[ 目次 | 概要 || はじめに | I.考え方 | II.視点 | III.課題 < 1.環境整備 | 2.公的分野 | 3.リテラシー > ]

情報化の推進に関する提言
−構造改革のツールとして−

I. 基本的な考え方


  1. 構造改革のツールとして情報化を活用する必要がある
  2. 企業は、自らの構造改革のため情報化を速やかに進めなければならない
  3. 企業は、既存の枠組みを越えて産業情報化の環境整備に積極的に参画し、迅速な実現を促す必要がある
  4. 行政改革の推進や、企業の情報化の制約を除去する観点から行政の情報化を急ぐべきである
  5. 情報化の飛躍的な進展を促すため、総合的・一体的な情報化行政を実現すべきである

  1. 構造改革のツールとして情報化を活用する必要がある
  2. 「魅力ある日本」に向け「活力あるグローバル国家」を創造するためには、経済構造の改革や行政改革など構造改革を実現することが不可欠である。その際、情報通信技術のもつ新たな可能性を最大限活かした改革を推進していく必要がある。

    1. 「魅力ある日本」に向け「活力あるグローバル国家」を創造するためには、国民生活の質的向上や産業競争力の強化を図ることが不可欠であり、高コスト構造の是正や行政改革等の実現が焦眉の課題となっている。産業活動、国民生活のインフラである高度情報通信ネットワークは、これらの課題を解決するための有力なツールである。

    2. 即ち、高度情報通信ネットワークは、円滑かつ迅速な情報共有を可能にし、個人・組織において、情報交流範囲の拡大や情報格差の縮小をもたらすとともに、あらゆる業務・行動の効率化、連携の緊密化を推進する。その結果、企業間関係や経済構造を変えるとともに、行政の手法や組織の抜本的な改革が可能となる。そうした改革を通じて知的創造型の新しい良質な雇用機会が創出され、また社会全般におけるコストも低下する。したがって、構造改革に当たっては、情報通信技術のもつ新たな可能性を最大限活かして推進していく必要がある。

    3. とくに産業ならびに公的分野の情報化は、個人の情報化を促すなど、社会の情報化の原動力として期待されるため、そのスピードアップが必要である。その際、情報化の成果を最大限に活用する観点から、企業、個人が自由で闊達な活動を展開するとともに、行政は、これまでの経緯や既存の枠組みにとらわれず、柔軟で機敏な対応を旨とすべきである。

  3. 企業は自らの構造改革のため情報化を速やかに進めなければならない
  4. ボーダレス化・大競争の時代の到来に対応し、わが国産業の競争力を強化するため、経営者は強力なリーダーシップを発揮し、企業内だけでなく、中小企業を含めた企業間を通じて、シームレスな情報ネットワークを早急に構築し、情報のさらなる共有と活用を図るべきである。

    1. ボーダレス化・大競争の時代を迎え、市場ニーズへの俊敏な対応、さらには管理・間接業務の生産性向上と創造的業務の拡充を促進していかなければ、企業の生存と発展は期待しえなくなっている。また、競争力を有する企業同士がネットワークを通じて協働することによって迅速に新しい価値を創造することが可能となる。

    2. 企業としては、経営戦略の一環として、業務改革、社内規制の見直し、組織改革、人事制度を含む社内制度改革等を推進しつつ、情報の共有と有効活用に向けて、企業内・企業間の関係を中心に、高度な情報通信技術を積極的に活用することが急務となっている。また情報を有効活用するためのノウハウを社内に蓄積することも重要である。情報化の遅れは企業にとり致命的なダメージとなりかねない。経団連が主要会員企業に実施した情報化に関するアンケート調査(97年6月)によると、企業は、情報の共有、業務処理・意思決定の迅速化、顧客へのきめ細かな対応などを目的として、情報化に取り組んでいる。

      〜情報化に関する経団連のアンケート調査より〜
      情報化推進の目的として、
       情報の共有    …………………………95.5%
       業務処理の迅速化 …………………………83.3%
       意思決定の迅速化 …………………………79.5%
       コストの削減   …………………………64.7%
       組織のスリム化・合理化……………………53.2%
       顧客へのきめ細かな対応……………………51.9%
      が挙げられている。
      

