[目次] [はじめに] [第1部] [第2部] [1章] [2章] [3章] [4章] [5章] [6章] [Action21] [おわりに] [参考]

魅力ある日本

第2部 我々が目指す日本の未来
【各論:望ましい姿ならびに改革すべき課題と提言】

第1章
市場経済体制のもとで、活力あふれる経済を構築する〔経済・技術〕


  1. 望ましい経済の姿

    1. 真に豊かな市民社会を支えるため、活力に満ちあふれる経済が構築されている

    2. 安全、健康に関する合理的な規制以外は、原則として撤廃され、不透明な行政指導は行われない「脱規制社会」が構築されている。また、各種制度、商慣行は、諸外国にとってもわかりやすいものとなっており、市場の透明性が確保されている。その結果、公正かつ自由な競争が行われ、既得権益の上にのって事業を展開している事業者は市場から淘汰される。

    3. これまでの「一国フルセット型産業構造」からアジア・太平洋諸国との調和ある分業体系が形成されている。その中で、国内においては、強靱な製造業と生産性の高い非製造業から構成される「ハイブリッド型産業構造」となっている。起業家精神が発揮され、21世紀のリーディング産業として期待される情報通信産業をはじめ、個人・企業・社会のニーズに合った新産業・新事業が相次いで登場している。

    4. 利便性、効率性、透明性に優れ、グローバル・スタンダードに調和した、金融資本市場が確立し、わが国は、国際金融センターとして、内外の投資家、資金調達者のニーズに十分応えている。

    《望ましい姿を実現するための改革すべき課題と提言》

    1. 規制の原則撤廃
    2. 活き活きとした、自由闊達かつ開かれた豊かな社会を実現するため、需給調整の観点から行われている参入規制、設備新増設規制、輸入規制を原則として、速やかに撤廃するとともに、社会的規制をゼロベースで見直す。
      また、政省令、通達等の行政立法について、「公開原則」を徹底させる観点から、行政立法手続法(仮称)を早期に制定する。
      民間事業者としては、仮に関連業界の利害につながるものであっても、国民の利益を損なう規制については、その緩和・撤廃に取り組み、市場の活性化を通じた豊かな国民生活の実現に努めなければならない。また、実施された規制緩和の成果を活用することも極めて重要である。内外に理解される、機会均等かつ透明な商慣行を確立する必要もある。

    3. 競争政策の国際的ハーモナイゼーション
    4. グローバル化時代の中で、豊かで活力ある社会を築いていく観点から、市場経済の基本的ルールである競争政策について、独禁法適用除外の撤廃、持株会社の早期実現、株式保有の総量規制の撤廃、合併規制の見直し、独禁法施行の透明性・客観性の確保と執行体制の強化などにより、国際的に調和のあるものとする。

    5. 新産業・新事業の創出
    6. 真に豊かで活力ある社会を実現していくためには、新しい産業や事業が次々と登場することが不可欠である。
      大企業としては、社内に蓄積した人材、技術、ノウハウ、設備、資金、情報等を活用し、社内ベンチャーを推進する。創造への挑戦を評価する人事・給与制度の導入、ならびに失敗を成功に向けた経験として蓄積として前向きに評価し、敗者復活戦を可能とすることも重要である。また、経営トップが、強力なリーダーシップを発揮して、ユニーク性を自負し、失敗を恐れずにまずチャレンジするというような企業文化を育んでいくことが望まれる。
      一方、行政においても、店頭市場の改革、ベンチャー・キャピタルの育成等を通じて、独立ベンチャー企業を支援するとともに、規制緩和、ストック・オプションの推進、起業促進型の税制改革などの環境整備を進めていく必要がある。

