[ 目次 | 概要 || はじめに | I.考え方 | II.視点 | III.課題 < 1.環境整備 | 2.公的分野 | 3.リテラシー > ]

「情報化の推進に関する提言−構造改革のツールとして−」の概要

1997年7月22日
(社)経済団体連合会


  1. 基本的な考え方
  2. 情報化行政に関する5つの視点
  3. 情報化推進のための具体的課題
    1. 産業の情報化のための環境整備
    2. 公的分野の情報化の推進
    3. 情報リテラシー、コンピュータ・リテラシーの向上

はじめに

経団連情報通信委員会では、経団連の長期ビジョン「『魅力ある日本』の創造」の具体化の一環として、通信・放送市場において規制緩和、競争促進的ルールの確立などを通じて新たな事業機会の創出と低廉かつ多様なサービスが絶え間なく出現するよう情報通信市場の革新に努めてきた。今後は、さらなる規制緩和をはじめ自由かつ公正な競争の促進を図るとともに、情報通信サービスを構造改革のツールとして駆使して、国民生活の質的向上やわが国産業の国際競争力を確保するための環境を整備する必要がある。そこで、情報化部会および流通委員会企画部会における検討をふまえて、産業の情報化、ならびに行政をはじめとする公的分野の情報化を中心に、わが国における情報化の推進に当たっての基本的な考え方と具体的な推進方策を以下に提言として取りまとめた。

  1. 基本的な考え方
    1. 構造改革のツールとして情報化を活用する必要がある
    2. 「魅力ある日本」を創造するためには、経済構造の改革や行政改革など構造改革を実現することが不可欠である。その際、情報通信技術のもつ新たな可能性を最大限活用して改革を推進していく必要がある。

    3. 企業は自らの構造改革のため情報化を速やかに進めなければならない
    4. ボーダレス化・大競争の時代の到来に対応し、わが国産業の競争力を強化するため、経営者は強力なリーダーシップを発揮し、企業内だけでなく、中小企業を含めた企業間を通じて、シームレスな情報ネットワークを早急に構築し、情報のさらなる共有と活用を図るべきである。

    5. 企業は、既存の枠組みを越えて産業情報化の環境整備に積極的に参画し、迅速な実現を促す必要がある
    6. 民間主導の経済発展の契機として、企業は自らの枠組みを越えて主体的に情報化を推進すべきである。とりわけ、産業全体の情報化のためには、揺籃期にある電子商取引のための環境や各種情報の相互利用・共通利用のための基盤を整備することが重要である。これらは、当事者の具体的な試行錯誤を通じて整備していくべきものであり、企業が積極的に参画していく必要がある。

    7. 行政改革の推進や、企業の情報化の制約を除去する観点から行政の情報化を急ぐべきである
    8. 情報化を行政改革のツールとして最大限に活用し、行政手法や行政組織の抜本改革を推進し、行政コストの削減や行政サービスの向上、縦割りの排除等を実現すべきである。また、産業の情報化の阻害要因とならないよう、行政手続きなど官民の接点の情報化への対応が急がれる。中央省庁、国の地方出先機関の情報化を推進するとともに、民間との多くの接点を持つ地方公共団体においても情報化を急ぐべきである。その際、民間へのアウトソーシングを積極的に進めるべきである。

    9. 情報化の飛躍的な進展を促すため、総合的・一体的な情報化行政を実現すべきである
    10. 情報化を一体的、総合的かつスピーディに進めるべく、政府の情報化推進体制を充実させる必要がある。政治の強いリーダーシップのもとで省庁横断的な取組みを進めるため、副総理格の特命事項担当大臣や専門事務局を新設し、予算を含む情報化施策の総合調整、行政プロセスの情報化に伴う省庁をまたがる職員の再配置を図る必要がある。昨今の急速な環境変化をふまえて「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を早急に見直すべきである。

  2. 情報化行政に関する5つの視点
  3. 今後、政府が産業情報化の環境整備ならびに公的分野の情報化をはじめ、情報化推進策を講ずるに当たっては、つぎの5つの視点を踏まえる必要がある。

    1. 民間による創意工夫の発揮
    2. 民間による創意工夫の発揮を促すため、規制は極力導入せず、民間の主体的・自律的な取組みに委ねるとともに、民間による多様な実証実験等を行ないやすい枠組み・環境づくりを推進する必要がある。