    3. わが国企業においては、かねてより個別業務の機械化や個別企業毎の情報化が進展しており、最近では、イントラネット・エクストラネットとともに、企業間においては、ECR(製販同盟:Efficient Consumer Response)やQR(顧客への迅速な対応:Quick Response)を実現するため、受発注・決済情報の交換の電子化(EDI:Electronic Data Interchange)、さらには生産・調達等の情報伝達の電子化(CALS:Continuous Acquisition and Life-cycle Support)などが進められている。これらは、製造から流通・購買に至る業務プロセスや手法のトータルな見直し(BPR:Business Process Reengineering)の一環として位置づけられており、既存の商流・物流の全段階を通じた変革を伴うものである。さらに、消費者向け電子商取引などの取組みも積極化している。経団連のアンケートでも、インターネット利用の目的として、現在は電子メールや情報収集が中心となっているが、将来的には、受発注を含めた社内外の情報の共有や新規顧客の開拓等が利用目的に加えられており、オープンな企業展開を目指した動きの活発化が予想される。

      〜情報化に関する経団連のアンケート調査より〜
      企業におけるインターネット利用の目的は、現在は、
       電子メール      ………………74.8%
       広報         ………………70.3%
       社外の情報収集    ………………65.8%
       求人         ………………36.1%
      が多い。
      
      将来(3〜5年後)は、
       取引先との迅速な情報共有……………65.4%
       社外情報の収集     ……………47.1%
       受発注         ……………44.4%
      と続き、しかも、新規顧客の開拓、新規事業の展開の
      割合が大幅に増えるなど、ビジネスへの利用を目指す
      企業が多くなる。
      

    4. 今後、こうした目的を達成するため、経営者のリーダーシップによって、社内における全ての業務を連結したシームレスな情報システムの構築(例えば、設計・調達・生産・販売・経理等の部門を、データ変換等をせずに円滑に情報が流れるシステムの構築)、オープン・ネットワークの積極的な活用を図るとともに、グローバルな情報ネットワークを拡充していく必要がある。その際、情報化を梃子に、不透明な商慣行の見直しを行なうことが求められる。

  5. 企業は、既存の枠組みを越えて産業情報化の環境整備に積極的に参画し、迅速な実現を促す必要がある
  6. 民間主導の経済発展の契機として、企業は自らの枠組みを越えて主体的に情報化を推進すべきである。とりわけ、産業全体の情報化のためには、揺籃期にある電子商取引のための環境や各種情報の相互利用・共通利用のための基盤を整備することが重要である。これらは、当事者の具体的な試行錯誤を通じて整備していくべきものであり、企業が積極的に参画していく必要がある。また、情報通信市場に関する規制緩和や情報化を想定していない各種制度の見直し等を政府に働きかける必要がある。

    1. 最近、企業において、特定企業間、不特定企業間、並びに消費者・企業間の電子商取引への取組みが積極化しているが、これらは未だ揺籃期にあり、本格的な普及のためには、情報化に対応した新しい制度・ルールの確立や情報の相互利用・共通利用を可能とする環境の整備が必要である。また、従来の制度・ルールの中には、高度情報通信ネットワーク化を想定していないため、情報化の進展や、情報化のメリットの活用の制約となっているものもある。さらに通信サービスについても、内外価格差の存在、サービスの多様化の遅れ、グローバル・ネットワークサービスの立ち遅れなどの問題がある。
      今後、産業の情報化を促進する観点から、早急に、電子商取引に対応した制度・ルールの確立、旧来の制度の見直し、ならびに情報通信に関する規制緩和等を機動的かつ総合的に行なう必要がある。

    2. その際、ユーザー企業の現場の声が十分に反映されることが不可欠である。今後の情報化は、ニーズ主導・ユーザー主導で発展し、それを支える技術は、ハード・ソフト両面で予想を超える速さで進歩していくので、あらかじめ将来を予測して制度的枠組みを構築することは困難である。したがって、民間企業が、効率的で迅速な情報化の実現に向けて、人材、ノウハウ、資金等の面で積極的に環境整備に参画することが求められている。

