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経団連企業行動憲章 実行の手引き

企業行動憲章〔序文〕


 経団連では、91年に「企業行動憲章」を発表して、会員企業に企業行動の総点検を要請した。しかし、その後も企業行動をめぐる様々な問題が発生し、国民の間に企業行動に対する不信感が高まっている。さらに、以下に述べるように企業をめぐる環境にも大きな変化が生じている。このような状況を踏まえて、これ迄の企業行動を振り返り、21世紀に向けて真に豊かで活力ある市民社会にふさわしい企業行動のあり方を確立するため、今般、企業行動憲章を改定することとした。

  1. 戦後の高度経済成長を支えてきた経済社会システムが行き詰まり、今後の発展の制約要因ともなっていることから、その根本的な改革のための行動が求められる。
    1. 官主導型経済の行き詰まり
    2.  先進諸国に「追いつけ、追い越せ」を目指した高度成長時代には、官民協調の経済社会システムがうまく機能してきた。しかし、日本経済の成熟化、国際化、高度情報通信ネットワーク化が進んだ今日では、このシステムは官の過剰介入が目立ち、その弊害が多くなっている。即ち、参入、価格、設備等への経済的規制が競争を制限し、価格の硬直化、新産業・新事業創出への妨げ、市場の不透明性などの結果をもたらしている。また、強い規制下にある産業は、一般的に生産性が低く、日本経済の高コスト構造をもたらし、産業全体の国際競争力をも阻害している。さらに、このようなシステムの下で、官民の間や業界内に依存関係がもたらされ、不透明な商慣行が生まれている。

    3. 企業に求められる行動
    4.  このような経済社会システムの根本的な改革のため、企業には次のような行動が求められる。
      1. 現在の経済社会システムを企業自ら変えていくという認識にたち、自らの痛みを覚悟して規制の緩和・緩和を推進する。
      2. 起業家精神を発揮して、規制緩和の成果を、新産業、新事業の創出につなげていく。
      3. 行政依存や業界内の依存体質、横並び意識から脱却し、自己責任で行動する。

  2. 世界のボーダーレス化の進展に伴い、企業のグローバリゼーションが新たな次元に入っており、企業行動を世界的視野から見直す必要がある。
    1. 企業活動のグローバル化の進展
    2.  世界のボーダレス化が急速に進んだ結果、企業のグローバリゼーションは、以下のような点で新たな次元に入っている。
      1. 製造のみでなく、資金調達、本社機能、研究開発機能など、企業活動のあらゆる面でグローバル化が進展している。
      2. 欧米諸国のみでなく、成長の著しいアジア太平洋諸国への投資が急増し、それらの国々との間で分業・協働体制の構築が進んでいる。
      3. 既に投資を行っている国では再投資が活発化し、現地従業員の採用・登用や資材、資金の現地調達の拡充など、あらゆる面で現地化が進んでいる。
      4. また、外に向かっての国際化のみでなく、諸外国からの労働力の流入などにより、日本国内の労働市場の国際化も目前に迫っている。

    3. 世界的視野からの見直しを認められる企業行動
    4.  以上のような変化の中で日本企業は、人事、経営システムを、改めて世界的視野から見直すことを求められている。

  3. 高度情報通信ネットワーク社会の進展により新しいタイプの企業倫理の問題が生じており、企業のマネージメントに従来と異なった手法が求められている。
    1. 高度情報通信ネットワーク社会の進展による事業機会の創出
    2.  高度情報通信ネッワーク化の進展により、情報のボーダレス化、グローバル化も進んでいる。場所、国境、距離、時間等の制約を離れて、人々がいつでもどこでも通信し情報を入手できるようになった結果、企業の多彩な経済活動が可能となり次々に新しい事業機会が生まれている。

    3. 新しいタイプの企業倫理上の問題
    4.  その反面、企業の情報管理は非常に複雑化している。加えて、
      1. ネットワーク上の詐欺紛いの取引、
      2. インターネット上で流される未成年に好ましくない情報の管理問題、
      3. 就業時間中の社員による業務と無関係なインターネットの利用、
      などこれまでには見られなかった企業倫理上の諸問題も生じている。
       これらの新たな問題に対処するために、マネージメントにも従来とは異なる手法が求められる。

