない広告・宣伝効果」、「リクルート効果」等々、社会貢献活動が本業の事業活動にも資することはよく指摘される。しかし、社会貢献活動は直接、事業経営上の効果を期待して行うものではないとの考え方が多い。

    5. 分かりやすく、内外の人々に自社の社会貢献活動を説明する。
    6.  日本の企業の中には、伝統的に社会貢献を大切にする経営姿勢を持っているところが多い。企業活動への正しい理解を得るために、そのような経営姿勢や実際の活動を内外の人々に分かりやすく説明するよう努力することが重要である。

  4. 具体的なアクション・プランの例
    1. 企業の社会貢献活動の形態・活動分野
      1. 寄付
         寄付は、企業の社会貢献活動の中で中心的な役割を占めており、社会の企業寄付に対する期待も大きい。寄付の方針、寄付先の決定のあり方は、各社の社会貢献活動の方向性を左右するものである。なお、経団連では1990年に「1%クラブ」を設立し、個人や企業による社会貢献活動の促進に努めている。

        「1%クラブ」
         可処分所得の1%相当額(個人)、経常利益の1%相当額(法人)を目標に、寄付やボランティア活動によって社会の役に立ちたいという企業や個人の集まり。
         活動としては
        1. 1%クラブが認定した「寄付対象団体リスト」の提供(会員が寄付やボランティアを行う際に参考とする)、
        2. 情報誌(1%クラブ News )の発行、
        3. 映画会、講演会、フェスティバル等の開催、
        を行っている。1%クラブでは、法人格を持たない草の根団体も含めて、公益活動を行う団体に対する支援を呼びかけている。

      2. マッチング・ギフト
         企業と従業員が一緒になって助成する寄付形態の一つ。仕組みは、従業員が公益団体などに寄付する場合、企業も同じ対象団体に同額、あるいは一定割合を上乗せして寄付する。寄付先の選定は、企業それぞれの考え方により、従業員が指定する場合と企業内の代表者からなる社会貢献委員会などで決める場合とがある。米国では、従業員と企業の出資比率が1対2あるいは1対3の場合もある。96年度の経団連の社会貢献活動実績調査によると32社がマッチング・ギフト制度を導入している(対象:経団連会員企業 992社、回答数:417 社)。

      3. 自主プログラム
         「自主プログラム」とは、企業自らが、企画、立案し、場合によっては実施までを行う社会貢献活動のことである。プログラム内容としては、地域の定期的清掃、植樹、駅前や会社ロビー等でのアマチュア・オーケストラ演奏会の開催、チャリティ・スポーツイベント、育英奨学事業の実施など様々な分野がある。

      4. 企業財団
         企業は、学術研究、環境保全、教育、文化・芸術活動などを助成したり、独自の公益事業を行うために企業財団を設立することもある。企業財団には、年毎の企業収益に大きく左右されることなく比較的安定した助成や公益事業が行える、財団内部に公益活動に関する専門知識や経験を蓄積できるなどのメリットがある。

      5. 従業員のボランティア活動に対する支援
         「ボランティア」は基本的には個人が自発的に行うものであるが、近年の参加希望者の増加に対応して、あるいは会社として姿勢を示す意味で、従業員がボランティア活動に参加しやすいよう社内の環境整備(ボランティア休暇取得制度、ボランティア情報の提供等)に取り組む例も多い。これは、従業員が会社の外の風に触れることによって得られる副次的効果も大きい。

      6. その他の社会貢献の方法
        1. 事業活動を通じて培ったコスト意識、効率的な業務遂行能力、組織運営ノウハウ等を提供する。
        2. 技術をもった従業員を派遣する。
        3. 自社の各種施設を提供する。

       以上のような方法を通じて、社会福祉、医学、健康、環境保全、教育、学術、芸術、文化、史跡保存、被災地支援、地域イベント、スポーツ、国際理解・交流等の分野での地域や社会のニーズに対応した活動を行うことが求められる。

    2. 社会貢献活動に際して留意すべき点
      1. 企業の社会貢献に関する理念、基本的考え方の提示
        1. 社是、社訓等の企業の経営理念に社会貢献活動を組み込む。
        2. 自社の中長期計画に、社会貢献活動を盛り込む。その際、活動分野、方策、予算、継続的な社会貢献活動の担保方法などについても検討する。

      2. 社内組織の整備
        1. 社会貢献の専門部署を設置する。
        2. 経営トップの理解を得るために、トップが参加する社会貢献の意思決定機関(社会貢献委員会等)を設ける。

      3. 社内外の環境の調査
        1. 社内外の社会貢献活動の実施状況に関するアンケート調査を実施する。

      4. 社会貢献活動に対する社内の理解促進
        1. 社会貢献活動を社内報等の各種社内媒体を通じて紹介する。
        2. 社会貢献活動に関するパンフレット、紹介ビデオ等を作成する。
        3. 社会貢献活動、ボランティア活動等に関する社内教育・研修体制を整備する。

      5. 社会貢献活動の社会への公表
        1. 事業報告で社会貢献活動の事例を紹介する。
        2. 寄付金額を開示する。

      6. 他のNPO(民間非営利組織)との連携
         NGOやボランティア・グループ等から成るNPOは、企業が社会貢献活動を推進する際の重要なパートナーである。これらの組織と日頃から接触し、共同で社会貢献活動や調査研究活動を進めることで、相互理解を深める。
         なお、NPOと企業の連携を深め、NPOから企業にサービスとノウハウを提供し、企業からNPOへ資金、人材、ノウハウなどの資源が提供されるよう、両者の仲立ちをする組織として「日本NPOセンター」が1996年11月に企業とNPOの協力で設立された。

【関連資料】
『企業の社会貢献ハンドブック、近未来の企業像』1994年 経団連編、日本工業新聞社
『経団連社会貢献白書―企業と社会のパートナーシップ』1996年 経団連編、日本工業新聞社
「企業と地域社会―良き企業市民の条件―」1989年 経団連、日本国際交流センター
「海外事業活動関連協議会―良き企業市民となるための提言―」1990年 海外事業活動関連協議会

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