    3. 技術革新の成果のタイムリーな活用
    4. 情報化に対応した制度やルールづくりに当たっては、技術革新の成果を柔軟に反映できるよう、最低限必要不可欠なものに限るとともに、機動的な見直しが可能な仕組みにすべきである。

    5. 透明で簡素・効率的な行政の確立
    6. 政府は、情報化のスケジュールや情報化による投資効果を国民・企業に明示することが望まれる。産業の情報化に関する施策は、競争原理の最大限の活用を前提とすべきである。情報化に関する規定、方針等の決定に当たっては、原案を広く公表し、国民・企業が意見表明・議論する機会を設けるべきである。

    7. 広く国民、企業が安心して利用可能な条件の整備
    8. 利用者の視点に立って情報化に関する制度・ルールづくりを目指すとともに、情報リテラシーの向上、機器・システム等の相互運用性の確保、中小企業等における人材育成を含むソフト面の支援などを図る必要がある。また、国民、企業が安心して情報通信ネットワークを活用できるよう、消費者への自己責任原則の啓蒙と並んで、消費者保護、プライバシー保護、セキュリティ対策等に努めなければならない。

    9. 国際的整合性の確保
    10. 情報化に関するわが国の制度・ルールを国際的に調和のとれたものにするとともに、技術・システムの面でも国際的な相互運用性を確保する必要がある。

  4. 情報化推進のための具体的課題
    1. 産業の情報化のための環境整備
      1. 情報化に対応した制度の確立

        1. 保存義務づけ書類の電子データによる保存の推進
          保存義務づけ書類の電子化について、個別案件ごとに今後の実施スケジュールを明示すべきである。

          【参考 政府の対応】
          「申請負担軽減対策」(97年2月10日閣議決定)
          法令に基づき民間事業者に保存を義務づけている書類について、原則として平成9年度(1997年度)までに電子媒体による保存が可能になるようにする。
          「高度情報通信社会推進本部制度見直し作業部会報告書フォローアップ」(97年3月)
          保存義務づけ書類件数(96年11月末現在) 858件
          96年度末までに容認予定         182件(21.2%)
              (うち容認済み          99件)(11.5%)
          97年度末までに容認予定         335件(39.0%)
          検討中                 374件(43.6%)
          (うち約3割が真正性、保存性、証拠能力、
           あるいは本人確認について検討中のところも)
          当面措置困難               24件( 2.8%)
          その他                 125件(14.6%)
          (申請件数が少ない。保存期間が短い等)
              

        2. 新たなビジネス創出にむすびつく制度の見直し
          書面や対面によるやり取りを前提とした既存の制度を見直し、企業負担の軽減や情報化に対応した新たなビジネスの発展を促すべきである。

          〔書面や対面によるやりとりを前提とした制度の見直し〕
          • 書面交付義務(例:宅地建物取引)
          • 対面販売義務(例:医薬品販売)
          • 書面による身元確認(例:古物営業)

          〔技術進歩に対応した制度の見直し〕
          • 遠隔医療の法的認知と診療報酬の設定
          • 処方箋交付の電子化の解禁

        3. 国民のネットワーク利用を促進する手段の開発・普及
          本人確認、決済、行政とのインターフェイス等の機能を備えた汎用ICカードについて、各省庁が具体化を図る場合には、経済性や利用者の利便性向上といった側面からの検討を行ない、相互に整合性をもたせるとともに、民間取引との共通利用を図ることが重要である。

      2. 電子商取引に関する環境の整備

        電子商取引が揺籃期にあることに鑑み、「原則自由」「自己責任原則」の考え方に則り、民間主導で電子商取引を推進に積極的に取り組む必要があり、諸外国同様、民間主導で、市場における競争を基本とするような枠組みとすべきである。電子商取引に関する信頼確保に当たっても、新たな規制は極力排除すべきであり、当面、標準約款や自主的ガイドラインなどの民間の主体的な取組みに委ねることが望ましい。
        政府としても、国際的な議論を踏まえ、高度情報通信社会推進本部がリーダーシップを発揮し、電子商取引を政府全体として推進するとともに、各省庁固有の行政分野や制度・ルールについては内閣の高度情報通信社会推進本部の下に各省庁が積極的に見直しを進めるべきである。

