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経団連企業行動憲章 実行の手引き

2.公正、透明、自由な競争を行う。また、政治、行政との健全かつ正常な関係を保つ。


  1. 背 景
    1. 公正かつ自由な競争を維持・促進するための独禁法
    2.  「独占禁止法」は「公正かつ自由な競争」の維持・促進を通じて消費者利益を保護し、国民経済の健全な発展を確保することを目的としている。企業活動のグローバル化、経済のボーダレス化が進展する中で「独占禁止法」や諸外国の競争法を遵守した企業活動を行うことはますます重要となっている。95年3月に閣議決定された「規制緩和推進計画」のなかでも、規制緩和とともに競争政策を積極的に展開し、競争制限的な行為が行われないよう独占禁止法を厳正・的確に運用することがうたわれている。

    3. 流通、取引慣行の見直し
    4.  経済活動がグローバル化するなかで、わが国市場をより透明で開かれたものとすることは、わが国の国際社会における責務となっている。こうした中で流通、取引に関する慣行も、市場開放と消費者利益の確保という観点から広く見直すことが内外から求められている。
       公正取引委員会においても91年7月に「独占禁止法遵守ガイドライン(流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針)」を制定している。

    5. 公共入札をめぐる諸問題
    6.  公共入札に関わる談合事件は厳しく糾弾されている。企業側は経済の憲法である独禁法の遵守なくして、いかなる事業も行えないことを再認識しなければならない。
       一方、現行の公共入札制度には、発注側独占の下でその硬直性に由来する問題が存在することも否定できず、公正かつ自由な競争を担保するための工夫が必要とされている。こうした中で、現在、建設省の中央建設業審議会において、公共事業に関わる入札制度の抜本的見直しが進められている。

    7. 健全かつ正常な行政との関係の構築
    8.  また、流通、取引慣行だけでなく、政治、経済、行政間の関係についても透明性を高めることが、国内のみならず海外からも要請されている。
       政治・行政との関わりについては、もたれ合いや癒着と取られるような行動があってはならない。透明度の高い関係を保ちつつ、その中で、民から政・官への積極的な意見表明を行なうべきである。そのような活動を通じて、政治、行政との健全かつ正常な関係が構築されることになる。
       行政指導と独占禁止法との関係については、公正取引委員会より「行政指導ガイドライン(行政指導に関する独占禁止法上の考え方)」が示されており、この中で、「事業者または事業者団体の行為については、たとえそれが行政機関の行政指導により誘発されたものであっても、独占禁止法の適用が妨げられるものではない」ことが明示されている。
       なお、事業者団体活動における独占禁止法上の問題については、公正取引委員会が「事業者団体ガイドライン(事業者団体の活動に関する独占禁止法上の指針)」を公表しており、個々の企業のみでなく各事業者団体においても、透明な活動を行うことが重要となっている。

    9. 競争政策のハーモナイゼーションの進展
    10.  世界がボーダーレス化している状況では、市場経済の基本的ルールである競争政策は、国際的に調和がとれたものでなければならない。こうした認識から、各国の競争政策をできるだけハーモナイズさせようという動きが進んでいる。

  2. 基本的心構え・姿勢
    1. 真に豊かで活力ある市民社会にふさわしい良識ある企業行動に努める。とりわけ、市場経済体制の前提である自己責任原則にのっとり、自助・自律意識に基づいて公正、透明、自由な競争を展開する。その際、法律のみならず社会的規範を遵守するなど、企業倫理の徹底を図る。

    2. 違法な行動はもちろん、不当な手段による利益の追求や、国際的に説明のできないような不透明な行動をしない。

    3. 政治、行政とのもたれ合いや、癒着と取られるような行動をなくすため、まず、行政への依存意識を排除しなければならない。そして、透明な関係づくりに努める。このような努力を続けることによって、健全で正常な官民の関係を構築する。

    4. 購買取引は国内外に開放され、公正かつ透明とし、理解されやすい手続きによって行う。購買取引においては、優れた財およびサービスを経済合理性に基づき選択する。

    5. 長年にわたって当然のことと考えてきた諸制度、諸慣行も公正性、透明性の観点から積極的に見直し、国際的に通用するものとなるよう努力する。

  3. 具体的アクション・プランの例
    1. 独占禁止法遵守マニュアルの作成
    2.  企業トップによる独占禁止法遵守の基本方針の表明、独占禁止法の規定に関する概要説明、独占禁止法違反を起こさないよう注意すべき点等の内容を盛り込んだ独占禁止法遵守マニュアルを作成する。

    3. 独占禁止法遵守マニュアルの展開
      1. 説明会・講習会の開催、従業員の教育研修等を通じて、独占禁止法遵守マニュアルを社内の各事業部門に周知徹底させ、カルテル、入札談合、不公正な取引方法等の独占禁止法違反行為の発生防止を図る。