    7. 高度情報通信ネットワークの構築と情報通信産業の高度化
    8. 21世紀の高度情報通信ネットワーク社会に向けて、通信と放送、国内通信と国際通信、長距離通信と地域通信、固定通信と移動通信、さらには情報通信と映像・ソフト等の情報内容(コンテンツ)、情報処理機器(プラット・フォーム)など、様々な業種間の融合を促進し、多彩かつ低廉なサービスを自由に利用できるようにすることが必要である。
      情報通信分野における公正有効競争を促進するとともに、各種の規制の撤廃・緩和を断行し、創意工夫が存分に発揮される仕組みを創るべきである。また、公共分野における情報ネットワーク化の推進、ならびに情報通信ネットワークに対応し、各種商取引、医療をはじめとして各種制度を見直すことが急務である。

    9. 雇用政策の強化
    10. 産業・経済構造の転換や就業意識の変化に対応していくため、雇用政策のパラダイムを、これまでの同一企業グループにおける雇用の安定から、社会全体における就労機会の確保に転換する必要がある。そのため、規制緩和、内需拡大等により雇用の創出を図るとともに、雇用関連規制の抜本的見直しや企業年金のポータブル化(転職しても勤続年数を通算して企業年金を受け取れる制度の導入)などを通じて主体的な転職の円滑化を図らねばならない。また、女性の働く意欲を削いでいる制度を見直す。

    11. 産業構造の高度化
    12. わが国の製造業は、世界大で最適な事業ネットワークを構築し、その中で、技術集約分野や高付加価値分野、ならびにアジアにおける製品開発・生産技術開発などの研究開発機能等を担い、アジアの産業活動を先導していく製造業に進化する。また非製造業においても、一層の効率化、コスト引下げを推進するとともに、研究開発機能を強化する。
      その結果、革新的で強靱な製造業と、ニーズ対応力と高生産性を誇る非製造業で構成される「ハイブリッド型産業構造」が形成され、真に豊かな国民生活と世界経済の発展に貢献していくことが期待される。

    13. 金融資本市場の整備
    14. 利便性、効率性、透明性に優れ、グローバル・スタンダードと調和した金融資本市場を築くため、金融・証券界が国際競争力の強化に努める一方、規制緩和の断行、公的金融システムの抜本的見直し、金融・証券税制の国際的ハーモナイゼーションなど市場機能を高めるための措置を推進する必要がある。
      また、市場規律に基づく金融システムを構築するため、適時適切な情報開示を行うとともに、経営が破綻した金融機関に対して迅速かつ的確な措置を講ずるため、当局の裁量権の小さいセーフティ・ネットを設けることが望ましい。

  2. 望ましい生活環境の姿

    1. 自然環境と地域の特性を活かし、住民本位でかつ災害に強い国土が建設されている。機能性、利便性に加え、美しさや健康、安全性を享受できる都市が形成されている。21世紀にふさわしい公共事業支出の配分と官民の役割分担の見直しの下に、質の高い国土基盤が整っている。

    2. 大規模拠点空港、高速道路網、新幹線を中心に多重的な交通ネットワークが整備されている。光ファイバー網の全国整備が完了している。道路、交通関連の公共施設は、障害者、高齢者にとって移動が容易なものとなっており、

    3. 一方、超高齢化に対応して、「自立と相互扶助との調和」「効率的かつ公平」の理念のもとで、民意尊重型の福祉社会が実現している。バラまき福祉や福祉の行き過ぎが起こらないように十分配慮し、政府はシビル・ミニマムを保障する。国民負担率は50%未満を維持している。

    《望ましい姿を実現するための改革すべき課題と提言》

    1. 良好な居住環境と都市基盤の形成
    2. 土地基本法における「土地についての公共の福祉優先」「適正かつ計画に従った利用」という理念に基づいて、大都市圏において民意を反映したグランドデザインを策定した上で、優良都市再開発事業の推進、空中権の移転の円滑化等により土地の有効・高度利用を推進する。また、生活の場としての土地・住宅に関する基盤整備をソフト・ハード両面で推進するとともに、防災・安全に配慮した都市づくりならびにコミュニティ形成を推進する。さらに、阪神・淡路大震災の復興事業を着実に実行する。

