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魅力ある日本

第2部 我々が目指す日本の未来
【各論:望ましい姿ならびに改革すべき課題と提言】

第4章
創造性を引き出す人材育成システムを確立する


《望ましい人材育成システムの姿》


  1. 初等・中等から高等までの教育、企業や官庁などを含む、社会全般にわたり、「複線的」な選択肢を持つ人材育成システムが整っている。こうしたシステムに基づいて、人々は、その意欲や目的意識、能力に基づいて、多様な教育機会、進路を選択し、また、人生の途上における進路変更を円滑に行っている。

  2. 併せて、学校教育や進学試験をはじめ、企業の採用、人事・雇用システムなどの各段階において、「複眼的」な評価システムが確立している。この中で、個人が有する多様な個性や能力が、様々な角度から適切に評価され、人々は、自らの才能や、得意とする能力を大きく開花させている。

  3. 家庭や地域においては、様々な社会体験の機会が用意され、こうした機会を通して、子供たちは、個人の選択と自己責任の大切さを学ぶとともに、社会性や社会規範の意識を高めている。

  4. その中で、自らフロンティアを切り拓いていける人材、主体性と自己責任に裏打ちされた創造的な人材が、社会に多数育っている。

《望ましい姿を実現するための改革すべき課題と提言》

  1. これまでの人材育成システムの問題点
  2. 戦後のわが国では、欧米に「追いつけ、追い越せ」を目標に、定められた目標を効率的に実現する人材を重点的に育成してきた。その結果、社会全般において、知識の量は多いが、自らの目標、解決すべき課題の設定に不得手な人々が増大している。

  3. 人材育成システム改革の基本的方向
  4. 今後のわが国社会において求められる人材は、主体的に行動し、自己責任の観念に富んだ、創造力あふれる人材である。こうした人材を育成していくためには、誰もが、自分の目標を実現する上で相応しい教育や進路を選択でき、その能力を最大限に発揮できるよう、「複眼的」で「複線的」な人材育成システムを実現していく必要がある。

  5. 人材育成システムの具体的な改革

    • 創造的な人材育成のため、教育界・行政は、
      1. 教育にかかわる規制緩和の推進、
      2. 多くの峰を持つ教育体系の構築、
      3. 複眼的評価の大学入試の実施、
      4. 思考力と体験を重視したゆとりある学校教育の推進
      など、一層の改革を進める。

    • 企業は、採用方法の見直し等による多様な人材の受け入れや、従業員がそれぞれの能力を十分発揮できる柔軟な処遇・評価制度の構築を通じて、多様な人材が自らの目的意識と能力に基づいて、創造性を最大限に発揮できる環境を整える。

    • 家庭・地域は、子供の職業観と責任感を育て、様々な社会体験の機会を用意する。

    1. 多様なニーズに応える教育体系を構築する。〔教育界・行政〕
      1. 教育にかかわる規制緩和の推進
      2. 創造的な人材は画一的な教育システムの中からは生まれないのであり、各教育機関はその特色を十分発揮するとともに、学生・生徒の個性・素質などをいかした教育を行い、互いに切磋琢磨しながら教育内容を高めていかねばならない。各教育機関が、そのような自己改革を進める上で、カリキュラム編成の弾力化、学校選択の弾力化など教育にかかわる各種の規制の緩和を進める必要がある。

      3. 教育機関の多様化・個性化を通じた多くの峰を持つ教育体系の構築
      4. 学生がその目的や意欲、能力に相応しい教育機関を主体的に選択できるよう、従来のピラミッド型の序列を改め、多くの峰を持つ教育体系を構築する。教育機関は、カリキュラムの改革などを通じて多様化・個性化を一層進める。
        また、学生の進路選択幅の拡大のため、編入枠や単位互換制度を拡充する。

      5. 複眼的評価の大学入試の実施
      6. 教育機関のピラミッド型の序列を助長し、教育を歪める最大の要因ともいえる受験戦争を是正するため、現在の大学入試を知識の量を点数で評価する形から、学生の思考力を含めた学力、関心、素質などを複眼的に評価する方式に改革する。例えば、大学入試センター試験は高校までの基礎学力の有無を判断する資格試験的なものとし、各大学毎の試験はそれぞれの求める人材に合わせ、論文、面接など選抜方法を工夫する。
        また、シラバスの作成や、学生による授業評価制度の導入などにより、授業内容の改善に努める。

      7. 思考力と体験を重視したゆとりある学校教育の推進
      8. 討論やフィールドワークなど、思考力と体験を重視する授業を通じて、自分で目標・課題を設定し主体的に行動することのできる子供を育てる。さらに、新時代のリテラシーである、英語をはじめとする外国語やコンピュータ関連の教育を拡充する。
        また、中高一貫教育の拡大などを通じて、ゆとりある教育を実現する。
        さらに、世界をリードする独創的人材を育成するため、飛び級の実施拡大をはじめ、優れた素質・才能を早期に見いだしこれを伸ばすための教育を試みる。

    2. 多様な人材を受け入れ個人の意欲と能力を引き出す人事・雇用制度を構築する。〔企業〕
      1. 開かれた採用の推進と求める人材の明確化
      2. 企業の採用方法が学校歴偏重であるとの指摘は依然根強いことから、各企業は、こうした見方を払拭すべく、採用が学校名偏重でないことなどを具体的な行動で示す。オープンエントリー制(公募制)の拡大やリクルーター制の縮小は有効であり、学校名を一切聞かない採用方法も一案である。なお、この一環として、職種別の採用などを通じて、各企業が求める人材を具体的に示すとともに、「学習歴」、「個人の問題意識」、「個性」など、個人の資質を丁寧に評価する。

      3. 通年採用への移行
      4. 通年採用や秋期採用の実施などにより、帰国子女や経験者を含めさまざまな人々の就職機会を増やし、多様な人材を社内に受け入れていく。これにより、従来の一斉採用方式では難しい面のあった、時間をかけた丁寧な採用活動も容易になる。

      5. 経験者採用(中途採用)の拡大
      6. 組織の創造性と活力は、様々な能力や個性を持った人材が集まる中から生まれる。すでに多くの企業では、必要に応じて他社などで勤務した経験を持つ経験者の採用を行っているが、今後は、例えば、経験者採用の門戸を常に開いておいたり、社内における経験者の比率を大幅に引き上げるなど、一層拡大する。
        こうした取り組みによって経験者マーケットが拡大していけば、企業に新卒で入らねばならないという意識もなくなり、人生早期における過度の競争も軽減されよう。

      7. 柔軟な処遇・評価制度の構築
      8. 入社後も個人がその力を最大限に発揮できるように、柔軟な処遇・評価制度を構築する。
        意欲ある個人に活躍の場を与える社内公募制や、高度な専門能力を持つ人材を特別に処遇するための専門職制度の導入などを通じて、個人が職種・進路を選択し能力を活かせる機会を増やしていく。

    3. 職業観や社会性を養い、社会参加、自然との触れ合いを用意する。〔家庭・地域〕
    4. 家庭や地域は教育を学校任せにせず、各々の役割分担と相互の連携に基づき、適切な教育を行うことが求められる。家庭はこうした役割の重要性を改めて認識し、子供に社会生活の基本を教えるとともに、子供の資質、能力に応じた適切な進路選択へのアドバイスや、自然・社会現象への関心の醸成に努める。とくに、社会経験の豊かな父親が家庭教育に積極的に参加することが要請される。


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