[ 目次 | 概要 || はじめに | I.考え方 | II.視点 | III.課題 < 1.環境整備 | 2.公的分野 | 3.リテラシー > ]

情報化の推進に関する提言
−構造改革のツールとして−

III. 情報化推進のための具体的課題

2. 公的分野の情報化の推進


  1. 行政プロセスの電子化
  2. 行政手続き・行政サービスの電子化
  3. 地方公共団体における情報化の促進
  4. 民間へのアウトソーシングの推進
  5. 公的分野の情報化の計画的かつ総合的な推進

  1. 行政プロセスの電子化
  2. 行政全体の簡素化・効率化の観点から、行政プロセスの電子化を急ぐ必要がある。

    1. 民間企業と同様、行政プロセスの電子化は喫緊の課題である。まず、既存の組織体系や意思決定手法を抜本的に見直すべきである。例えば、規制の緩和、行政の役割の見直しを行なうとともに、行政内部の情報伝達や業務処理、稟議、決裁等のあり方について、これらの行政プロセスを電子的に行なう観点から徹底して見直す必要がある。さらに、省庁内のみならず、省庁間の情報共有を進めることによって、政策立案・執行における縦割りの是正や、許認可など行政手続きにおける企業や国民の負担を軽減することも重要である。

    2. さらに、行政が民間の求めに応じて、迅速かつ利用しやすいかたちで資料が提供できるよう、行政情報の保存・管理に関するルールづくりに着手することが求められる。

  3. 行政手続き・行政サービスの電子化
  4. 産業の情報化を促進するとともに、企業・住民が情報化のメリットを享受するため、官民の接点となる行政手続きや行政サービスの電子化を進めることが求められる。とくに、電子申請・申告の導入、歳入・歳出事務処理の電子化、行政情報のデータベース化、行政EDIの推進、電子化された行政サービス提供等が急務である。

    1. 電子申請・申告の導入
    2. 97年2月閣議決定の「申請負担軽減対策」では電子申請・申告について「原則として、98年度末までに可能なものから早期に実施に移す」とされており、対象手続き合計8,397件のうち、98年度末までに899件(10.7%)、99年度末までに3,142件(37.4%)を電子化することが明らかになっている。この点については、まず、申請・申告の義務づけ自体の見直し、内容の簡素化、添付書類の削減等を図り、その上で、電子申請・申告を可能とする作業スケジュールを個別案件毎に広く国民に明示し、実施が遅れる場合にはその理由と対応スケジュール等を公開すべきである。また、企業の電子申請等が効率的に行なえるよう様式の標準化を推進する必要がある。

    3. 歳入・歳出事務処理の電子化
    4. (地方税収納事務に関するデータの電子化)
      現在、地方税収納事務に関する預金口座振替を実施している地方公共団体のうち、請求データを金融機関に電子媒体で交付している比率は50〜70%にとどまっている。また、紙で出力される納付書について、OCR処理用の規格・様式が全国統一されているのは個人住民税(特別徴収分)のみである(自治省令で制定)。さらに、OCR処理によらない一般処理用の納付書についても、規格・様式が統一されているのは法人事業税と住民税のみであり、その他の税目については、地方公共団体の機械化の実情に合わせて個別に作成されているのが現状である。その結果、全国展開している企業の納税事務が煩雑となり、また収納事務を取り扱う金融機関においても、請求データの入力等を機械的に処理することが困難になっている。 そこで、請求データの電子媒体化や納付書の規格・様式の全国統一化を早急に推進すべきである。

      (国の歳入事務に関する電子化)
      各省庁は歳入金の預金口座振替事務について、納入告知書・納付書、領収済通知書、領収控を紙で出力し、金融機関に送付するため、金融機関はこれらのデータをその都度打鍵入力するか、独自に入力ソフトを開発しなければならず、事務負担が重くなっている。社会保険料のように、社会保険庁と社会保険事務所間で電子データ授受が可能となっていても、金融機関に依頼するためにわざわざ紙で出力するなど、行政・民間双方の負担増になっているケースもある。経団連の試算によると、とくに件数の多い社会保険料、労働保険料、後納郵便料については、省庁から紙で出力された書類を手作業で入力するため、年間34万時間が費やされている。その上、集計、確認、送付といった作業がこれに加わる。また、書類の搬送コストや保管コストを含めると、電子化の遅れに伴う負担はさらに重くなっている。 また、省庁ごとに情報化のスピードにばらつきがあること、書類の規格・様式が統一されていないことも、事務の機械化・電子化を阻害している。 歳入金の口座振替事務に係る負担を軽減し、金融機関の情報化の実効をあげるため、各省庁から交付する請求データの電子媒体化や、日銀OCR等への書類の規格・様式の統一等が望まれる。