      2. 役員・従業員が業務を行うに際し独占禁止法上、問題があるのではないかと疑問を感じたときに直接相談ができる法務部門の整備、独占禁止法遵守に関する定期的社内監査計画の立案、実施等、独占禁止法の遵守体制を整備する。

      3. 事業者団体は、事業者団体ガイドラインに基づき、行政機関からの委託業務等の実施に際して、差別的な取扱い等の違反行為を行わない。

    4. 規制緩和の推進
    5.  規制緩和は経済活性化のための最重要課題であるとの認識に基づき、各業界が率先して、当該業界における需給調整の観点からの参入規制や設備規制の廃止、価格規制の見直しに取り組む。

    6. 政治・行政依存体質の脱却
    7.  法律を遵守し、贈賄や違法な政治献金、利益供与を決して行わないことは勿論、政治、行政との癒着という誤解を招きかねないような行為は行わず、トップの方針としてこれを周知徹底する。また、政治献金、寄付金等に関する社内承認手続き等を制定する。
       行政指導については、独禁法との抵触を留意し、企業の自己判断によって行動することを徹底する。
       また「行政手続法」の理解をはかり、その積極的活用を心掛ける。

    8. 官僚出身者の受入れに対する姿勢
    9.  許認可、公共事業の発注等における利益享受を目的とした官僚出身者の受入れは厳に慎む。

    10. 虚礼自粛
    11.  虚礼自粛(交際、儀礼の簡素化、合理化)について、意識改革を率先して行うと共に、以下を実行する。

      1. 交際費については、社会的常識からみて、また国際的通念からみても、その枠を越えるもの(販売促進費としての性格を逸脱するもの)は自粛する。
      2. 冠婚葬祭、その他の各種行事についても、形式にとらわれることなく、本来の姿に立ち返って簡素にして、合理的なものに改める。
      3. 中元、歳暮等についても、実質的に日常の生活慣習に根ざしたものはともかく、形式に流れ、あるいは度を過ぎた贈答については、これを自粛する。

      〔虚礼自粛に関する申合せより〕

    12. 購買取引ガイドラインの作成
    13.  公正取引委員会の「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」及び、経団連の「購買取引行動指針」を踏まえて、自社の購買取引規定(あるいは購買取引原則、ガイドライン等)を作成し、社内外にこれを明らかにする。その際、独占禁止法上問題となる不当な相互取引、下請法上禁止されている不当な買いたたき、受領拒否、返品、支払遅延等の違法行為が起きないよう、法に十分留意した内容とする。

    14. 適正な購買方針の確立
      1. 購買組織は営業部門等社内の他部門から明確に区分されることが望ましく、購買取引に関わる決定は原則として、他の組織から独立して行う。

      2. また、購買組織は、購買取引の担当窓口を具体的に国内外に対して明示するとともに、自社の購買取引原則、新規購買取引先の審査、選定手続き、購買取引の決定手続きを対外的に明示する。

      3. 海外の取引先に対する購買担当者を明示し、必要に応じて外国語による資料を準備することが望ましい。さらに、内外無差別、透明性の高い購買取引の方法として、インターネットを利用した資材調達を推進することも有用である。

    15. 輸出管理体制の整備
    16.  従来のココム(現ワッセナー・アレンジメント)、不拡散型輸出規制、および新たに導入された補完的輸出規制について、これを遵守する。そのため、代表取締役を最高責任者とする社内管理体制を整備し、社内マニュアル等を作成し、これにより、地域紛争の回避、国際平和の維持に貢献する。

    17. 多角的自由貿易体制の支持
    18.  多角的自由貿易体制を維持するための、国際通商、貿易、投資、知的財産権、サービス等に関する国際ルール(WTO諸協定等)を遵守する。
       そのため、海外進出にあたっては、関税、輸出入取引、原産地表示等に関するマニュアルをはじめ、各種国際協定を遵守した海外事業に関するマニュアルを国内外で作成し、それに基づいて行動する。

    19. 商慣行についての見直し
    20.  経済活動の国際化、技術革新等の環境変化に合わせて、商慣行については経済的合理性、消費者利益、透明性、開放性の実現に向けて不断の見直しを行う。その際、諸外国の理解を得られるルール・慣行に近づける努力を行う。

【関連資料】
『魅力ある日本−創造への責任−』〔前掲書〕
「規制の撤廃・緩和等に関する要望」1996年 経団連
「虚礼自粛に関する申し合わせ」1989年 経団連
「行政手続法は初めての官民共通グラウンド!」 1994年 経済広報センター
「購買取引行動指針」1990年 経団連
「Access to Japan - List of Contact Points for Procurement - 」第2版 1995年 経団連
「公正なルールを守る5原則」(旧「企業行動憲章」)1991年 経団連
「多角的貿易体制のさらなる促進を目指して―WTOシンガポール閣僚会合に望む」1996年 経団連
「わが国の商慣行の現状と今後の課題」1993年 経団連

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