    3. また、企業の枠や業界の垣根を越えた自主ルール・ガイドラインづくり、標準化の推進、相互運用性の確保等に取り組む必要がある。とくに、情報化の実効をあげるためには中小企業が情報ネットワークに参加できることが不可欠である。中小企業が参加できるような通信プロトコル、データ様式等の標準化に関連業界が連携して取り組むとともに、中小企業の自助努力を前提に、その情報リテラシーの向上を支援していく必要がある。

          〜情報化に関する経団連のアンケート調査より〜
      企業が情報化を進める上での課題として
       通信料金の低廉化・通信サービスの多様化のための規制緩和……80.6%
       電子取引など情報化に対応した新たな制度・ルールづくり………73.5%
       企業内における情報リテラシーの向上………………………………67.1%
       大容量の光ケーブルなどのインフラ整備……………………………39.4%
       許認可申請や税務申告などの行政手続きの電子化…………………30.3%
       情報関連機器の減価償却制度の拡充…………………………………23.2%
      などが挙げられている。
      

  7. 行政改革の推進や、企業の情報化の制約を除去する観点から行政の情報化を急ぐべきである
  8. 情報化を行政改革のツールとして最大限に活用し、行政手法や行政組織の抜本改革を推進し、行政コストの削減やサービスの向上、縦割りの排除等を実現すべきである。また、産業の情報化の阻害要因とならないよう、行政手続きなど官民の接点の情報化への対応が急がれる。中央省庁、国の地方出先機関の情報化を推進するとともに、民間との多くの接点を持つ地方公共団体の情報化も急務である。その際、民間へのアウトソーシングを積極的に進めるべきである。

    1. 既存の行政組織や行政手法を前提として情報化を進めるのでは、その効果は極めて限定されたものになってしまう。むしろ、情報化を行政改革のためのツールとして最大限に活用することが求められる。例えば、米国においては、アル・ゴア副大統領が、情報化と行政改革とを相互に連携させながら強力に推し進め(Reengineering Through Information Technology)、行政の効率化と行政サービスの向上、さらには経済の活性化をも目指している。
      現在、行政改革委員会や行政改革会議において規制の緩和・撤廃や行政の役割の見直し、省庁再編成を含む行政組織のあり方に関し精力的な検討が行なわれているが、その際、高度情報通信技術を活用することにより、既存の行政システムのドラスティックな改革が可能になることを忘れてはならない。

    2. わが国企業は、競争力の強化のため、企業内にとどまらず、企業や業界の枠を越えて情報化を推進している。しかし、経団連のアンケート調査によると、法律による保存義務づけ書類の電子化や行政手続きの電子化など、行政とのアクセスに関する情報化の遅れが企業の情報化の制約となっていることが指摘されている。したがって、政府においても、積極的な情報公開によって行政の透明性向上を図るとともに、行政手続きの電子化など、官と民との接点に関する情報化を優先的に推進すべきである。併せて、省庁間や国と地方公共団体の間のネットワーク化や相互運用性の確保に配慮すべきである。

       〜情報化に関する経団連のアンケート調査より〜
      行政の情報化の遅れが企業の情報化の制約要因となって
      いる事項として、
       保存義務づけ書類の電子化    ……………75.0%
       企業から政府への電子申請・申告 ……………55.3%
       企業から政府への電子報告    ……………47.4%
       行政と民間とのネットワーク連携 ……………46.1%
       行政窓口サービスの電子化    ……………41.4%
      などが指摘されている。
      

    3. また、行政手続きの多くは地方公共団体においてなされているので、国民との接点である地方公共団体の情報化が進むことにより、国民が直接、情報化のメリットを享受できるようになる。したがって、国の情報化と歩調を合わせて、地方公共団体においても情報化のスピードアップを図る必要がある。もちろん、企業や住民にとって魅力ある地域づくりの一環として、各地方公共団体が創意工夫を発揮して主体的に情報化を推進していくことが基本となるが、情報化の効果を高めるためには、国と地方公共団体の間で、全国共通の業務の情報化のスケジュールや相互運用性などについて十分調整を行なう必要がある。