      (国の歳出事務に関する電子化)
      各省庁が歳出を行なう際、大蔵省会計センター(官庁会計事務データ通信システム)で処理されない場合には、国庫金振込請求書、国庫金振込明細票を紙ベースで最寄りの日銀代理店(金融機関)へ送付し、金融機関は国庫金振込明細票を打鍵入力、入金・送金処理を行なった上で、各省庁に紙ベースで集計・報告を行なっている。このため、金融機関の事務効率化の阻害要因となっている。経団連の試算によれば、件数の多い国税還付金、国家公務員給与、失業給付金については、省庁から送付された書類の入力や仕分け作業のために、年間62万5千時間が費やされており、その上、集計、確認、送付といった作業がこれに加わる。また、書類の搬送コストや保管コストを含めると、電子化の遅れに伴う負担はさらに重くなっている。そこで、各省庁から送付される国庫金振込請求書、国庫金振込明細票の電子媒体化を推進することが望ましい。とくに、件数の多い、国税還付金還付(92年度1,006万件)、国家公務員給与振り込み(96年度国家公務員116万人)、失業給付金支払い(94年度935万件)については、早急に電子化を図る必要がある。

    5. 行政情報のデータベース化等
    6. 各種の行政情報を国民の資産として活用できるよう、利用者の視点に立ってデータベース化を急ぐとともに、有効活用していく環境を整える必要がある。各省庁ごとに行なわれる統計調査や各種の行政記録(固定資産台帳、有価証券報告書等)等について、受理から開示まで一貫した電子化を進めるとともに、それぞれを有機的に結合させ、相互利用・共通利用が可能なシステムを構築すべきである。

    7. 行政EDIの推進
    8. 民間企業においては、受発注データ等を電子的に行なうEDIが進められているが、行政機関との取引の多くについては、旧来の紙ベースでの取引を余儀なくされている。民間の情報化の実効をあげるためには、国・地方の行政において、調達・入札手続に関する行政EDIを推進する必要がある。そのため、早急に各省庁を統括する推進体制を整備するとともに、実現までのスケジュールや数値目標を定めるべきである。
      また、調達・入札に関する資格審査については、現在調達機関ごとに行なわれており、民間企業は個別に資格審査の申請を行なっていることから、申請に係る負担が重くなっている。そこで、調達・入札に関する国・地方公共団体間のネットワーク化を図り、民間企業は1度登録を行なえば、各審査に共通したデータについては申請を省略できるようにすることが考えられる。併せて、オンラインや磁気データによる登録・申請を可能にすることが望ましい。

    9. 電子化された行政サービスの提供
    10. 国民・企業等との事務・サービス手続きを簡素・合理化する観点から、行政サービスの電子化(ワンストップ・サービス、365日24時間サービス、マルチアクセス化)を推進する必要がある。そのため、行政手続きそのものの見直しによる窓口の一本化や機関をまたがる申請窓口の相互利用、全国の住民基本台帳ネットワークの構築、電子身分証明書制度の検討、申請地制限の緩和、アクセス拠点の拡充等を図る必要がある。
      また、不動産登記簿・商業登記簿のオンライン閲覧の早期実施、公証業務の早期電子化を図るとともに、電子的な許認可手続き等を推進すべきである。

  5. 地方公共団体における情報化の促進
  6. 国民と行政との接点である地方公共団体の情報化を促進すべきである。とくに遅れている地方公共団体のネットワーク化が急務である。また、地方公共団体の全国ネットワーク化や地方公共団体と中央省庁とのネットワーク化を推進する必要がある。個人情報保護条例によるネットワーク接続規制を早急に見直すとともに、地域情報ネットワークの構築を推進することも求められる。

    1. 国民と行政との接点である地方公共団体の情報化は、住民サービスの質的向上や効率化に直結する。地方分権の流れの中で、中央主導型でなく、できるだけ地域の自主性に応じた取組みが求められる。しかしながら、地方公共団体による情報化の進展にばらつきがあったり、機関委任事務をはじめ、各種の許認可や届出等における規格・様式が統一されていないことによって、国と地方を通じたネットワークの構築が進まず、とりわけ全国展開を行なっている企業の対応に支障が生じている。地域を越えたサービスを可能にし、企業や住民の利便を向上させるため、とくに遅れている地方公共団体のネットワーク化を急ぐとともに、地方公共団体の全国ネットワーク化や地方公共団体と中央省庁とのネットワーク化を推進する必要がある。例えば、規格・様式の統一を図るとともに、技術革新の成果を踏まえたプライバシー保護策を講じたうえで、個人情報保護条例におけるオンライン接続規制を早急に見直すべきである。