    3. 社会資本整備の推進
    4. 人口がピークに達することが確実である2010年までに21世紀の発展基盤を形成するため、従来の公共投資配分を抜本的に見直し、人材開発、情報通信、福祉、環境、多軸型高速交通・物流、国際ハブ空港、生活関連のインフラ整備を重点的に推進する。その際、利用者の満足度やコスト・パフォーマンスの観点から、執行コストの低下、民間活力の活用、複合的な整備、既存の社会資本の活用等を図る。また、予算の執行状況、工事の進捗状況等に関する情報開示を行う。

    5. 効率的かつ公正な社会保障システムの構築
    6. 今後、世界に例をみない超高齢化・少子化が進む中で、明るく心豊かな社会に向けて、これまでの、高齢者割合が低い状況を前提とした社会保障のパラダイムを転換し、高齢者割合が高いことを前提に、国民の自助・自立と相互扶助との調和のとれた社会保障システムを確立することを通じて、「自称弱者」ではなく、真に支援を必要とする人に対して、必要な時に必要な支援を行うことが肝要である。
      そのため、社会保障制度は経済活動と連動していることを前提に、
      1. 社会保障に関する総合政策体系の確立、
      2. 長寿社会のコストの国民全体による負担、
      3. 市民・企業・行政のパートナーシップの形成、
      4. 人間性を尊重した社会保障制度の構築、
      5. 少子化対策の拡充
      などを図る必要がある。
      なお、65歳以上の人口が2022年以降減少に向かうことを考慮すれば、高齢者向けの社会保障制度の水準を、基本的に65歳以上人口のピークを迎える時より低い水準に設定し、それを上回る負担が不可欠の場合には、行財政改革による財源捻出、時限的な国債発行等で賄うべきである。

  3. 望ましい科学技術開発の姿

  4. 日本の未来は、日本の科学技術によって切り拓かれる。

    1. 科学技術の進歩と蓄積により、人間の視野が広まる。文化は向上し、夢が実現していく。われわれが解決しなければならない諸課題に対して、一層的確かつ効果的に取り組めるようになっていく。

    2. 科学技術の強化により、
      1. 若者に夢を提供し高い志を抱けるようになっている、
      2. エネルギー、地球環境、食糧、医療など人類の生存にかかわる問題の克服に目処がつく、
      3. 日本経済の発展が維持される、
      4. 質の高い安全で豊かな国民生活が実現する。

    3. 日本の研究開発は、
      1. 研究開発のグローバル・ネットワークが国際的に張りめぐらされる中にあって、世界から期待され、信頼されるセンター・オブ・エクセレンスとしての役割を果たしている、
      2. 研究者、技術者が活き活きと研究開発に取り組んでいる、
      3. 産業界、大学、国立研究機関等の機能のバランスのとれた研究開発体制が築かれ、相互の連携や交流が活発になっている、
      4. 新たに得られた知見や新たに開発された技術は速やかに産業化されるようになっている。
        同時に、
      5. 日本社会は、優秀な才能に対する理解が深まり、技術革新を支える創造的人材を育む社会となっている。

    《望ましい姿を実現するための改革すべき課題と提言》

    1. 知的活力を高めることに対する国民的なコンセンサスの形成
    2. 日本の科学技術を振興するために、まず、知的活力を高めることに対する国民的コンセンサスを形成することが重要である。社会的に知を尊ぶ風土を形成する一方、研究者サイドも社会との接点を多く持つべきである。

    3. 知的資産の充実
    4. 日本の知的資産を充実させるためには、科学技術教育の充実・強化、大学・国立研究機関の機能強化、民間の研究開発の強化、産学官の連携・交流の促進、科学技術行政・研究開発に関する企画調整機能の強化、戦略的な研究開発の推進が不可欠である。

    5. 知的資産の活用
    6. 研究開発によって得られた知的資産を有効に活用するために、知的財産権の適切な保護、規格の国際標準化の推進、新たに得られた知見、新しい価値意識に対する柔軟な社会の構築などの環境整備が重要である。


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