        [電子商取引をめぐる制度・ルール]
        • 性急な法制化は行なわず、当事者間の契約や標準約款、自主的ガイドラインや技術面の工夫で対応すべき。
        • 電子認証の法制化については、電子商取引の実態や利用者ニーズを踏まえた検討が必要。
        • 多様な認証機関が多様なサービスを行ない、自主的ガイドライン等により適切な情報開示を行なうことが重要。
        • 公的機関と民間機関との相互運用が必要。公的機関が行なう業務の民間へのアウトソーシングも検討すべき。
        • 電子署名の法的効果の法制化については、分野毎に必要性の有無を判断すべき。

        [EDIの推進]
        • EDIについては、制度・ルールの国際標準との整合性や産業界のニーズを踏まえた開発が必要。
        • 貿易金融EDIについて国際標準化への動きに合わせ官民一体となった統合的な取組みを行なうべき。

        [電子マネー導入のための環境整備]
        • 電子マネーに関し民間の自由な創意工夫の発揮を可能とする環境整備が必要。
        • 消費者保護策については民間が実証実験を行なう中で検討すべき。消費者への自己責任原則の啓蒙や情報開示が重要。
        • 不正行為に対する刑事罰の導入について検討すべき。
        • 一般事業会社を含めた多様な主体が電子マネーを発行できるようにすべき。

        [暗号政策]
        • 暗号技術を用いた一般的な製品の輸出について、規制すべき暗号装置の定義や輸出許可の基準を明確にすべき。
        • 暗号鍵復元制度について、プライバシー・企業秘密の保護や各国の動向を踏まえ、幅広く議論すべき。

        [国際課税]
        • 国際課税のあり方や電子商取引への税制の対応について、国際的な議論を踏まえた議論を行なうべき。

      3. 低廉で使いやすい情報通信インフラの整備

        情報化を促進するためには、通信料金の低廉化やサービスの多様化、回線容量の拡大・情報伝送の高度化が急がれる。そのため、情報通信市場における一層の規制緩和・撤廃等を推進する必要がある。

      4. コンテンツ拡充のための基盤の整備

        魅力的なコンテンツを創造するため、企業は創造力に富んだ人材が活躍できる場を提供すべきである。また、利用価値の高いコンテンツの拡充を図る観点から、利用者ニーズに配慮しながら行政情報の電子化を進めるとともに、情報の相互利用・共通利用を促進するためのデータ基盤や相互利用技術を確立すべきである。著作権者の権利保護とコンテンツの円滑な流通とのバランスに留意すべきであり、著作権制度全体の見直しが求められる。

      5. 減価償却制度の拡充

        情報関連機器の法定耐用年数の短縮や、少額資産の損金算入限度額の引き上げを行なうべきである。

    2. 公的分野の情報化の推進
      1. 行政プロセスの電子化

        行政全体の簡素化・効率化の観点から、行政内部の情報伝達や稟議、決裁など行政プロセスの電子化を急ぐ必要がある。

      2. 行政手続き・行政サービスの電子化

        産業の情報化を促進するとともに、企業・住民が情報化のメリットを享受するため、官民の接点となる行政手続きや行政サービスの電子化を進めることが求められる。とくに、電子申請・申告の導入、歳入・歳出事務処理の電子化、行政情報のデータベース化、行政EDIの推進、電子化された行政サービス提供等が急務である。

        1. 電子申請・電子申告の導入
          個別案件毎に実現までの作業スケジュールを開示するとともに、様式の標準化を図るべき

          【参考 政府の対応】
          「申請負担軽減対策」97年2月10日閣議決定
           各種証明の交付など申請・届出手続の電子化・ペーパーレス化を行政情報化推進計画の最終年度である平成11年度(1999年度)を待たずに、原則として平成10年度(1998年度)末までに可能なものから早期に実施に移す。
          「高度情報通信社会推進本部制度見直し作業部会報告書フォローアップ」(97年3月)
          対象手続数(96年11月末現在)      8,397件
          96年度末までに実施予定          196件 ( 2.3%)
              (うち実施済み          149件)( 1.8%)
          97年度末までに実施予定(実施済みを含む)  871件 (10.4%)
          98年度末までに実施予定          899件(10.7%)
          99年度末までに実施予定(実施済みを含む)  3,142件(37.4%)
          2000年度以降実施予定          5,255件(62.6%)
          (うち機関委任事務 1,400件程度、その他申請数の少ないもの、
           制度自体が廃止の方向にあるものも含む)
              