    2. 従来の地方公共団体における情報化は、内部行政の機械化のための庁内ネットワークの整備が中心であったが、今後は、地域住民の生活の質的向上や、地域産業振興等のため、地域ネットワークの構築を目指していく必要がある。そのためには、地域の住民・企業が効率的かつ効果的に利用できる、医療・福祉、生涯教育、人材・職業紹介等に関する広域的な地域情報データベースを構築する必要がある。その際、地域の住民・企業が利用しやすいよう、ニーズに敏感な民間のノウハウを積極的に活用することが望まれる。

  7. 民間へのアウトソーシングの推進
  8. 行政コストの削減、技術革新への迅速な対応等の観点から、民間へのアウトソーシングを推進すべきである。

    コスト削減、急速な技術革新への対応、セキュリティ確保等の観点から、情報システムや行政情報データベースを中心に、極力民間へのアウトソーシングを行なうことを検討すべきである。米国や豪州等では、政府や地方公共団体において、情報処理部門を民間に委託することが一般に行なわれている。わが国においても、民間企業が、情報システムの構築、運用、メンテナンス、バックアップといった業務を委託する動きが強まっている。これらの業務は情報処理部門にとどまらず広く管理・企画部門にも広がりつつある。今後、行政の情報化を進めるに当たって、民間へのアウトソーシングを活用すべきであり、アウトソーシングによるコスト削減やサービスの質的向上の可能性について予め検討することを義務づけるべきである。

    行政業務のアウトソーシングについては、行政上の機密や住民情報の漏洩が懸念される向きもあるが、むしろ企業秘密の保護のために培った民間事業者のノウハウを積極的に活用することが望ましい。また、公務員の守秘義務同様、業務を受託する民間企業にとっても、契約上の守秘義務を守ることは、契約関係の維持や社会的信用に関わる問題であり、モラル面で民間企業の方が劣るわけではない。契約時に受託者側に厳格な運用基準を課し、漏洩防止策を確認することにより、行政上の機密保持は確保できる。

    また民間企業では、最新の技術やバックアップ・センターを自ら保有して災害時のセキュリティ保護を図ることはコスト負担が重いことから、データを含む情報システムのバックアップを委託するケースが増えており、機密保護に対する信頼性は確立されている。したがって、システムの安全性を確保する観点からも、民間のノウハウを最大限活用すべきである。

    なお、アウトソーシング拡大のためには、予算の単年度主義を弾力化し、複数年単位の契約を認めることによって、受託する企業のリスクが軽減されるとともに、トータルとしてのコスト削減が期待できる。

  9. 公的分野の情報化の計画的かつ総合的な推進
  10. 現行の「行政情報化推進基本計画」の見直しを推進するとともに、「地方公共団体における行政の情報化の推進に関する指針」についてもフォローアップを図り、国・地方の協議の場を設けて、情報化のための実施スケジュールや共通基盤の整備、ルールづくり等について検討すべきである。その際、既存の情報化投資について、投資効率の定量的な評価を行ない、国民に開示することが求められる。

    1. 現行の「行政情報化推進基本計画(94年12月閣議決定)」については、行政プロセスの電子化や電子化された行政サービスの提供といった観点から見直しを行なう必要がある。また、自治省「地方公共団体における行政の情報化の推進に関する指針」(95年5月)の適切なフォローアップを図ることも求められる。見直しに当たっては、既存の情報化投資について、投資効率を定量的に評価し、国民に開示すべきである。

    2. また、国・地方の連携の観点から、国と地方公共団体の間の協議の場を設け、全国共通の業務の情報化の実施スケジュールや共通基盤の整備、情報化のためのルールづくり等について検討することも求められる。

    3. 教育、研究、医療・福祉、交通、防災等公共分野における情報化は、国民生活の質的向上を図る上で重要であり、省庁横断的に推進する必要がある。単に省庁間の連絡会議等を設けることにとどまらず、具体的なプロジェクトを実施する第一線において密接な情報共有を図るとともに、共同歩調をとることが大事である。
      全国各地において、中央省庁の支援のもとに、公共分野の情報化のためのプロジェクトが進められているが、相互の情報交換は必ずしも十分ではない。国・地方を通じて行政が推進している実験の内容、成果等の詳細な情報を共同利用できるよう、データベース化を図るべきである。


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