  4. 自然保護、地球環境保全、社会貢献を積極的に経営の中に組み込む時代になっている。
    1. 企業活動のあらゆる面に関係するようになった環境問題
    2.  環境問題は、従来の産業公害の防止に止まらず、廃棄物問題などの都市型・生活型の環境問題や、自然保護、地球環境の保全など、「国境を越えた」問題へと広がっている。環境問題への取り組みは企業活動のあらゆる局面で必要とされるようになっており、企業は経営の重要な課題として環境問題への取り組みを位置づける時代に入った。

    3. 豊かな市民社会形成への参画の手掛かりとなる社会貢献
    4.  阪神・淡路大震災に際して、市民とNPO(民間非営利組織)と企業が直接連携して救援、復興活動に取り組んだことは、将来の市民社会のあり方に一つの示唆を与えるものであった。
       真に豊かで活力ある市民社会を実現するためには、自立した個人、NPO、企業、公的セクターの4者の連携が必要である。企業は、単に製品やサービスの提供という本業に徹すればよい、という考え方を脱し、社会貢献を豊かな市民社会形成への参画の手掛かりとして経営の中に組み込み、積極的に取り組む必要がある。

  5. 製造物責任法の制定や株主代表訴訟制度に関わる商法の改正などにより、企業の自己責任の強化や透明性の一層の向上が要請されている。
    1. 株主や消費者による企業監視の強化
    2.  企業内部の監査機能については、これまでにも1974年、および1981年の商法改正においてその充実、強化が図られてきたが、近年では、株主や消費者による企業監視を強化する動きが続いている。

      1. 株主代表訴訟に関わる商法改正〔1993年〕
         取締役の義務違反によって生じた損害の賠償を個人株主が会社にかわって求める株主代表訴訟制度は、1950年の商法改正の際に導入されたが、訴訟手数料が賠償額によっては数億円にもなるなど非常に高くついたため、ほとんど機能してこなかった。しかし、金融証券不祥事や、日米構造協議における米国からの監査機能強化への要望を受けて、1993年、同訴訟制度に関する商法が改正され、訴訟手数料が一律8200円に引下げられた。その結果、同訴訟件数は近年、飛躍的に増えつつある。

      2. 製造物責任法(PL法)の制定〔1995年〕
         製造物を消費者に供給する業者に、その製造物の欠陥を原因とする被害については故意・過失の有無を問わず賠償責任を負わせるという製造物責任法は、1960年代アメリカで判例の積み重ねによって制度化された。1985年にEC閣僚会議がPL指令を発表してからは、欧州各国でも制度化が進み、オーストラリアやフィリピンなどアジア諸国にも広がりつつある。日本でも、消費者保護気運の高まりの中で、1995年7月から製造物責任法が施行されている。

    3. 企業に求められる自己責任の強化
    4.  このような中で、企業は、行政への依存から脱却し、これ迄以上に自己責任に基づく経営を行うとともに、経営の透明性を一層高めることが要請されている。

  6. 規制緩和の進展に伴い、企業は行政依存から脱却し、これまで公的部門が担うとされてきた役割についても、自己責任において積極的に事業活動の中に取り入れていくことが必要である。
    1. 規制緩和と民間主導型の経済づくり
    2.  規制緩和の進展に伴い、企業側は、自らの行動の面でも行政依存を脱却し、民間主導型の経済を確立する決意を具体的な行動において示していくことが求められる。

    3. 企業の新しい役割
    4.  具体的には、企業行動を市場原則のみでなく社会的な視点から改めて見直し、常時チェックしていくこと、また地球環境問題の解決や高齢化・少子化社会における社会福祉サービスの提供など、過去においては公的部門の役割とされてきた問題についても、経営の中に組み込んでいくことが要請されている。

【関連資料】
『魅力ある日本の創造』 豊田章一郎著、1996年 東洋経済新報社
「官から民へ、そして民は公も」(月刊 keidanren 1996年7月号巻頭言)

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