    4. 民間のノウハウを最大限に活用する観点から、国・地方公共団体を通じて、民間へのアウトソーシングを推進すべきである。

  9. 情報化の飛躍的な進展を促すため、総合的・一体的な情報化行政を実現すべきである
  10. 情報化を一体的、総合的かつスピーディに進めるべく、政府の情報化推進体制を充実させる必要がある。政治の強いリーダーシップのもとで省庁横断的な取組みを進めるため、副総理格の特命事項担当大臣や専門事務局を新設し、予算を含む情報化施策の総合調整、行政プロセスの情報化に伴う省庁をまたがる職員の再配置を図る必要がある。昨今の急速な環境変化をふまえて「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」を早急に見直すべきである。

    1. 日本社会の情報化の飛躍的な推進は、企業の主体的な取組みと同時に、縦割り行政を排し、各省庁がいかに一元的、総合的かつタイムリーに施策を実施するかにかかっている。わが国における縦割り行政はかねてから問題とされているが、情報化推進行政が、関係省庁間の調整がとれた総合的な行政を先導するリーデイング・フィールドとならなければならない。
      これまでも総理大臣を本部長とする高度情報通信社会推進本部が内閣に設けられ、情報化の総合的な推進に取り組んでおり、成果もあがりつつある。しかし、産業界からみると、納税者やユーザーの立場に立った、総合的な調整が行なわれていない面も目立つ。例えば、政府における情報化に関する予算や施策は省庁ごとの積み上げになっており、また、関係省庁連絡会議が設置されている場合でも、第一線における連絡・調整が不十分なのが実情である。このように、情報化を進める際に、省庁間の取組みにばらつきがあると、推進のスピードに乱れが生じたり、システム間の相互運用性が確保されないなど、国民が情報化のメリットを十分享受できなくなる恐れがある。
      これらを解決するためには、国民の理解と支持を背景に、政治の責任において情報化を強力に推進することが求められる。また、情報化のメリットを国民や企業が十分に享受するには、できる限り多くの省庁がネットワークで結ばれ、アクセスが容易になることが望ましく、その意味からも、縦割り意識を排除し、省庁横断的に取り組むことが求められる。
      そこで、政治の強いリーダーシップの下で、省庁横断的に高度情報通信ネットワーク化を推進できるよう、例えば副総理格の特命事項担当大臣や民間人も参画する専門事務局を設置し、調整権限を付与するなど、政府の情報化推進体制を充実すべきである。多数の省庁にまたがる情報化プロジェクトについては、試行的に、高度情報通信社会推進本部に予算枠を付与し、特命事項担当大臣自ら各省庁に再配分するとともに、行政プロセスの情報化に伴い、各省庁をまたがる職員の再配置等を行なうことも検討に値する。

    2. 現行の「高度情報通信社会推進に向けた基本方針」については、電子商取引に関する官民の取組みの進展などの環境変化を踏まえて早期に見直すべきである。
      とくに、国際的な議論を踏まえながら、国民の視点に立った、総合的なビジョンを描き、それに沿って各省庁の役割分担、実施スケジュールを明示し、併せて優先的に情報化を推進する項目・分野とそのスケジュール等を盛り込む必要がある。

    3. なお、高度情報通信社会推進本部における重要会合の審議の模様や提出資料等について広く国民に対して迅速に公開することが望まれる。

        〜情報化に関する経団連のアンケート調査より〜
      行政の情報化を推進するための課題として、
       縦割り組織の弊害の是正………………………………61.1%
       民間へのアウトソーシング……………………………51.0%
       業務の標準化……………………………………………47.1%
       情報化推進体制の強化…………………………………45.9%
       情報化の費用対効果の明確化…………………………29.3%
       情報化予算の増額………………………………………29.3%
      などが挙げられている。
      


日本語のホームページへ