        2. 歳入・歳出事務処理等の電子化
          [地方税収納事務]
          請求データの電子媒体化、納付書の規格・様式の全国統一化を図るべき。

          [歳入事務]
          請求データの電子媒体化や日銀OCR等への書類の規格・様式の統一等を図るべき。

          [歳出事務]
          国庫金振込請求書、国庫金振込明細票の電子媒体化を図るべき。

          【参考 歳入・歳出事務処理に伴う負担】
          歳入金・歳出金の口座振替業務の電子化の遅れにより、データの入力等のために費やされる時間は年間96万5千時間にのぼる。その上、集計、確認、送付といった作業がこれに加わる。また、書類の搬送コストや保管コストを含めると、電子化の遅れに伴う負担はさらに重くなっている。

          [歳入]
          歳入金の口座振替処理のうち、社会保険料、労働保険料、後納郵便料について試算。
          各省庁から紙で送付された請求データを手作業で入力するために要する時間は年間34万時間にのぼる。

          [歳出]
          歳出金の口座振替業務のうち、国税還付、国家公務員給与、失業給付金について試算。
          省庁から送付された書類の入力や仕分け作業のために要する時間は年間62万5千時間を要している。

        3. 行政情報のデータベース化
          • 統計調査や各種の行政記録(固定資産台帳、有価証券報告書等)の電子データ化。相互利用・共通利用が可能なシステムの構築。

        4. 行政EDIの推進
          • 政府全体の推進体制の整備、スケジュール、数値目標の設定など。
          • 調達・入札手続に関する申請・登録の電子化と国・地方公共団体のネットワーク化による窓口の一元化。

      3. 地方公共団体における情報化の促進

        国民と行政との接点である地方公共団体の情報化を促進すべきである。とくに遅れている地方公共団体のネットワーク化が急務である。また、地方公共団体の全国ネットワーク化、地方公共団体と中央省庁とのネットワーク化を推進する必要がある。個人情報保護条例によるネットワーク接続規制を早急に見直すとともに、地域情報ネットワークの構築を推進することも求められる。

      4. 民間へのアウトソーシングの推進

        行政コストの削減、技術革新への迅速な対応等の観点から、民間へのアウトソーシングを推進すべきである。

      5. 公的分野の情報化の計画的かつ総合的な推進

        現行の「行政情報化推進基本計画」の見直しを推進するとともに、「地方公共団体における行政の情報化の推進に関する指針」についてもフォローアップを図り、国・地方の協議の場を設けて、情報化のための実施スケジュールや共通基盤の整備、ルールづくり等について検討すべきである。その際、既存の情報化投資について、投資効率の定量的な評価を行ない、国民に開示することが求められる。

    3. 情報リテラシー、コンピュータ・リテラシーの向上
    4. わが国が21世紀に向けて新たなフロンティアを切り拓いていくため、個性と創造力に富んだ人材が活躍できる社会を構築する必要があるが、情報化がその契機となることが期待される。そのため、情報機器を使いこなすコンピュータ・リテラシーに加え、有用な情報を選びとり、さらに付加価値をつけて発信することができる情報リテラシーを兼ね備えた人材が求められる。また、わが国の情報通信技術を支える高い能力を持った人材を育む環境作りも重要である。
      そのため、行政や教育界において、カリキュラムの見直し、インターネットの活用、マルチメディア教材の利用等を推進するとともに、教員のコンピュータ・リテラシー、情報リテラシーの向上や学校における回線数の増加を図るべきである。また、企業人の活用を含め、生徒・学生や教育関係者と産業界との交流を推進する必要がある。
      企業においても、経営者が自らの打ち出した経営戦略に従い、役員の情報化研修の推進等を通じて社内全体のコンピュータ・リテラシーや情報リテラシーの向上に努めるとともに、情報化の成果が最大限に発揮されるよう、硬直的な社内制度や慣行の見直し、社内の意識改革を推進すべきである。

以 上


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